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田中賢介の走塁は合法である。合法であるが…

 ※ブログインポート後に旧ブログに書いたもので、インポートで反映されなかったので、手動で再掲してます。元は16/05に書いたものです。

田中賢介の物議をかもした走塁 ※動画はニコニコから引用です。

 4/3、物議をかもしたファイターズ・田中賢介の走塁について書いてみたいと思います。本当はもっと前に書くべきものですが、ブログ開設が予定より大幅に遅れたので今頃書いています。こういう今頃書くものが今後あと10本くらいあると思いますがご容赦ください。

 田中賢介の2塁塁上への走塁によりホークス川島慶三が負傷。しばらく出場することができない重傷を負いました。この事について今頃書こうと思ったのは、NPBの見解発表・通達があったからです。

 NPBの通達、危険走塁ではないか?という意見書をホークスが提出した結果、その回答なのですが、結局読んでいて、意味がわからない。あれは、危険な走塁であり、違法行為なのか?そして今後はあれを守備妨害と判定するのかどうなのか?肝心なポイントを外している。なんのための回答・通達なのか意味がわからない。何のための前進守備なんでしょうかね?

 注意を与えると本文中にあるが、注意ということはどういう意味なのだろうか?サッカーのイエローカードのように次やったら退場にするということなのか?ならば、選手はその試合一回に限って危険な走塁を許すということなのだろうか?己が監督なら「イエローもらってないんだからやれ!足を狙ってスラィディングしろ」と指示することになる。

  むしろ、今回の判決では、「あのスライディングは合法なのか!なーんだ合法だったんだ。違法だと思ってた。じゃあ、ウチも次からやーろうっと」となるチームを増やしてしまうだろう。愚か極まりない判定・通達であるとしか思えない。 NPBの思考は、「騒動になるから以後ああいうスライディングは止めろ。しかし、あれを今から違法行為だと認定すると自分たちの過失になるから、認めるのは嫌だ」。だから来年から禁止することを匂わせといて、言外に「今年は一応合法だけど、危険なスライディングはやるんじゃないぞ?わかるよな?」というところでしょう。極めて不健全・卑怯な態度だと思います。 *1

 その程度ならいつものことなので特に取り上げることでもないのですが(まあ極めて卑劣な態度なのでそれだけでも取り上げているかな?)、一流であるが故に避けられなかった悲劇というサンスポの記事に素晴らしい解説がありましたので、これをぜひ取り上げたいと思いました。ヤクルト・三木肇ヘッド兼内野守備走塁コーチ(38)が、どうしてこうなってしまったかの説明をしてあります。当事者二人、川島・田中を日ハム時代によく知っているだけに説得力がありますね。どうでもいいですが、38歳でヘッド=No2って無茶苦茶若いですね。Wikiだと作戦コーチ兼になってますが間違いかな?

 詳しくは本文中を参照してもらうとして、要するに①左足でベースを踏むという基本プレーを疎かにしたのはミスではなく、とっさにそうしないと三塁ランナーをケア出来なくなるから、あえてそうしたということ。そして②こういうことが起こりうるから、コリジョンルールで捕手だけでなく、内野手においても危険走塁防止ルールを導入すべきだと事前に提言していたとのこと。 個人的には何故、二塁塁上での併殺関係でのスライディングを禁止にしなかったのだ?と疑問に思っていましたが、そういう発想がなかったのではなく、事前にちゃんと指摘されていた。にもかかわらず「時間がないから」という馬鹿な理由でそれをしなかったとのこと。故にこの愚行はきちんと指摘しておきたいと思いました。

 ダルビッシュが走塁について、左足で云々というコメントをしていましたが、それは見当違いだと思います。田中賢介の走塁が悪質という話ではなく、そもそも今のNPBでは、コリジョンルールを採用しながら、二塁へのスラィディングが認められているというMLBとは違った変則ルールであるわけです(※追記:また、慣例としてNPBではMLBほど二塁へスライディングを厳しくしない。松井や西岡のようなスネ骨折になるようなスライディングをしないという慣習があることにも注意が必要でしょう)。であるならば、当然二塁での内野手はああいう三塁ランナーをケアしなければならない状況で、今までとは違った特別な判断が迫られることになる。 これまでならば三塁ランナーはキャッチャーのブロックにあうためにまず返ってこない。ゲッツーの際に、特にサードランナーをケアする必要はない。しかし今シーズンからのコリジョンルールによって足の早いランナーの場合、ゲッツーが取れないかもしれない打球(ゲッツー崩れをケアしなければいけない場合)では、まずサードランナーをケアしなくてはいけない。1点やらないプレー・守備を考慮に入れないといけない。

 ただ、ランナーが突っ込んでくる・危険な走塁をしてくるという認識が川島にあったのならば、仮に3塁ランナーが突っ込んでホームでアウトに出来ないリスクを犯してでも左足で踏む選択をしたでしょう。要するに川島はサードから本塁に身体を向けるという状況では、ランナーは自分に向かって突っ込んではこないと想定していたのでしょう。もし突っ込んでくると考えていたのならば、右足でベースを踏まないですし、踏んだとしてもホームのケアを優先して、ランナーの足が届かない範囲にいち早く動こうとしたはずです。動画を見ると、川島は多少前に出ただけで賢介のスライディングに無警戒で足を払われていましたから。

 もう一度念を押しておきますが、今までのゲッツー崩し=1・2塁でのそれとはケースが異なるわけです。併殺ではランナーは塁上近辺に野手がいる限りは、相手にスライディングすることが認められている。既存ルール上から、1・2塁のゲッツーのケースであれば、間違いなく賢介のスライディングは合法であり、非難される理由のないプレーです。しかし、今回は1・2塁ではなく、3・本塁

 ルール改正にともなってこれまでに存在しなかった事例なわけです。そこがポイント。にもかかわらず、「あんなプレーは今までも合法だったし、いくらでもあった。こんなことで今更ごちゃごちゃ言うなんて、バカ?」と言うのは、問題の所在がわかっていない指摘としか言えません。

 何よりこれまでと同じケースならば、野手が身体の横or後ろから足を刈られることなんてないでしょうに。

 故に工藤監督も「ウチはああいうプレーはしない」と明言したわけです。今シーズンから3・本間の走塁のケアという状況が加わった以上、ああいうことをすれば、内野手のアクシデントが続発してしまう。ああいうことをすべきではないと監督は主張したかったのでしょう。

 ただ、難しいのはダルビッシュも指摘したとおり、二塁へ走るランナーは1塁ランナーが間に合うかどうかは見えない・分からない。そしてスラィディングする瞬間はセカンド・ショートが、自分のスライディングを躱せる一塁への送球を試みているのか、それとも三塁・本塁へ投げようとしているのか判断が難しいということです。今回のケースはまだ川島が早いうちから本塁への意識があったことがわかりますが、それでも賢介に「本塁に投げようとしているから、守備についている選手の足を払いに行くなんて非常識だ!」とまでは言えないケースでしょう。

 とすると、結局はコリジョンルールの採用に伴い、ショート・セカンドの打球判断の負担が増えるわけですから、無難に三塁にランナーが居る時は二塁塁上へのスライディングを禁止するしかないのではないでしょうか?(もしくは、内野手のつま先にでも目立つ色をつけといて、つま先が一塁を向いている時にはスライディングOK、逆にかかとを向けている=三・本塁をケアしていると判断できるときには足を刈ってはいけないというルールにするかしかないのではないでしょうか?)

 今回の問題は、新しいルールの導入により、起こりうる新しい危険プレーへの対処法をNPBが徹底していなかったことにつきると言えるでしょう。もしあのプレーがアウト・守備妨害ならば、そもそも賢介は慶三の足を狙ったスライディングをしなかったでしょうし。あれも合法なのだと明確にされていたら、慶三も違った対処をしていたでしょう。

 鷹ファンの多くは、「賢介許せぬ!許すまじ!白面の者と田中賢介!」になっているかと思いますが、個人的にはもし慶三と賢介が逆だったら、慶三も同じことを賢介にしているかもしれない。もしそうだったら、同じように慶三を叩くだろうか?そう考えると賢介が悪い、間違っているとはいえないと思います。そしてNPBがルール上合法だとしているのなら、腹立たしいことではありますが、あのプレーは問題ないと判断せざるを得ませんし、プロなら当然そうすべきだろうと考えます。故に賢介を責めることはしたくありません。

 何度も書いたように守備妨害になるかどうか明確化してこなかった、各指導的立場にある者・選手・球団の判断に任せてしまったNPBの責任だと考えます。

 また、事前通告で内野手の守備妨害について厳しく取るという話がシーズン前にあったと言います。それが勘違いされたという話も。勘違いもクソも、今回のケースで審判団がビデオ確認でもして守備妨害としてしまえば、何の問題にもならなかったケース。高木豊さんが、「良い走塁だが、内野手が一塁でなく、三塁・本塁を向いているときは守備妨害を取るべきケースだ」と語っていましたが、そのとおりでしょう。これまでは「二塁から一塁」限定だったために、スライディングを躱しながら送球するということが前提になっていても問題なかったわけですからね。あっちもこっちもケアしながら、なおかつランナーのスライディングを躱せというのはちょっと無理があるでしょうからね。

 そもそも捕手及び本塁周辺でのランナーの怪我を減らそうという趣旨でコリジョンルールが導入されたわけです。にもかかわらず、捕手の代わりに内野手の怪我の増える確率が上がっても構わないなんていう判断が通じるはずが無いでしょう。整合性が取れない。新ルール導入の背景、新法の精神を考えたら自ずとあの衝突プレーについてどういう判断を下せばいいかはわかるでしょうにね。自分の判断を下せない、頭で考えられないのならば、審判でなく機械判定&問題プレーのビデオ審議でよろしいのでは?と言いたくなりますね。

 もう一つ面白いというか、ポイントとして、賢介は次同じ状況でまた同じスライディングをするか?ということ。今回のケースは賢介のワンプレーで状況が変わってチームに勝ちをもたらしました。そういう大事な場面だったというのも大きかったでしょうが、そういうケースが再び来たとき、「合法だ」というお墨付きが得られたわけですから、「注意」をもらうことを覚悟しながらも世間的に非難を浴びても同じことをするかの?卑怯な選手という汚名を覚悟で勝利に徹する、そうやって引退後の自分の将来を危うくする=選手というか人間としての評判を下げるようなプレーを再びするのでしょうか?

 世間の多くは、もしそうならば徹底的に彼を叩くでしょうが、そこまで勝負に、プロ精神に拘る事ができるのならば、相当信念がしっかりした選手だと言えるでしょう。 *2

 ※追記、監督の「ああいう走塁をする選手はうちにはいない」ということで明石や川島の過去の走塁が取り上げられたことがありましたが、危険な走塁は誰であろうとしてはいけないことで、きっちり守備妨害として取り締まるべきです。ではありますが、今回のケースとはそもそも話が違うわけです。論点が違うことを話題にあげてもしょうがないでしょう。ダルビッシュが明石の走路外のスライディングを「危険な走塁とはコレ」とツイッターでつぶやいていましたが、ああいう煽るようなことをやってはいけませんね。ああいうふうにつぶやくべきではない。ちょっと軽率でしたね。賢介が同僚で前所属球団を庇いたかったというのはわかりますが、ちょっと思慮が足りない軽率な行動でしょう。賢介は①足を上向きではなく、下向きにしたこと。②手でベースを触っている。塁周辺での走塁であること―という合法的な点を主張するだけで十分だったと思いますね。

*1:※注、書いてから知ったのですが、コリジョンルールではタックル禁止&キャッチャーが走路を開けるということだけかと思っていましたが、審判に警告という権限が与えられているんですね。捕手(野手でも)が3回警告を受けると退場。走者も2回警告を受けると退場というルールだったんですね、知りませんでした。多分まだコリジョンルールで警告が出された事例はないのではないでしょうか?まあ、いずれにせよ、前述したことについては変わりないので、書いた文はそのままにしておきます。

*2:※注、念の為に書いておきますが、賢介が正しい&慶三が悪いという話ではありません。そして賢介の行動はプロとして正しいから、今後も相手を怪我させてでもスライディングすべきだということでもありません。