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身体論・武術・スポーツ関係を分割してこちらで独立して書いてます 野球評論は辛辣に書いてますので苦手な方はご注意下さい。また基本長いので長文が無理な方はお気をつけ下さい

【比嘉大吾体重超過事件】 言語道断の失態、即刻ボクシング界から去るべき。勿論具志堅会長が

 ―という釣り気味のタイトルにしてみました。まだ山中の記事が書き終わっていないのに、こういう事件が起こってしまったので、先にこちらを書きたいと思います。まあ、そんな長い話でもないので。非常にシンプルな話、比嘉大吾選手本人に罪・責任はない。陣営、会長・トレーナーサイドに責任があり、罰せられるとしたらそちら。特に今回のケースでは強い決定権のあった具志堅会長の責任というだけの話なので(と思ったらまた無駄に長くなっていた…短く終わることはないな、もう(諦め) )。

■今回の事件で比嘉大吾の責任は極めて小さい、というより彼は犠牲者・被害者
 先にこちらを書きたくなったのは、何故か体重超過で比嘉を叩く意見がチラホラ見られたからです。個人的にそのような人間の主張がまるで理解できなかったので、その誤りを改めて指摘しておきたいと思いました。

●比嘉とネリは全くの別物、一見同じ体重超過でも加害性が違う
 比嘉大吾とネリを比べて、ネリを批判して比嘉を擁護するのはおかしいじゃないか!と言う人がいるが、限界まで絞った比嘉に対して、再計量で1kgも絞れてなお1kg以上オーバーしたネリ。そして試合で勝利した後お祭り騒ぎで謝罪も反省の弁もないネリと、それとは対照的にトップの具志堅が全責任を認めて謝罪し、頭を下げてわびた。彼我の差異は明確(比嘉だけにどやぁ…)。
 ―といったような意見を見かけたのですが、これは誤りですね。両者の違いは反省している・いないとか、態度の違いとかそういう領域の話ではないのです。ある特定のルール項目に違反した、表面上の「体重超過」というルール項目違反という点では同じですが、損得の方向性が真逆だから、ネリは大問題になって、比嘉はそこまで問題視される話ではないのです。
 ネリは意図的(ではない可能性も実は多少はあります)に体重超過をして、自分自身が得をしたんです。ズルをしてルールを破って自分が一方的に得をして、対戦相手である山中に損失を与えた。「加害者と被害者の図式」がそこに存在するから大問題なんです。
 対して比嘉はルールを守ろうとして極限まで体重を絞って結果半病人状態になった。試合に挑めない状態に陥った。今回の体重超過では比嘉自身が不利益を被った。ここが決定的に違うわけです。
 比嘉のルール違反・減量失敗は、闘うためのベストなコンディションを作ってこれないというもので、勿論結果も敗北という形で終わりました。相手選手ロサレスにとっては王座を楽にいただける美味しい展開。そこに相手サイドへの不利益・加害性は発生しない(勿論、最強王者をベストコンディションで破ってこそ高い評価が得られるので、そういう点や個人のプライドの問題などはあるでしょうが)*1
 ネリは真逆、減量をせずに戦いに挑む利点は言わずもがな。「減量したボクサーVS減量しなかったボクサー」というどう見てもアンフェアな図式が成立してしまったから大問題になったわけです。不利益を被ったのは山中であって、ネリではない。もし、比嘉が体重超過でコンディションは万全、動きもキレッキレで減量してきたロサレスを序盤でボッコボコにしたということになれば、「この腐れサボテンタコスポンチョ2世が!メキシコに帰れ!」と、ネリ野郎扱いされるのも妥当ですが、今回の試合結果を見てもわかるように当然そうではありませんでしたからね。

 ネリと比嘉のケースは全く異なる。その両者を同一視することは無理がある。

 当たり前すぎるほど当たり前の話ですがどうもわからない人がいるようなので一応改めて書いておきました。まあ、普段ボクシングを見ない、よく知らない人にはパッと見同じに見えてしまうでしょうからね。こう説明すれば伝わるでしょう。
 もっというと、交通事故でドライバー自身のミスで事故が起こりそうになった。このままではぶつかってしまう!というケースでハンドルを切って歩行者を轢かずに建物にぶつかって自分が重傷を負ったドライバーがいた・事故があった。それに対し同じケースで、自身の運転ミスにもかかわらず、このままだと人をハネてしまう!しかしハンドルを切って避けると自分が大怪我をするから、それくらいなら人を轢いてしまえ!と人をハネたドライバーがいた、事故があった。二つの事件は表面上「交通事故」では同じでも、その事件性・悪質性は明確に違いますよね?それと同じだと考えてもらえばわかるかと思います。

●比嘉の体重超過の問題は興行にダメージを与えたこと。ネリはそれに加えて相手選手にもダメージを与えた
 では、被害者がいない今回のケースでは、比嘉に問題はないのか?というと、まあ流石に全く問題ないとまでは言えないでしょうね。タイトルマッチで階級制を前提とするボクシングにおいてキッチリ仕上げてこないのは問題であることは言うまでもありません。しかし、このような体重が落ちない事自体は別にボクシング史上例のない話でも、異例の事態でもないのでそこまで問題視するような話ではないと言えるでしょう。チャンピオンサイドが体重を作ってこれなかったケースは日本人選手では初めてなので極めて異例な事態であることには違いありませんが。また、ネリケースのように、意図的に体重を無視して自分が得をしようというケースは頻発していてその場合は当然問題ですけどね。今回はそのケースとは違うのでまた別の話です。
 問題があるとするのならば、興行面。このようなスーパースター候補。スーパーボクサーになるのでは?という次代の新スーパーボクサーの試合は当然みんな、ワクワクして観に来る。それがこういう失態で万全のコンディションと程遠い試合で低いパフォーマンスをみせてしまえば、観に来た人はがっかりする。「あの比嘉が試合をするっていうから、わざわざお金を払って会場に足を運んだのに…。何このしょっぱい試合…。もうボクシング観に行くのやーめた」となったらどうなるか?言うまでもありませんからね。
 ネリのような事例は悪質なルール違反でボクシングという競技への信用性を低下させることに加えて、更に相手に損失を与えるのでそこにある犯罪性が違うわけです。ネリの場合遥かに悪質で犯罪でいうと犯罪ランクがぐっと上がるものに相当するわけですね。


■今回の体重超過事件の本質、失敗の原因は無理な試合を強行した具志堅会長とフジテレビにある
 今回の事件の問題はむしろ無茶な試合を強要した陣営やテレビ局であり、責任(=処罰対象)はそちらにある。こんな分かりきったことなのに対して、その指摘があまりにも少なすぎる。高田延彦氏が陣営の責任、比嘉本人が一番の犠牲者と指摘していましたがそのとおりでしょう*2*3

●何故か並列して問われる比嘉の責任
 階級変更を先送りにした陣営の罪は重いという記事*4もありましたが、それでも本人の責任という指摘が入れてあります。フライ級が限界であることは誰が見ても明らかであるのに、無茶な減量と階級での戦いであったのに、なぜ比嘉本人の責任という話になってくるのか全く理解できません。 
 こちらの記事*5は渋谷淳氏が書いている文章ですが、氏は
 ①前回の試合から2カ月強という短いスパンで試合を組んだこと。直近4試合の比嘉の試合間隔は3カ月半、5カ月、3カ月半。こうしたサイクルで、2カ月強では心身ともに十分な準備を整えられなかった。
 ②昨年5月の世界初挑戦前は、減量中にパニック障害を起こした。今年2月のV2戦ではサウナで脚のしびれが発生。このときは水分補給して、2日後の計量を何とかクリアした。
 ③理想的な食生活を送っても野木トレーナー曰く、「あれだけの筋肉量ではあと1試合、2試合がいいところ」。比嘉の肉体はフライ級では規格外で体重が20キロ重い、10階級上の村田諒太と胸囲がほとんど変わらない(97センチ)。
 ―と以上の3点をあげながらも何故か、帝拳の浜田氏の「体重は落として当たり前」という持論を背景に落とせなかった最終的な責任は本人にあるという浜田氏の意見が正しいとします。他の選手も苦しんだ、そして最終的には皆体重を落とした。だから本人の責任だと。落とせなかったということは、やはり危機感が足りなかったと言わざるを得ないとの一言で文章を結んでいます。

 もう一人違う方の意見を引用します。水野光博氏の文章です。比嘉大吾、帰ってこい。減量失敗の大罪を抱え、ふたたび立ち上がれ|格闘技|集英社のスポーツ総合雑誌 スポルティーバ 公式サイト web Sportiva
 「ネリを罵倒しておきながら、適正階級で比嘉が再起してくれる日が1日でも早く訪れることを願うのは、ダブルスタンダードだと言われるだろう。それでもかまわない」―との最初の方の言葉でそもそも問題の本質をよく分かっていないと言えるのですが、本題ではないのでここではおいておきます。
 ④*6昨年5月の世界戦前、大きすぎるプレッシャーから深夜にパニック障害のような発作を起こした。突然の発作に、死すら感じた比嘉は救急車を呼ぼうとするが、救急車を呼んだことが知られると、世界戦が中止になってしまうのではないかと思い、野木トレーナーを呼ぶことで、対処した。
 水野氏も渋谷氏同様、短期間に試合をさせた具志堅会長の責任に触れながらも、陣営の責任を何よりも重いものだとしていません。一般的には試合の間隔を狭めたほうが、減量苦は軽減されると言われており、短期間での試合は諸刃の剣という要素がありながらも、このプランを実行したことは単純に陣営のミスだと責められないとします。
 以上の4点を見れば、誰が見てももうフライ級では無理だった。階級をあげるしかない。本人も階級を上げたいと直訴していた。その本人の要望を無視して短期間で試合を強行した具志堅会長は異常という結論以外ないでしょう。②と④を見れば健康上の問題が発生することすら考えられる。それでもフライ級でやらせようとするなんて狂ってるとしか思えません。どうしてこんな狂ったことを会長がやらせたのか、JBCは徹底的に調査&処罰を下すべきでしょう。

●ボクシング界には偉大な記録を抜く試合をする際には我々に見えない不文律が存在する?
 ものすごい違和感があった主張・指摘は、次のものです。「16試合連続KO勝利という日本新記録更新がかかっており、このタイミングで階級を上げるのはリスクが大きかった。さらには、もし階級を上げてノンタイトル戦を挟むことになれば、同じく沖縄出身であり、比嘉が尊敬する浜田剛史の記録をノンタイトル戦で塗り替えることになり、そこにためらいもあったのではないかと憶測ながらに思う。」
 この主張をすること自体がおかしいというのではなく、こういう発想は普通は出てこないもの。しかしこういう指摘がでてくるということは、16試合連続KOという大記録のためにはノンタイトル戦ではいけない。スーパーフライ級でのテストマッチで記録更新をしてはいけないという空気や価値観がボクシング界に存在している。ボクシング界にいる人間ならば当たり前のこととして認識し、その価値観を共有しているという可能性があることです。
 比嘉のパワーを考えれば一階級上げた程度でKO勝利が危うくなる可能性は限りなく小さい。仮にそうだとしたら転級後のテストマッチでそこまで強い相手・危険な相手を選ぶ必要はない。テストマッチなのだから記録更新のためのかませ犬戦になってしまっても何の問題もない。何よりこれからも記録を更新していく可能性が高い選手なのだから、通過点でどういう試合をしようが問題ない。それこそ陣営の自由意志に任されるべきもの。しかし自由に決めることができない空気がある、見えない不文律が存在する可能性があります。
 それこそボクシング界に「偉大な俺の記録をお前ごときがチンケな試合で抜こうというのか?世界戦で記録更新をしないというのか?あぁん!?」という見えないプレッシャーが存在するというのならば、そういう空気は害悪でしかない。もしそういう見えない不文律の存在があるとするのならば、マスコミはきっちり検証しなければならないでしょう。
 それでも、やはり偉大な記録・節目の記録はちゃんとした晴れ舞台で更新したいという主張・気持ちは十分わかります。その時はその時で、2ヶ月という短期間で試合をしなければよかったと言うだけになるので結局愚かな判断・決断だったということに違いはありませんけどね*7


■具志堅会長の責任が何よりも重い。そう明言できないのはボクシング界においてレジェンド批判がタブーだからなのか?それともウォッチャーがバカだからなのか、一体どちらなのか?
 「少なくとも今回の一連の騒動は、誰かひとりが悪かったと名指しできるほど単純な話ではないはずだ」と文章の最後の方でこのようなことを水野氏は書いていますが、大間違いです。物凄いシンプル・単純な話です。全ての責任=問題は具志堅会長にある。このような試合スケジュールを組んだ具志堅氏は異常です。即刻ボクシング界から追放されるべき大失態以外の何物でもありません。何故こういう結論、比嘉本人の責任が一番重いとか誰か特定の一人の責任ではないという主張になってしまうのか、個人的に全く理解出来ない主張です。

具志堅会長の問題点をさんざん上げながら比嘉本人の責任を並列する本郷陽一氏
 この記事*8でも、書き手の本郷陽一氏は比嘉本人の責任という指摘から文を始めています。*9
 しかし文中では、②や④の点について触れて、「この試合でフライ級は最後」と言い聞かせることでギリギリで計量をクリアしてリングに上がっていたという背景を指摘。そして、22歳の肉体は成長を続けており、今回の予備検診では胸囲が97センチもあって、もうフライ級は限界だった。だがしかし具志堅会長は階級を上げることに聞く耳を持たなかったと書いています。
 明らかに限界が来ていたのにもかかわらず転級を認めなかったという事実に触れながら、どうして比嘉本人の責任ということになるのか理解できません。言外に陣営の責任は重いと読み取れますが、そんな表現ではなく、明確に具志堅会長が時代錯誤の考えで考えられない過ちを犯したと書くべきでしょう。

●ボクシング界には健全な言論空間が存在していない。特定の人間を批判できないようになっている
 いい加減先にネタバラシ・結論を書きますと、これはもう具志堅や浜田・ファイティング原田といったようなボクシング界のレジェンド・一定以上の実績・記録保持者に対しては、ボクシング関係者は批判記事をかけないという縛りがあるとしか思えません。批判したら業界で生きていけなくなるという見えない空気が存在しているとしか考えられません。まるで薬害エイズ事件の官僚文書ですもの(薬害エイズ事件では、さんざん非加熱製剤の危険性を指摘しながら最後の末尾で急遽いきなり、しかしながらそれでもなんとかなるというぶん投げた文書で非加熱製剤に危険性はないというオチになっていました。下の者達が危険性・リスクに気づいていて、こんなことを認めてしまったら大変なことになると上司の方針に逆らって散々危険性を指摘した・忠告した文書を作ったのにもかかわらず、最終的に利権にころんだアホがそれでも大丈夫の言葉を盛り込んで認可を出した文書を作ったことがありました。そういう風に分かる人はわかってくれるという苦難の文書、旧共産圏のメッセージのような文書に見えますよね、これらは)。

 それこそ旧共産圏の文書、文脈から見えないメッセージを読み取って当たり前のようなものに見えてしまうのは、この記事ではもう十分すぎるほど具志堅会長が間違っていたという指摘がなされているからなんですよね。
 ○減量神話から脱却の流れがある中、フライ級に留まらせた具志堅会長の責任も重い。さらに前回の2月4日のV2戦から約2か月しかないという短期スパンでの試合。浜田代表は「2月の試合は1ラウンドで終わってダメージもなかったし4、5キロは増えただろうが、逆に2か月しかないので、そんなに増やさなくて、いいので(短期スパンは)いいのかなと思っていた」と見ていたと語り、おそらく具志堅会長も同じ考えだっただろうが、それは裏目に出た。
 ○減量も含めた過酷な準備は、試合が1ラウンドで終わろうが12ラウンドで終わろうが変わらない。心身の“休養”というメリハリがないまま、過酷な次の準備に入ったため、おそらく比嘉のメンタルも肉体も悲鳴を上げていた。
 ○おまけにバラエティ番組への出演などの練習外の仕事も目についた。
 ○WBCは30日前、7日前の事前計量を定めており、それはクリアしていたが、“落とすに落とせない”という危険信号が出ていたと聞く。
 ○最近、ほとんどのボクサーが取り入れているのが、直前に体内の水分を排出する“水抜き”という減量方法。計量直前に1キロから3キロほどを一気に落とす方法だが、それには塩分を先に排出しておくなどの準備が必要で体調の関係で失敗するボクサーが少なくない。比嘉のケースがまさにそれ
 ―こういう指摘を見れば、客観的に無理があったスケジューリングを組んだ具志堅会長の責任で話は済むはずなんですがね…。ところが文末に来るはずの「具志堅会長の責任は極めて重い。選手の健康を考えもしないこんな馬鹿なことをやらかすのならば、テレビやジムの仕事に専念して、試合を組むプロモーターの仕事から今後一切手を引くべきだろう」という本来書かれるべき当然の一文が出てきません…。
 またかつて亀田大毅の統一戦で、負けても王者のままというのが事前の説明と違うという理由で興行責任の放棄として、ジムライセンスが取り上げられた。ジムのお取り潰しという処分がありました。今回の事件も興行を失敗させるどころか選手を殺しかねない大失態。事前説明の放棄なんて目ではない暴挙なわけですから、「当然亀田ケース・前例に倣って具志堅ジムからライセンスを取り消すべきor具志堅会長の経営権やプロモート権限の剥奪をすべきだ」という主張がなされなければなりません。何故そういう当然の主張が出てこないのか理解に苦しみます。亀田はダメで、具志堅は良いと言うのは完全なダブルスタンダードで許されて良いことではないでしょう。

●時代錯誤の主張を臆面もなく唱える老害を追放せよ
 ○具志堅会長は、「私たちの時代は年に4試合は当たり前だった」という考え方を持つ。だが、ハングリーのない今の時代に過酷な減量負担のあるボクサーに対して昔のやり方は通用しない。
 ハングリー精神云々の根性論こそ、時代錯誤の愚論なのですが*10、それはそれとして、昔のやり方を主張して今の若者・選手に押し付けるのはまさに老害のそれ。
 「お前の時代の話など聞いてないし、知ったコッチャない。ボクシングは変わり続けていて、今と昔は全然違うんだ。今は平成が終わる頃なんだ。せめて平成の話をしてくれ。老害は黙っていてくれ」と誰かが手厳しくきっちり批判しないといけない。同じようにファイティング原田氏も体重を落として当たり前とコメントしていましたし、浜田氏も同じ。こういう老害達はボクシング界から排除しないといつまで経っても同じ問題が起こるとボクシング関係者なら正面切って正々堂々と批判すべき。何故それが出来ないのか?それが出来ないならマスコミなんて存在している意味がない。筆を折るべきでしょう。*11

■大失態を引き起こし続けるガバナンス概念なきJBC
で、次の問題としてまたJBCなどの管理体制の話になるわけですが、
 ○この日、ドクターは「試合を行うことに支障はない」と判断していたが、計量前に計った脈拍「84」、血圧「158/99」という数値も異常を訴えたものだった。
 ―というようなことになっているのに、どうして試合を認めたのか?こういう状態で試合を認めてはいけないでしょう。事前の予備検診云々があるのですが、それでストップがかかったということを聞いたことがない。今回の比嘉は試合ができないほどではないにせよ、明らかにリングにあげていいレベルではなかった。やれば確実に負けるというコンディションの選手をリングに上げるなんて考えられない。
 以前、たしか宮崎選手だったと記憶していますが、減量に失敗してフラフラの状態で試合をして見ていてかなり危険な状態で試合をしたケースがあったと思います。ああいうコンディションならば試合をさせてはいけない。一体何のための事前予備検診・チェックなのか理解できません。

●無理があるスケジュールで試合を要請したフジテレビの責任を軽視してはならない
 ○そもそも比嘉に“緊急登板指令”が巡ってきたのも、予定していた世界戦が白紙になったことでマッチメイクに困った放映局側が動いたという側面もある。
 具志堅会長が、断れば済む話だったのかもしれないが、昨年10月には一度、断っているという経緯や沖縄での単独防衛戦を放映してもらった恩などもあって断ることは難しかったのかもしれない。局側が「選手優先」を考えているのなら、そういうマッチメイクの打診もいかがなものか。
 ―とあるように、JBCの管理体制についで、テレビ局のスケジューリングもそう。普通は短期間で試合はまずできない。ボクシングについてちょっとでも知っている人ならば、つい最近試合をしたばかりのボクサーにそもそも「枠が空いてしまったんですけどやりませんか?」と打診すること自体がありえない。なぜこういうことになったのか?テレビ局側の人選がおかしいとしか思えない。これはテレビ局側のこのボクシング担当・責任者は一体誰なのか?一体誰がイケると判断してGoサインを出したのか?きっちり明らかにして検証すべき事案でしょう。つい最近フジテレビをばかにするんじゃねぇみたいなことが話題になりましたが、こういうふざけたことを実行するからこそ馬鹿にされるのではないでしょうか?こんな基本的なことも知らない、ちゃんと出来ないからこそ今の苦境があるんだろうなぁと容易に想像がつきますからね。

■最終的にOKを出した比嘉の責任?比嘉にそもそも拒否権・決定権はない
 で、ここまで読んできて、いくら具志堅会長がおかしい、テレビ局サイド・フジテレビがおかしくとも、結局その条件で比嘉本人がOKして、試合をすることに納得したんだから、どんなにきつい条件だと分かっていても、最終的にそれを受け入れた本人が悪い。
 ―そういう風に考えている人。そういう主張をする人が少なからずいると思うので、その批判に対してカウンターパート・反論を書いて終わりたいと思います。
 あのですね。ボクシング界というのはそもそもおかしい、異常な業界なんですね。選手が自己主張をしてそれがそのまま通ることは殆どないんです。日本の場合、ジム会長がプロモーターを兼務する構造になっていて、ジム会長の意見は殆ど絶対なんですよ。長谷川穂積くらいですかね?世界チャンピオンクラスでジムを移った選手は。そのケースもトレーナーが独立するからそれにスライドして移籍するというものでしたからね*12
 ジム会長に逆らってボクシングをやれる選手なんてまずいない。同じ沖縄出身で偉大なビッグネーム具志堅であれば尚更です。井岡が親父に逆らって、喧嘩した挙げ句にボクシングが出来なくなった。引退に追い込まれるしかなかった事例を見ればわかるように、選手の権利・主張というものが極めて小さい世界なんです(井上のように会長と選手の意向がはじめから基本的に一致していれば、意見が対立・衝突することもないんでしょうけどね。今思うと井上の「強いやつとしかやらない」という誓約書みたいなのは、マッチメイクについて井上&井上パパトレーナーの意向が最優先。もしくは会長と相談の結果でないがしろにされることはないという意味合いを持つものだったんでしょうね)。
 そんな世界で比嘉が「嫌です、やりたくありません」なんて言えると思うほうがどうかしている比嘉に決定権・拒否権はそもそもないんです。そういう状況で比嘉が悪いなんて考えるほうがどうかしている。
 こういう業界は旧体育会系の風土・流れを引きずっていて返事は「はい」と「YES」の二つしかないんです。「はい」なのか「YES」なのか、どっちかハッキリ返事しろ!と言われるような世界で比嘉本人の意志・選択がどの程度反映されていたのか聞く必要すらないでしょう。比嘉本人がやれます!やらせてください!とグイグイで決めて、会長が「それは無理だよぉ~。絶対出来ないから止めといたほうが良いよぉ~」とむしろ強く比嘉を止めていたとでもいうならば、その責任は本人にありますが、当然そうではない。具志堅会長が主体となって進めた話で、結果の大失態。関係者各位に迷惑・大損害を与えたという話ですから(というか次世代のスーパースター候補であった比嘉に再起が危うくなりかねない程のダーティなイメージを与えた。評価を傷つけた)、本人が責任をとって業界から足を洗うのが筋でしょう。
 なんというか本当この業界の人間に限ったことではないかもしれませんが、考えられない大失態をやらかす人というのは、本当に都合のいいことばっかり考えていますよね。最悪の事態が起こったらどうするかというリスクマネジメントの発想がないので、見ていてイライラどころか激怒状態になりますね。「何やってんだ一体!バカじゃないのか!」と怒鳴らずにはいられないですね。短期間の減量で体重が作れなかったら、体重を作れてもコンディションが最悪な状態に陥ったら、減量の過程で病気・怪我を引き起こしたら…。そういう最悪の事態を考えて逆算したら階級をあげるしかない。放映の権利や売り込む格好のチャンスなどでビジネス上、どうしてもやりたいというのならせめてスーパーフライにあげて試合をするでしょう、普通は。900gでヘロヘロ状態で失敗だというのなら2kg余裕があったスーパーフライならそれでもキツイとは言え試合自体はまず問題なく出来たでしょうにね。リスクマネジメントの概念がない人間は欲の皮をつっぱらせて目先の利益・利点しか見ない。元スーパースターほど成功・プラスの要素しか見ないということなのでしょうかねぇ…。
 どうもこういう簡単なことが分からずそういう主張や会長の処分をハッキリ言う人がいなかったのであえて書いておきました。おしまい。一応、次回リンクを貼っておきます アイキャッチ用画像

*1:※追記―ああそうそう、もう一つついでにロサレスが比嘉の体重超過について怒らずに同情を示したことで、スポーツマンシップに溢れた好青年でよかったor比嘉は相手に救われた―みたいなことを言っている人もいましたので、そういう意見・指摘についてコメントを。前述通り、そもそも今回の件はロサレスにプラスになってもマイナスにはならない話なんですからね。負ける可能性の高い強いチャンピオンとのタイトルマッチで、相手が調整失敗して勝利が転がり込んできたのですから、ラッキー以外の何物でもないですからね。それでいちいち怒るわけがないんです。日本は軽量級では大きな市場なのでそういう背景を考えれば尚更ですね。ヒールとして自身の市場価値を高めるという考えでもなければ無理に日本のファンに嫌われる可能性があるコメントをする必要もありませんからね。極めて自然な対応をとっただけでしょう。
 それと本人もコメントしていたのですが、ボクサーなら誰でも減量のきつさ・難しさは知っていると同情を示したのは、ロサレス自身もフライ級の体格ではない。実際10kg近く彼も落としてきたとありましたので、明日は我が身という立場からのコメントでしょう。ボクサーなら当たり前の感覚に基づいたモノ、極めて自然な発言ということですね。まあだからといって別に彼がナイスガイやスポーツマンシップを持ってない人間ではないということではありません、念の為。

*2:高田延彦、比嘉大吾の体重超過は「陣営のミス」「本人が一番の犠牲者」

*3:比嘉大吾の体重超過「陣営のミス」発言の高田延彦に“特大ブーメラン”!「おまえが言うか!」の大合唱に - 日刊サイゾー 特大ブーメランだ!お前が言うな!という指摘もありますが、そもそもこの文にある指摘はちょっと違う。大会を統括するプロデューサーと選手の管理を担う陣営の責任者では役割・仕事が違うので、それを高田の責任にするのは的はずれなんですよね。出てくれる目玉選手もろくにいないRIZINとボクシングではそもそも前提も違いますし。まあ、後半で選手のことを無視して延々しゃべるなど常識がないなどの指摘があるので問題があることはあるんでしょうけど、そういう自身の問題とは別でこの指摘は真っ当なものです。

*4:比嘉の失態、十分に予想できた…階級変更先送りし続けた陣営の責任重い― スポニチ Sponichi Annex 格闘技

*5:比嘉大吾の減量失敗はなぜ起きたか。「体重は落として当たり前」の声も。 - ボクシング - Number Web - ナンバー

*6:上の文章に引き続いて、これでもフライ級で試合をさせるか?普通…?というポイントなので、引き続いて④という番号を振ります

*7:後述しますが、何でもかんでも欲しがる欲まみれ精神がここには見えますね。フライ級でやりたい・世界戦でKO記録更新をしたい・短期間で試合をどんどんさせたい・テレビに露出を増やして知名度を高めたい・強い相手を倒して選手の価値を高めたい…。欲張ってなんでもかんでも手に入れようとして破滅するという典型的な元スーパースター選手監督の采配ですね、本当かの長嶋監督を連想しますからね、具志堅会長は

*8:最悪1年間出場停止処分も。比嘉の計量失格はなぜ起きた?責任は誰にある? | THE PAGE

*9:「第一」という言葉を、「一番の責任は~」という風に読み誤っていたので修正・訂正しました。

*10:個人的に一番大事とは言わずとも、「根性」という言葉・概念はかなり重視している要素です。が、「根性」という言葉が悪い人たちに悪い風に使われてしまって、悪用されすぎてなかなか気軽に使えない状態になっています。「根性」という言葉を使えなくした愚かな指導者世代の罪・責任は思いですね

*11:次で取り上げようと思いますが、本郷陽一氏はボクシング記者としては珍しく危険性に踏み込んで陣営を批判していますね。個人的には正面切って堂々と具志堅追放を論じてほしいものですが、この件に関しては一番マトモな記事を書いていたと言えますね。誤読していたので謹んでお詫びしますm(_ _)m

*12:※追記解説―ちょっと勘違いされかねないので補足して細かい話を。もちろん移籍が絶対できないわけではありません。前川四兄弟の前川龍斗選手が協栄からこの具志堅ジムに移籍したように、最近ではチラホラ移籍する選手を結構見かけます。無論、将来世界チャンピオンになっておかしくないクラスの選手であり、井上や比嘉クラスのスーパースター候補となるとまずない。前述通り長谷川穂積クラスの世界タイトルを取った選手であれば普通はまず不可能でしょう。亀田興毅&兄弟はTBS系列でごく自然に協栄に収まったという感じですしね。
 ポイントはもし比嘉がもうこのジムでやっていけない。移籍したい!となった時、受け入れるジムはまず存在しないだろうという点ですね。まあさすがにそういう事態になって揉めたとしたら帝拳や協栄や三迫などが移籍金出して引き取る(具志堅さんと関係が深い協栄あたりでしょうか?)という流れになるのでしょうけど、その交渉期間中は試合ができない。裁判で調停というケースは珍しいですが、昨今の流れを考えると法廷闘争になってもおかしくなく、下手したら二~三年以上かかってしまい長期間試合ができないということだってありうるわけですね。さらに最悪の事態を考えると、会長がへそ曲げてそれこそ井岡ケースのように事実上の引退に追い込まれることだってあり得るわけです。
 軽量級の選手だからそこまで大して金にならない。巨額のファイトマネーは発生しないからそこまで揉めることはないだろう。流石に移籍したいとなったら、すんなりとは行かなくても実現することはするのでは?と思う人もいるかも知れませんが、今スーパーフライ2というイベントが開催されたことからもわかるように、アメリカでビッグビジネスチャンスがスーパーフライでもある。このイベント自体はロマゴンの7000万円いかないファイトマネーからみてもそこまで旨味があるものとは言えませんが(最近、シーサケットに負けましたけどロマゴンというハードパンチャーがいることでこの当たりの階級への注目度もそこそこあがったわけですね)。一つ上の井上のいるバンタムではWBSSというトーナメントイベントの開催が予定されていて、優勝賞金が10億円・賞金総額50億円と桁違いなんですね。ということはスーパーフライ3・4・5~と数を重ねて行く中で名前を売っていって、将来的にバンタムにあげて、そこでこのイベントに参加することになれば…という絵が見える。比嘉の体格からするとバンタムでは少し厳しい気もしますが、考えられないことではない。いずれにせよそういう可能性がある以上、金の卵である彼の移籍のハードルはものすごく高くなるわけですね。
 試合ができなくなる&実戦感覚の問題に加えてボクサーの旬は短いですから、そういうリスクは誰も取りたくない。FA制度のように移籍を主張して古巣と揉めても間違いなく試合自体はスムーズに出来るということであればまだしも、実際移籍を主張した場合どういう風に話がすすむのか誰にもわからないわけですね。よっぽど強力な後ろ盾でもない限り、そういう主張をするボクサーはまずいない。ここがポイント。―となったらあとはもう言わずもがなですね。理不尽な命令でも嫌でも会長の言うことには逆らわずに従うしかないということになります。気になって野木トレーナーのWikiを見たら、なんと彼も元協栄の選手でジムの合併云々のいざこざで試合を組んでもらえずに干されたという経験の持ち主だったんですね…。3戦3勝のプロボクサーでありながら、ジムを移りたいという分裂騒動で10年以上試合が出来ずにそのまま引退…。このようなトレーナーが比嘉のために「こんな事やっていたら比嘉が潰れちゃいますよ!いい加減にしてください!」と具志堅会長の行いを正すために強く言うことが出来るかどうかは言うまでもありませんね…。