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落合博満は何故GMとして結果を残せなかったのか?(前編)

落合GMの辞任について書きたいと思います。

 就任一年目の2004年にいきなり優勝し、07年にはCS勝ち抜けの日本一。福留のメジャー移籍やWBCで主力選手が抜けた08年の3位を除けば全て1位か2位という驚異的な手腕を発揮しました。監督最終年には球団初のリーグ連覇を達成と文句のつけようのない結果を出し続けてきた落合は名監督・超一流の監督であることは言うまでもないでしょう。

 現役時代も3度の三冠王という記録を残すなど超一流の打者・選手であったことは揺るぎない事実であり、「名選手かつ名監督」という稀有な存在でありました。かくいう己も落合氏の見事な手腕と独特の分析・着眼点から彼のファン・信者となって、彼の発言を逐一チェックするようになりました。

 彼が14年にGMに就任することが決まったときには、どうやって中日を立て直していくのか、ワクワクしながら見ていたものでした。しかし結果は谷繁監督の途中解任と3年連続Bクラスという結果に終わりました。

■名監督、名GMとは限らず
 名選手、名監督ならず―の逆を行く「名選手かつ名監督」だった落合。その落合ならば「名選手かつ名監督かつ名GM」になるだろう。ところが実際はダメGM・愚GMという結果に終わりました。超一流選手・超一流監督、しかしGMとしては二流・三流。

 中日的・落合的に言うとオレ竜ならぬ二竜・三竜でしょうか?まあそんなくだらない話はさておいて、なぜ落合はGMとして成功しなかったのか?という話をしたいと思います。監督としてダメならば、いつもの「名選手、名監督ならず」だったで話は終わりますからね。

 「名監督、名GMならず」ということがありうるということは今後の日本球界にとって非常に重要な視点かもしれませんので、語っておくことも大事だと思いますので今回はそんな話をしたいと思います。

GMとは?
 そもそもGMとは何なのか?メジャーではGMという制度が根付いています。球団のフロント・編成の最高責任者ですね。General Manager=組織のマネジメントを担う最高位職と言った感じでしょうか。近代化・官僚化以降の組織というものは、部門毎に権限を分ける。担当・部門毎に分けてそれぞれの職務を担当する。そして最高・中央司令部がそれを統括する。一番上のトップの組織が意志決定を行い、指令を出す。与えられた指令を各部門は実行する。それが基本ですね。明確な戦略・ビジョンがない場合は最高位の機関が明確な指示を出さずに、「よきにはからえ」で現場に丸投げをするということもママありますが。

 まあ、要するに組織を動かす最高責任者がGMです。軍隊なんかでは現場の実行部隊と違い、組織の意思決定などの指示を出す人たちを制服組と呼びますが、まあその制服組のトップとしてもいいでしょうね。デスクワークと現場の両者を明確に分けて更にその上にトップがいるなんていう形態も珍しくないですから。球団社長の下にGMがいる。GMは組織の序列上の2位・3位ということもまあありえるので。大統領と首相の関係のように、球団代表がNo1でGMを選んで経営を任せる。No2であるGMの人事権を持つだけで経営にはノータッチというのが一つの基本的な形でもありますしね。

 アメリカ・メジャーリーグGMという制度が一般化しているのは、職務の権限を明確化してその責任を担う事が経営上の基本、大事なことだからですね。成功すれば高報酬、失敗すれば責任を取らされて首を切られるというわかりやすい公式が成立しています*1。強いチームを作るには良いトップ=良いGMを連れてくればいいということになるわけですね。

 現場の監督ならば、目標は優勝ですから勝利を念頭において采配をふるえば良いわけですが、GMの場合はまたちょっと異なる要素があるわけです。当然、勝つために強いチームを作るということを目指しますが、球団経営のいちばん大事な要素は黒字を出すということですから、勝てなくても、人気がなくても、収益さえ上がれば成立するわけです。なので時に成果を挙げられない評判の悪いGMがいるわけですね。優れた選手をホイホイ放出することを厭わず、目先の金を確保するタイプが。

 まあ当たり前の話ですが、30近く球団があるメジャーにおいて、すべての球団に金があって、ファンが熱心に支持してくれて、優勝を目指して強いチームづくりだけを目指していればいいという環境にあるわけではないのですね。

 日本の球団でも強いチームづくりを目指しているのではない球団が幾つかありますから、まあいわずもがなでしょうか。勝つ気がなく惰性で球団経営をしているというのは枚挙に暇がありませんからね。勝つ気がないのではなく、単純に球団経営、強いチームづくりというものを理解していない可能性もありますが、まあそんな話は置いときましょう。

GMの目標は必ずしも強いチームを作ることではない。オーナー・球団トップの意向に沿うことがGMの役目
 GMというのは経営の要素、ビジネスの要素がある。とすると結果=勝利ではなく、結果=黒字もしくは球団の値段の維持になる。現在マイアミ・マーリンズに球団売却の話があるように、親会社・オーナーが変わる時、球団の価値が下がっていたら球団自体の存続が危うくなるわけですから、GMの最優先課題というのは球団の価値の維持及び向上になるわけですね。当然雇い主であるオーナーや企業の意向である収益を上げろという意向も無視できない。となると、ドケチ経営で選手やスタッフに給料を払わずに、絞り上げたお金をオーナーにーということもありうるわけです。

 選手・球団(職員)・ファンよりもお金ということはまあ何時でもどこでもブラック企業のような利益至上主義の会社で聞く話なので、特に違和感を抱く話でもないかと思います。で、長々こういう話を何故したかというと、GMには①チームを強くすることを求められて就任するケースと、②利益・黒字を出すことを求められて就任するという二つのケースが有るわけですね。

 てっきり、落合GM就任というのは①の方のチームを強くするためだと思いこんでいましたが、実は落合GMというのは②のお金の要素が強かったわけですね。就任直後に8億円のコストカットをしたということで話題になりましたが、結局白井オーナーの判断というのは、常勝軍団を作ることよりも球団の維持に重きが置かれていたということでしょう。

■年俸抑制・コストカットはチームを弱くする
 年俸抑制という手段は球団を保有する上で手っ取り早い手段ですが、当然それを行えばチームの士気が下がる・弱くなるのは当たり前の話ですよね。この会社で働いていたら、最近までは景気が良くて同業他社に比べて給与が高い会社だったけど、業績悪化に伴って優秀な(?)同僚・先輩たちの給料が軒並み20~30%以上カットされた。今後も給料が上る見込みはない―そんな状況になったら選手のやる気は削がれるに決まってますからね。

 そんな状況でその会社の雰囲気・空気は良くなるわけがない。そのイライラは当然伝播してファンと喧嘩したり、コーチと選手が衝突したりという最近の組織としての歪な事態につながるわけですね。

 そもそも中日という球団は、セリーグの中で阪神・巨人と並んでFAでの補強を厭わない球団だった。ウッズ・和田・谷繁・川崎などなど他球団から主力選手を取ってくることが絶対ではないにせよ、重要な要素を占める球団だった。FA補強ができるということは、要するに資金力があるということ。資金力がなくてFA選手が取れないだけならまだしも、既存の選手をつなぎとめるのに必要な資金がなくなった。そのため総年俸抑制・コストカットをしなくてはならなくなったという重要な経営の転換点があったわけですね。

 その中日ドラゴンズという球団の転換期にあって、その変革を落合GMに任せようということになり、コストカットを行った。これが決定的な失敗だった。金満球団ではないにせよ、資金力のある球団から資金力のないケチケチ球団になった。旧態依然の親会社頼みの球団経営をしてはいけないというのは今年日本シリーズに出た2チームのファイターズ・カープを見てもわかること。親会社に頼らず球団がきちんと努力をすれば収益をあげられるというのは、最近新規参入してきたDeNAベイスターズで自明のこと(DeNAになってから売上が大体倍になっていますからね)。ホークスも球団単独で黒字を上げていることからもわかるように、戦略を持って適切な経営を行えば、年俸抑制というコストカット、つまり従業員の懐に手を突っ込むという負の手段に頼る必要性はないわけです。

 利益を上げるために球団にも時間が必要でしょうから、一時的な年俸抑制というのはやむを得ない手段であり、それは致し方ないと思います。選手にも「今こういう努力をしている最中で、成果が出たらまた元の給料基準に戻すから、頑張って数字を残したらちゃんと前みたいに年俸を上げるからしばらく我慢してくれないか」と説明をしたら、選手も反発をすることはなかったと思います。

 平田・大島が落合GMを嫌って反発した。このままでは中日を去るだろうと言われたのもこれによるわけですね。「確かにチームは低迷しているし、優勝もできていないが、自分たちはきちんと結果を出している。数字を残している。なのに給与に反映されないのはおかしい。適切な経営努力をして黒字を増やして、選手の給与に当てる割合を増やそうともせずに、何だその態度は!」と反発するのは当然ですね*2

■年俸抑制は間違いではない。が次の一手経営の改善が必要だった。その次の改革に手を付けなかったのが失敗の本質
 落合GMが適切な対策を打たなかった、黒字を増やすために中日ドラコンズをより魅力的な球団にすることをやらなかった。問題はこれに尽きるわけですね。しかし、これは落合GM一人の責任ではなくて、むしろ球団やオーナー白井氏サイドの責任と言えるでしょう。どうみても落合GMは野球バカ(否定的な意味合いではなくね)で野球畑の人間。そんな人間が収益を上げる云々経営畑の話がわかると思えない。今後いかにして球団を生まれ変わらせるか、抜本的な改革をする人物を連れてきて、一から球団経営を見直すことを行わなかったことのほうが問題でしょう*3

 また、親会社の予算がなくなったというのなら、日本ハムファイターズが行っているように、最初から総年俸の予算を決めて、BOS(ベイスボール・オペレーション・システム)という基準を作る。その基準に従って選手の年俸を決定するというような公平な査定基準を導入するなどやり方はいくらでもあったはずです。

 そういう基準づくりをせずに、落合GMという一個人に委任してしまった、任せきってしまったところに問題があったわけですね。どうみても誰かトップ一人でなんとかなるような性質の問題ではない、構造的問題であり、組織として体制を一から改造しなくてはいけない問題。そうせずに問題の本質を見誤って、優秀な一個人に全面委任するという決断を下した。これは白井オーナーの根本的な認識ミスであると言うべきでしょう。

■白井オーナーや球団トップの責任は落合GM以上に大きい
 彼は落合監督招聘のときにも、色んな監督候補が上がっても、次々NGを出して最後に出た落合の名前にようやくGoサインを出したという経緯があります。優秀なトップ・人材を選んで全面委任すればそれでうまくいくという過去の成功体験を未だに引きずっている可能性は高いでしょうね。それで今回一度落合GMという体制で痛い目を見たわけですが、果たして次こそは問題の本質はGMや監督ではなく、経営判断をする球団トップだと理解して対策を打つことが出来るでしょうか?これまでの経緯を見るとなかなか厳しそうな気がしますね。

■落合GMは無能か?
 ここまで書いてきたことを読むと、では落合GMはやはり無能ということでおしまいになりそうですが、正確に言うと落合のGMとしての実力は未知数と言うべきだと思います。個人的に落合を高く評価しているから、こういうのではなく、そもそもGMが実力を発揮する前提として、球団が強くなろうというビジョンを持っているかどうかというのがあると思うからです。ファイターズにしろ、ベイスターズにしろ球団がちゃんとチームを強くしようという意図があるわけですね。

 ところが落合GMの中日のケースでは、球団がそもそも経営を根本的に見直して強いチームを作ろうという意志・戦略がなかった。資金力があって資金面でのバックアップがある。その予算から選手補強を行えるという前提がなければ、日本・NPBにおいてはGMの役割は殆ど無い。GMとして出来ること、選択肢がほとんど与えられていなかった。そういうことを考えると、落合GMの手腕は未知数というのが適切かと思います。

 ただ、NPBの閉鎖的な環境*4では、ファイヤーセールのような選手がホイホイ放出されることもない。大型トレードが当たり前でもなく、FAで選手を放出してその代わりにドラフトの指名権利をもらうなどといった選択肢もない。NPBでは優秀なGMというものがそもそも出ることが殆ど無いといえます。

 日本だと監督が全権を持って、GMのようなことまでやるのが一般的だった。あまり知らないのですが日本ハム大沢親分がそんな感じだったとか。GMよりも全権監督のほうが結果を出しやすいという要素はあるでしょうね。明確に球団経営・ビジョンがしっかりしていないなら尚更。

■過去の名GM根本陸夫星野仙一
 GMといえば、やはり西武ライオンズダイエーホークスの黄金時代を築いた根本陸夫氏だと思います。彼がどうやって強い球団を築いたかというと、それは球界に張り巡らせた人脈にあるといえると思います。アマ球界の情報を正確につかむことは、将来のスター候補がプロの世界で当たるかどうかということを知る上で不可欠ですし、何より不人気だったパ・リーグに来てくれるかどうかわからない環境では選手を家族や高校・大学・社会人野球の会社を含めて囲い込む必要がある。物量作戦で、ありとあらゆる関係者の世話をすることで優秀な選手を入団させる必要があった。

 またスカウトというのが全国のいたるところでアマチュア選手を見ているように、優秀なスカウトをどれだけ確保しているかということがドラフトの成否を分ける。ドラフトで優秀な選手を取れるかどうかが、チームを強くするか弱くするかを決めるもっとも重要な要素と言えるといっても過言ではありません。根本氏が二つの弱小球団を常勝球団、球界を代表するチームに変えることが出来たのは、いろいろな要素があるでしょうが、彼の人脈網に加えて、優秀なスカウトを知っていた・チームに迎えることが出来たという点が大きいといえるでしょう。

 根本・星野の話でそもそも優秀なGMとはどういう能力を持った人間か?GMに必要な資質とは何か?という話をこれからする予定でしたが、長くなりすぎたので分割しました。中途半端な感がなくもないですが、一本にするとあまりにも長いので。続きはこちら→落合博満は何故GMとして結果を残せなかったのか?(後編)

 

采配

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一応、楽天リンクも。(采配落合博満バッティングの理屈強竜列伝 栄光の軌跡編)

*1:無論、アホオーナーがアホGMを連れてくるという事例もあるのでこの組織のセオリーも絶対的な話ではありません

*2:契約更改の席で大島に一番として得点圏打率がどうたら、守備がどうたらケチを付けていましたからね。払える金がないのでそうやって少しでも評価を下げようとそういう事を言ったのでしょうけど、まあそんなこと言えば当然嫌われるに決まってますよね

*3:というか、落合政権時代から客が入らないという話がされていて、集客のために何ら具体的な改善をしてこなかったことにもっと注目すべきだったでしょうね。それを玄人好みの野球だからと落合野球に責任を押し付ける声がありましたが、DeNAが無茶苦茶弱くても集客に成功した事実を見てわかるように、要するに球団の営業力次第ですからね。弱いならともかく強ければ地味でも集客はやり方次第で絶対にできたはずですね。問題の本質は球団のビジョンのなさ・旧態依然の経営にこそあるわけですね

*4:悪口ではなく、メジャーと比較して選手の移動がオープンではないことを指します