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【巌流島】60歳・達人の技出せず、15秒でKO負け

 【巌流島】60歳・達人の技出せず、15秒でKO負け(イーファイト) - Yahoo!ニュース headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150718-

 達人と聞いて、秘伝でググってみました。秘伝に出たことはない人みたいですね。なんか他の雑誌で特集されたことでもある人なのか?師匠が有名な人なのか…?

 で記事を見ると―「大円和流・合気柔術師範の渡邉は、40歳からある高名な武術家に古流柔術を習い、修行を積んで合気の極意を身につけたという。60歳にして実戦で戦うのは今回が初めて。

 1R、開始早々お互い組み合うもブレイク。再開後、しゃがみこむように体勢を低くした中島へ渡邉がパンチを放つ。これを空振りさせた中島はパンチを繰り出し、左フックがクリーンヒットして渡邉が倒れたところでレフェリーストップとなった。」

 ―だとか。

 合気道系の出身でもなく、大東流とかでもない。名のしれた有名な古流系でもなければ、実戦経験=過去に格闘技大会での実績もない…。というかこの人が作った我流なんですよね…。うーん、ちょっとこういう人をリングにあげてしまうのは問題では?

 まず、あっさりとKOされたから、これをもってして、この人はインチキ・偽物というのは正しくありません。達人、特に老人の場合一発で相手を倒さなくてはいけない。格闘技ベースではない合気道系に見られる、並行系のシステム(実戦を行わない競技体系のことです)を採用しているのなら尚更。

 「達人」というのは、基本老いたら一撃必殺で勝負を決める。一撃必殺でないと勝てない。電撃戦のように最初の一撃にすべてを掛けて、自分の一撃をまず先に相手に当てる。それをもって闘いを終えるという戦略を採用しています。秒殺というキーワードに代表されるように、一瞬で試合を終えてしまう。または一撃で相手を倒してしまう場合、そんな圧倒的な内容で勝つなんて凄い!なんて強さだ!という感想を普通の人は抱くものでしょう。しかし達人は逆。長期戦が不可能だから、一発で全てを決めるというスタイルなんですね。

 一発で相手を仕留めるなんて凄い!ではなく、一発で仕留めないと勝てない―というのが達人の闘いの基本的なメカニズムです。

 でも、そんなことが実際に出来るかどうかと言われれば、まず無理。ですからそれができる数少ない人間は「達人」と称えられるわけですね(名人でも多分同じことでしょう)。格闘家で達人がいないのをみれば、そんな人はめったに出てくるわけ無いのは自明の理。

 この人がその境地、一撃で相手を倒す境地にいっていたか、いなかったかはおいといて、最初の初弾・初合(ファーストコンタクト)に失敗した。それが全てになりますね。達人は初合が全て、それが出来なければ勝ちようがない。先手を取れない達人は簡単にやられます。先手が取れなければ基本老人なので、耐久力に乏しいですしね。若い、才能あるアスリートの攻撃であっさり沈むでしょう。

 そういう意味では今回の闘いというのは、達人が最初の初合を制すことに失敗した場合、「逆に無残にやられる」というメカニズムを見事に体現したのでわかりやすかったとも言えますね。達人は一発・たった一度の行動で勝利する。しかしそれが出来なければ無残に敗れる―基本、そういうメカニズムが背景にありますからね。

 剣術家、武器同士の闘いも同じことが言えるでしょう。一撃を喰らえば即死、または手足を動かせなくなる重傷。なのでこちらも最初の一合で勝負が決まります。そういう意味では、「巌流島」というキャッチコピーにふさわしい試合だったとも言えますね。

 武術関係者には有名な話ですが、柳龍拳さんという人がいて、その人も自分は達人だと謳って、格闘家と実戦してボッコボコにされて、惨敗をしました。それをもって、インチキだ!偽物だ!という人がネットでは殆どなんですけど、実はそうとも言えないんですね。

 山田さんが「アダプターテクニック」という概念を提唱したように、異なる競技体系を持つ相手に対し、どういうルールで戦うのかをきっちり認識した上で、自己の保つ力を最大限活かせる戦いかたをしなければならない。そうでなければ、武術の力は活かされることがない。そういう事前認識、戦術・戦略がないために、ほんとうに素晴らしい拳法家が、そのクンフーを生かせずに格闘家に負ける実例を見たという話を山田さんが語っていたように、ちゃんと強くても負けるという事はあるんですね。

 ①実力をつける、②闘い・試合のルール・構造をしっかり把握する、③相手の力を封じて、こちらの力を最大限活かす戦い方をする

 ―といった、まあ言われてみれば当たり前のプロセスをしっかり踏んで初めて意味がある。初めてちゃんと戦えるわけです。逆に言うと、その認識が足りないとそこそこの実力者でも、格闘技のプロにあっけなくやられる。惨敗するわけです。そもそも格闘家有利のルールですから当たり前ですね。まあ、つまりそういう認識が足りてないと、戦う前から負けることになりますね。

 おそらく今回のケースも、そういう基本的なメカニズムをあまりわかってないで戦っている可能性が高いですね。柳さんの場合、気功みたいなことで、相手を誘導してしまう技術をもっていて、それで相手をコントロールするつもりだったみたいです。確か菊田早苗さんとも相撲かなんかテレビでやって負けてたと思います。ああいう技は通用すればいいですけど、100%どんな相手にも通じるというわけではないんですよね。西野さんの気とか、青木さんの遠当てみたいに通じる人にしか通じないんですね。

 そういうことに長けた人が、「ああ自分はこんな凄いことができるんだ!おれって最強!」と勘違いしてしまうケースがある。今回もその可能性がなくもないですね。「合気」という技術を過度に押しているので。相手を無力化するということを強調していましたが、「気で相手をコントロールする」技術で強さを錯覚したと見えなくもないです。

 それでも偽物と限らないというのは、「間合いのコントロール」があって、その間合いの駆け引きで敗れただけという可能性もあるからですね。まあ達人というからにはその「間合いのコントロール」が生命線なんで、そこで失敗するなよという事にもなりますが、その最初の勝負・駆け引きで敗れたら、あとは惨敗するしか無いので。

 で、相手は相撲がバックボーンだとありました。そういう相手に組み合いに行ったようです。でも相手をコントロールしきれなかったようですね。相手にいきなり一撃を入れられて負けたとおもいきや、組み合ったんですね。合気を使う武術家が組み合った瞬間、相手を即座にコントロール出来ないのであれば、大問題だと思います。この相手が格闘家のチャンピオンクラスで、相当すごい身体能力&認識・操作能力を持っていた!ということならわかりますが、それほどの優れたレベルでもない人をコントロール出来ないというのは相当問題でしょうね。

 しかも打撃にいってカウンターをもらってKOでしょ?あのルールで寝技・投技というのは不利。それでも受けるからには、相当優れたコントロール能力=相手を掴んだら(掴まなくても)、相手が何もできなくなってしまうくらいのコントロールがないといけない。それがなかったということですよね。本人は試してみたいという動機を口にしていたようですが、事前にどういう検証をしていたのでしょうか?

 有名な大学のレスリング部とか、相撲部屋とか、そういうところに出稽古にいって、十分なテストをきちんとしていたのでしょうか?そうでない人をリングにあげてしまったのは大問題だと思います。

 事前に、達人というなら、じゃあどれくらいできる人なのか?と試割り的なテスト、またスタッフでも誰でもいいので技をかけてもらう。次に実際の格闘家を連れてきて、威力がどうなのか本音の感想を聞く。そしてスパーをして、ああこれは強い!というプロセスをしっかり踏んだのか?

 「技が使える」というのと、「実際の試合でも強い」というのはその間に大きな隔たりがある。それを検証もしないで、「面白そうだから」「エンターテイメントとして集客・宣伝効果が高いから」なんていう理由でリングにあげてしまったとするなら、大問題でしょう(実際ヤフトピに載って己もそれで知ることになりましたしね)。

 今回またしてもフジテレビ系のCSかなんかで急遽放送が中止になったようですが、格闘技の競技的に素人に近い人を検証もなしにリングに上げるようなことをする団体・組織なら妥当な判断だった気がします(理由がそれであればの話ですが)。老人なんですから下手したら大事故になりかねないことですからね。何を考えているのかというレベルですからね。

 古武術ブームですから、今後もこういう事例が増えるかもしれませんから、そういうチェックはきっちり行うことをルール化して欲しいですね。

 渡邉さんが言ってたように、武術界はもっと凄い人がいる。ひょっとしてあえて「達人」をボロ負けさせることで、武術界のメンツを傷つけて、達人と言われている人達を引っ張りだそうという計算でもあったのでしょうかね?

 ヒョードルが現役復帰をしたという話がありましたね。UFCに売却したPRIDE云々の利権関係が今年でようやく切れたとか。ヒョードル連れてきてPRIDE的な興行をまたフジがやるのでしょうか?それともこの巌流島というイベントでやるのか?相撲に有利なルールなんで朝青龍でも連れ出したいんでしょかね?もしくはモンゴル系の力士とか。

 どうなるかわかりませんけど、ちゃんとした運営を期待したいところですね。格闘技ブームも今は昔になってますし。