別館、身体論・武術・スポーツのお部屋

身体論・武術・スポーツ関係を分割してこちらで独立して書いてます 野球評論は辛辣に書いてますので苦手な方はご注意下さい。また基本長いので長文が無理な方はお気をつけ下さい

『心は折れない』 内山高志―の感想

心は折れない/内山 高志

 感想というほどでもありませんが、ちらっと。アマ上がり故に、生粋のエリートかと思えば、高校・大学とそれほど優れたキャリアを残してきたわけではない。アマ六冠の粟生君とは対称的ですね*1
 屈辱・根性・ストイックという単語に集約される内山さんのボクシングキャリアですが、それだけでは説明し足りないものがあります。内山さんは練習でこなせてしまうから成長因子、伸びるという点で本当にすごいと思います。普通は、余程優れた師・コーチでもいない限り、猛練習したらそれだけ変なところを使う悪い癖がついて、潰れていきますからね。
 ここを使えばいいんだ・こうすればいいんだというポイントを、練習によって悟っていったと。そのセンスが素晴らしいですね。大抵の人だって努力をして、練習をする。それでもそのポイントが掴めないもの。底知れないセンスを感じさせる話ですね。まだまだ伸びるでしょう。自分の中で足りない、課題が多い、もっと練習しないと!―というのは謙虚な性格だけでなく、自分の中で成長するという確信があるんでしょうね。末恐ろしいですね。この前の防衛戦を見ても、確実に成長している…恐ろしい子!ってな感がありましたし。普通鏡の前でじっと構えているだけで、その大切さなんてわからないですよ。おそらくやっていく上で、立禅のようにバランス・全身の使い方・協調性などを学んでいったんでしょうけど。なんでこんなことが出来るんだろうなぁ?
 
 昔の写真見てもやっぱり平凡なんですよね、内山さん。高校生・大学生と顔が普通の人で、パっと見大した印象を与えない。しかし今は本当にひと目見て凄さがわかる顔。なんというかもう、ティラノサウルスみたいな顔していますから、本当にすごいですね。大学の後半あたりで格上の先輩を降したエピソードがあるようにそこらへんで開花したのでしょうかね?(花咲徳栄拓殖大学というキャリアですが、拓殖では周囲も凄い選手が集まって、10人中8人が一年生レギュラー&補欠で、そこから漏れて荷物番をやったことが屈辱となって這い上がったと。異常なまでに練習に没頭した。一日も休まず欠かさずに練習をした。練習は嘘をつかないという下剋上ストーリーですね。それでも1年生の時点で、全日本選手権で同じ階級の部内一の天才と言われる2年先輩を破るなんて普通じゃないですね。試合に勝って泣いたのはこの試合だけだと。壁に当たる→練習する→成長&強敵撃破というマンガ・ゲームのような主人公属性ですね。このことがきっかけで上の公式が完全にハマるようになったのでしょう。しかし、努力が実るまでの期間が早すぎでしょう。周囲からも世界チャンピオンになるような存在と思われていなかったようですからね。すぐに技術を覚えることはないが、練習で着実に身につけるという夢枕獏の言う天才はダメだ理論みたいなことを地で行っています。)
 叩くことで筋肉をつけた。背中の筋肉が大きくなっていくのが自分でもわかったとあります。元々アウトボクサーでテクニック重視のボクサーだったんですね。そこからパンチ力がついていって当たれば倒せるという状態になって面白くてしょうがなくなっていったと。
 
 プロの時にはすでに今の片鱗がある顔をしていますね。ボクシングから足を洗った。親父と喧嘩して家を出て、プロで世界チャンピオンになる。オリンピックの夢が絶たれる、父との死別―などなど、そこら辺に転機があったのでしょうか?おそらくそれまでも同じような努力・練習というものは変わらないのでしょうけど、実際に勝負をするという環境の変化や、これで食っていくという決断などが一層彼をひきしめるというか、真摯に向き合わせるという感じになったのではないでしょうか?
 練習量を増やすというよりかは、質をもっと高めようという感じになったのではないかと思います。家を出て安定した職を捨てボクサーになった。食事に対しても安く栄養を取るために工夫した話があり、時間を無駄にしないように工夫する必要があった。これが自ずと量を増やすことではなく、質を高める方向に向かわせたんでしょうね。日常生活のちょっとしたことが気になるなんてありましたしね。変化に敏感になる、特にバランス感覚など本能的に重要なことがわかって、無意識レベルから顕在意識にまでその重要性を自覚しているのでしょう。本当に研ぎ澄まされるという言葉がぴったり来ますね。センサービンビンなんでしょうね。
 
 内山さんはそれだけじゃなくて、非常に頭がいいんですよね。細かい練習内容・メニューとか、この練習をどういうところに注意してどうやってやるべきかとかは詳しく書いてはいないんですけど、試合をどうやって組み立てるか、ゲームコントロールなどの考えを見ると、非常に頭がいいなぁという感じがします。
  読む限り練習についてわかるのは、朝走ることで足を鍛え、練習は一日三時間としているということ。短い時間にきっちり仕上げるのも長いキャリアがある故にできることではないでしょうか。昔、魔娑斗が語っていたように、むしろ疲労・怪我を考えて短く・濃くやるという視点が重要になるようですし。試合で後悔しないために練習で追い込むというのは多くのボクサーに共通する信条でしょう。
 んで、やっぱり頭がいいなぁと感じさせるのは相手セコンドの声を聞いて、相手の対応を読んで戦略を組み立てるというところとかそうですね。特に後半の文章は自分がボクシングに対して何を考えているか、読み手に伝えようとする点で非常にシンプルでわかりやすい。この前の世界戦も1・2R様子を見て測ってから、プラン通りにやって行きましたしね。ボディが入って、左が入るなというのも事前の計画通りだったと言いますし。相手が数字より身長高く感じるから、スウェーが上手いんだろうとか、予想通り叩いても深くは刺さらなかった―とか、こういうふうに観察できるのもそうですよね。世界戦から数戦前の感想、試合プランなどが語られていますけど、本当に用意周到だなと思わせますね。
 
 初めに不用意にもらってしまう悪い癖があると書いてますが、プランを立てるため、観察するためにスロースターターというか、エンジンがあとからかかってくるというか、そういうところがあるかもしれませんね。
 
 山がパワーを与えてくれるとか、本当に身体の感性がいいんでしょうね。感じる能力が高い。墓参りとかやっぱり死んだおやっさんとつながっている、深い絆があるんでしょうな*2。こういう人は深いですね。験担ぎとか暗示の力は普段から精神・深層意識に働きかけることの重要性をわかっているんでしょうね。
 
 拳の写真がありますけど、すごいですね。なんかもう直接岩とか叩いてそう、車とかを手で直接打って作ってるんじゃないかっていう手をしています(笑)。あと笑顔がむちゃくちゃ怖い。なんかもうこの人何者なんだろうという怖さをいだきます。凄まれて怖いっていう人はいっぱいいますけど、内山選手は笑顔でニコっとされても怖い。八重樫さんが内山選手にビクッとしていたというのも頷けますね(笑)。*3
 
 ドネアが四階級制覇しましたが、内山選手とやるところ見たいなぁ。ドネアはなんかもう階級の壁があってこれ以上無理なんじゃないか?って気がしますけどね。*4

*1:とはいっても、当然大学・社会人で優勝とか日本一とか経験しているんですが。というか全日本三連覇とアマ四冠って十分立派ですね。対照的とは言えませんな。大学四年で初めて日本一、高校では国体準優勝が最高と他のエリートと比べるとたいしたことない。才能が開花したのが遅いという意味では決してエリートではないと

*2:週プレかなんかのインタビューでオヤジさんの話がありましたけど、本だけだと厳しいオヤジ・昔気質の怖い厳格な人という印象なのですが、キャンプだとか釣りだとか、いつも遊んでくれた。本当に子供を可愛がってくれる良い親だったそうです。本ではチラッと親父とよく釣りをしたと書いてあるだけなんですね。それがどうした?と思われるかもしれないですが、この時代の親父って子供と遊ぶ・子供を可愛がる親って少数派なんですね。そういう家庭に育ったというのもまた一つのポイントなんでしょうね

*3:怖いということだけで、カッコいいと言うことを書くのを忘れていた…。これじゃあただの怖い人になってしまう(^ ^;)

*4:本で「サウスポーは得意」と書いてあったことが気になりましたね。まあ、それについては別枠で