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【山中慎介VSルイス・ネリ戦解説④】 ドーピングは体重超過よりはるかに悪質な問題

 続きです*1。山中の技術論をいずれ書くので③を飛ばして今回は④で、再戦で新しい展開があったのならば再戦での技術的な話をまとめて書いてシリーズの一番最後を技術論にしてもいいんですけどね。再戦は技術的に触れる点もないので。
 ①で書いた要点・前書きをもう一度書いてからスタートです。今回は試合後に発覚したネリのドーピング問題と、その処分についてです。

■前書き
 山中慎介とルイス・ネリ戦でのピント外れの声が大きいので書いておきたいと思いました。端的にいうとルイス・ネリを責めるのは筋違いであり、本当の問題はWBCどころかボクシング業界・構造・ルールそのものにこそあるのです。責めるとしたらそちらが筋。間違っているのは一人のボクサーではなく、そういう卑怯なやり方がまかり通ってしまう制度・システムそのもの。こういう卑怯な行為を禁止・厳罰化していないルールそのものなのです。
 そしてこの件においてはJBCも同罪。こういう事態が起こりうることは事前に想定できたのですから、そういう対処をしてこなかった以上、トップが責任を取るべき失態。責任を取らないJBC相撲協会以上に歪んだおかしい組織だということを我々はもっと認識すべきでしょう。
 また、このような試合を組んだ、プロモートした帝拳ジム本田明彦会長にも責任がある点を決して見過ごしてはならないでしょう。これらの責任を無視して、ネリ一個人を卑怯なクソ野郎として叩いて鬱憤(うっぷん)を晴らしても、問題は決して解決しない、また同じ失態が何度でも起こることを我々は理解しなければならないでしょう。ボクシング界の構造的問題から必然的に起きたのが今回のネリ騒動であり、その歪な構造が改善されない限りボクシングを見ない覚悟がファンには求められるでしょう。

■試合までの簡単な経緯
 山中慎介が3月1日にルイス・ネリ(メキシコ)と再戦し、敗れました。前年の8月15日以来の再戦であり、その試合で山中は4回2分29秒TKO負けでプロ初黒星を喫し、WBC世界バンタム級王座の13度目の防衛に失敗しました。この試合は具志堅用高の防衛記録に並ぶということで話題になったので、多くの人が注目した試合でもありました。

●ドーピング陽性の次は二階級のウェイトオーバー
 しかし、試合後ルイス・ネリのドーピング検査で禁止薬物のジルパテロールの陽性反応が出たことで、筋肉増強剤の用途での使用を疑われ、WBCから再戦指令が下り、今回の再戦という流れになりました。そのような経緯・前提であるのにもかかわらず、ネリは体重を十分に落としてこなかった故に世論は沸騰。ネリふざけるな!という声が天下に満ちることになりました。
 バンタム級のウェイトリミットは53.5kgにもかかわらず、一度目の計量で55.8kg。これは二つ上のフェザー級の体重であり、二度目の計量でも54.8kg。一つ上のスーパーバンタム級の体重でした。きっちり体重を作ってきた山中慎介がふざけるなと怒鳴るのも当然。
 というのもボクシングは階級・体重が物を言う競技であり、実力差があったとしても体重が多い方が圧倒的に有利になるからです。相撲で「技の研鑽よりも安易な増量に走るとは嘆かわしい。押し相撲ばかりでまるで技量がない。技術よりもフィジカル・力ばかりになってしまっているから、見ていてつまらない」と批判されるのも同じですね。僅かの例外を除いてライトやミドル級のボクサーはまずヘビー級のボクサーには勝てない。故に体重制限・階級で区分して闘うことになっている。この前提を無視するというのは、ボクシングという競技構造を無視することですから暴挙としか言いようがありません。

 卑怯なネリを偉大なチャンピオン山中がスカッとKOして倒してほしいと願う人々の想いも虚しく、山中は返り討ちに遭い引退ということになりました。

■そもそも山中はドーピング違反者であるネリと再戦をすること自体がおかしい。するならば無効試合での再戦、王者山中VS挑戦者ネリの図式でないとおかしい
 簡単にこの試合の背景・流れをまとめたところで本題に入りたいと思います。最初に書いた通りネリを責めるのは筋違いです。体重オーバーという失態を犯したクソ野郎ということに異論はないですが、というか言語道断のサボテンポンチョタコス野郎!と腹立たしい対象であることに違いはありませんが、そこは問題の本質ではないのです。問題の本質の1つは、そもそもなんでドーピングで引っかかった違反野郎と再戦をするのかということです。
 ドーピングをした=アンフェアである。故意であれなかれ、試合が無効になって当然。明確な違反行為であることに変わりはないわけです。懲罰が下され、場合によってはボクシング界から永久追放されてもおかしくないわけですね。ところが、WBCによれば、明確な違反とは言えない・意図的な摂取であるという証拠がないと再戦指令を出したわけです。これは事実上の無罪放免に等しい処置でしょう※参照*2
 注にあるように、WBCはこれまでのドーピング検査でシロだったこと、過去の違反・前歴がないことを以ってネリに処罰を下しませんでした。メキシコの畜産業界では違法なジルパテロールが使用されることがあり、たまたまその汚染肉を食べてしまったとみなした。WBCは今回の陽性反応をアクシデントであり、意図的なドーピングではないと裁定したわけです。
 検体を日本に提供して改めて検査してもらって陰性だったとされています。―となると、ネリの薬物反応陽性は一時的なものであり、結局汚染肉によるもので、ドーピングをしたわけではないと見做すことが出来るでしょう。

●ドーピング検査で意味があるのは直前と直後の二回のチェック。過去の抜き打ち検査でクリーンという主張は無意味
 しかし、ドーピング検査というのは試合直前と直後の二つがポイントになるもの。試合直前に採尿しても検査後にこっそり薬物を服用することが可能なので、直前と直後の二回が必要になるわけですね(いくらなんでも競技をする直前にチェックさせろ!というのは不可能ですからね(^ ^;) )。その直前と直後の検体をチェックすれば違反したか、それともしていないかは一目瞭然のはず…。チェックが問題ないとするのならば、その検体を提出・診査すればいいだけ。
 そのチェックをパスしたのならば、一時騒がれたネリのドーピング疑惑は一時的な反応にすぎず問題ない。シロでセーフですから、再戦指令を出す必要もないわけです。「何だ、結局疑惑は疑惑でネリはシロだったじゃないか」で終わる話。
 しかし、文を読む限りちょっと記事がわかりづらい。過去の抜き打ちチェックの検体の再検査なのか、直前直後のチェックなのか書き方が下手でいまいち判断しづらいのですが、読んだ限り過去の検体提出だと思われるので、それ前提で話を進めたいと思います。

●アクシデントであろうがドーピング検査で引っかかった以上何らかの処分を受けるべき
 ポイントは直前直後の検体。それを診査してセーフかアウトかジャッジすればいいだけ。汚染肉かどうかなんて関係ない。プロアスリートである以上、ドーピングで引っかかったら罰というか一定の処分を受けるべきもの。逆にセーフならば疑惑があろうがなかろうがそれで良し。再戦をする必要もない。

試合前後のドーピング検査、及び違反した際の適正な処罰が一律に定められていないボクシング界は、プロスポーツとして異常
 そういう過程・一連の流れになるはずですが、世界戦という大事な試合でしっかりとしたドーピングチェックが行われていない…。しかも過去の抜き打ちチェックの検体で引っかかったことがないからOK、処分なしとするというのは筋が通らない。ドーピングの疑いがあるから再戦してケリを付けましょうというのはもっと意味がわからない。初めからそういう不透明な事態が生じないように、ドーピング検査を義務付けておいて、引っかかったらその深刻度・悪質さに応じて処分を重くする。ライセンス剥奪や一定期間の試合禁止、罰金…などの処罰を下すように定めておけばいいだけの話。こういう失態を招くボクシング業界というものの不透明さ不信感は今に始まったことではありませんが、心底がっかりしましたね。

■ドーピング問題を無視して再戦を許容したJBCも同罪・大問題。JBCWBCを認定団体から外すべきだった
 ドーピング違反を問題視して、処分と今後の薬物使用に対する徹底した取り組み・対策を約束すること。これを行わない限りWBCを認定団体から外す。更にJBCはドーピング違反を多発しているメキシコ相手(あちらのボクシング団体はCBLLもしくは、WBC直轄のFECOMBOXですね)にも、ドーピングに対する徹底した取り組みを要請し、それが甘い場合には以後関係断絶、メキシコボクサーとの試合を認めないといった徹底した対策を取るべきだった。

 そもそもIBFWBOを認めないのは世界王者の乱立で権威の低下につながるというロジックからですが、今回の一件で間違いなく権威は低下した。王者の価値ではなく、ボクシングそのものの価値が。ボクシングというスポーツ・競技の価値を守るべきJBCがボクシングの価値・権威を思いっきり低下させてしまいました。この責任は一体誰が取ってくれるのか、今から楽しみでしょうがないくらいです。

WBCの言い訳は詭弁、重要なビッグマッチでのドーピングをしていない証明にならない
 過去に違反を犯したことのないクリーンな選手ならいいのでは?と思う人もいるかも知れませんが、ボクシングはビッグマッチで大金を稼ぐシステムですから、大事なビッグマッチ以前にドーピングをしないのは当然※補足*3。世界王座挑戦やビッグネームとの試合、ここぞという試合だけドーピングをして、勝って名前を売るor大金を手に入れるということは当然考えられます。なので過去の抜き打ちチェックでの検体を再度診査するなんていう手法は何ら有効性を持たないわけですね。※補足*4
 WBCがこの試合は厳しいチェックのもとに行われたクリーンなものだった。だから処分なしの再試合で決着をつけようなんていう主張は全くの詭弁。
 そして、そういう論理を許容したJBCはおかしい。無効試合で山中が王者のままでない限り、WBCを認めてはならない。WBCを認定団体から外すべき。そうしないと筋が通らない。帝拳ジムや山中本人がどういう主張をしようが、どういう意向であろうがそんなことは関係がない。JBCは毅然とした態度で処罰を求めるべきだった。
 ドーピング問題が発覚した以上、今回の再戦はもちろん今後世界戦の直前直後には検査を義務付けるように規則を改善すべきだった。ところがJBCは何もしなかったその無作為は最早犯罪行為であると言っても言い過ぎではないでしょう。

●メキシコボクシング界の不作為・ドーピング対策の甘さ
 一時期話題になったように、過去に既に卓球でドイツ選手が中国で豚肉を食べてこのジルバテロール反応の陽性でドーピングに引っかかってしまったケースがあるわけです(自転車競技でも引っかかって失格となった事例があるようです)。全く前例がない出来事ではないわけです。中国とメキシコでは飼料にこういう薬物が混ぜられてドーピングにひっかかるという汚染肉の問題が昔からある。
 であるならばアスリートはこの二つの国での食事・肉を摂取する際には厳重に対処しなくてはならない。たまたま汚染肉を食べてしまったから陽性反応がでただけです、ごめんちゃい(テヘペロ)は通用しない。ドーピングの隠れ蓑になりかねないわけですから、知らずに食事をした時点ですでにアウトなのです。

■ドーピングは体重超過よりも遥かに深刻で悪質な違反。その問題・処分を軽んじて体重超過を過度に取り上げる歪んだ視点
 今回の事件で体重超過が話題となって騒がれましたが、そんなことよりドーピングのほうが遥かに罪が重い。体重超過はボクシングのルール枠上の問題でしかありませんが、ドーピングはスポーツ・プロ競技全体の問題ですから、これで厳罰にしないというのはありえない(勿論アマでもですが)。スポーツマンシップの問題に、健康上の問題等色々ありますが、ドーピングをやったもん勝ちで、クリーンな選手がバカを見る。正直者が馬鹿を見る世界が公平なわけがありませんから、いちいち説明するまでもないでしょう。
 もちろん、この薬物が目に見える明確な効果がない。件の検査の結果、間違いなく汚染肉の影響でしかないという事も考えられます。しかしどういう事態であれ、禁止薬物とされるものに引っかかった。ドーピング検査に引っかかったという時点で、ボクシング界に与える負のイメージは計り知れないわけです。ああ、やっぱりボクシングってそういう世界なのねとなってしまう。ダーティーな世界というイメージが払拭できなければ、確実に業界は衰退する。

●ドーピング問題を棚上げして再戦する帝拳ジム・山中はそもそも間違っている
 不思議なことに帝拳ジムも山中も、王者の権利・無効試合を主張しませんでした。再戦を求めて、処分を求めなかった。これがそもそもおかしい。どこかの週刊誌の記事で「前日計量よりも明らかに身体が一回り大きかった」「ジルバロテールは牛一頭食べない限り反応が出ないと聞いている。ふざけるな」「向こうのボクサーはドーピングが珍しくないから、事前検査を義務付けた」※参照*5―といった関係者や帝拳ジム会長の談があって、間違いなく意図的なものと考えているという趣旨の文がありました。
 ―であるならば、相手サイドが意図的にやったとみなしている確信犯であることに間違いないわけですから、無効試合で改めて防衛記録をかけて違う相手と試合を組み直すのが普通でしょう。
 ボクシングファンの中にも、「負けた相手と再戦しないのはありえない。負けてそのまま王座・王者のままというわけにはいかない」「途切れた記録をノーコンテストで繋いでも意味がない」という主張をする人がかなりいました。正直何を言っているかわからない。
 ドーピングが発覚した以上、相手はいわば犯罪者であり、犯罪者との試合は無効になるに決まっている。下手したらそれで致命的な怪我をして選手生命が絶たれるリスクだってあるのに、ドーピングということを軽んじているとしか思えない。
 あとから詳細な顛末・薬物の知識を知って、今回のドーピングを黒ではなくグレーの可能性もあると帝拳ジム会長が捉え直したからかも知れませんけど、瑕疵があるのは相手サイドであって、こちらにはない。再戦するならするで条件は以前のそれに戻すべき。山中が王者であるというのは絶対譲れない、ゆずってはいけないライン。仮にそうでなくてもネリが王者を名乗るのは絶対アウト。そういう前提を無視して再戦提案をのんだ以上、何があっても帝拳・山中サイドを擁護する気にはなれないというのが個人的な感想でした。

●ドーピング違反を繰り返す悪質なメキシカンボクサー
 参照5のところの記事の続きになりますが、文中にあるように15年11月に同じく帝拳所属の元WBC世界スーパーフェザー級王者・三浦隆司がフランシスコ・バルガス(メキシコ)戦があり、三浦はその一戦に敗れました。しかしその試合後16年4月にドーピング検査で対戦相手だったフランシスコ・バルガスからクレンブテロールの陽性反応が出たという事件がありました。
 また別に帝拳ジム所属の粟生隆寛選手のケースもありました。2015年5月1日にアメリカでテレンス・クロフォードの王座返上に伴い組まれたレイムンド・ベルトラン(ファン・ディアスの負傷でベルトランになりました)とのWBO世界ライト級王座決定戦でも同様の問題がありました。というか、こちらはかなり悪質で、今回のように前日計量でベルトランは計量パスできず体重超過、かつ薬物使用(スタノゾロールで陽性反応)という前例があったんですね。ネリが陽性体重超過野郎といっても、それぞれ一度ずつだったのに対し、このケースはダブル違反。よつばと!ならハンバーグとカレーのダブルです。とんだハンバーグカレー野郎です。
 粟生は2回1分29秒TKOで敗れて3階級制覇に失敗。体重超過にもかかわらず、ベルトランが8万5千ドル、粟生が5万ドルというファイトマネー配分となり、薬物使用の発覚で無効試合となった経緯がありました*6ネバダ州アスレチック・コミッションにより、9ヵ月間のネバダ州ボクシングライセンスの停止とファイトマネーの30%にあたる2万5500ドル(約316万円)の罰金という事態になりました。これ以上の情報が見当たらなかったので、想像になりますがおそらく帝拳ジムサイドや粟生に対する補填、ベルトランからファイトマネーを没収して充てるといった処分はなされていないと考えていいでしょう。
 体重超過もドーピングもやったもん勝ちの卑怯な世界がボクシングということです。だったらドーピングや体重超過をすることをためらうボクサーが少ないのは当たり前。被害者サイドに対する十分な補填もない。だったら被害者になるより加害者になろうと考えても一体誰がそれを愚かだ、卑怯だと言えようか。いや言えない(反語)。
 抑止効果になるからと、数百万の費用持ちで要請&実施とありますが、完全に無駄でしたね。メキシカンは卑怯なことを平気でしてくる。であれば、そういうボクサーと試合を組んではならない。組むのならば、事前・事後のドーピングを義務付け、違反したならば目玉が飛び出るような罰金を払う。そういう契約をのめないのならばやらないと言うスタンスで交渉すべきだった。メキシコ人は卑怯者・反則クソ野郎という前提で望まなくてはいけなかったのに、その必要不可欠なステップを怠った。体重超過も同じですね。事前に相手が違反をできないような契約項目を盛り込んでおくべきだった。過去の経緯からしてそうすべきだったのに何故しなかったのか?山中も同じ条件であれば相手も文句をつけられなかったでしょうに…。抑止効果ならば契約に盛り込むのが筋でしょうにちょっと意味がわからないですね…。何回も書いてきましたが、本田会長の罪・責任は極めて重いでしょう。 

IBF世界スーパーヘビー級王者尾川堅一の陽性反応
 こういうメキシカンドーピング対策についての手腕がまるでない。一体何のために防止策としての検査だったのかわからないことに加えて更に問題が起こりました。帝拳ジム所属の尾川堅一IBFのチャンピオンになったのですが、その選手がドーピングに引っかかるという失態…。これからWBCやメキシコをドーピング問題で吊るし上げなくてはいけない大事な時に、こんなことをやってしまえばどうなるか?言うまでもないですよね、相手サイドから「な、こういうのはよくあるんや、お互い様だから水に流そうや」と言われてしまう。山中を泣き寝入りさせてしまう大失態・大ミスです。本当に帝拳ジムは何をやっているんでしょうね…。

■明確な違反行為をした相手との再戦、処罰なき再戦を望むのはワガママ
 おそらく、どんな理由であろうと負けには違いない。負けた側としてどうしてもリベンジをしたい。リベンジできるならばどんな形でも良い。
 ―とまあ、そういったスタンスなのでしょうけど、それはハッキリ言ってわがまま。ネリサイドの行為は卑怯な犯罪行為、それを一時的であれ何であれ、認めてしまえば卑怯な犯罪行為が黙認されてしまう・ルールの許容範囲内の出来事だと公認してしまうことになる。
 一個人として、一ジムとして、それで良いことなのかも知れませんが、日本や世界のボクシング界全体を考えるとそれは絶対ダメ、業界にとってマイナスにしかならない。何が何でも再戦・リベンジしたいからと言って、そういう卑怯な行為を認めてしまうのはワガママでしかないでしょう。
 被害者サイドが良いと言ってるからといって許して良い領域の問題ではない。被害者のそういう主張・願望があるからと言って許容してしまったWBC及びJBCは猛省すべきでしょう。
 もしネリが汚染肉で薬物を使用していなかったとしても、違法な薬物によってドーピングで勝利・ビッグマネーを手に入れようという事例はあるわけです。ドーピングで競技・業界を腐らせる可能性は僅かなものであっても、どんな小さい芽でも摘まないといけない。ネリは検査に引っかかった以上、無罪に限りなく近くても無効でもう一度挑戦者として王座に挑むべきなのです。
 ところがその疑いを持ちながらも、ネリは王者として試合をすることが出来、それによって王者側としてファイトマネーをもらえる契約となっていました。
 ボクシングの試合は通常入札でどちらの地で開催するか決まり、基本的にチャンピオンサイドに多くの報酬・ファイトマネーが支払われます。つまりドーピング疑惑がかかっているのにもかかわらず、ネリは王者として山中よりも多額のファイトマネーを受け取れてしまうわけです。何故ドーピングの疑いがあった選手が多額の報酬を得られるのか?バカじゃないのか?ドーピング・違反をしたほうが得になるじゃないか。ズル得じゃないか…。正直こんなことがまかり通ってしまう現状を知って、呆れてものが言えません。
 今回の再戦で、WBCからファイトマネーのサスペンドがなければそのままファイトマネーを支払うつもりだったようです。まさに盗人に追い銭。帝拳ジム本田会長は試合・カードを組む事前調停能力・交渉能力に問題のある人物と言えるでしょう。

今回はドーピングの件でここまでです。次回は体重超過及びその対策について必要なことを論じたいと思います。

続き→【山中慎介VSルイス・ネリ戦解説⑤】 予見できた不正を防げなかったJBCと帝拳ジム。厳格な不正防止策を講じよ


アイキャッチ用画像

*1:前回までの記事はこちらです。

*2:

*3: 正確に言うと今回のケースは大金のかかったビッグマッチというよりも、山中というビッグネームに勝てばネリの選手としての価値が上がる。商品価値を飛躍的に高めるという意味合いです。この一戦を機会にネリの商品価値は高まり、ファイトマネーがどんどん上がっていく大事なワンステップだったということですね。
 もう一つついでですが、山中はダルチニアンやモレノと言ったビッグネームに勝ったので、世界的にも名を知られるボクサーとなりました。しかし年齢的な問題や米などでビッグマッチを行っていないので、そこまでビッグネームというわけではないように思えます。レオ・サンタクルスとの試合も実現しませんでしたしね

*4:https://www.sponichi.co.jp/battle/news/2017/11/01/kiji/20171101s00021000164000c.html?feature=related というもっと詳しく説明してある記事がありました。こちらによると、帝拳ジムがVADA(ボランティア・アンチドーピング機構)に検査を要請。で、試合前の7月27日にメキシコ・ティファナで抜き打ち検査が行われ、8月22日に筋肉増強作用があるジルパテロールの陽性反応が判明。WBCはネリが同団体の「クリーン・ボクシング・プログラム」に賛同し、過去にドーピング違反歴がないこと、陽性反応を示した検査が試合以外であったこと、その後来日して行われた3度の検査が全て陰性だったことを踏まえ、ジルパテロールの検出は牛肉摂取によるものと結論づけたとしている。
 ―だいたいこういうことになるようです。このWBCの主張を見るとセーフに思えますが、同じですね。試合直前・直後のチェックの不在という問題。そしてジルパテロールという薬物が筋肉増強剤・ドーピング目的のために使用された場合、どのくらい陽性反応が続くものなのかという説明がない。仮に1ヶ月で反応が消えてしまう性質を持つものならばその後来日してのチェック自体が意味のないものですからね。ドーピング診査の過程がそもそもおかしすぎですね。

*5:牛一頭云々https://www.nikkansports.com/battle/news/1878464.html

*6:王座決定戦とは言え、ライト級でずいぶん安いファイトマネーですね。ペイ・パー・ビューの対象になる人気ボクサーでないとこんなもんなんでしょうかね?