別館、身体論・武術・スポーツのお部屋

身体論・武術・スポーツ関係を分割してこちらで独立して書いてます 野球評論は辛辣に書いてますので苦手な方はご注意下さい。また基本長いので長文が無理な方はお気をつけ下さい

中畑清は筒香嘉智を育てていない、むしろ干している。育てたのは大村巌コーチ

タイトル通り、中畑清DeNA監督は筒香嘉智を育てていない。育てたのは大村巌コーチ(現ロッテコーチ)という話をしたいと思います。

 この話を絶対にしておかなくてはならないと思うのは、何故か、中畑清が筒香嘉智を育てたという意見を唱える人があまりにも多いからです。また、中畑ファンなのか何なのかよくわかりませんが、あまりにも中畑を称えて、ラミレスを落とすような手合がいて、うんざりしたからです。

 またいつものことなのですが、「中畑の遺産」という地雷ワードを平気で主張していた手合もいました。あまりにバカっぽいので、試しに「どうして中畑が筒香を育てたって言うことになるの?中畑は関係ないでしょ」とツッコミを入れたら、急にキレだして「中畑が育てたぞ、そういう記事もある」とのこと。そして「具体的には、どういう貢献があったの?」と尋ねると、「てめえで調べろ」とのこと。

 まあ、もう相手にするのも馬鹿らしいので放っといたのですが、もしかしたら中畑がなんらかの指導によって、筒香覚醒の一助を担ったのかもしれないと検索をかけてみました。するとこんな記事が出てきました(他には見当たりませんでした)。

■キャンプ追放で選手を育てたという謎論理
 中畑監督 秋季キャンプに筒香連れていかない「荒療治」― スポニチ―もうね…。バカでしょというしかない。これを読んで、中畑が筒香を育てたなんて主張する頭の悪い人間がかくも多いと思うとうんざりします。どうして、キレて選手をキャンプから追放したら、監督がその選手を育てたなんてことになるんでしょうか?そんなのはこの記事を書いている記者の主観に過ぎないではないですか。具体的根拠のかけらもない。そんなことを言うのなら、今年(去年かな?)キャンプで体ができていないという理由で、イーグルスの梨田監督はオコエをキャンプから追放しましたが、オコエが一流プレーヤーになった時、梨田がオコエを育てたという論理が成立してしまうではないですか。

 もう、バカでしょ(二回目)。リテラシーのかけらもないのか。こんなロジックが大手を振ってまかり通る現状を見ると本当にうんざりします。

■筒香嘉智育成に貢献があったのは名伯楽大村巌
 安心と信頼の日本ハムファイターズブランド産の大村巌コーチが筒香の指導を手がけましたが、始まりは2年前。DeNA筒香嘉智はいかにして覚醒したのか?―こちらの記事を読んでも分かる通り、どうみても彼が筒香を指導したからこそ、飛躍を遂げたとするのが自然でしょう。
 要約すると、二年連続でファームでHR王と、下では打っているが一軍では駄目という典型的な若手の伸び悩み枠。そこで大村巌コーチが、筒香本人はどういう打者になりたいか、どういうバッティングをしたいのか整理して、方針を決めてあげた。これまでは他の人のアドバイスを聞いて、色々フォームを変えていた。それが却ってマイナスになったので、何でもかんでも手を出して失敗するより、一つのことを貫く方針に決めた。筒香本人はHRよりも犠牲フライなど、勝利に貢献出来るような確実性・打点を上げること、結果逆方向に打つことを重視していた。確率の低いHRよりも確実性を求める筒香は大村コーチがアドバイスする、確実に打つ技術をみるみる吸収していった。これを読めば大村コーチこそ、筒香嘉智を育てたと言って問題ないでしょう。

 そして大村コーチが主張するように、「私ではなく何より本人の努力が大きかった、筒香嘉智の自助努力が何よりも素晴らしかった」とみなすべきでしょう(ビジョントレーニングなど自分からプレーの質を上げる取り組みをしているようですしね)。*1

■根拠なき中畑の選手育成論は詭弁
 ここで言いたいのは、中畑清の貢献度合いが0だとか、むしろ邪魔してマイナスだった、-100だったとかということではありません。そりゃ、いくつか中畑氏がいい影響を与えたことがあっても不思議ではありませんからね。しかし、彼が育てたと彼の影響力が大きかったといえるほどの材料はない。大村コーチ程の成長に貢献したと言える具体的なものがない。個人的に知る限りでは、筒香が番組の対談で「中畑さんからは素振りの大切さを教わった」と言っているくらいで、中畑の貢献度が大きかったと裏付ける要素はない。日頃から今ある自分は中畑さんの指導のおかげということを言っているわけでもない。そういう根拠のない状態で、中畑が育てたと主張するのは限りなく嘘に近い。そういう言説を認めるべきではない。

■監督の起用が時に育成したと言えることもある。が、中畑前監督は筒香を辛抱強く起用してはいない
 また、打てない時期にも彼を辛抱強く、我慢して使い続けたのは中畑であり、一軍で貴重な実戦経験を与えた起用面での貢献がある。だからこそ中畑が筒香を育てたといえるという論理も成り立つかと思います。*2

 この「中畑監督が辛抱強く筒香を起用した結果」論を見て、確かに筒香を使うことは使ってはいたけども、弱小チームを再建する時、将来の大砲候補を使うのはむしろ当然のことで*3、フロントからある程度選手起用の方針は示されている以上、中畑の手柄といえることだろうか?と疑問に思っていました。

 そこで実際にどれくらい起用していたかチェックしてみると、むしろ全然起用していないというデータが出てきました。

筒香嘉智 打撃成績
 2012 108試合 446打席 386打数 84安打 10本塁打 51四球 打率.218 長打率.352 出塁率.309
 2013 23試合 56打席 51打数 11安打 1本塁打 3四球 打率.216 長打率.294 出塁率.286
 2014 114試合 461打席 410打数 123安打 22本塁打 47四球 打率.300 長打率.529 出塁率.373


―この数字を見た時に、監督一年目は筒香を辛抱強く使い続けたと言っていいかと思います。しかし二年目は全く使っていない。むしろ筒香を早めに見切って干していると言えるでしょう。

 筒香嘉智が飛躍した2014年のシーズンというのは、前述通り秋季キャンプから追放され、大村コーチと二人三脚でイチからフォームを作り始めてからの話です。そこから手応えを掴んで成長路線に乗った筒香の状況を考えると、12年に辛抱強く起用し続けたから筒香が成長したという説はあまり関係ないということが出来るでしょう(無論、試合に出続けたからこそ、相手に研究・対策されて壁にあたり試行錯誤するきっかけになったと言えるのでしょうが)。

 むしろ、12年・13年と起用に問題がある。将来性のある大砲とは言え、使い続ければいいというものではない。インコースの速い球が打てないとか、課題をハッキリさせたら、一度下に落としてその課題を克服する練習をさせて、課題をある程度克服して対応できるようになったり、状態が上がったりしてから上でもう一度使うなど、チームとしての取り組みを行わなくてはならない。選手を育てるなら一軍起用→課題発見→二軍で練習&克服→また一軍へ…―と言ったプロセスを踏まなくてはならない。

 数字が出ていない・結果が伴っていないのにもかかわらず、この2012年は明らかに筒香を起用しすぎです。結果が伴っていればともかく、結果の伴っていない高卒3年目・4年目の選手を適切なラインを超えて、起用し続ける意味がわかりません。むしろ、まだまだ体ができていない段階なのだから、怪我予防の観点から言っても、下に落としてトレーニングに当てるべきでしょう。また他にめぼしい選手がいないにせよ、他にも若手を起用しなければ、チームに実力競争原理が上手く働かない。 
 (これは中畑監督の起用の問題というより、適切な出場試合数・打席数を設定して、適切な指示を監督に与えなかったフロントのミスと言えるでしょう。もちろん新規参入したばかりで、自分たちで明確なビジョンの下、この選手を何年かけて使う。5年かけてこちらが見越した成長を遂げなかったら見切る―などといった戦略のもと採った選手がいなかったという状況なので、その点も考慮する必要があると思いますので、これを以ってフロントを叩くことはしたくないのですが。)

 そして2013年は逆に使わなさすぎです。怪我をした、不振だということがあっても、この出場数の少なさは異常です。わずか23試合で60打席にも到達していないというのは、将来の大砲候補として路線から外したと言われても仕方がない数字。他に大物スター候補が何人か入ってきたから、育成の優先順位が落ちたとしか思えない数字です。

 しかし、実際はトニ・ブランコ中村紀洋といった実績ある選手が結果を出していたから彼らを優先したという有様。これは目先の勝利を選んだ采配であり、どう見ても育成を行っていたとはいえない数字でしょう。この点を考えても筒香に目をかけ続けて辛抱強く起用していたとするのは無理があります(前述通り、2012年は自分たちが採った選手がいなかったという状況でしたが、僅か1年とはいえ、自分たち自身でドラフトで選手を採り、ファームにいる若手の状況も把握できた。それで、期待大砲候補の筒香にチャンスをここまで与えなかったのは、フロント・監督の手腕を疑われる起用方針でしょう)。

 ―このように選手起用の面から、「使い続けて」筒香嘉智を育てたとするのもまた無理があるといえます。

■監督の仕事は育成ではない、采配によって試合で勝利に導くこと&ペナントレースを制すること
 そしてそもそもなのですが、選手を育てるのは監督の仕事ではない。監督の仕事は起用や采配でチームを勝たせることであり、選手を育てることではありません。育てるのはコーチやトレーナーと言った役割の人・スタッフであって、監督に育成手腕を期待するなど木に縁りて魚を求むようなものです。

 選手育成には、優秀なコーチが必要不可欠ですが、優秀なコーチがいれば選手が育つというものでもありません。相性の問題、指導法がハマるかどうかという問題もありますし、何より本人の理解度・練習態度・才能・運と言った要素に左右されるものです。ですからこそ、優秀で実績あるコーチほど、私が育てたのではなく、本人の努力・取り組み方が素晴らしかったというようなことを言うのです。そして私は彼が成長をする手助け、サポートをしたのだよと手柄を誇ったりしないものなのです。

 大村巌コーチがリンクの記事で語っていた内容・態度がまさにそれであり、名伯楽と言うにふさわしい態度・姿勢だと思います。聞くところによるとファイターズ時代糸井の指導も手がけて、彼も大村巌コーチの手腕を称えていたといいます。記事を読んでもわかるように、大村巌コーチとの出会いが最大の転機となったのは言うまでもないでしょう。

 以前から、監督が選手を育てるというような謎論理を目にして不思議に思っていたのですが、どうも昔のタイプの全権監督の延長からくる発想のようです。監督が全権を握っているからこそ、指導も監督に一任され、選手育成まで監督の手柄になるという発想をする人がいるようです。もしくは高校野球などアマチュア野球の発想の延長で監督が選手を育てるものだと思いこんでいるかもしれません。

 いずれにせよ、現代的な野球では、現代的な組織では明確に機能で役割分担がなされます選手を育てるのはコーチであって、それをやろうとする監督というのは間違いなく失敗すると考えていいでしょう。工藤公康監督などは、投手育成手腕に自信があって自分で投手育成をやろうとしていますが、一定の結果を出してはいるものの、間違いなく古いタイプの監督であり、組織の役割というものを理解していないということが言えます(拙ブログでその問題をこれまでさんざん指摘してきました)。ですからこそ、現在のように自分の腹心・イエスマンで組閣を固めるという自体になっているわけですね。組織として問題があることは言うまでもありません。

■中畑監督は報道・メディア対策に優れた監督だった
 中畑清監督は、山崎康晃のストッパー抜擢だったり、梶谷隆幸の外野コンバートだったり、ちゃんと他にチームに貢献した内容が一応ある監督です。評価するならばそちらで評価をすればいいのに、なぜ明らかな偽りを提示して中畑監督の功績のようにするのか理解できません。*4

 以前指摘したように、野球界というのは記者・報道界が腐っている*5。故に、巨人時代・現役時代からスター選手だった中畑氏は記者たちとコネがある。そのコネを最大限利用して、中畑氏は良い記事を書いてもらっている。そういうことなのでしょう。野球報道界の腐敗はおいといて、監督というのはこのように、記者と良い関係を築いて良い記事を書いてもらうというのも手腕の一つ。時にマスコミ対策というものが出来るか出来ないかで組織が崩壊してしまうこともあるというのは以前指摘したとおりです*6

 そういう意味で、中畑氏は優秀な監督だったといえるでしょう。新規参入球団DeNAにとって観客動員を上げるのは至上命題でしたから、強い発信力を持っていた中畑監督というのはベストかどうかはさておいて、好ましい人選であったということが出来るでしょうからね。

■思うどおりに進まないと中心選手と衝突する。選手の状態に合わせたコミュニケーションではなく、自分本位のコミュニケーション
 ただ、強いチーム・勝てるチームを作るという点で好ましい選択であったかは疑問があります。彼は古くは巨人時代に、主力打者と衝突する我の強いタイプのコーチでした。巨人時代は駒田、そしてDeNAになって中村・多村とやはり主力選手というか実績のある打者と衝突する傾向があるタイプです。そして筒香のキャンプ追放もこの延長であると考えるのが自然でしょう。

 打っているときはともかく、打てないとなると非常に強くダメ出しをする。負けが込んでいたり、チームが上手く回ってない時に八つ当たりに近い形で選手に当たる。そういう傾向があるように思えます。「筒香は、今年一本しかHRを打っていないのに、満足している。だから怒鳴りつけた」などと語っていましたが、このような方針はかなり疑問です。中畑監督一年目で出場機会を与えられながら、二年目は殆ど与えられなかった高卒4年目の選手がどういう心境にあるか?一年目でそこそこいい打率・出塁率をマークして、HR20本くらい打ったとかならともかく、結果を残せていない。そんな選手が満足していることなどあり得るでしょうか?

 筒香の心情を察すれば、一年目と違いまるで出場機会が与えられず、しかも一軍の球をろくに打てない=課題が克服できていない状況。悩んでも悩んでも答えが見つからずどうしていいかわからないという段階。それを整理して、やるべきことを絞ってあげたのが大村コーチなわけで、それで結果を残したわけですが、中畑氏の言うように「自覚が足りない」という要素は見られませんし、特にその自覚云々は彼の成長には関係がないことでしょう。大村コーチが悩んで、その潜在能力の高さにもかかわらず、才能に蓋をしてしまっている状態と分析したくらいですし。

 もし中畑氏が「何をどうしたら良いのかわからない」筒香に、外部の雑音を遮断してやるために&名伯楽大村の手腕を高く評価して、二人で一からやり直すようにと大村コーチに全権委任した、失敗した場合はすべて渡しが責任を取るという態度だったのならば、中畑氏の功績と言って良いでしょう。しかし彼は打てない事実とナメた態度(を取っているとあくまで中畑氏の分析で)に怒って、キャンプから追放したのですから、全く関係ありませんね。

 そして、キャンプ地ではなく、二人で一からフォームを作り直して、光明が見えてオープン戦で結果が出ると見るや、「筒香と心中する発言」。こういう過程を見ると駄目なら見放して、結果が出た途端調子良く持ち上げるというタイプということが出来ると思います。野村流に言うと、一流は叱る・二流は褒める・三流は無視する―の逆で、一流は褒める・三流は叱るという感じでしょうか。こういう手のひらを返して急に態度を変える、両極端な態度をとるタイプを筒香がどう思うか?心情察するに余りあると思います。

 そしてラミレス監督は意味のない練習はやらない。自分たちとよくコミュニケーションを取ってくれる―という筒香の発言を聞いて分かる通り、あまりうまくコミュニケーションが取れていなかったと思えます。あの世代というのは上下関係が厳しく。上意下達のやり取りが当たり前ですから、選手とコミュニケーションで衝突しやすいのでしょうね。    というか、野村監督がメディアを通じて、選手にダメ出しをして発奮を促すというスタイルを好んでいましたが、開きはありますが中畑前監督も人を褒めるということが出来ない世代なんでしょう。ですから、怒って発奮を促すというやり方しか知らないと思えます。それがうまくいくかどうか…。特に現代ではかなり厳しい選手操縦法だと個人的に思います。

 以上、中畑前監督は筒香嘉智を育てていない。育てたのは大村コーチ―でした。正確な事実認識が広まることを願って今回は終わります。<2017/12 了>

アイキャッチ用画像

*1:大村巌コーチ自身がどこかで、中田や糸井、そして筒香を育てたことについて尋ねられて、それを否定して彼らの才能・努力が素晴らしかったんですよと言ったことをコメントしていたと記憶しているのですが、ちょっと検索かけても見つかりませんでした。ソース無しで書くのは気がひけるのですが、一度書いてしまったので、そのままにします。週刊ベースボールか、Numberとかで呼んだのかもしれません。ご存じの方いたら教えてください

*2:なぜか、清宮関係の記事で、清宮が筒香選手がどうやって育ったかということを熱心に球団に尋ねて、中畑監督が辛抱強く使い続けた実績が光るみたいなことを書いていた記事が目につきました。一社とかならまだしもいろんな媒体で見かけたのでかなり???になりました。後述するように中畑の発信能力の強さ故のそういう記者評なのですが…

*3:身売り直前の2011年に、後半昇格してHR8本打ちました。これはすごい良い大砲候補がいるなぁと当時思いました

*4:また松井秀喜を筒香に引き合わせたなど中畑氏の功績とすることも可能でしょう「3割40本100打点」も現実味 筒香覚醒の裏にあった松井秀喜の言葉 Full-count|

*5:野球界以外全てそうだと言われればそうなのでしょうけど。どこかの業界で一つくらい健全な報道空間が存在していることを期待してこう書いておきましょう

*6:【2016「工藤批判」批判】 王会長・工藤監督は秋山時代の「森脇追放」のように、反工藤派(藤井・大道・鳥越?)を粛清すべし の「工藤監督はメディア対策というものを一から考えよ」というところに昔書きました