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日本VSポーランド、ボール回しは卑怯?アンフェアなのか? 勿論No、あの戦術・選択を否定するのは愚か者。 問われるとすれば一位通過を狙わなかったこと

 サッカーについて何かを書くことは殆どないのですけど、久々に書きたくなったのでこの話を。ボクシングとか相撲とか、ホークスネタの続きとか、いろいろ放置したままで大して詳しくもないサッカーの話なんか書いてていいのかという話はありますが、気にしない。
 
 ワールドカップで昔チラホラ感想を書いた記憶があるのですけど、サッカーという競技のゲーム性の低さ(2014/07)―こんなものを書いたように、観ていて面白いと思わない・大して興味も持てなかったので、以後サッカーについて書くことはなくなりました。が、今回はまたしてもサッカー協会の機能不全・大事な本番の直前に監督解任など驚く暴挙があったので、それについてちょっと書きたいなとも思っていたのですが、時間がなくて取り上げることはありませんでした。でもまあ、今回のワールドカップで前述の昔書いたもので指摘した問題点がVARなどで色々改善されそうな要素もあり、オモシロイ取り組みだなと思うところもあったので、何かは書きたいと思っていました。それより何より、今回は日本代表のサッカーが確実に変わった、プラスの要素が見られたのでそれについて書きたいと思っていました。
 そんな時、ポーランド戦で物議を醸す戦術、約10分に及ぶボール回し・時間潰しという選択があったので、それについてとりあえず触れておきたい、コメントしておきたいと思いました。(これを書いていたときは4日前か5日前?ですぐ書き終わるはずだったのですが、他のボクシング関係の話を一度書いたのに消えるという通信エラーがあったのでやる気が消えて間延びしてしまいました…。あといつものように無駄に長くなって、久しぶりのタイムリーな記事にもなりえませんでした(´-ω-`) )

目次

 

パス回し・ボール回しは卑怯か?勿論そんなことはない。選択肢の一つ

 タイトル通り、結論から言うと、ポーランド戦で選択したボール回しという選択は卑怯でも何でもありません。あれを問題視するほうがおかしい(美しくない、見苦しいとは言えるでしょうけども)。決勝トーナメントに行くのは、予選4チームのうち勝ち点が多い2チーム。決勝トーナメントに勝ち上がるためには勝ち点で最低でも2番目に入る必要がある。ところが当然2位チームの勝ち点が並ぶことが多々ある。その時は勝ち点で並んだチームの直接対決での勝敗・得失点差(同数の場合総得点数の多い方)の順で勝ち上がる国を決めるようになっている。
 そして今回からは、イエローカードやレッドカードの枚数をポイントで換算して、そのポイントが低いほうがGL(グループリーグ、以下GL)を突破するという方式=「フェアプレー制度」が採用されることになっていた。で言わずもがなで、このフェアプレー制度に基づいて日本がGLを二位突破した。日本はファウルがセネガルよりも少ない、悪質なものが少なくより健全なプレーをしたと見做されたために、全く条件が並んだセネガルよりも決勝トーナメントに行くチームにふさわしいとして決勝トーナメントに勝ち進んだわけですね。
 残り時間が少なくなって行った段階で日本は、ポーランドに1点負けていたために、GL突破が危うい状況になっていました。このままポーランド戦で負けると、コロンビア=セネガルスコアレスドローで引き分けのママ終わると、日本は決勝トーナメントにいけなくなるという情勢でした。しかしコロンビアが1点を取ると状況は一変。日本はこのままポーランドに負けても決勝トーナメント突破という一転して有利な状況となりました。


GL突破という目的を達成するために全力をつくすことこそ本当のフェアプレー

 このまま「1点差」で負けるのならば、日本は決勝トーナメントへ行ける。決勝トーナメントへ進出するというGLの目的を達成することが出来る。GLの目的は、3試合で全部勝つことではない。勿論、そうすることが出来ればベストなのは言うまでもないが、最優先すべき最低限の条件は、必要な勝ち点を確保して決勝トーナメントへ進むこと。その目的・課題をこなすために、ベストな選択がこのまま1点差で負けることだった。であるならば、時間を潰して試合を進める無気力相撲ならぬ、無気力サッカーをすることは当然。それに一体何の問題があるのか?
 勝負とは勝つためにやる。「卑怯汚いは敗者のたわごと、やるからには絶対勝たなければならない。勝つために何でもやるのは当たり前。逆にそうしなければ失礼」―と、こち亀両さんが言っていたかどうか忘れましたが、そのとおり。最初に、GL突破の条件が示されて、ルールも事前に知らされてそのフェアな条件下で競い合っているのに、負けたあとでそれがフェアではないとか卑怯だというのは大馬鹿者以外の何者でもありません。これが仮に日本とセネガルの立場が逆であったとしても同じ、その時に「セネガル卑怯だぞ!最後まで攻めろ!」なんていう日本の世論があったら、全く同じ言葉を送っていたでしょう。
 自分たちが弱かったから負けたんだ、自分たちが勝利のための必要最低条件を満たせなかったんだ―この当然すぎる事実から目をそらして正当なルール内でプレーして勝った勝者を卑怯と貶めるなんてなんて汚いことを言うのだ、負けた自分たちの不明・蒙昧を反省するのではなく、相手の問題にすり替えるなど、一体どこのアメリカ人なんだ!恥を知れ!と厳しく非難したでしょう。

日本の選択を非難しているのは「素人」

 ポーランド戦の試合内容をサッカーの本場欧州メディアの一部が非難していました。敗北したセネガルではなく、本場の欧州が問題視しているではないか!という指摘も全く意味がありません。それはアイツラが馬鹿なだけです。いちいちすべてのメディアのコメントをチェックしたわけではありませんが、その日本の試合を否定的に見たメディアもコメンテーターもいたでしょうけど、少なからず日本の戦術・選択に理解を示す内容も見ました。
 どちらが多いかは知り得ねど、一つ言えるのは、我が国のスポーツ報道を見ればわかるように、あちらのスポーツ報道のレベルも同じように高くないということです。もしくは低劣・無知無教養層に売るために、質よりも売ることを目的とした程度の低いものがあるということですね。あちらのスポーツ報道・メディアではしっかりとした業界・報道人がある程度いる。そのレベルは我が国の比ではないということは知っていますが、それ以上に低劣・愚劣な報道もまた多いということでしょう。批判しているのは「素人」としたのは、西野監督がああいう決断を下した背景を理解していないからですね。サッカージャーナリストや代表選手・監督レベルで背景をよく理解していなければ「素人」と見なすのが適切でしょう。*1

批判根拠①スポーツマンシップに反する 否、対策をしないルール・統括委員会の問題 

 勿論、全く問題がないわけではありません。FIFAの規則や定款に勝利を目指してプレーをすることという一文がある。それに反するのではないか?という疑問が当然起こってきます。過去にバックパス禁止というルール改定がなされたことからもわかるように、消極的な試合運びは明らかにサッカーという競技の前提を崩す、競技・興行を崩壊させかねない要素を含むわけですね。これについてはどうなのか?
 まず、一つ。多くの人が連想した。そして批判する人間が論拠として用いたのは、ロンドン五輪の際の女子バドミントンが無気力試合・意図的な敗退行為だとして失格とされたケース。かのように、わざと負ける行為はスポーツマンシップに反するという論理ですね。
 これについてまず論じると、これはルールが悪い・大会の運営システムがそもそも間違っている。予選のリーグ方式がどうだったか忘れましたが、①もう決勝トーナメント(もしくはリーグ)、次のステップに進むことが決定している。②負けたほうがより次の試合で勝ち進む確率が上がる・有利になる。―という以上のような条件が成立するような方式を採用している方が悪い。運営が馬鹿なんです。
 昔どこかで書いた・指摘したと思うのですが、まずわざと負けることが八百長目的(当然片八百長も含む)である。自発的な敗退によって賭博などの目的・意図的な不正操作で掛け金・レートを操ることで利益を得るためにやっている。そういうことであれば明らかにアウトですが、当然そうではない。優勝や3位入賞などの目的、最終的な勝利・結果のために、一時的にわざと敗北したほうが次の戦いで有利に挑めるのならば、積極的に負けに行くに決まっているし、そうすることが本来の「フェアプレー」。
 確か女子サッカーの時にこれを書いたと思うのですが、予選突破が決定していて、次の試合で負けて2位通過したほうが有利な戦いができる。だったら全力で負けに行け!と監督が指示を出すのは当然。目的は全勝優勝、全試合100-0で無敵の最強ジャパン!と史上最強の強さを見せつけることではない。もちろんそう出来たらいいですし、するに越したことはないでしょうけど、いちばん大事なクリアすべきハードルは優勝をすること。そのハードルを超えるために出来ることは何でもするのが当たり前。むしろそこで負けに行かなければ、次の試合で勝つ確率が下がる・優勝の確率が下がるというのならば、それこそ「敗退行為」でしょう。
 戦術と戦略の違いなんて言うのが一時期話題になった気がしますが、局地戦で何百勝しようと大事な一戦で敗北をすれば、そのたった一敗で戦争に負けるということがある。大事なのは局地戦での勝利ではなく、「戦争での勝利」。全体での最終的な勝利。局地戦での勝利は手段であって目的ではない。たかが一つの局地戦、そこで全力を出して勝ちに行く必要がないとなれば、手を抜くのは当然。全体的な、トータルの見地から必要な勝利を目指す、戦場の急所・要所を抑えにいくのは当たり前。


見逃してはならないポーランドの試合目的の喪失

 日本にとって予選の最終試合は意味・価値がさほど高くなかった。であるからこそ、ああいう試合運びになった。そして見落としてはならないのは、対戦相手のポーランドも既に2敗していて、もう決勝トーナメントに出場不可能だった。試合自体をする意味・目的が消失していたということです。まるで日本の問題のように思われていますが、あの状況で積極的にボールを奪いに行かないポーランドサイドの問題でもあるのです。
 勿論、ポーランドは1-0でそのゲームに勝利していたので、無理して攻める必要性がない。故に8分間の奇妙なパス回しという絵面が成立してしまったわけです。日本の「勝ちさえすれば、結果さえ良ければ手段・内容などどうでも良いのだぁあ!」というカーズ・ディオ魂が批判されていますが、ポーランドが攻めなかったことがあったからこそ成立した珍現象であり、「敗北が確定したチーム」VS「試合内容次第で予選突破が決まるチーム」が対戦したからこそ起こるものだったという背景を見落としてはなりません。そしてそういう状況が成立した際にはこの現象は少ない確率であるとは言え、発生しうるわけですから、事前にこういう制度は拙いと対策を講じていなかったFIFA・ワールドカップが悪いのです。
 ゲームを実行する上でルールに不備があった、故にルールの不備を突かれて興行上失敗とも言える珍な現象が発生してしまったとなれば、それを総括して防止するルールや新制度でワールドカップを運営するのが筋。此れを以て日本が卑怯云々言うのは筋違いも甚だしいでしょう。ルール上こういうことが起こりうることは、事前に想像がつくことなのですからね。

今回のパス回しという珍現象が起こる確率はかなり低かった。しかしゼロではない以上、運営本部は対策を講じるべきだった。

 では、彼らは何故それを予測して新制度を導入しなかったのか?単純に馬鹿だからなのか?まあ馬鹿であるとは思うのですが、「少ない確率」と書いたように、実はこの珍現象が起こるのは非常に確率が低かった。ガチャでSSRやその上の最高レアリティを引くくらいの確率だったんですね、実は。
 というのも、この珍現象が発生するにはいくつもの条件が重なる必要性がある。
 ①「敗北が確定したチーム」VS「試合内容次第で予選突破が決まるチーム」が対戦すること
 ②「敗北が確定したチーム」が「試合内容次第で予選突破が決まるチーム」が対戦して、後者がゲームで負けていること
 ③後者が格下のチームで前者より弱く、攻めると予選突破の条件を満たせなくなる可能性が大きいこと
―という条件を満たさないと発生し得ないことだったので、なかなか起こることがない現象だったんですね。日本が予選を突破して決勝トーナメントに出ると誰も予想しなかったと言っていいくらい、他の3チームすべて日本よりも強い・格上のチームと思われていたわけですからね。そしてポーランドは既に敗北決定というような最悪な状態&最早試合をする意味がない状況で、本来は実力を発揮できないはず。日本に勝てないはずだったんですね。
 これは日本に限らず、GL内4チームで一番格下のチームが予選突破しそうな状況で2敗のチームと当たった場合でもまずそうなる。試合をする前から格下のチームの方が今回は勝つor引き分けるだろうと考えられるのです。
 というのも、いかに格下・四天王の中で最弱のチームでも、初戦に勝利してジャイアントキリング下剋上で勢いに乗っている&コンディションがいい状態であれば、格上と見做されても敗退が確定して目的のないチームに苦戦はしない。ポーランドはもう戦う意味がない。となれば、もう勝利を度外視して若手主体で未来への財産として経験を重視した戦いをするはず。若手の経験値のためにベテランを引っ込める。本来のベストな選手では来ない。事前想定上最高の布陣ではない選手を持ってきて戦う。となれば、勢いに乗った格下のチームが勝つ・有利に進めるのは当然。
 しかし、不思議なことに日本は負けることになりました。なぜかこれまで怪我で試合に出てこなかったレヴァンドフスキという中心選手が出てくるという展開。代表引退の最後の花道?もしくは次のW杯でも彼が中心となる予定だから?ポーランドの事情はわかりませぬが、ポーランドの状態が更に下がるということが起こらないという展開に。
 そして本来、日本もベストな布陣で挑めば、まずああいう結果にならなかった。6人もメンバーを入れずに戦っていれば、勝負事なので絶対はないでしょうけど、まずコロンビア戦・セネガル戦のようないい試合を展開していたでしょう。※なぜ6人も入れ替えて戦ったのかについては後述。

批判根拠②―サッカー界にも存在する美意識。それに反する

 次に美意識の問題があると思います。もし、同じような状況・条件が他の国同士で成立したとしても、今回の日本のように露骨にパス回しをする国は殆ど出なかったと考えられます。やるにしても最後の1~2分、どんなに多くても最後の4分位でしょう。一旦攻めて、パス回しして、また思い出したかのように攻めるという時間潰しを選択したでしょう。やるにしても今回の日本のように露骨にはやらない。それは世界的な評価を気にするため、そういうことは絶対にやらない・やってはいけないという価値観が根付いているから。
 パス回しはネガティブな選択であり、マイナスな評価をもたらす事がわかっているから以上に、「サッカーが弱い国がとる弱者の戦術」だから、そのような戦術を選択するのはプライドが許さないからですね。だからこそ、これまで他の国は露骨にここまですることはなかったわけですね。

相撲のように暗黙の了解・不文律を守らなくては勝っても叩かれる

 では、日本は史上稀に見るサッカーに弱い国だったのか?プライドがなかったのか?それほど予選突破が不可能になるリスクが大きかったのか?川島の致命的なセーブミスに代表されるように、それほど今回代表チームは問題を抱えていたということなのか?
 今回のことを反則ではないが、やってはいけないこととして、相撲の変化の例えを出している人がいましたが、まあある種それに近いものがありますよね。日本人だけが持つ独特な文化、独特の非論理性や美学・美意識を他者や異文化に強要する悪癖がある。そういう風に考える人が少なからずいるわけですが、そういう独特な非論理的な美学を用いて押し付けるというのは日本に限った話ではないという意味で非常に良い事例だったかと思います。横綱は胸を貸すのが当然であると考えられるように、小兵以外が変化をしてはいけないように、相撲というのはルール以外に破ってはいけない重要な前提・マナーが存在している。それを知らなければ・弁えていなければ野蛮人・お上りさん扱いされる、まあ当たると言えずとも遠からず。そういう要素があるのでしょう。
 それはそれとして、ルールとしてそれをきっちり取り締まればいいだけでは?ルールとして禁止しない限り同じことはまた起こるわけで、なんで規制をしないの?という提言は絶対しておくべきでしょう。

現今制度では負けて有利な場合にわざと大敗するリスクが有る

 何より問題なのは、今の方式だと今回のイングランド=ベルギーのように、無気力試合が発生すること。1位通過と2位通過で明らかに2位通過のほうが有利だ、好ましいということになればやはり、日本=ポーランド戦のような観ていて観客が「なにやっとんじゃい!」ということが起こる。日本=ポーランド戦はお互いの目的が勝利狙いで、日本が勝利/引き分け(/後に1点差以内での敗北)狙い。というような前提でしたが、イングランド=ベルギーはお互い敗北を争い合う事になりかねない条件でした。
 前述通り、プライドが存在するため、暗黙のルール・価値観を共有するために起こる確率はかなり小さいものとなっていますが、ゼロではないわけです。負けたほうが有利という状況を運営として絶対に生み出してはいけない。こういう制度・環境を生み出しているFIFAは怠慢と糾弾されてしかるべきでしょう。それこそ夏の甲子園方式のように、決勝トーナメント進出チームを決めたら、そこからもう一度くじ引きで次にどことどこが当たるかわからない方式にするなどにしないと、予選の最終試合で「負け合戦」が発生してしまう。それこそ2位通過すら危ないから全力で戦って、5-0で勝っていた。試合の途中経過で、2位通過を争うチームがボロ負けで通過は決定。しかし、このままだと1位通過してしまう。引き分けで2位通過したいとでもなれば、残り2~3分で一転監督の指示でオウンゴールの嵐で5-5の引き分けに…。といった試合展開も発生しうる。そういう事態になったらどうするのか?「90分までは史上稀に見る~~年代屈指のベストゲームだったが、ラスト2分で史上最低な試合になってしまった」ということが起こりうる。今のやり方は絶対変えなくてはならないでしょう。
 例えば、4チームの8GL方式から6チームの6GLに変更する。そして予選で強かった、素晴らしかったそれぞれ1チームにシード権で、突破に失敗したチームの中で得点を一番多く上げて面白い試合をしたチームに敗者復活的にシード国と当たる前の試合の枠を与えるとか、より予選で全力で試合をする・活躍することに意義がある制度に変えたほうがいいと思います。単なる思いつきなのであれなんですが、仮にこういう制度にすれば敗退が既に決まったポーランドもわずかの可能性を求めて全力で大量点を取りに積極的に攻めていきますからね。

FIFAの判断は問題なし。だが…

 FIFAは、今回のパス回しを受けてフェアプレー制度の見直しやルール規定を変えるつもりはないということでしたが、そんなことよりももっと大会の制度を根本から変えない限り、類似のもやもやした消化不良・塩試合は増えるでしょう。そしてルール変更をしないということ、終盤のパス回しに対する制約を設けないということでFIFAは特に問題がないと認めたということですね。ただし、全くの無罪放免・ルール上OKだとゴーサインを出したわけでもなく、ベルギー×日本戦の試合の審判にフェアプレー制度で涙を呑んだセネガルに選んだことで、こういう事をした場合同じようなことをするぞというチクリと来る制裁を加えたというか、暗黙のメッセージを送ったように見えましたね。


日本は暗黙の了解を踏みにじったのではなく、次戦で戦うためにパス回しをして選手を休ませなくてはならなかった

 日本が世界的に共有されている価値観・美意識を我関せずと踏みにじったのか?実はそうではないんですね。インタビューを聞いても選手の誰一人として「パス回しのどこが行けないんですか?ルールブックのどこにもそんな事書いてないでしょ?バカが難癖つけてるだけでしょ?」とは言ってないし、むしろ本来やってはいけない事という後ろ向きな感想が殆どでした。ドーハの悲劇のようなロスタイムでワールドカップ行きを逃すような故実があったが故に敗北(GL突破失敗)を異常に恐れてああいう選択に走ったのか?まあそういう要素がないにせよ、実は違うんですね。本当は西野監督の短い就任期間と次戦がベルギー&その次でブラジルという予定があったから起こったわけです。
 パス回しの話をする上で3つポイントが有って、これが最後のポイントになります。監督の就任期間の短さと主力の休養という要素ですね。先程後述すると書いた、6人入れ替えの話になるのですが、6人もメンバーを入れ替えさえしなければ、まず負けることはなかった。十分勝てたし引き分けに持ち込めた確率が高かった。何故西野監督はメンバーを入れ替えてしまったのか?それは主力を休ませなければ次の決勝トーナメントで戦うことが出来ないから。

ポイント③:ベルギーのような強国と戦うためにはベストコンディションを作らなければならない。そのための主力休養&最後のパス回し

 サッカーのことをよくわかりはしませんが、西野監督が「あのような選択をしたくはなかった。しかしあれで選手を休ませることが出来た」という説明をしていたので、ピンと来ました。次の戦いで選手のベストコンディションを整えるために、多くの選手を休ませる必要がある。また短期決戦でのセオリーである、ベンチ入りメンバー全員で戦うというセオリーを守るために、より多くの選手を試したい。今のコンディションの状態を確認しておきたかったんですね。
 ベルギーが9人入れ替えてイングランド戦に挑んだように、選手の休養と状態確認というのはGLでのセオリーの一つなのですね。「突破することが目的ではない、更に選手の状態確認・次戦、そのまた次戦を見据えて目先の勝利だけではなく、3戦先を見据えた采配をしなくてはならないのだ!キーになる選手を適宜休ませ、控え選手を起用する必要があるのだ!」というベルギーの監督の声が聞こえてくるような選手起用でした。GLをいかに上手く突破するか、戦力を温存して控え選手の状態ですら完璧に持っていくというのがワールドカップで優勝を狙うような国では当然のことなんでしょうね。

パス回しが成立する珍現象の要因④

 パス回しという珍現象が成立する前述の3条件に加えて、④日本は決勝トーナメントを見据えて主力を休ませる必要性があった。選手状態を見極める必要性があった
 ―という条件もあったんですね、実は。ここでベルギーのような優勝候補国のように、控え選手も主力と同じようなベストパフォーマンスを発揮して見事な試合を展開するということであればよかったのですが、結果は戦力がガクッと落ちる拙い試合展開。日本の選手層の薄さを露呈する結果となりました。あの試合展開を見て、決勝トーナメントに進出してもまずその次の試合・ベスト16どまりで終わるのだろうなという予感をさせる試合でしたね(まあ、個人的にはベルギーには勝つと思っていたし、そういう話を試合前に書くつもりでいたんですけどね。んで唯一人(かどうか知りませんが)ベルギーに勝つことを予言した神ブロガーとしてドヤるつもりだったんですが…想定外の敗北でかなり凹みましたね…)。
 本来、初戦で勝利をして1位か2位かなり高確率で通過するような状況にあるチームは控えも選手が揃っている。控えが出て来たとしても最終・3試合目でガクッと戦力が落ちて拙い試合展開になることが少ない。初戦でコロンビアを破るという大金星を上げ、同じく二戦目セネガルで引き分けたからこその試合展開だったんですね。殆ど予選通過は確定的。だからこそ次を見据えた主力の休養&控えのテスト。
 ―が、しかし、本来日本は格下のチームであり、ポーランドも主力を下げて次回のワールドカップ・育成に切り替えていくという姿勢を示さなかった。であれば、ポーランドが本来の実力を発揮するリスク及び、控えの選手が実力を発揮できない&実力負けするリスクを考えて、6人も下げずに2~3人程度でテストマッチにすべきだったのではないか?当然、そういう疑問が起こってきます。何故その選択をしなかったのか?

 西野監督が流石にそこまで拙い展開は起こらないという判断をしたこと、選手がやってくれるという信頼があったこと云々を置いといて、どうしても6人下げる必要性があったと見なすべきでしょう。それは次の対戦相手がベルギーorイングランドだったから。そして2位通過という場合、勝ち上がりでブラジルと対戦するから。強国と2連戦する際に、どうしても守備的に戦わざるをえない。90分フルに走り切る体力・スタミナが残っていることが勝つためには必要不可欠。そのためにこの試合で全力の勝負をすることが出来なかったんですね。
 もうGL突破の条件を満たした。であるならば、少しでも体力をロスすることを避けたい。そのためのボール回し、消極的・無気力試合だったわけですね。その結果、体力を温存することが出来た日本は続くベルギー戦でフルにプレッシャーをかける、ディフェンスを徹底してベルギー戦で想像以上に優勝候補の一角を苦しめるという好試合につながったんですね。
 まあ、ちょっと詳しい人なら当たり前のことでわざわざそんな当たり前すぎることをドヤって書かなくても…と言われることだと思うのですけど、気づいてしまったのでどうしても書きたくなりました。

ポーランド戦の失態とベルギー戦での好ゲームは表裏一体、コインの裏表である

 ですから、日本の消極的試合を「つまらない!何やってんだバカ野郎!勝ちさえすればどうでもええんか!」という主張とベルギー戦で「ナイスゲームだった!素晴らしいファンタスティックな内容だった!感動をありがとう!」という主張を同時に繰り広げることは出来ないのです。このクソ試合と今大会屈指のナイスゲームは一連の流れの中にある。そういう当たり前の論理もわからない人間がそもそもポーランド戦の最後のパス回しが!と云々することはおこがましいのですね。
 まあ、素人*2はそういう手のひらクルクルが仕事・本分のようなものでいいとして、信じられないのが代表監督を努めたような人間までがそのような発言をしていたという事実です。アイスランドだかアイルランドだったか忘れましたが、代表監督レベルの人間ですら消極的な戦いを批判していました*3
 もちろん、最後の最後まで、セネガルに追いつかれるリスクが有る。もしセネガルが最後の一分、十秒前にでも1点を取ればそれで敗退。そうなったらどうするのか?今流行りの言葉を使えば、他力本願で勝ち上がりを狙うなんて「どうなの!?」ということでしょう。

現代サッカーは戦略室から上がってくるデータで指揮を決める

 己も試合を見ながら、「あれ?攻めないのかもしセネガルが点をとったらどうするんだ…攻めろよ!」と思いました。しかし、現代サッカーは試合を映像で分析してそれを情報担当が徹底してデータ化する。そのデータを逐一現場の指揮官に上げるという分業が確立されているといいます。昨今話題の楽天の作戦指令室だったか、情報分析室だったか、そういう部署が研究をして結果あれこれ監督の采配に口を出すというのも、このサッカーの潮流・思想が大きく影響しているのでしょう。結果、現代サッカーはこの映像分析の結果、そこで上げられる情報をいかに活かして戦うかというものに変化している。いかにそのデータを上手く活用できるかが監督の指揮能力となっている。その都度その都度上がってくるデータを基にいかに上手く早く戦術・戦略を組み立て直すかというものに変わってきているわけですね。
 ―であるからこそ、西野監督は攻めることで失点する確率とセネガルが追いつく確率のデータを貰って、このままで行くのがベストという判断を下したわけです。責められるとしたらその上がってきたデータの分析が本当に的確だったかどうか、そしてその確率が実際は想像以上にセネガルが追いつく確率が高かったor日本の失点する確率が低かった場合に限ったことでしょう。セネガルが追いつく確率がおそらく5%もない。どう考えてももうセネガルは打つ手も使い切って、選手も疲れ切っていて、コロンビアのディフェンスを崩すことは出来ないという最終判断があったからこその決断だったはずです。である以上、あの決断を賭け・博打とみなすのは正しくない。それこそ30%近くセネガルが追いつく確率が残っていたとでも言うのでしたら問題になるのでしょうけどね。

検証すべきは、上がってきたデータが正確だったかどうか。我々の予想以上にセネガルが追いつく確率が高かったかどうか

 もし、西野監督の采配が間違っていたというのならば、その根拠を検証すべきなんですね。その根拠が正しくないとはっきりして初めて批判できること、そうでもないのに外野がアホみたいに叩くのは理解できない。また、前述通り次戦のベルギー戦でベストで挑まねばならないという前提がある以上、西野監督のパス回しという選択は正しかったわけです。ズバリハマっているわけです、あれをみてやはりポーランド戦でのパス回しは正しかったということにならなければ本来おかしいはず。その議論の修正がなされないのは個人的には謎ですね。
 そしてプラスおまけの要素として、代表監督としては2ヶ月という異例の短期間の時間しかなかった。ということは通常4年間近く選手とつきっきり(かどうかは知りませんが)で、選手のことを把握していて、このときはこうする・どうすると、万全の準備をして頭の中で何千・何万のシュミレーションをしているはずが、彼の場合はそうではないわけです。お家事情・ゴタゴタで急転直下国家のトップを任されたというビックリする事になっているわけです。そういう状況を鑑みれば、西野監督はあそこで攻めに行ってもどう考えても一点とられることは起こりえないから、攻めていいぞという計算をすることは難しいわけです。
 叩くならばこういう状況を作り出した、現場の監督・選手に万全の状態を作って送り出してあげられなかった協会をこそ叩くべきなのです。全然論点が違う。一体何をやってるんだろう…というのが正直な感想ですね。そういう状況を作り出した日本サッカー協会という腐朽組織に多大な貢献をした元協会会長が「なんというセコいことをしやがったんだ。監督のバカ野郎、世界に笑われる」なんて言っているくらいですからね、呆れてものが言えません。お前がそういう組織を作って今の状況を生み出したくせに一体何を言っているんだ…と心底呆れましたね。

個人的最重要疑問ポイント―それでもベルギー戦を避けるべきだったのではないか?ブラジル戦を避けてポーランド戦に全力で勝ちに行くべきだったのではないか?

 最後の最後はお決まりの日本サッカー協会批判でおしまい☆―と思っていたら、最後に書くべきはずだった大事なことを忘れていました。采配への疑問というか検証しなければならない重大なポイントとして、ベルギー戦を徹底して避けるべきではなかったのかということです。
 もちろん散々書いてきたとおり、あの状況では主力を休養させる6人交代策がベストな選択で間違いなかった。しかし、そのリスクを敢えて取ってでもポーランド戦で全力で勝ちに行って1位通過を狙うべきだったのではないか。1位通過のコロンビアはイングランドのあとはスイス×スウェーデンの勝者。イングランドとやるかどうかはベルギー×イングランド戦の結果次第なのでまだ決定はしていなかったわけですが、2位通過の場合次戦でベルギーかイングランドと当たって勝った場合、ブラジルと戦うことになる。前述通りたとえベルギーだろうと勝つことは可能。しかし次戦のブラジルでほぼ100%間違いなく負ける、それもボロ負けする可能性が高い。
 である以上、主力の休養も放棄してなんとしてでも勝ちにいく。1位通過を狙って何が何でもポーランドに勝つ選択をすべきではなかったのか。ベルギーがブラジル戦を嫌って、2位通過を選択する事も考えられた以上強くは言えないことですが、もしポーランド戦で勝利して1位通過すれば、よりやりやすいイングランドと戦うことが出来て、次はスイス×スウェーデンの勝者であり、ベスト4の可能性がある。
 そういう可能性ががより高い1位通過を狙って全力でポーランド戦に勝ちに行くべきではなかったのか?問われるべきはそのことであって、ボール回しではないはずなんですよね。まあ、ベルギー戦の結果を見てもわかるように、もし全力でポーランド戦に勝ちに行って結果うまく勝てたとしても、次戦のイングランド戦で全力で戦う体力が残っていないので負ける可能性は高くなっていたんでしょうけどね。結局、主力を揃えて全力で戦って、ポーランド戦で不測の事態が起こって負けてしまったら、&ベルギーが2位通過の道を選択したとしたら―という可能性を考慮すると、主力の休養で次戦に備えるという選択が最もリスクの少ないものだったのでしょうけどね。その背景・材料、決断に至る過程を事細かに聞いてみたいですね。

アイキャッチ用画像

*1:韓国の元代表選手が日本は卑怯に勝ち上がって韓国は美しく敗退したとかいつものアレがあったようですね。反応したら負けなところありますけど、ファウルだらけのラフプレー万歳のチームが言うことではないですよね(笑)。そもそも日韓ワールドカップの時八百長した自分たちの歴史をどう思ってるのか恥知らずという話ですし。まあスルースルーのスルーパスですね

*2:己が玄人という意味ではございません

*3:これだったかな?※参照―日本-ポーランド戦ラスト10分に海外も様々な反応 - 日本代表 : 日刊スポーツ