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身体論・武術・スポーツ関係を分割してこちらで独立して書いてます 野球評論は辛辣に書いてますので苦手な方はご注意下さい。また基本長いので長文が無理な方はお気をつけ下さい

【比嘉大吾体重超過事件】 比嘉非難という暴論への反論と具志堅会長はプロモート業にふさわしくない狂人・「素人」であるという話

 前回*1具志堅氏の異常性について触れ忘れていた点、そもそも危険な試合をやってはいけなかったこと。試合後の放言、無責任きわまりない発言―の2点について書き忘れていたのですが、中途半端な長さで文章が終わったので、追記すると分割しなくちゃいけないので放置してました。キリよく分割できそうにないのでね。また正式な処分が出たらそれについても触れるつもりでしたし、それ書く時に構成含めて書く内容考えようかなと。今回の分を書き終わったら再編集し直すかもしれませんし。まあ、めんどくさくて多分放置するでしょうが。

■試合のできるコンディションでないのならば、そもそも試合をしてはいけなかったし、するメリットもなかった
 タイトル通り、個人的にまさかの意外な処分だったので今回はJBCの意外な処分内容についての話をしたいと思います。―と思っていたら。これだけでも尺が足りずに分割することにしました。本当はこの記事のタイトルは「無期限資格停止処分だと!ふざけるなJBC…ってあれ?JBCがまともだと…!?」になるはずでした。JBCの処分が実は結構まともで妥当という話は次に回します。まずは、前回の復習・具志堅氏の異常性・問題から。

比嘉大吾はまともに試合をできる状態ではなかった
 前回、誤読して解釈を謝ってしまった本郷陽一氏の別の文章です*2“棄権”負け比嘉は当日計量後に体調が急変。試合は中止にすべきだった?! | THE PAGE(ザ・ページ)―こちらからまた問題部分を引用します。
 <引用>「都内から横浜アリーナまで移動する長時間の車中で比嘉の体調が急変した。吐き気と体調不良を訴え、会場に到着して控え室に入るなりソファに横になったという。
 まったく動くことができずウォーミングアップにも入れない状況になった。昨年10月のV1戦前には計量後すぐに大量の食事を摂ったため、嘔吐して失神した。その反省を受けて計量後は時間をかけて水分、食事を取るように改善したらしいが、また、その時に似た症状に襲われたのかもしれない。ドクターチェックが行われ再度、試合の中止が検討され、ドタバタと関係者が走り回っていた。」
<引用終わり>
 そういうコンディションであったにもかかわらず、具志堅会長は、ストップを掛けるのではなく比嘉をリングに上げました!その理由はなんと本人が希望したから…。ここでポイントになるのは山中タオル事件で書いた通り、トレーナーの判断。しかしそのトレーナーの話が具志堅会長の口からは一ミリたりとも出てこない。トレーナーの判断をそもそも尊重するという姿勢がない。だから初めから野木トレーナーに相談や意見を聞くことすらしていないんでしょうね、言語道断というかもう呆れて言葉も出ないですね…。

●具志堅会長同様の思考をする、比嘉を非難する無知な狂人達
 ここで一旦、具志堅氏の異常性への指摘から離れて今回の件で比嘉を非難する意見があったのでそれについて反論を書いておこうと思います。こういう具志堅氏のような発想をする手合いは結構いるようで、比嘉選手が体重を作ってこれなかったこと=減量失敗について、プロ失格のようなコメントをする手合いをいくつか見ました。が、2ヶ月で12kg落とすなんて普通出来るわけ無いでしょうに*3。これまで減量経験がなく肉体的・精神的ダメージがないというのならばともかく、これまでにかかったプレッシャー・繰り返し行われてきた減量による肉体へのダメージを考えればなおさら。敵との戦いよりもむしろ減量のほうが彼にとってはきつかった。最大の敵であったと見做すべきでしょう。
 そもそも10kgも体重を落として試合をする時点で、水分をギリギリまで絞りだしてますから試合当日には水分だけでも簡単に4kgはリカバリーしてしまうもの*4。そして試合を終えた時点で2ヶ月後の試合が決まっているはずもないので、いつもと同じように食事をするに決まっている。そうすると短期間でもリカバリーは激しいし、試合後に+4kgは戻るものと考えるべき。そして今回の試合を決めた時点ではもう元に戻っていたとしてもなんらおかしくない話でしょう。一週間で元に戻るとは思わなかったなんて馬鹿なこと言ってますが、試合を決める前になぜ現在の体重を測っておいて、本人の体重を含めた健康状態・意志をトレーナーも交えて確認しておかなかったのか。独断で誰が見てもキツイと思われる日程で試合をスケジューリングした。この愚挙を見るにこの時点で最早失敗は約束された未来だったということでしょう。
 過酷な減量をすればするほどリバウンド度合いというのは高まっていくもの。まして肉体的な成長が続いている比嘉ならばなおさら過酷な環境に適応しようとして、身体は栄養を一気に貯め込むようになっていても何の違和感もないこと。今の比嘉の肉体・精神面はどうなっているか、医者や研究機関に所属する運動・アスリート研究の専門家に相談して短期間で試合をこなせるのか。またフライ級でやり続けることが可能なのか、そういう判断を専門家に仰ぐべきだった。当たり前にやるべきことを具志堅氏は何一つやっていない。個人的な発想・感覚ばかりで、他者の専門家の話が何一つ出てこない。この時点で指導者として失格の烙印を押されるべきものでしょう。

●筋違いな比嘉批判①―食べてはいけないものを食べた本人が悪い
 また、ジャンクフード好きだとか、お菓子が好きだとかそういう事を以ってしてプロ失格だといういう指摘もありましたが、これも筋違いでしょう。野木氏が「理想的な食生活を送っても、骨格・体格からもう限界が来ていた」と主張していたこともありましたが、その野木氏の言を待つまでもなく、食事は彼にとって大事なストレス発散法だったと見做すべきだからです。
 過酷な減量が常態化している選手。特に彼は「フライ級は今回が最後だ」と自分に言い聞かせることで自我を保っていた、健康面で明らかに変調をきたす症状を見せていた。死を予感してパニック症候群になった。であるならば、キツイ減量・試合から解放されたら、そのストレスを発散するために好物を摂取するのは当然でしょう。減量後に食べる好物が得も言われぬ美味さであり、天にも昇るような快感であるというボクサーは珍しくないわけです。壊れてもおかしくない精神を守るために、抑圧から解き放たれて好きなことをする・好きなものを思いっきり食べるのは当たり前でしょう。それを本人の自覚が足りない・ボクサーとして失格だなんて言うのは一体おまえは何様のつもりなんだとその人間の神経を疑います。およそ正常な人間の思考ではないでしょう。
 ストレスを発散しなければ、次の過酷な減量に耐えられない・自我を保てない。そういう厳しい環境に常に身をおいている比嘉の失敗を一体誰が責めることができようか。いやできない(反語)。比嘉くらい追い詰められた環境で必至に努力している人間ならばまだわかりますが、それでもそういう高みで努力をするような人間は失敗した人間にムチを打つようなことは言わないでしょう、普通は。
 ダイエットを失敗して、リバウンドするという現象は広く知られていますが、抑圧の反動で食べすぎてしまう&身体がエネルギーを溜め込んでしまうようになっているから起こるわけですね。減量・食事制限によるストレスとその発散がどういうものかこれだけでもわかるもの。それはそれとして、過酷な減量で肉体・精神をすり減らした彼の救いが試合後の好物を思いっきり食べること。そこで心身をリフレッシュしてまた次の試合に望むというサイクルが本人に出来上がっていたはずです。「短期間ですぐ次の試合なのだから好物を食うなよ、我慢しろ」なんていうのは、本人ならともかく他者が軽はずみに言って良いことではない。死ぬ寸前まで追い詰められてギリギリまで張り詰められた緊張の糸をほぐすことをしなかったらどうなるのか?前回は期間を十分にとっても、パニック症候群のような状態になったのですから。今度は最悪発狂状態・錯乱してしまうようなことになってしまうと容易に想像がつくではないですか。人を一体何だと思っているのか。具志堅もそういう意見をするものもふざけるなと言いたいですね。もう、ふんづけてやる!です。前述通り、過度な禁欲を強いられていた比嘉はストレス発散方法が他になかった、ボクシングマシーン状態*5。こんな環境にあった彼を責めて、非常識で劣悪な環境に追いやった具志堅を責めないなんてどうかしているとしか思えません。

●筋違いな比嘉批判②―「減量失敗はプロとして失格」(By内山高志)は比嘉には当てはまらない
 また、内山高志が減量失敗は完全に本人のミスであり、プロ失格という発言をしていたことを以って、比嘉はプロ失格だという馬鹿丸出しの事を言っている人も見ました。言及するのも馬鹿らしいのですが、己の尊敬する最高のボクサーをこんな事に巻き込まないでください。いい迷惑です。
 前述通り決定権・選択権のない比嘉は被害者であること、自分で選べない環境に置かれた比嘉の責任を指摘することは暴挙であるということの他に、そもそも二人はSフェザー級とフライ級と階級が違います。そして内山は減量をあまりしないボクサーなんです。あの内山でさえ、会長が無茶な要求をして本来自分の階級でない試合を強要されることはなかったんです。確かいつも4kgくらいしか落とさないので、減量苦というのは殆どなかったはずです*6。だからこそ安定した試合をこなすことが出来た絶対王者・ボクサーだったんです。そういう環境にあった内山のセリフを比嘉に適用するなんてナンセンス極まりないでしょう。
 4kgというのは最もフェアであるIBFの計量後の体重増は4kgまでというルールにピタリとハマる値であり、まさに自身の適性階級で試合をしていたと言えるでしょう。日頃の節制と鍛錬の成果ということでもありますが、本来の適性階級で試合をしていた内山と10kg以上毎回体重を落として階級をあげることを懇願していた比嘉とはケースがまるで違う。そんな両者を並べて論じることに一体何の意味があるのか。論ずるをまたないことでしょう。上の階級であればあるほど減量のリスクは比較的小さくなっていくもの。本来ヘビー級の100kg超の人間が10kg落としてクルーザー級に落とすことはキツイことに違いがないとは言え、それこそその半分くらいのリミット50kgのフライ級の人間が60kgから10kg落とすこととは話が違うわけです。身体が小さい人間が大きい人間と比べて体重を落とすことがどれだけキツくまた失敗しやすいかを考えれば、比嘉を簡単に責めることが出来るでしょうか?リスクが高く肉体的にも精神的にもキツイことを強要されたことに同情するのではなく、またそんな無茶な減量をそもそもさせるな!というのでもなく、落として当たり前という前提で話を進める手合いが信じられません。表面上の内山の言葉をかいつまんでドヤるような輩とは永遠に話が合わないでしょうね。

●選手を最高の状態でリングにあげるのがセコンドの仕事。セコンドとしての仕事放棄、選手のサポート失敗という大失態
 具志堅談話に話を戻します。ここからは部分要約して引用します。
 <引用>「公開スパーのときにまずいと思った。動きは良かったが、ウエイトが5、6キロ?オーバーしていた。でも選手・トレーナーのことを信じていた。
 転級のタイミングを見誤ったのではないかという質問に対し、「確かに厳しかったが、倒すのが早かったのであまり減量をしなくて済むと思った。でも体重が戻っていたので、それを落とすには時間と余裕が必要だった。でもフライ級ではできたと思う。それよりも最大の原因は期間。2か月ちょっとは今の若い子には無理。」<引用ここまで>
 後述(次回)しますが、氏は比嘉が体重を戻したことに言及して暗にそれが問題だと間接的に比嘉を責めています。自分の責任と言っておきながら、結局暗に比嘉に責任がある・体調管理ミスだと指摘するようなことを言っています。ハッキリ言って試合をプロモートするジム会長として論外でしょう。こういう発言、考え方をするというのは。
 「選手を信用していた」とありましたが、そういうのを「信用している」とは言わないんです。自分に都合のいいようにきれいな言葉を使わないでください。「どんな無茶な要求をしても、自分自身が仕事をしなくても自分の都合のいいように結果を出してくれる」と思っていたでしょう。トレーナーと選手は、もう無理ですと言っていたのに、話も聞かずにフライ級指令を押し付けて、その要求に応えてくれると思っていたなんて、どこのブラック企業なんですか?初めから無茶なノルマを設けて現場に押し付けておいて「信頼している」って無能極まりないでしょう。パワハラ丸出しですね。
 それこそ比嘉の減量状態について逐一記録して、このペースならこれ位の期間・階級で出来る。あるいはここが限界ラインでこれ以上は無理。本人の精神的負担を考えて、肉体負担の許容範囲内だが止めるべきだとか、普通陣営が考慮して然るべき視点・要素が全く出て来ていない。陣営・セコンドが選手のケアをするという思想がまったく見られない。これはもう陣営とすら呼べない。セコンドポストについているお人形さんレベルでしょう。いや、まとわりついている妖怪というべきか…。ボクシングにおけるセコンドという役割を理解していない・無視していると言っても言い過ぎではないでしょう
 修羅の門だったか、はじめの一歩だったか?「選手を万全の状態でリングにあげることが出来ないなんて、あんたはセコンド失格だな」と言うセリフがあったと思いますが、それがピタリと当てはまりますね。
 選手を支援・サポートするはずのセコンドが、敵となって選手の足を引っ張っている。こんな状態・環境ではいつ比嘉が敗北・失敗してもおかしくなかったと言えるでしょう。そして今回の事件でとうとうついにその狂った性質が露呈された、表面化したということですね。

「素人」がジム会長になれてしまう指導者ライセンス制度の欠如がもたらした必然的な不祥事
 また、恐るべきことに「今の若い子には無理」という無責任な発言をしています。今の若い子ってなんですか?古い子はどこにおられるのですか?今のボクシングをやっているのは古いお子様、大きな古いお友達なのですか?今ボクシングをしているのは若い子・比嘉選手じゃないですか。昔のボクシングから今のボクシングに、時代に伴って当然いろんなものが変わって、今のようなセオリー・価値観が形成されている。では、どうして現在このようなセオリーになっているのか、何故正確に把握していないのですか?そのセオリーが比嘉に限っては当てはまらないというのならば、その根拠は一体何だったのですか? 
 現代のボクシングセオリー・理論に熟知していないのならば、そもそも口を挟んではいけない。選手としては偉大な実績を残したボクサーだったかもしれませんが、選手を育てる指導者としては「素人」なんですね、つまるところは。「素人」が余計な口を挟んではいけない。専門家・プロであるコーチやトレーナーに任せるべき。専門スタッフはおそらく野木トレーナー以外ろくな専門家がいないんでしょう。だからこそジムを開設して世界チャンピオンが今まで一人も出てこなかったんだろうなぁと変な角度から納得、腑に落ちてしまいました。野球界もそうですけど、やはりサッカーのように指導者としてのライセンス制度を導入すべきでしょうね。偉大な選手をそのまま指導者にしてしまう、なれてしまうという歪な構造がもたらした不祥事といえるでしょうね、今回の事件は。
 今回のJBCの処分では具志堅氏の追放処分に加えて再発防止のための指導者ライセンス制度の導入が盛り込まれていません。そういう点では言うまでもなくまだまだボクシング界は前近代的な組織のままで変わることはないでしょうね。今回のような味方であるはずのジム会長が選手を殺すようなことをする悲劇はもう二度と見たくないので出来ればいち早くプロ資格を持つ
トレーナー・セコンドなどの雇用を義務付ける、選手が不利益を被ることがないシステムづくりを進めて欲しいですね*7

■危険な状態の選手をリングにあげる暴挙、これでもボクシング界から追放されないの?
 また、2、3ラウンドですぐに止める予定でいて、本人にもそう言ってあった。ラウンド毎に「ダメならダメと伝えろ」と言ったと。
 あのですね、選手は責任感からどんなに状態が悪くても絶対やると言うに決まっているんです。選手がやりたいと言っても、止めるのが当たり前なんです*8。試合をできるコンディションじゃないボクサーになんで試合をさせたのか?これがまるで理解できない。
 本人が投げたいと言ったから、いけるというから投げさせたというバカな投手コーチ・監督を連想しますよね。いけるかと言われていけませんというピッチャーはまずいない。投手という生き物は投げたいと思うに決まっている。頼りにされたらその期待に応えたいと責任感から無理するに決まっている。その投げたいという投手本能を抑えて、休ませてうまくリリーフをやりくりするのがお前たちの仕事だろうが、バカ佐藤義・バカ工藤(自主規制)。
 テレビ局も同じ。ウチが無理して試合をやってくれとお願いすることはない。JBCやジムに一切の判断をおまかせするという事を言ってましたが、極力中止を要請する以外ありえない。テレビ局とジムの力関係を考えれば、ジム会長や選手は「ここで試合をキャンセルすれば次の試合で放送してくれなくなるかもしれない…。絶対穴を開けられない!」と考えるものなのですから積極的にストップを掛けないといけない(これは前回の山中戦を放映した日本テレビも同様ですね)。
 「ウチとしてはどんな損失であっても、選手の健康・身体・生命には代えられない。万全の状態でないなら止めてくれ!試合をされたらウチが世間から叩かれてしまうんです。逆に困るんです!」と強くストップを掛けなければいけない。格闘技イベント・興行というのはテレビ局に強く依存している。テレビ局との関係を絶たれて崩壊したPRIDE然り、テレビ局の怒りを買うようなことを出来る格闘技イベント関係者はまずいないでしょう。
 前回書いた通りフジテレビはよくよく反省しなければならない失態と言えるでしょう。問題が起こった際強い力を持つ方、強い影響力を行使できるサイドは、決定権を持っているも同じなのですから、その点よくよく考えないといけないのです。しかし日本テレビだろうと、TBSだろうと、フジテレビだろうとこの点を理解しないしこういう責任ある行動を取らないでしょうね…。テレビ局とは、そういう風におまかせしていますで責任逃れをする体質がありますから*9。今回はここまで、JBCの処分が意外とまともという話に続きます。

アイキャッチ用画像

*1:前回の記事はこちらです

*2:前回は誤読して比嘉に責任がある派の文章と勘違いしていました。失礼しました

*3:残り900gだからもうちょっとうまくいけば、余計なもの食べなければと思う人もいるかも知れませんがそれは誤りです。仮に900g落としていても一緒です。試合が出来るコンディションじゃなかったら一緒。問題の本質は落とせなかったことではなく、試合ができないコンディションだったこと、及びそのような無茶なスケジューリングと階級を強要され続けたことですから

*4:普通は食事も摂らなくてはならないので水分を過剰に摂らないのでしょうが。まあ、でも10kg落として翌日には10kg戻すというボクサーもいるのでケースバイケースでしょう

*5:具志堅用高、愛弟子の世界チャンプ・比嘉大吾に“3つの掟” ボクシング界も恋愛禁止?(2017年12月31日)|ウーマンエキサイト 女遊び禁止、夜遊び禁止、特定の食事禁止・制限…。一体どこのプロテスタンティズムの精神なんだと言いたくなるような禁欲の嵐。さらにその抑圧からくるストレス・負担をカバーする工夫・努力もない。選手として比嘉は追い詰められる一方という環境にあったわけですね…。そりゃいつかはパンクする失敗して当然ですね。普通こんなキッチキチの奴隷労働のような環境に置かないでしょう。現役時代自分がそうだったからという理由で完全強制しているんでしょうかねぇ…。おそらくスーパーチャンピオンだった自分はこうだった。だからお前も当然俺と同じようにこうしろ。もしくは他のボクサーならともかく俺と同じスーパーチャンピオンである比嘉なら出来る。だから比嘉は禁欲生活も過酷な減量もこなせるものという考えなんでしょうね。何れにせよ体験論・経験論ばかりで指導者にはふさわしくないという結論に違いはありませんが

*6:気になってググったら5kg・6kgと試合毎にまちまちでした。キャリアの後半は肉体改造をしていて筋肉量も増えてフィジカル的に強くなっていきましたが、その頃の話だったかな?

*7:ちなみに亀田ジムのお取り潰しで話題になったように、ジムライセンス制度というのはあります。当然指導者やプロモーターとしての資格が備わっているかどうかということとは無縁ですね

*8:※追記―後から気づいたので追記します。本郷氏の文中で比嘉の苦境を知っている観客は精一杯の応援をしていたというような話がありましたが、そうでしたね。比嘉の応援団が沖縄から来ていたわけですね、そしてその応援してくれているファンのために彼は試合に出ない・止めるなんていう選択肢は初めからなかったわけですね。ボクシングはチケット手売り制(ファイトマネーが直接支払われるのではなく試合のチケットが渡される。売れなければ当然給与ゼロ)というわけのわからない制度を採用しているので、払い戻し・試合のキャンセルをすることがほぼ実現不可能な状態になっているわけですね…。世界チャンピオン&スーパースタークラスでも手売りをしているかどうかわかりませんが、ここまで来たら一生比嘉の応援をしようという私設応援団があって当たり前。そしてわざわざ沖縄から足を運んできてくれて、デビューしてまともに食えない頃からずっと自分を応援してくれて支えてきてくれた支援者が一人でもいたら、試合をキャンセルするボクサーなんてまずいないですよね…。そういう背景を知ると絶対キャンセルできない環境下において減量失敗があり得る状況に追い込んだ責任者への怒りが倍増しますね

*9:そう言えば危険な状態で試合をした宮崎選手は井岡とW世界戦かなんかで、TBSだったと記憶しています。日テレ・TBS・フジテレビと3つのテレビ局が見事に危険な行為をしでかしたわけですね。このリスク・異常さに気づいて、真っ当な対応をするテレビ局が今後出てくるでしょうか…?個人的にはどこも国やJBCの新ルールがなければやらないと思いますが、もしテレビ局独自で防止策の・ようなものを講じて選手を守る動きを撮ったのなら大いに褒めようと思います。まあ己が褒めたからなんだって話ですが

【比嘉大吾体重超過事件】 言語道断の失態、即刻ボクシング界から去るべき。勿論具志堅会長が

 ―という釣り気味のタイトルにしてみました。まだ山中の記事が書き終わっていないのに、こういう事件が起こってしまったので、先にこちらを書きたいと思います。まあ、そんな長い話でもないので。非常にシンプルな話、比嘉大吾選手本人に罪・責任はない。陣営、会長・トレーナーサイドに責任があり、罰せられるとしたらそちら。特に今回のケースでは強い決定権のあった具志堅会長の責任というだけの話なので(と思ったらまた無駄に長くなっていた…短く終わることはないな、もう(諦め) )。

■今回の事件で比嘉大吾の責任は極めて小さい、というより彼は犠牲者・被害者
 先にこちらを書きたくなったのは、何故か体重超過で比嘉を叩く意見がチラホラ見られたからです。個人的にそのような人間の主張がまるで理解できなかったので、その誤りを改めて指摘しておきたいと思いました。

●比嘉とネリは全くの別物、一見同じ体重超過でも加害性が違う
 比嘉大吾とネリを比べて、ネリを批判して比嘉を擁護するのはおかしいじゃないか!と言う人がいるが、限界まで絞った比嘉に対して、再計量で1kgも絞れてなお1kg以上オーバーしたネリ。そして試合で勝利した後お祭り騒ぎで謝罪も反省の弁もないネリと、それとは対照的にトップの具志堅が全責任を認めて謝罪し、頭を下げてわびた。彼我の差異は明確(比嘉だけにどやぁ…)。
 ―といったような意見を見かけたのですが、これは誤りですね。両者の違いは反省している・いないとか、態度の違いとかそういう領域の話ではないのです。ある特定のルール項目に違反した、表面上の「体重超過」というルール項目違反という点では同じですが、損得の方向性が真逆だから、ネリは大問題になって、比嘉はそこまで問題視される話ではないのです。
 ネリは意図的(ではない可能性も実は多少はあります)に体重超過をして、自分自身が得をしたんです。ズルをしてルールを破って自分が一方的に得をして、対戦相手である山中に損失を与えた。「加害者と被害者の図式」がそこに存在するから大問題なんです。
 対して比嘉はルールを守ろうとして極限まで体重を絞って結果半病人状態になった。試合に挑めない状態に陥った。今回の体重超過では比嘉自身が不利益を被った。ここが決定的に違うわけです。
 比嘉のルール違反・減量失敗は、闘うためのベストなコンディションを作ってこれないというもので、勿論結果も敗北という形で終わりました。相手選手ロサレスにとっては王座を楽にいただける美味しい展開。そこに相手サイドへの不利益・加害性は発生しない(勿論、最強王者をベストコンディションで破ってこそ高い評価が得られるので、そういう点や個人のプライドの問題などはあるでしょうが)*1
 ネリは真逆、減量をせずに戦いに挑む利点は言わずもがな。「減量したボクサーVS減量しなかったボクサー」というどう見てもアンフェアな図式が成立してしまったから大問題になったわけです。不利益を被ったのは山中であって、ネリではない。もし、比嘉が体重超過でコンディションは万全、動きもキレッキレで減量してきたロサレスを序盤でボッコボコにしたということになれば、「この腐れサボテンタコスポンチョ2世が!メキシコに帰れ!」と、ネリ野郎扱いされるのも妥当ですが、今回の試合結果を見てもわかるように当然そうではありませんでしたからね。

 ネリと比嘉のケースは全く異なる。その両者を同一視することは無理がある。

 当たり前すぎるほど当たり前の話ですがどうもわからない人がいるようなので一応改めて書いておきました。まあ、普段ボクシングを見ない、よく知らない人にはパッと見同じに見えてしまうでしょうからね。こう説明すれば伝わるでしょう。
 もっというと、交通事故でドライバー自身のミスで事故が起こりそうになった。このままではぶつかってしまう!というケースでハンドルを切って歩行者を轢かずに建物にぶつかって自分が重傷を負ったドライバーがいた・事故があった。それに対し同じケースで、自身の運転ミスにもかかわらず、このままだと人をハネてしまう!しかしハンドルを切って避けると自分が大怪我をするから、それくらいなら人を轢いてしまえ!と人をハネたドライバーがいた、事故があった。二つの事件は表面上「交通事故」では同じでも、その事件性・悪質性は明確に違いますよね?それと同じだと考えてもらえばわかるかと思います。

●比嘉の体重超過の問題は興行にダメージを与えたこと。ネリはそれに加えて相手選手にもダメージを与えた
 では、被害者がいない今回のケースでは、比嘉に問題はないのか?というと、まあ流石に全く問題ないとまでは言えないでしょうね。タイトルマッチで階級制を前提とするボクシングにおいてキッチリ仕上げてこないのは問題であることは言うまでもありません。しかし、このような体重が落ちない事自体は別にボクシング史上例のない話でも、異例の事態でもないのでそこまで問題視するような話ではないと言えるでしょう。チャンピオンサイドが体重を作ってこれなかったケースは日本人選手では初めてなので極めて異例な事態であることには違いありませんが。また、ネリケースのように、意図的に体重を無視して自分が得をしようというケースは頻発していてその場合は当然問題ですけどね。今回はそのケースとは違うのでまた別の話です。
 問題があるとするのならば、興行面。このようなスーパースター候補。スーパーボクサーになるのでは?という次代の新スーパーボクサーの試合は当然みんな、ワクワクして観に来る。それがこういう失態で万全のコンディションと程遠い試合で低いパフォーマンスをみせてしまえば、観に来た人はがっかりする。「あの比嘉が試合をするっていうから、わざわざお金を払って会場に足を運んだのに…。何このしょっぱい試合…。もうボクシング観に行くのやーめた」となったらどうなるか?言うまでもありませんからね。
 ネリのような事例は悪質なルール違反でボクシングという競技への信用性を低下させることに加えて、更に相手に損失を与えるのでそこにある犯罪性が違うわけです。ネリの場合遥かに悪質で犯罪でいうと犯罪ランクがぐっと上がるものに相当するわけですね。


■今回の体重超過事件の本質、失敗の原因は無理な試合を強行した具志堅会長とフジテレビにある
 今回の事件の問題はむしろ無茶な試合を強要した陣営やテレビ局であり、責任(=処罰対象)はそちらにある。こんな分かりきったことなのに対して、その指摘があまりにも少なすぎる。高田延彦氏が陣営の責任、比嘉本人が一番の犠牲者と指摘していましたがそのとおりでしょう*2*3

●何故か並列して問われる比嘉の責任
 階級変更を先送りにした陣営の罪は重いという記事*4もありましたが、それでも本人の責任という指摘が入れてあります。フライ級が限界であることは誰が見ても明らかであるのに、無茶な減量と階級での戦いであったのに、なぜ比嘉本人の責任という話になってくるのか全く理解できません。 
 こちらの記事*5は渋谷淳氏が書いている文章ですが、氏は
 ①前回の試合から2カ月強という短いスパンで試合を組んだこと。直近4試合の比嘉の試合間隔は3カ月半、5カ月、3カ月半。こうしたサイクルで、2カ月強では心身ともに十分な準備を整えられなかった。
 ②昨年5月の世界初挑戦前は、減量中にパニック障害を起こした。今年2月のV2戦ではサウナで脚のしびれが発生。このときは水分補給して、2日後の計量を何とかクリアした。
 ③理想的な食生活を送っても野木トレーナー曰く、「あれだけの筋肉量ではあと1試合、2試合がいいところ」。比嘉の肉体はフライ級では規格外で体重が20キロ重い、10階級上の村田諒太と胸囲がほとんど変わらない(97センチ)。
 ―と以上の3点をあげながらも何故か、帝拳の浜田氏の「体重は落として当たり前」という持論を背景に落とせなかった最終的な責任は本人にあるという浜田氏の意見が正しいとします。他の選手も苦しんだ、そして最終的には皆体重を落とした。だから本人の責任だと。落とせなかったということは、やはり危機感が足りなかったと言わざるを得ないとの一言で文章を結んでいます。

 もう一人違う方の意見を引用します。水野光博氏の文章です。比嘉大吾、帰ってこい。減量失敗の大罪を抱え、ふたたび立ち上がれ|格闘技|集英社のスポーツ総合雑誌 スポルティーバ 公式サイト web Sportiva
 「ネリを罵倒しておきながら、適正階級で比嘉が再起してくれる日が1日でも早く訪れることを願うのは、ダブルスタンダードだと言われるだろう。それでもかまわない」―との最初の方の言葉でそもそも問題の本質をよく分かっていないと言えるのですが、本題ではないのでここではおいておきます。
 ④*6昨年5月の世界戦前、大きすぎるプレッシャーから深夜にパニック障害のような発作を起こした。突然の発作に、死すら感じた比嘉は救急車を呼ぼうとするが、救急車を呼んだことが知られると、世界戦が中止になってしまうのではないかと思い、野木トレーナーを呼ぶことで、対処した。
 水野氏も渋谷氏同様、短期間に試合をさせた具志堅会長の責任に触れながらも、陣営の責任を何よりも重いものだとしていません。一般的には試合の間隔を狭めたほうが、減量苦は軽減されると言われており、短期間での試合は諸刃の剣という要素がありながらも、このプランを実行したことは単純に陣営のミスだと責められないとします。
 以上の4点を見れば、誰が見てももうフライ級では無理だった。階級をあげるしかない。本人も階級を上げたいと直訴していた。その本人の要望を無視して短期間で試合を強行した具志堅会長は異常という結論以外ないでしょう。②と④を見れば健康上の問題が発生することすら考えられる。それでもフライ級でやらせようとするなんて狂ってるとしか思えません。どうしてこんな狂ったことを会長がやらせたのか、JBCは徹底的に調査&処罰を下すべきでしょう。

●ボクシング界には偉大な記録を抜く試合をする際には我々に見えない不文律が存在する?
 ものすごい違和感があった主張・指摘は、次のものです。「16試合連続KO勝利という日本新記録更新がかかっており、このタイミングで階級を上げるのはリスクが大きかった。さらには、もし階級を上げてノンタイトル戦を挟むことになれば、同じく沖縄出身であり、比嘉が尊敬する浜田剛史の記録をノンタイトル戦で塗り替えることになり、そこにためらいもあったのではないかと憶測ながらに思う。」
 この主張をすること自体がおかしいというのではなく、こういう発想は普通は出てこないもの。しかしこういう指摘がでてくるということは、16試合連続KOという大記録のためにはノンタイトル戦ではいけない。スーパーフライ級でのテストマッチで記録更新をしてはいけないという空気や価値観がボクシング界に存在している。ボクシング界にいる人間ならば当たり前のこととして認識し、その価値観を共有しているという可能性があることです。
 比嘉のパワーを考えれば一階級上げた程度でKO勝利が危うくなる可能性は限りなく小さい。仮にそうだとしたら転級後のテストマッチでそこまで強い相手・危険な相手を選ぶ必要はない。テストマッチなのだから記録更新のためのかませ犬戦になってしまっても何の問題もない。何よりこれからも記録を更新していく可能性が高い選手なのだから、通過点でどういう試合をしようが問題ない。それこそ陣営の自由意志に任されるべきもの。しかし自由に決めることができない空気がある、見えない不文律が存在する可能性があります。
 それこそボクシング界に「偉大な俺の記録をお前ごときがチンケな試合で抜こうというのか?世界戦で記録更新をしないというのか?あぁん!?」という見えないプレッシャーが存在するというのならば、そういう空気は害悪でしかない。もしそういう見えない不文律の存在があるとするのならば、マスコミはきっちり検証しなければならないでしょう。
 それでも、やはり偉大な記録・節目の記録はちゃんとした晴れ舞台で更新したいという主張・気持ちは十分わかります。その時はその時で、2ヶ月という短期間で試合をしなければよかったと言うだけになるので結局愚かな判断・決断だったということに違いはありませんけどね*7


■具志堅会長の責任が何よりも重い。そう明言できないのはボクシング界においてレジェンド批判がタブーだからなのか?それともウォッチャーがバカだからなのか、一体どちらなのか?
 「少なくとも今回の一連の騒動は、誰かひとりが悪かったと名指しできるほど単純な話ではないはずだ」と文章の最後の方でこのようなことを水野氏は書いていますが、大間違いです。物凄いシンプル・単純な話です。全ての責任=問題は具志堅会長にある。このような試合スケジュールを組んだ具志堅氏は異常です。即刻ボクシング界から追放されるべき大失態以外の何物でもありません。何故こういう結論、比嘉本人の責任が一番重いとか誰か特定の一人の責任ではないという主張になってしまうのか、個人的に全く理解出来ない主張です。

具志堅会長の問題点をさんざん上げながら比嘉本人の責任を並列する本郷陽一氏
 この記事*8でも、書き手の本郷陽一氏は比嘉本人の責任という指摘から文を始めています。*9
 しかし文中では、②や④の点について触れて、「この試合でフライ級は最後」と言い聞かせることでギリギリで計量をクリアしてリングに上がっていたという背景を指摘。そして、22歳の肉体は成長を続けており、今回の予備検診では胸囲が97センチもあって、もうフライ級は限界だった。だがしかし具志堅会長は階級を上げることに聞く耳を持たなかったと書いています。
 明らかに限界が来ていたのにもかかわらず転級を認めなかったという事実に触れながら、どうして比嘉本人の責任ということになるのか理解できません。言外に陣営の責任は重いと読み取れますが、そんな表現ではなく、明確に具志堅会長が時代錯誤の考えで考えられない過ちを犯したと書くべきでしょう。

●ボクシング界には健全な言論空間が存在していない。特定の人間を批判できないようになっている
 いい加減先にネタバラシ・結論を書きますと、これはもう具志堅や浜田・ファイティング原田といったようなボクシング界のレジェンド・一定以上の実績・記録保持者に対しては、ボクシング関係者は批判記事をかけないという縛りがあるとしか思えません。批判したら業界で生きていけなくなるという見えない空気が存在しているとしか考えられません。まるで薬害エイズ事件の官僚文書ですもの(薬害エイズ事件では、さんざん非加熱製剤の危険性を指摘しながら最後の末尾で急遽いきなり、しかしながらそれでもなんとかなるというぶん投げた文書で非加熱製剤に危険性はないというオチになっていました。下の者達が危険性・リスクに気づいていて、こんなことを認めてしまったら大変なことになると上司の方針に逆らって散々危険性を指摘した・忠告した文書を作ったのにもかかわらず、最終的に利権にころんだアホがそれでも大丈夫の言葉を盛り込んで認可を出した文書を作ったことがありました。そういう風に分かる人はわかってくれるという苦難の文書、旧共産圏のメッセージのような文書に見えますよね、これらは)。

 それこそ旧共産圏の文書、文脈から見えないメッセージを読み取って当たり前のようなものに見えてしまうのは、この記事ではもう十分すぎるほど具志堅会長が間違っていたという指摘がなされているからなんですよね。
 ○減量神話から脱却の流れがある中、フライ級に留まらせた具志堅会長の責任も重い。さらに前回の2月4日のV2戦から約2か月しかないという短期スパンでの試合。浜田代表は「2月の試合は1ラウンドで終わってダメージもなかったし4、5キロは増えただろうが、逆に2か月しかないので、そんなに増やさなくて、いいので(短期スパンは)いいのかなと思っていた」と見ていたと語り、おそらく具志堅会長も同じ考えだっただろうが、それは裏目に出た。
 ○減量も含めた過酷な準備は、試合が1ラウンドで終わろうが12ラウンドで終わろうが変わらない。心身の“休養”というメリハリがないまま、過酷な次の準備に入ったため、おそらく比嘉のメンタルも肉体も悲鳴を上げていた。
 ○おまけにバラエティ番組への出演などの練習外の仕事も目についた。
 ○WBCは30日前、7日前の事前計量を定めており、それはクリアしていたが、“落とすに落とせない”という危険信号が出ていたと聞く。
 ○最近、ほとんどのボクサーが取り入れているのが、直前に体内の水分を排出する“水抜き”という減量方法。計量直前に1キロから3キロほどを一気に落とす方法だが、それには塩分を先に排出しておくなどの準備が必要で体調の関係で失敗するボクサーが少なくない。比嘉のケースがまさにそれ
 ―こういう指摘を見れば、客観的に無理があったスケジューリングを組んだ具志堅会長の責任で話は済むはずなんですがね…。ところが文末に来るはずの「具志堅会長の責任は極めて重い。選手の健康を考えもしないこんな馬鹿なことをやらかすのならば、テレビやジムの仕事に専念して、試合を組むプロモーターの仕事から今後一切手を引くべきだろう」という本来書かれるべき当然の一文が出てきません…。
 またかつて亀田大毅の統一戦で、負けても王者のままというのが事前の説明と違うという理由で興行責任の放棄として、ジムライセンスが取り上げられた。ジムのお取り潰しという処分がありました。今回の事件も興行を失敗させるどころか選手を殺しかねない大失態。事前説明の放棄なんて目ではない暴挙なわけですから、「当然亀田ケース・前例に倣って具志堅ジムからライセンスを取り消すべきor具志堅会長の経営権やプロモート権限の剥奪をすべきだ」という主張がなされなければなりません。何故そういう当然の主張が出てこないのか理解に苦しみます。亀田はダメで、具志堅は良いと言うのは完全なダブルスタンダードで許されて良いことではないでしょう。

●時代錯誤の主張を臆面もなく唱える老害を追放せよ
 ○具志堅会長は、「私たちの時代は年に4試合は当たり前だった」という考え方を持つ。だが、ハングリーのない今の時代に過酷な減量負担のあるボクサーに対して昔のやり方は通用しない。
 ハングリー精神云々の根性論こそ、時代錯誤の愚論なのですが*10、それはそれとして、昔のやり方を主張して今の若者・選手に押し付けるのはまさに老害のそれ。
 「お前の時代の話など聞いてないし、知ったコッチャない。ボクシングは変わり続けていて、今と昔は全然違うんだ。今は平成が終わる頃なんだ。せめて平成の話をしてくれ。老害は黙っていてくれ」と誰かが手厳しくきっちり批判しないといけない。同じようにファイティング原田氏も体重を落として当たり前とコメントしていましたし、浜田氏も同じ。こういう老害達はボクシング界から排除しないといつまで経っても同じ問題が起こるとボクシング関係者なら正面切って正々堂々と批判すべき。何故それが出来ないのか?それが出来ないならマスコミなんて存在している意味がない。筆を折るべきでしょう。*11

■大失態を引き起こし続けるガバナンス概念なきJBC
で、次の問題としてまたJBCなどの管理体制の話になるわけですが、
 ○この日、ドクターは「試合を行うことに支障はない」と判断していたが、計量前に計った脈拍「84」、血圧「158/99」という数値も異常を訴えたものだった。
 ―というようなことになっているのに、どうして試合を認めたのか?こういう状態で試合を認めてはいけないでしょう。事前の予備検診云々があるのですが、それでストップがかかったということを聞いたことがない。今回の比嘉は試合ができないほどではないにせよ、明らかにリングにあげていいレベルではなかった。やれば確実に負けるというコンディションの選手をリングに上げるなんて考えられない。
 以前、たしか宮崎選手だったと記憶していますが、減量に失敗してフラフラの状態で試合をして見ていてかなり危険な状態で試合をしたケースがあったと思います。ああいうコンディションならば試合をさせてはいけない。一体何のための事前予備検診・チェックなのか理解できません。

●無理があるスケジュールで試合を要請したフジテレビの責任を軽視してはならない
 ○そもそも比嘉に“緊急登板指令”が巡ってきたのも、予定していた世界戦が白紙になったことでマッチメイクに困った放映局側が動いたという側面もある。
 具志堅会長が、断れば済む話だったのかもしれないが、昨年10月には一度、断っているという経緯や沖縄での単独防衛戦を放映してもらった恩などもあって断ることは難しかったのかもしれない。局側が「選手優先」を考えているのなら、そういうマッチメイクの打診もいかがなものか。
 ―とあるように、JBCの管理体制についで、テレビ局のスケジューリングもそう。普通は短期間で試合はまずできない。ボクシングについてちょっとでも知っている人ならば、つい最近試合をしたばかりのボクサーにそもそも「枠が空いてしまったんですけどやりませんか?」と打診すること自体がありえない。なぜこういうことになったのか?テレビ局側の人選がおかしいとしか思えない。これはテレビ局側のこのボクシング担当・責任者は一体誰なのか?一体誰がイケると判断してGoサインを出したのか?きっちり明らかにして検証すべき事案でしょう。つい最近フジテレビをばかにするんじゃねぇみたいなことが話題になりましたが、こういうふざけたことを実行するからこそ馬鹿にされるのではないでしょうか?こんな基本的なことも知らない、ちゃんと出来ないからこそ今の苦境があるんだろうなぁと容易に想像がつきますからね。

■最終的にOKを出した比嘉の責任?比嘉にそもそも拒否権・決定権はない
 で、ここまで読んできて、いくら具志堅会長がおかしい、テレビ局サイド・フジテレビがおかしくとも、結局その条件で比嘉本人がOKして、試合をすることに納得したんだから、どんなにきつい条件だと分かっていても、最終的にそれを受け入れた本人が悪い。
 ―そういう風に考えている人。そういう主張をする人が少なからずいると思うので、その批判に対してカウンターパート・反論を書いて終わりたいと思います。
 あのですね。ボクシング界というのはそもそもおかしい、異常な業界なんですね。選手が自己主張をしてそれがそのまま通ることは殆どないんです。日本の場合、ジム会長がプロモーターを兼務する構造になっていて、ジム会長の意見は殆ど絶対なんですよ。長谷川穂積くらいですかね?世界チャンピオンクラスでジムを移った選手は。そのケースもトレーナーが独立するからそれにスライドして移籍するというものでしたからね*12
 ジム会長に逆らってボクシングをやれる選手なんてまずいない。同じ沖縄出身で偉大なビッグネーム具志堅であれば尚更です。井岡が親父に逆らって、喧嘩した挙げ句にボクシングが出来なくなった。引退に追い込まれるしかなかった事例を見ればわかるように、選手の権利・主張というものが極めて小さい世界なんです(井上のように会長と選手の意向がはじめから基本的に一致していれば、意見が対立・衝突することもないんでしょうけどね。今思うと井上の「強いやつとしかやらない」という誓約書みたいなのは、マッチメイクについて井上&井上パパトレーナーの意向が最優先。もしくは会長と相談の結果でないがしろにされることはないという意味合いを持つものだったんでしょうね)。
 そんな世界で比嘉が「嫌です、やりたくありません」なんて言えると思うほうがどうかしている比嘉に決定権・拒否権はそもそもないんです。そういう状況で比嘉が悪いなんて考えるほうがどうかしている。
 こういう業界は旧体育会系の風土・流れを引きずっていて返事は「はい」と「YES」の二つしかないんです。「はい」なのか「YES」なのか、どっちかハッキリ返事しろ!と言われるような世界で比嘉本人の意志・選択がどの程度反映されていたのか聞く必要すらないでしょう。比嘉本人がやれます!やらせてください!とグイグイで決めて、会長が「それは無理だよぉ~。絶対出来ないから止めといたほうが良いよぉ~」とむしろ強く比嘉を止めていたとでもいうならば、その責任は本人にありますが、当然そうではない。具志堅会長が主体となって進めた話で、結果の大失態。関係者各位に迷惑・大損害を与えたという話ですから(というか次世代のスーパースター候補であった比嘉に再起が危うくなりかねない程のダーティなイメージを与えた。評価を傷つけた)、本人が責任をとって業界から足を洗うのが筋でしょう。
 なんというか本当この業界の人間に限ったことではないかもしれませんが、考えられない大失態をやらかす人というのは、本当に都合のいいことばっかり考えていますよね。最悪の事態が起こったらどうするかというリスクマネジメントの発想がないので、見ていてイライラどころか激怒状態になりますね。「何やってんだ一体!バカじゃないのか!」と怒鳴らずにはいられないですね。短期間の減量で体重が作れなかったら、体重を作れてもコンディションが最悪な状態に陥ったら、減量の過程で病気・怪我を引き起こしたら…。そういう最悪の事態を考えて逆算したら階級をあげるしかない。放映の権利や売り込む格好のチャンスなどでビジネス上、どうしてもやりたいというのならせめてスーパーフライにあげて試合をするでしょう、普通は。900gでヘロヘロ状態で失敗だというのなら2kg余裕があったスーパーフライならそれでもキツイとは言え試合自体はまず問題なく出来たでしょうにね。リスクマネジメントの概念がない人間は欲の皮をつっぱらせて目先の利益・利点しか見ない。元スーパースターほど成功・プラスの要素しか見ないということなのでしょうかねぇ…。
 どうもこういう簡単なことが分からずそういう主張や会長の処分をハッキリ言う人がいなかったのであえて書いておきました。おしまい。一応、次回リンクを貼っておきます アイキャッチ用画像

*1:※追記―ああそうそう、もう一つついでにロサレスが比嘉の体重超過について怒らずに同情を示したことで、スポーツマンシップに溢れた好青年でよかったor比嘉は相手に救われた―みたいなことを言っている人もいましたので、そういう意見・指摘についてコメントを。前述通り、そもそも今回の件はロサレスにプラスになってもマイナスにはならない話なんですからね。負ける可能性の高い強いチャンピオンとのタイトルマッチで、相手が調整失敗して勝利が転がり込んできたのですから、ラッキー以外の何物でもないですからね。それでいちいち怒るわけがないんです。日本は軽量級では大きな市場なのでそういう背景を考えれば尚更ですね。ヒールとして自身の市場価値を高めるという考えでもなければ無理に日本のファンに嫌われる可能性があるコメントをする必要もありませんからね。極めて自然な対応をとっただけでしょう。
 それと本人もコメントしていたのですが、ボクサーなら誰でも減量のきつさ・難しさは知っていると同情を示したのは、ロサレス自身もフライ級の体格ではない。実際10kg近く彼も落としてきたとありましたので、明日は我が身という立場からのコメントでしょう。ボクサーなら当たり前の感覚に基づいたモノ、極めて自然な発言ということですね。まあだからといって別に彼がナイスガイやスポーツマンシップを持ってない人間ではないということではありません、念の為。

*2:高田延彦、比嘉大吾の体重超過は「陣営のミス」「本人が一番の犠牲者」

*3:比嘉大吾の体重超過「陣営のミス」発言の高田延彦に“特大ブーメラン”!「おまえが言うか!」の大合唱に - 日刊サイゾー 特大ブーメランだ!お前が言うな!という指摘もありますが、そもそもこの文にある指摘はちょっと違う。大会を統括するプロデューサーと選手の管理を担う陣営の責任者では役割・仕事が違うので、それを高田の責任にするのは的はずれなんですよね。出てくれる目玉選手もろくにいないRIZINとボクシングではそもそも前提も違いますし。まあ、後半で選手のことを無視して延々しゃべるなど常識がないなどの指摘があるので問題があることはあるんでしょうけど、そういう自身の問題とは別でこの指摘は真っ当なものです。

*4:比嘉の失態、十分に予想できた…階級変更先送りし続けた陣営の責任重い― スポニチ Sponichi Annex 格闘技

*5:比嘉大吾の減量失敗はなぜ起きたか。「体重は落として当たり前」の声も。 - ボクシング - Number Web - ナンバー

*6:上の文章に引き続いて、これでもフライ級で試合をさせるか?普通…?というポイントなので、引き続いて④という番号を振ります

*7:後述しますが、何でもかんでも欲しがる欲まみれ精神がここには見えますね。フライ級でやりたい・世界戦でKO記録更新をしたい・短期間で試合をどんどんさせたい・テレビに露出を増やして知名度を高めたい・強い相手を倒して選手の価値を高めたい…。欲張ってなんでもかんでも手に入れようとして破滅するという典型的な元スーパースター選手監督の采配ですね、本当かの長嶋監督を連想しますからね、具志堅会長は

*8:最悪1年間出場停止処分も。比嘉の計量失格はなぜ起きた?責任は誰にある? | THE PAGE

*9:「第一」という言葉を、「一番の責任は~」という風に読み誤っていたので修正・訂正しました。

*10:個人的に一番大事とは言わずとも、「根性」という言葉・概念はかなり重視している要素です。が、「根性」という言葉が悪い人たちに悪い風に使われてしまって、悪用されすぎてなかなか気軽に使えない状態になっています。「根性」という言葉を使えなくした愚かな指導者世代の罪・責任は思いですね

*11:次で取り上げようと思いますが、本郷陽一氏はボクシング記者としては珍しく危険性に踏み込んで陣営を批判していますね。個人的には正面切って堂々と具志堅追放を論じてほしいものですが、この件に関しては一番マトモな記事を書いていたと言えますね。誤読していたので謹んでお詫びしますm(_ _)m

*12:※追記解説―ちょっと勘違いされかねないので補足して細かい話を。もちろん移籍が絶対できないわけではありません。前川四兄弟の前川龍斗選手が協栄からこの具志堅ジムに移籍したように、最近ではチラホラ移籍する選手を結構見かけます。無論、将来世界チャンピオンになっておかしくないクラスの選手であり、井上や比嘉クラスのスーパースター候補となるとまずない。前述通り長谷川穂積クラスの世界タイトルを取った選手であれば普通はまず不可能でしょう。亀田興毅&兄弟はTBS系列でごく自然に協栄に収まったという感じですしね。
 ポイントはもし比嘉がもうこのジムでやっていけない。移籍したい!となった時、受け入れるジムはまず存在しないだろうという点ですね。まあさすがにそういう事態になって揉めたとしたら帝拳や協栄や三迫などが移籍金出して引き取る(具志堅さんと関係が深い協栄あたりでしょうか?)という流れになるのでしょうけど、その交渉期間中は試合ができない。裁判で調停というケースは珍しいですが、昨今の流れを考えると法廷闘争になってもおかしくなく、下手したら二~三年以上かかってしまい長期間試合ができないということだってありうるわけですね。さらに最悪の事態を考えると、会長がへそ曲げてそれこそ井岡ケースのように事実上の引退に追い込まれることだってあり得るわけです。
 軽量級の選手だからそこまで大して金にならない。巨額のファイトマネーは発生しないからそこまで揉めることはないだろう。流石に移籍したいとなったら、すんなりとは行かなくても実現することはするのでは?と思う人もいるかも知れませんが、今スーパーフライ2というイベントが開催されたことからもわかるように、アメリカでビッグビジネスチャンスがスーパーフライでもある。このイベント自体はロマゴンの7000万円いかないファイトマネーからみてもそこまで旨味があるものとは言えませんが(最近、シーサケットに負けましたけどロマゴンというハードパンチャーがいることでこの当たりの階級への注目度もそこそこあがったわけですね)。一つ上の井上のいるバンタムではWBSSというトーナメントイベントの開催が予定されていて、優勝賞金が10億円・賞金総額50億円と桁違いなんですね。ということはスーパーフライ3・4・5~と数を重ねて行く中で名前を売っていって、将来的にバンタムにあげて、そこでこのイベントに参加することになれば…という絵が見える。比嘉の体格からするとバンタムでは少し厳しい気もしますが、考えられないことではない。いずれにせよそういう可能性がある以上、金の卵である彼の移籍のハードルはものすごく高くなるわけですね。
 試合ができなくなる&実戦感覚の問題に加えてボクサーの旬は短いですから、そういうリスクは誰も取りたくない。FA制度のように移籍を主張して古巣と揉めても間違いなく試合自体はスムーズに出来るということであればまだしも、実際移籍を主張した場合どういう風に話がすすむのか誰にもわからないわけですね。よっぽど強力な後ろ盾でもない限り、そういう主張をするボクサーはまずいない。ここがポイント。―となったらあとはもう言わずもがなですね。理不尽な命令でも嫌でも会長の言うことには逆らわずに従うしかないということになります。気になって野木トレーナーのWikiを見たら、なんと彼も元協栄の選手でジムの合併云々のいざこざで試合を組んでもらえずに干されたという経験の持ち主だったんですね…。3戦3勝のプロボクサーでありながら、ジムを移りたいという分裂騒動で10年以上試合が出来ずにそのまま引退…。このようなトレーナーが比嘉のために「こんな事やっていたら比嘉が潰れちゃいますよ!いい加減にしてください!」と具志堅会長の行いを正すために強く言うことが出来るかどうかは言うまでもありませんね…。

【山中慎介VSルイス・ネリ戦解説④】 ドーピングは体重超過よりはるかに悪質な問題

 続きです*1。山中の技術論をいずれ書くので③を飛ばして今回は④で、再戦で新しい展開があったのならば再戦での技術的な話をまとめて書いてシリーズの一番最後を技術論にしてもいいんですけどね。再戦は技術的に触れる点もないので。
 ①で書いた要点・前書きをもう一度書いてからスタートです。今回は試合後に発覚したネリのドーピング問題と、その処分についてです。

■前書き
 山中慎介とルイス・ネリ戦でのピント外れの声が大きいので書いておきたいと思いました。端的にいうとルイス・ネリを責めるのは筋違いであり、本当の問題はWBCどころかボクシング業界・構造・ルールそのものにこそあるのです。責めるとしたらそちらが筋。間違っているのは一人のボクサーではなく、そういう卑怯なやり方がまかり通ってしまう制度・システムそのもの。こういう卑怯な行為を禁止・厳罰化していないルールそのものなのです。
 そしてこの件においてはJBCも同罪。こういう事態が起こりうることは事前に想定できたのですから、そういう対処をしてこなかった以上、トップが責任を取るべき失態。責任を取らないJBC相撲協会以上に歪んだおかしい組織だということを我々はもっと認識すべきでしょう。
 また、このような試合を組んだ、プロモートした帝拳ジム本田明彦会長にも責任がある点を決して見過ごしてはならないでしょう。これらの責任を無視して、ネリ一個人を卑怯なクソ野郎として叩いて鬱憤(うっぷん)を晴らしても、問題は決して解決しない、また同じ失態が何度でも起こることを我々は理解しなければならないでしょう。ボクシング界の構造的問題から必然的に起きたのが今回のネリ騒動であり、その歪な構造が改善されない限りボクシングを見ない覚悟がファンには求められるでしょう。

■試合までの簡単な経緯
 山中慎介が3月1日にルイス・ネリ(メキシコ)と再戦し、敗れました。前年の8月15日以来の再戦であり、その試合で山中は4回2分29秒TKO負けでプロ初黒星を喫し、WBC世界バンタム級王座の13度目の防衛に失敗しました。この試合は具志堅用高の防衛記録に並ぶということで話題になったので、多くの人が注目した試合でもありました。

●ドーピング陽性の次は二階級のウェイトオーバー
 しかし、試合後ルイス・ネリのドーピング検査で禁止薬物のジルパテロールの陽性反応が出たことで、筋肉増強剤の用途での使用を疑われ、WBCから再戦指令が下り、今回の再戦という流れになりました。そのような経緯・前提であるのにもかかわらず、ネリは体重を十分に落としてこなかった故に世論は沸騰。ネリふざけるな!という声が天下に満ちることになりました。
 バンタム級のウェイトリミットは53.5kgにもかかわらず、一度目の計量で55.8kg。これは二つ上のフェザー級の体重であり、二度目の計量でも54.8kg。一つ上のスーパーバンタム級の体重でした。きっちり体重を作ってきた山中慎介がふざけるなと怒鳴るのも当然。
 というのもボクシングは階級・体重が物を言う競技であり、実力差があったとしても体重が多い方が圧倒的に有利になるからです。相撲で「技の研鑽よりも安易な増量に走るとは嘆かわしい。押し相撲ばかりでまるで技量がない。技術よりもフィジカル・力ばかりになってしまっているから、見ていてつまらない」と批判されるのも同じですね。僅かの例外を除いてライトやミドル級のボクサーはまずヘビー級のボクサーには勝てない。故に体重制限・階級で区分して闘うことになっている。この前提を無視するというのは、ボクシングという競技構造を無視することですから暴挙としか言いようがありません。

 卑怯なネリを偉大なチャンピオン山中がスカッとKOして倒してほしいと願う人々の想いも虚しく、山中は返り討ちに遭い引退ということになりました。

■そもそも山中はドーピング違反者であるネリと再戦をすること自体がおかしい。するならば無効試合での再戦、王者山中VS挑戦者ネリの図式でないとおかしい
 簡単にこの試合の背景・流れをまとめたところで本題に入りたいと思います。最初に書いた通りネリを責めるのは筋違いです。体重オーバーという失態を犯したクソ野郎ということに異論はないですが、というか言語道断のサボテンポンチョタコス野郎!と腹立たしい対象であることに違いはありませんが、そこは問題の本質ではないのです。問題の本質の1つは、そもそもなんでドーピングで引っかかった違反野郎と再戦をするのかということです。
 ドーピングをした=アンフェアである。故意であれなかれ、試合が無効になって当然。明確な違反行為であることに変わりはないわけです。懲罰が下され、場合によってはボクシング界から永久追放されてもおかしくないわけですね。ところが、WBCによれば、明確な違反とは言えない・意図的な摂取であるという証拠がないと再戦指令を出したわけです。これは事実上の無罪放免に等しい処置でしょう※参照*2
 注にあるように、WBCはこれまでのドーピング検査でシロだったこと、過去の違反・前歴がないことを以ってネリに処罰を下しませんでした。メキシコの畜産業界では違法なジルパテロールが使用されることがあり、たまたまその汚染肉を食べてしまったとみなした。WBCは今回の陽性反応をアクシデントであり、意図的なドーピングではないと裁定したわけです。
 検体を日本に提供して改めて検査してもらって陰性だったとされています。―となると、ネリの薬物反応陽性は一時的なものであり、結局汚染肉によるもので、ドーピングをしたわけではないと見做すことが出来るでしょう。

●ドーピング検査で意味があるのは直前と直後の二回のチェック。過去の抜き打ち検査でクリーンという主張は無意味
 しかし、ドーピング検査というのは試合直前と直後の二つがポイントになるもの。試合直前に採尿しても検査後にこっそり薬物を服用することが可能なので、直前と直後の二回が必要になるわけですね(いくらなんでも競技をする直前にチェックさせろ!というのは不可能ですからね(^ ^;) )。その直前と直後の検体をチェックすれば違反したか、それともしていないかは一目瞭然のはず…。チェックが問題ないとするのならば、その検体を提出・診査すればいいだけ。
 そのチェックをパスしたのならば、一時騒がれたネリのドーピング疑惑は一時的な反応にすぎず問題ない。シロでセーフですから、再戦指令を出す必要もないわけです。「何だ、結局疑惑は疑惑でネリはシロだったじゃないか」で終わる話。
 しかし、文を読む限りちょっと記事がわかりづらい。過去の抜き打ちチェックの検体の再検査なのか、直前直後のチェックなのか書き方が下手でいまいち判断しづらいのですが、読んだ限り過去の検体提出だと思われるので、それ前提で話を進めたいと思います。

●アクシデントであろうがドーピング検査で引っかかった以上何らかの処分を受けるべき
 ポイントは直前直後の検体。それを診査してセーフかアウトかジャッジすればいいだけ。汚染肉かどうかなんて関係ない。プロアスリートである以上、ドーピングで引っかかったら罰というか一定の処分を受けるべきもの。逆にセーフならば疑惑があろうがなかろうがそれで良し。再戦をする必要もない。

試合前後のドーピング検査、及び違反した際の適正な処罰が一律に定められていないボクシング界は、プロスポーツとして異常
 そういう過程・一連の流れになるはずですが、世界戦という大事な試合でしっかりとしたドーピングチェックが行われていない…。しかも過去の抜き打ちチェックの検体で引っかかったことがないからOK、処分なしとするというのは筋が通らない。ドーピングの疑いがあるから再戦してケリを付けましょうというのはもっと意味がわからない。初めからそういう不透明な事態が生じないように、ドーピング検査を義務付けておいて、引っかかったらその深刻度・悪質さに応じて処分を重くする。ライセンス剥奪や一定期間の試合禁止、罰金…などの処罰を下すように定めておけばいいだけの話。こういう失態を招くボクシング業界というものの不透明さ不信感は今に始まったことではありませんが、心底がっかりしましたね。

■ドーピング問題を無視して再戦を許容したJBCも同罪・大問題。JBCWBCを認定団体から外すべきだった
 ドーピング違反を問題視して、処分と今後の薬物使用に対する徹底した取り組み・対策を約束すること。これを行わない限りWBCを認定団体から外す。更にJBCはドーピング違反を多発しているメキシコ相手(あちらのボクシング団体はCBLLもしくは、WBC直轄のFECOMBOXですね)にも、ドーピングに対する徹底した取り組みを要請し、それが甘い場合には以後関係断絶、メキシコボクサーとの試合を認めないといった徹底した対策を取るべきだった。

 そもそもIBFWBOを認めないのは世界王者の乱立で権威の低下につながるというロジックからですが、今回の一件で間違いなく権威は低下した。王者の価値ではなく、ボクシングそのものの価値が。ボクシングというスポーツ・競技の価値を守るべきJBCがボクシングの価値・権威を思いっきり低下させてしまいました。この責任は一体誰が取ってくれるのか、今から楽しみでしょうがないくらいです。

WBCの言い訳は詭弁、重要なビッグマッチでのドーピングをしていない証明にならない
 過去に違反を犯したことのないクリーンな選手ならいいのでは?と思う人もいるかも知れませんが、ボクシングはビッグマッチで大金を稼ぐシステムですから、大事なビッグマッチ以前にドーピングをしないのは当然※補足*3。世界王座挑戦やビッグネームとの試合、ここぞという試合だけドーピングをして、勝って名前を売るor大金を手に入れるということは当然考えられます。なので過去の抜き打ちチェックでの検体を再度診査するなんていう手法は何ら有効性を持たないわけですね。※補足*4
 WBCがこの試合は厳しいチェックのもとに行われたクリーンなものだった。だから処分なしの再試合で決着をつけようなんていう主張は全くの詭弁。
 そして、そういう論理を許容したJBCはおかしい。無効試合で山中が王者のままでない限り、WBCを認めてはならない。WBCを認定団体から外すべき。そうしないと筋が通らない。帝拳ジムや山中本人がどういう主張をしようが、どういう意向であろうがそんなことは関係がない。JBCは毅然とした態度で処罰を求めるべきだった。
 ドーピング問題が発覚した以上、今回の再戦はもちろん今後世界戦の直前直後には検査を義務付けるように規則を改善すべきだった。ところがJBCは何もしなかったその無作為は最早犯罪行為であると言っても言い過ぎではないでしょう。

●メキシコボクシング界の不作為・ドーピング対策の甘さ
 一時期話題になったように、過去に既に卓球でドイツ選手が中国で豚肉を食べてこのジルバテロール反応の陽性でドーピングに引っかかってしまったケースがあるわけです(自転車競技でも引っかかって失格となった事例があるようです)。全く前例がない出来事ではないわけです。中国とメキシコでは飼料にこういう薬物が混ぜられてドーピングにひっかかるという汚染肉の問題が昔からある。
 であるならばアスリートはこの二つの国での食事・肉を摂取する際には厳重に対処しなくてはならない。たまたま汚染肉を食べてしまったから陽性反応がでただけです、ごめんちゃい(テヘペロ)は通用しない。ドーピングの隠れ蓑になりかねないわけですから、知らずに食事をした時点ですでにアウトなのです。

■ドーピングは体重超過よりも遥かに深刻で悪質な違反。その問題・処分を軽んじて体重超過を過度に取り上げる歪んだ視点
 今回の事件で体重超過が話題となって騒がれましたが、そんなことよりドーピングのほうが遥かに罪が重い。体重超過はボクシングのルール枠上の問題でしかありませんが、ドーピングはスポーツ・プロ競技全体の問題ですから、これで厳罰にしないというのはありえない(勿論アマでもですが)。スポーツマンシップの問題に、健康上の問題等色々ありますが、ドーピングをやったもん勝ちで、クリーンな選手がバカを見る。正直者が馬鹿を見る世界が公平なわけがありませんから、いちいち説明するまでもないでしょう。
 もちろん、この薬物が目に見える明確な効果がない。件の検査の結果、間違いなく汚染肉の影響でしかないという事も考えられます。しかしどういう事態であれ、禁止薬物とされるものに引っかかった。ドーピング検査に引っかかったという時点で、ボクシング界に与える負のイメージは計り知れないわけです。ああ、やっぱりボクシングってそういう世界なのねとなってしまう。ダーティーな世界というイメージが払拭できなければ、確実に業界は衰退する。

●ドーピング問題を棚上げして再戦する帝拳ジム・山中はそもそも間違っている
 不思議なことに帝拳ジムも山中も、王者の権利・無効試合を主張しませんでした。再戦を求めて、処分を求めなかった。これがそもそもおかしい。どこかの週刊誌の記事で「前日計量よりも明らかに身体が一回り大きかった」「ジルバロテールは牛一頭食べない限り反応が出ないと聞いている。ふざけるな」「向こうのボクサーはドーピングが珍しくないから、事前検査を義務付けた」※参照*5―といった関係者や帝拳ジム会長の談があって、間違いなく意図的なものと考えているという趣旨の文がありました。
 ―であるならば、相手サイドが意図的にやったとみなしている確信犯であることに間違いないわけですから、無効試合で改めて防衛記録をかけて違う相手と試合を組み直すのが普通でしょう。
 ボクシングファンの中にも、「負けた相手と再戦しないのはありえない。負けてそのまま王座・王者のままというわけにはいかない」「途切れた記録をノーコンテストで繋いでも意味がない」という主張をする人がかなりいました。正直何を言っているかわからない。
 ドーピングが発覚した以上、相手はいわば犯罪者であり、犯罪者との試合は無効になるに決まっている。下手したらそれで致命的な怪我をして選手生命が絶たれるリスクだってあるのに、ドーピングということを軽んじているとしか思えない。
 あとから詳細な顛末・薬物の知識を知って、今回のドーピングを黒ではなくグレーの可能性もあると帝拳ジム会長が捉え直したからかも知れませんけど、瑕疵があるのは相手サイドであって、こちらにはない。再戦するならするで条件は以前のそれに戻すべき。山中が王者であるというのは絶対譲れない、ゆずってはいけないライン。仮にそうでなくてもネリが王者を名乗るのは絶対アウト。そういう前提を無視して再戦提案をのんだ以上、何があっても帝拳・山中サイドを擁護する気にはなれないというのが個人的な感想でした。

●ドーピング違反を繰り返す悪質なメキシカンボクサー
 参照5のところの記事の続きになりますが、文中にあるように15年11月に同じく帝拳所属の元WBC世界スーパーフェザー級王者・三浦隆司がフランシスコ・バルガス(メキシコ)戦があり、三浦はその一戦に敗れました。しかしその試合後16年4月にドーピング検査で対戦相手だったフランシスコ・バルガスからクレンブテロールの陽性反応が出たという事件がありました。
 また別に帝拳ジム所属の粟生隆寛選手のケースもありました。2015年5月1日にアメリカでテレンス・クロフォードの王座返上に伴い組まれたレイムンド・ベルトラン(ファン・ディアスの負傷でベルトランになりました)とのWBO世界ライト級王座決定戦でも同様の問題がありました。というか、こちらはかなり悪質で、今回のように前日計量でベルトランは計量パスできず体重超過、かつ薬物使用(スタノゾロールで陽性反応)という前例があったんですね。ネリが陽性体重超過野郎といっても、それぞれ一度ずつだったのに対し、このケースはダブル違反。よつばと!ならハンバーグとカレーのダブルです。とんだハンバーグカレー野郎です。
 粟生は2回1分29秒TKOで敗れて3階級制覇に失敗。体重超過にもかかわらず、ベルトランが8万5千ドル、粟生が5万ドルというファイトマネー配分となり、薬物使用の発覚で無効試合となった経緯がありました*6ネバダ州アスレチック・コミッションにより、9ヵ月間のネバダ州ボクシングライセンスの停止とファイトマネーの30%にあたる2万5500ドル(約316万円)の罰金という事態になりました。これ以上の情報が見当たらなかったので、想像になりますがおそらく帝拳ジムサイドや粟生に対する補填、ベルトランからファイトマネーを没収して充てるといった処分はなされていないと考えていいでしょう。
 体重超過もドーピングもやったもん勝ちの卑怯な世界がボクシングということです。だったらドーピングや体重超過をすることをためらうボクサーが少ないのは当たり前。被害者サイドに対する十分な補填もない。だったら被害者になるより加害者になろうと考えても一体誰がそれを愚かだ、卑怯だと言えようか。いや言えない(反語)。
 抑止効果になるからと、数百万の費用持ちで要請&実施とありますが、完全に無駄でしたね。メキシカンは卑怯なことを平気でしてくる。であれば、そういうボクサーと試合を組んではならない。組むのならば、事前・事後のドーピングを義務付け、違反したならば目玉が飛び出るような罰金を払う。そういう契約をのめないのならばやらないと言うスタンスで交渉すべきだった。メキシコ人は卑怯者・反則クソ野郎という前提で望まなくてはいけなかったのに、その必要不可欠なステップを怠った。体重超過も同じですね。事前に相手が違反をできないような契約項目を盛り込んでおくべきだった。過去の経緯からしてそうすべきだったのに何故しなかったのか?山中も同じ条件であれば相手も文句をつけられなかったでしょうに…。抑止効果ならば契約に盛り込むのが筋でしょうにちょっと意味がわからないですね…。何回も書いてきましたが、本田会長の罪・責任は極めて重いでしょう。 

IBF世界スーパーヘビー級王者尾川堅一の陽性反応
 こういうメキシカンドーピング対策についての手腕がまるでない。一体何のために防止策としての検査だったのかわからないことに加えて更に問題が起こりました。帝拳ジム所属の尾川堅一IBFのチャンピオンになったのですが、その選手がドーピングに引っかかるという失態…。これからWBCやメキシコをドーピング問題で吊るし上げなくてはいけない大事な時に、こんなことをやってしまえばどうなるか?言うまでもないですよね、相手サイドから「な、こういうのはよくあるんや、お互い様だから水に流そうや」と言われてしまう。山中を泣き寝入りさせてしまう大失態・大ミスです。本当に帝拳ジムは何をやっているんでしょうね…。

■明確な違反行為をした相手との再戦、処罰なき再戦を望むのはワガママ
 おそらく、どんな理由であろうと負けには違いない。負けた側としてどうしてもリベンジをしたい。リベンジできるならばどんな形でも良い。
 ―とまあ、そういったスタンスなのでしょうけど、それはハッキリ言ってわがまま。ネリサイドの行為は卑怯な犯罪行為、それを一時的であれ何であれ、認めてしまえば卑怯な犯罪行為が黙認されてしまう・ルールの許容範囲内の出来事だと公認してしまうことになる。
 一個人として、一ジムとして、それで良いことなのかも知れませんが、日本や世界のボクシング界全体を考えるとそれは絶対ダメ、業界にとってマイナスにしかならない。何が何でも再戦・リベンジしたいからと言って、そういう卑怯な行為を認めてしまうのはワガママでしかないでしょう。
 被害者サイドが良いと言ってるからといって許して良い領域の問題ではない。被害者のそういう主張・願望があるからと言って許容してしまったWBC及びJBCは猛省すべきでしょう。
 もしネリが汚染肉で薬物を使用していなかったとしても、違法な薬物によってドーピングで勝利・ビッグマネーを手に入れようという事例はあるわけです。ドーピングで競技・業界を腐らせる可能性は僅かなものであっても、どんな小さい芽でも摘まないといけない。ネリは検査に引っかかった以上、無罪に限りなく近くても無効でもう一度挑戦者として王座に挑むべきなのです。
 ところがその疑いを持ちながらも、ネリは王者として試合をすることが出来、それによって王者側としてファイトマネーをもらえる契約となっていました。
 ボクシングの試合は通常入札でどちらの地で開催するか決まり、基本的にチャンピオンサイドに多くの報酬・ファイトマネーが支払われます。つまりドーピング疑惑がかかっているのにもかかわらず、ネリは王者として山中よりも多額のファイトマネーを受け取れてしまうわけです。何故ドーピングの疑いがあった選手が多額の報酬を得られるのか?バカじゃないのか?ドーピング・違反をしたほうが得になるじゃないか。ズル得じゃないか…。正直こんなことがまかり通ってしまう現状を知って、呆れてものが言えません。
 今回の再戦で、WBCからファイトマネーのサスペンドがなければそのままファイトマネーを支払うつもりだったようです。まさに盗人に追い銭。帝拳ジム本田会長は試合・カードを組む事前調停能力・交渉能力に問題のある人物と言えるでしょう。

今回はドーピングの件でここまでです。次回は体重超過及びその対策について必要なことを論じたいと思います。

続き→【山中慎介VSルイス・ネリ戦解説⑤】 予見できた不正を防げなかったJBCと帝拳ジム。厳格な不正防止策を講じよ


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*1:前回までの記事はこちらです。

*2:

*3: 正確に言うと今回のケースは大金のかかったビッグマッチというよりも、山中というビッグネームに勝てばネリの選手としての価値が上がる。商品価値を飛躍的に高めるという意味合いです。この一戦を機会にネリの商品価値は高まり、ファイトマネーがどんどん上がっていく大事なワンステップだったということですね。
 もう一つついでですが、山中はダルチニアンやモレノと言ったビッグネームに勝ったので、世界的にも名を知られるボクサーとなりました。しかし年齢的な問題や米などでビッグマッチを行っていないので、そこまでビッグネームというわけではないように思えます。レオ・サンタクルスとの試合も実現しませんでしたしね

*4:https://www.sponichi.co.jp/battle/news/2017/11/01/kiji/20171101s00021000164000c.html?feature=related というもっと詳しく説明してある記事がありました。こちらによると、帝拳ジムがVADA(ボランティア・アンチドーピング機構)に検査を要請。で、試合前の7月27日にメキシコ・ティファナで抜き打ち検査が行われ、8月22日に筋肉増強作用があるジルパテロールの陽性反応が判明。WBCはネリが同団体の「クリーン・ボクシング・プログラム」に賛同し、過去にドーピング違反歴がないこと、陽性反応を示した検査が試合以外であったこと、その後来日して行われた3度の検査が全て陰性だったことを踏まえ、ジルパテロールの検出は牛肉摂取によるものと結論づけたとしている。
 ―だいたいこういうことになるようです。このWBCの主張を見るとセーフに思えますが、同じですね。試合直前・直後のチェックの不在という問題。そしてジルパテロールという薬物が筋肉増強剤・ドーピング目的のために使用された場合、どのくらい陽性反応が続くものなのかという説明がない。仮に1ヶ月で反応が消えてしまう性質を持つものならばその後来日してのチェック自体が意味のないものですからね。ドーピング診査の過程がそもそもおかしすぎですね。

*5:牛一頭云々https://www.nikkansports.com/battle/news/1878464.html

*6:王座決定戦とは言え、ライト級でずいぶん安いファイトマネーですね。ペイ・パー・ビューの対象になる人気ボクサーでないとこんなもんなんでしょうかね?

【山中慎介VSルイス・ネリ戦解説②】 17/8/15初対決の内容分析<後編> 敗北はセコンドの「暴走」によるものにあらず、陣営のファイトプランの誤りにあり

 続き*1です。この前後編では、①大和心トレーナーの判断は正しかった&②おかしいのは本田会長の姿勢―という二つのテーマからなるのですが、①と②で上手く分けて、前後編でそれぞれ一つづつ扱って簡潔にしたかったんですが、ダメでした。ちょいちょい書き続けて溜めてきたことがうまく繋がらなくなるので。う~ん文章力&編集力がない。今回の話風に言うと「引き出し」がなさすぎですね。長々書いているので忘れそうになってしまったら「ああ、そうそう①と②のことが言いたいんだっけ」と思い返していただければと思います。
 それと大和心氏が正しくて、本田会長(&山中慎介)が間違っているかという話になると、どうしても③「衰え」の見えだした山中への認識の誤り、その結果ネリ対策も間違っていた―という話になってきますので、その話が折りに触れて出てきますね。まあ、③もあるので、上手く前後編にまとめられないのも仕方ないですね(開き直り)。

本田明彦会長のトレーナー批判こそ「暴走」レベルのトンデモ主張
 「大事な記録がかかっているから、終わるなら自分の判断で。見に来てくれたお客さんに申し訳がない」―たしかそんなコメントが有ったと記憶していますが、何を言ってるんだこいつは…と当時憤った覚えがあります。
 前述、参照リンク内にコメントが載ってましたね*2。いわく、「ダウンしてないからタオルを投げるタイミングじゃない。冷静に判断できなくなるから、情が入る親にセコンドをやらせないんだ。山中は相手のフックを流していた。それをわかっていない。一回我慢してから巻き返し倒して勝つのが山中のボクシング。展開は予想通り。7回や8回ならまだわかるが、今回山中は練習の段階から肉体が丈夫で強くなっていた。チケットが手に入らないほどの記録のかかった大きな興行。お客さんやファンに申し訳ないし、これからという展開で、ああいうことが起きて、もし私がファンならカネ返せですよ。」

●トレーナーを公式に非難してはいけない
 もう何を言っているのか分からないレベル…。選手の調子の良し悪しや、打たれて危険だ!まずい!という状況判断はジムのトップより普段からつきっきりで面倒を見ているトレーナーの方がよく知っているはず。そのトレーナーの判断を批判するなんて何を考えているのか…。
 仮にもしそうするのならば、個人的に裏でやるべきこと。公の場で言うなんて…。公にメッセージするなんてありえない。もし責めるならそういう状況判断を誤るトレーナーを採用した自分でしょうに。こういう展開になったらどうするこうすると明確に指示を出していなかった、細かい部分で詰めて確認しておかなかった本人の責任でしょう。自分の責任下にあった事項をミスとして部下に押し付けるなんて最低です。

●本田会長の歪んだ認識と戦闘プラン
 氏のコメントでは、我慢してやり返すのが山中のスタイルと言いますが、どう考えてもそんなスタイルではないでしょう。神の左を軸に優位に試合を進める。その中で多少の被弾はあっても、それはあくまで山中優位での話。山中劣位の前提ではない。劣勢から必殺技・切り札で逆転するというのは本来の山中のボクシングではない。
 また練習によって頑丈になっていたという主張には違和感を通り越して、一体どういう論理なの…?と呆れてしまいます。不思議でしょうがありません。この意味不明な主張をする会長の異常な論理を何故ボクシング関係のジャーナリストは突っ込んでくれないのか…?
 山中は当時34歳。階級を上げて減量苦から解放されて一回り肉の厚みを増した分パワー・攻撃力も耐久力もついたというのならばまあわからなくもないですが、当然そんなこともない。直近の試合を見てもわかるようにピークを過ぎて劣化が始まっている山中が、対策のために新しい工夫とトレーニングでも眼を見張るような成果を挙げられるとは考えづらい。
 そして事実4Rに一方的に押された展開を見ても、山中のフィジカル面・耐久力が強化されたなんていう事実は存在しないと見做すべきでしょう。
 そういう衰えが見えている状況にある山中に対する認識がそもそもおかしいし、試合プランも相手への対策もおかしい。頑丈になって打たれても終盤に逆転狙いなんて衰えが始まっていて、次の試合ではどのくらいパフォーマンスが落ちるかわからない選手に採用する作戦ではないでしょう…。
 昔のボクシング・ボクサーのように何度も打たれても立ち上がって殴り合うというスタイルもあることはあります(直近でわかりやすいのは打たれてもガンガン前に出る八重樫でしょうか?)。若くてかつ頑丈なタイプで回復力が高い・自動回復スキル持ちとかならわかりますが、言うまでもなく山中はそのケースに当てはまらないので何をか言わんや。だいたいそういうボクサーって殆どガンガン前に出て挑んでいくインファイター系のハードパンチャータイプですからね。長身・細身系の山中はどう見てもそういうタイプではありませんから。

●本田会長のマッチメイク能力への疑問
 そもそもなんですけど、防衛記録を達成したら引退もという状況の選手なんですから、指名挑戦者ではなくもっと相性のいい相手を連れてくればよかったんですよ。記録に恥じない強い選手をというのならば、14回目の防衛記録に指名挑戦者・ネリを選べばいい。確実に記録を達成するためにはネリのようなタイプではなく、山中が衰えたとしてもキャリアの差でなんとか判定で勝つことを可能にする前後の出入りを主体とする選手を選ぶべきなんですよね。
 ネリが苦手なタイプではないにせよ、山中が料理するのに手こずる可能性があるタイプ。そして衰えて山中の絶対的な武器・神の左の効果が落ちた場合、遠距離を主体として闘う山中の距離を潰してくるので危険になるタイプなんですから、想像以上に衰えているかもしれないリスクを考えると選ぶべきではない。
 山中の武器はまっすぐ・タテ系統のパンチ(個人的にストレート・ジャブなどをタテ系統のパンチと呼んでいます、日拳のような直突きのことではありません)。左右に動くタイプではなく、タテ系統のパンチを主体として、前後の動きに引き出しがある・主体とするボクサーならば衰えた山中でもまず捌くことは十分可能だったと思います。
 またサウスポー相手に苦労するということはないでしょうが、明らかにオーソドックスのほうがやりやすいはず。相手がサウスポー相手に特別な武器があって自信があるボクサーでもない限り、オーソドックスの選手を選ぶべきだったのではないか?とも思いました*3
 オーソドックスで前後の動き主体のボクサーをどうして選ばなかったのか?いくらなんでも4団体の世界ランカー全てを見渡して一人もいない、条件が合わないということはないはず…。
 また後述しますが、メキシカンは今非常にダーティーでルール違反ばっかりしている。事情を知らなかった我々には、ドーピングは青天の霹靂でしたが、ボクシング関係者・特に帝拳ジムにとっては、また「メキシカンかよ…いい加減にしろや腐れ犯罪者共が!」と言いたくなるほどドーピング違反があることを知っている。というかモロにその被害を受けている、実害を被っているわけです。そういう状況にある中でなぜ大事な試合の挑戦者に犯罪者予備群メキシカンを選んだのか? 
 ハッキリ言って本田会長のマッチメイクに疑問がある。そういう山中にとってやりやすい相手を選ばない・一番強い挑戦者を受けるということはまだ理解できるにせよ、普通はダーティーなメキシカンは選ばない。クリーンでまず試合後に後腐れのない評判のあるジム・プロモーター下の選手や国の選手を選ぶはず。本田会長はどちらかと言うと被害者ではなく加害者側であることを我々は決して忘れてはならないでしょう。*4

高崎計三氏のストップに対する正論
 こういう見当違いのコメントを公に平気でする人ですから、まず徹底的に戦術プラン・方針を詰めておくことはなかったと思いますが、実はそれが徹底されていたとしましょう。その上で、セコンドの大和氏の判断を間違いだとするのも問題です。色々書いたあとで見つけてしまって、また困ったのですが(^ ^;)、本田会長がいかに間違っているのか理解するのに最適なものを見つけました。参照*5
 こちらの記事で高崎計三氏が的確なコメントをしていたので、そちらを紹介したいと思います。
○山中を知り尽くしている大和トレーナーが止めたということは、「後半勝負どころではない」事態だという判断。
○トレーナーは誰よりも選手を知り尽くしている。コンディション・山中の年齢的な変化やダメージの蓄積など、持っている判断材料も誰よりも多い。その判断を根拠なく間違いとするのは誤り
○状況は「止めなければおかしい」段階、「止めてもおかしくない」段階、そして「止める必要のない」段階の3つに分けられる。誰もが「止めなければおかしい」と思う段階ではないが、「止めてもおかしくない」段階に入っていた。
○本田会長は自分に判断を求められなかったことも問題視したが、その間選手が致命的なダメージを受けることがある以上、そのリスクがあった結果の判断。
○ボクシングは、死につながる可能性を持つ。選手はリングに上がる以上、セコンドには全てを任せなければならないし、逆に全てを任せられない人間にはセコンドを務めさせてはならない。
○山中は「効いていなかった」とコメントしたが、続行不可能なダウンを喫した選手が、ストップされた後に「まだやれた」と言う例は珍しくない。
○スポーツ・興行である以上、守られるべきは「とことんまで戦いたい」という選手の気持ちや観客のまだ観たいという気持ちなどではなく、選手の命。
○セコンドによるタオル投入や棄権のタイミングは「遅すぎる」ということはあっても、「早すぎる」ということはない。「早い」と思えるストップには、必ずそこに根拠がある。
○トレーナー自身の見解がどこにも出ていないにもかかわらず、「暴走」と表現することへの疑問。欠席裁判のようにして判断ミスであるかのように報じることはおかしい。

 ―リンク先読んでねというだけで十分なのですが、的確でこれこそ正論だろうと言えるものなので、個人的にポイントをまとめました。真にそのとおりだと思います。本田会長への批判、トレーナー批判への反論として実に的確であると思いました。
 誰よりも選手を知り尽くしているトレーナーの判断を一体誰が間違っていると言えるのか?山中のコンディションが良くない、ディフェンススキルが拙いことを考えると妥当な判断であったとすべきでしょう。
 KOタイムが2分29秒。これがもし、あと10秒でRが終わるという時間だったら我慢したんでしょうけどね。乱入してのラグを考えるとおそらく乱入したのは残り50秒前後というところではないでしょうか?大体、最初の一発から大体1分10秒くらいずっと押される展開でしたからね。最低でも残り40秒間も打たれ続けることを考えれば、そのダメージはこの試合中ずっと残る。容易に回復しないでしょうから、残り時間から逆算して止める判断に至ったとしても何らおかしくないでしょう。

●大事なのは同じセコンドの意見、元選手の意見ではない。セコンドの役割を軽視するマスコミの無知
 また、ポイントの一つとして、このような判断をした大和氏にどうしてああいう判断になったのか検証する必要があるはずです。その検証プロセスがすっぽり抜け落ちて「暴走」というような指摘が成されてしまうのは実に問題であると思います。
 竹原が「俺なら納得行かない」とセコンドの判断に異を唱えていましたが、前に村田の判定騒動時にWBAの会長も判定のおかしさに同調した時、「このオッサンの言うことは関係ない」と会長の意見をとるに足らないこととしました。同じように、今回の事件では元選手の意見というのは関係ないのです。高崎氏が言うように、大事なのは選手や観客のやりたい・観たいという意見ではなく、セコンドのトレーナーの判断なのですから、話を聞くのなら元王者ではなく、同業者であるセコンドに意見を聞くべきなのです。なぜどこもかしこも元選手・格闘家などに意見を聞くのか、理解できない。
 メディアもセコンドという役割を理解していない、軽視しているということでしょうか?野球報道や相撲報道の質の低さを考えるとまあそういうことなんでしょうね。ボクシングだけスポーツ報道のクオリティが高いなどということはありえないでしょう。これまでの既存報道を見ても何をか言わんや。

●過去にリング禍があったのに…
 また、公の場で止めるのが早いとクレームを付けるようなことをしてしまえば、以後大和氏はもちろん、他のトレーナーも判断をためらいタオル投入が遅れる。不幸な事故が起こるリスクを高めてしまいかねないことに何故思いが至らないのか疑問でしょうがありません。
 ―ということを、書いていたあとでわかったのですが、09年に帝拳ジム所属の辻昌建という選手がリング禍で亡くなっているんですね。となれば、ナーバスになるのは当然すぎるほど当然のことでしょう…。山中が件のケースのごとくクモ膜下出血(辻選手の死因は急性硬膜下出血のようです)にでもなったら…。というかリング禍を出しておいてナーバスにならなければ、ジムの運営にも関わってくるのに、下手すれば潰れることになるのに、公にこんな事を言うセンスはちょっとトップとして信じられませんね。ジムの運営者としてのセンスが欠けていると言わざるをえないでしょう。

■山中にはディフェンススキルの引き出しがない―故にダルチニアンとも打ち合わなかった
 ディフェンススキルで思い出したので、また余計な話を書きますが、個人的に彼を好きになれなかったのは、ダルチニアン戦で終盤倒しにいける展開なのにアウトボクシングで倒しにいかなかったから。体格差があって相手を完全にコントロールできた。ビッグマッチでKOするかポイントアウトで逃げ切りかでは持つ意味合いが変わってくる。あれだけ優位に進めてなんで最後倒しにいかないのか?積極性に乏しすぎるから好きになれなかったんですね。
 で、今頃その謎が解けたわけですが、ディフェンススキルがないからでしょうね。山中はパンチが効いて足が使えず、ロープ際でまともな防御ができなかった。つまり、もし一発でもぐらつくパンチが入ってしまえば、一気に逆転KO負けがありうるという脆さを持つ選手だったわけですね。ちょっとでも不利になると極めて脆い。そういう特性が山中には実はあったから、ダルチニアンと最後まで打ち合わなかったということだったわけですね。彼もサウスポーなので、ちょっとでもミスしたら今回のネリのようになる可能性があったということでしょう。
 彼の優位というのは神の左を活かした攻撃力でその攻撃力を前提とした防御力ですから、攻撃力・圧力が衰えれば防御力はそれ以上にガクッと落ちてしまう。その結果が4Rでの一方的な展開だったというわけです。*6

●「山中戦術」の崩壊とそれを補うプランの欠如
 ピンチを凌いで後半勝負だとか言ってましたけど、山中というボクサーは一つの突出した武器、神の左とそれを軸としたワンツーという引き出ししかない※参照*7。引き出しの少ないボクサーが早いラウンドで一方的に追い込まれるような形となって、そこから巻き返せるなんて普通は思わないですよ。
 というかもう年齢的に衰えがあって厳しいわけで、それが露呈して殆ど初めてと言っていい相手ペースの試合・相手に押された展開ですからね。最初にモレノに勝った次の試合のソリス戦でも、ソリスにダウンをもらって序盤危ない展開でしたが、その試合も結局は3・4R以外はポイントを取られませんでしたから。
 山中というボクサーはその圧倒的な武器を前に圧力をかけて試合を支配する・自分ペースにして試合を進めるタイプですから、その前提がなくなった以上、もうかなり無理があるんですよね。異常に突出した武器・独特な技術を前提に技術体系を構築したスタイルですから。神の左がもう神と言えないようになってしまった。全く機能していないということはないでしょうけど、「神」から「超人」くらいには落ちていたでしょう*8
 山中にとって「神」の左の威力・精度が失われるというのは、まさに「神通力」が失われるに等しい致命的な要素だったわけですね。
 突出した左を前提に築き上げられたスタイルを「山中戦術」と呼ぶならば、その戦術の前提が崩壊しているわけですから、それを補完する新しい武器や補った上での「新山中戦術」が必要なのに、それがないわけですからそもそも無理があるに決まっている(当然、世界のトップに長年君臨し続けることを可能にした超高等技術を補完するような技術を身につけることなどそう簡単に出来るものでないことはいうまでもありません)。
 左ストレート・大砲は威力があるが、当てづらい。ジャブは決まるが、大砲であるストレートはなかなか決まらないというのがボクシング。その大砲を当てるために長いラウンドをかけてお互いの戦力を削りあいをして、終盤大砲を打ち合うという展開が基本。戦力差がある時は、実力者が早いうちに相手の戦力を削りきって攻撃力もない状態・無力化に成功して、中盤くらいで大砲・得意パンチを思う存分振ってKOなんていうのもそうですね。結局ボクシングというのは最も威力のあるパンチをいかに決めるか、決めるまでに相手の戦力をいかに削るかという競技。そのボクシングのセオリーを根底から覆すのが山中の左。威力があってなお序盤・中盤から当てることが出来るというラノベもびっくりのチート性能持ちボクサー。そんな異常・独特の武器を持つ山中の前にはその大砲を重視してマークしなくてはならない。相手が警戒してくれるから、その分防御を気にせず攻撃できる。そういう優位性を持っているからこそ、山中は世界の最前線で長年トップを維持し、KOのヤマを築き上げ続けることが出来たのですね。

●誤った認識・前提からは誤った結果がしか導かれえない
 仮にあそこをしのいでも結果は同じ。欲目で見過ぎです。正確な状況判断、現状認識が出来ない人物なんでしょうね。山中というボクサーが素晴らしいばかり、肩入れしすぎた。贔屓目で見るようになってしまった。それで物事が正確に見えなくなったということでしょう。
 まあ、2・3回ダウンすることも覚悟していたと言った根本的な認識の甘さ以前の戦術プランを見ると、やはり根本的におかしい人なのかもしれません。数回ダウンして、ポイントで圧倒的にリードされてボロボロになりながら、11・12Rで大逆転KOということになればカッコイイことこの上ありませんが、そんなこと現実的にありえないでしょう…。
 そういうバカなプランを前提にしていたからこそ、誤った認識の上に陣営が無謀な戦術を採用して試合に臨んでいたからこそ、セコンドの大和氏は「暴走」したんじゃないでしょうか?山中の衰えを正確に認識していた大和氏はだからこそ、ちょっとでも危なくなれば会長の意見も無視して早めに試合を止めるつもりだったのではないでしょうか?そうだったとしても少しも違和感がないことのように思えます。耐久力をあげるという対策は打ち合いも辞さずということですから、その分被弾率が高い・被ダメも多い。むしろ中途半端に頑丈になった分危険な一歩手前まで耐えられてしまう。そしてフラフラでも応戦できる状態で危険な一撃をもらうという最悪な未来を予想できたということかも知れませんね、大和氏の判断は。

●ダルチニアンには勇敢に、ネリには臆病に
 ダルチニアンに対しては、もしもらっても凌げるディフェンス技術を磨いておくべきだった。そうであれば打ち合って倒しに行くことが出来た。終盤もしもらったとしても凌げる、リスクヘッジをしておけばより攻撃的に行けたでしょう。
 逆にネリに対しては、初めから前に出てくる相手に対してアウトボクシングに徹するべきだった。一から十までそうすべきとは言わないが、衰えが見え始めた以上これまでの積極的に倒しに行くスタイルを転換しなければならなかった。倒すスタイルというのは当然それに伴いスキが生まれやすくなる。今回の被弾も倒そうというスタイルから生まれた攻撃の意識偏重で生まれたスキによるもの。全盛期ならばそのスキを突かれることもなかったが衰えが始まった山中ではそうもいかない。

●衰えとそれに伴うディフェンスに対する強化の認識の誤り 
 要するに「衰え」とそれに伴う「ディフェンスの比重強化」(これまで以上にディフェンスに重点を置いて練習し、試合に挑むこと)、この二つに対する認識が甘かった。そういう前提の元にして「では、どうするか?」と戦術をこれまでの「山中戦術」を一旦放棄して、一から練り直す必要があったのに、それに対する取り組みが根本的に足りないどころか、間違っていた。その認識から戦術を柔軟に変更する・再構築する必要があったのにそれを怠ったわけですね。セコンドの「暴走」の前提には、選手本人と会長が従来のままでいけるという誤りがあった。その間違った前提からもたらされたのがトレーナーの「暴走」ということは、誤×誤は正とでもいうような結論になると言っていいでしょう。*9

問われる山中の人間性
 最後に山中の態度についての疑問を残しておきたいと思います。試合後、多くの人から応援された姿を見て山中の人間性が素晴らしいことに疑問は抱く人はいないでしょう。当然個人的にもありません。しかし、「暴走」と報道されて自分のトレーナーが叩かれている。自分のパートナーが世間から非難を浴びている。今はSNSなどがあって攻撃にさらされやすい。ボクシングに詳しくない人間が、また人を叩いて平気な感覚を持つ人間がネット上で、大和心氏に暴言を吐く・攻撃することは想像に難くない。
 となれば、公の目立つ場で「大和氏は正しい。自分が悪い」と発言して取り上げてもらわないといけない。大和氏へのバッシングを止めることをしないといけない。山中についての試合をググってもそういう言葉・強いメッセージが彼の口から出てこないのは非常に疑問に思いました。イクメンみたいな式で育児ではタオルは投げないとか、NHKのプロフェッショナルで練習中にタオルを投げないでよと大和氏をいじっていたりだとか、自分のミスや非というものに対する認識が見られない情報しか出てきませんでした。
 「責められない」みたいなことをコメントしていましたが、それではダメ、弱い。それではあの場面で大和氏が間違っても仕方ないみたいな受け取られ方をされてしまう。たとえ、そう思っていなかったとしても「悪いのは自分。間違っていたのは自分」と。自分の責任を明示して庇ってやらなければいけない。一緒にここまで歩んできた盟友・大事なパートナー・相棒であるセコンドに対するこの姿勢は個人的に非常に残念でした。
 山中は自分の責任であり大和氏に一切の責任はないと明言してほしかった。それこそ、「他の誰かだったら、例えば後輩の村田がセコンドにいてタオルを投げたのなら、お前ふざけんなよ。ぶっ殺すぞって話ですけど、他ならぬ大和さんの判断。僕のことを誰よりも知り尽くして一緒にここまで来た大和さんがダメだと思ったということは、業界のすべてのセコンドがいけると判断しても、ダメだということです。世界中の人間、みんながイケると思っても、大和さんがダメだと思ったのならそれはダメなんです。そういう状態に追い込まれた自分が悪い、自分が弱かった・下手だったと言うだけです。大和さんのタオルを責めるなら弱くて応援に応えられなかった情けない自分を責めてください。
 何度でもいいますけど大和さんに一切の非はないんです。彼を叩くような行為は止めてください。まぁ、叩くならあそこでタオルを投げた村田を責めてください(笑)。ゴロフキンに勝ってベルト取ってくるまで許さないから、早くゴロフキンに勝って、俺の前にベルトと百万円とハワイ旅行をもってこい(笑)」
 ―とか、まあそういうような大和氏に責任はないということを明言してほしかった。陣営スタッフに対する配慮がないのは名王者である山中だからこそ残念だと感じましたね。
アイキャッチ用画像

https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/41Tjy08bDCL._SL160_.jpg

*1:

*2:一応、もう一度リンク先を貼っておきます―V13具志堅超えに失敗した山中はタオル投入の暴走がなければ勝てていたのか | THE PAGE

*3:KOシーン集を見たところ、山中のオーソドックスを相手にした左ストレートの打ち方は目を見張る物がありました。個人的にサウスポーの利点を「斜角」の優位性という用語で説明しているのですが、「斜角」の使い方が非常に上手い。お手本・教科書と言っていいくらい見事でした。トレーナーだったらこのビデオをまず見せて教えるくらい理想的でした。オーソドックス相手には相手の左足の外側に右足を踏み込むのがポイントなのですが、それに伴う右側へ身体を傾けながら打つ左ストレートが基本。
 それが見事であった以外にも遠間から飛び込んで打つ距離の詰め方が素晴らしい。浮身をかけて身体を上下動せずに足で蹴らずに、一気に滑るようにして相手に迫るというのが武術・武道で行う理想的な移動方法・歩法の一つ。身体が上下動せずに平行移動で近づかれると相手は動きを捉えられないんですね。その移動方法をかなり高いレベルで使いこなせるから遠い距離からの左ストレートを相手は無警戒にもらってしまう。本来届かない距離なので左が来るとは思わないと警戒を解いている状態からミサイルが放り込まれるようなもので、警戒システムをくぐり抜けてしまうんですよね。真正面にいて見ているはずなのに、パンチを貰ってしまうという不思議な感覚に陥ってるのではないかと推測します。他にも素晴らしい左ストレートの使い方もあって、お見事と感心する左がいくつもありました。ちょっとこの左の技術は世界的にもそうそうやれるボクサーはいないんじゃないのかなと惚れ惚れしましたね。
 ただこの歩法での左の使い方はオーソドックスで有効な遠間からのストレートなんですよね。正対した状態、サウスポー相手にはこのスライド歩法は左足を踏み込んでスイッチする・オーソドックスの構えになるようにしないと使えない。まあサウスポー相手でも上体を突っ込ませることで遠間から左を放り込んでうろたえさせるというシーンが有ったので有効なのは言うまでもないですが、サウスポー相手には引き出しが狭まることは言うまでもないでしょう。

*4:参照―セコンドによるタオル投入を批判する本田明彦会長は、選手の健康や人命を軽視しているのか? - HARD BLOW ! こちらの記事によるとやはり本田会長に問題があるようです。帝拳ジムだけが、会長に対してお礼を言うような状態であるならば、やはり業界の天皇として威圧している。選手スタッフは勿論、記者や業界関係者に圧力をかける。君臨して権力を振るうことをためらわない人なんでしょうね。帝拳と言えば読売・日テレ枠ですが、読売のトップの誰かさんと似たタイプで相性が良いんでしょうね、きっと

*5:

*6:もちろん山中にも優れたディフェンススキルがあって、過去にそういう物を見せていても不思議はないです。能力というのはあくまで相対的なものですからね。世界2位の攻撃力・防御力を持っていても、相手が世界1位のそれを持つというのなら、結局攻撃力・防御力両面で劣位にある、不利にあるということですから。他のボクサーならばディフェンススキルを使えても、ネリのようなタイプを相手にした場合には、ディフェンススキルが使えないということもありえます。いずれにせよ山中のディフェンススキルはネリ相手に発揮されなかったということですね。

*7:山中慎介6401発中5896発の信念、そのすごさ - ボクシング : 日刊スポーツ

*8:山中の神の左についての技術論なんか色々面白そうなんですけどね。山中の試合をそんなに見てないのであまり確信が持てません。威力・パワーと言うより、見えないパンチなんだろうなとは思ってますが。相手が気づいたらもらってしまうという「おこり」の少なさ、モーションが殆ど無いとか、ワンツーで相手の行動範囲・支配距離をある程度操れる。そして誘導した上でズドンとかそういう技術なんでしょうね。ダウンシーンも強打が入ってKOというよりも、相手が予想外にもらってしまって面食らって・バランスを崩してたたらを踏んで崩れるというのを何回か見ましたし。あとはAFSに分類されるボクシングなのに、神の左だけBFS気味に打っているから、いきなりパンチが飛んでくるとかですかね。雑誌の写真でちょうど左ストレートをBFSみたいに突っ込んで打っていた写真を見たので

*9:やっぱり技術論を書こうかな、もう一度見直したところ、もらった一撃以外、回ってネリの追撃をかわそうとしたり小細工していましたね。それでもネリに詰められてやられてしまったわけですが、じゃあ何故やられてしまったのかときっちり書いたほうが良いかな。
 サウスポー対決ということは要するに普通のオーソドックス対決と同じ。いつもと違いサウスポーにとっては左の大砲よりも右のジャブの差し合い・使い方が一つのポイントになってくる。神の左を磨き、それ一本に頼ることで右の使い方が雑になった、相対的に少なくなったと言われる山中ですが、それでも右を使ってコントロールしようという意図が見えました。そして、大砲の左がいきなり当たるわけもないので、下のボディにまずは左ストレートをちらしてスタミナを奪い、相手の足が止まった8R以降にKOというプランだったんでしょうね。
 右を使うと前傾して低い地位にあるネリには打ち下ろし気味になる。突進を止める・上手く突き放してコントロールする・身体を起こすために右のリードを下げてフリッカーのように払う使い方をもしようとしていました。まあしようとしていただけでそこまで上手く行ったようには思えませんでしたが。右をあまり高くに持ってくると、ジャブの打ち終わりを突進してくるネリの左フックで被せられる。格好のカモになるので、あの少し低い位置が正解でしょう。ガードが甘いという問題はなかったと思います。あのくらいで正解・適切かと思います。
 キーになったのはネリの右。同じサウスポー同士、左は見えやすいのでそこまで問題にならないが、ネリの場合は右の打ち方に特徴があって、突進してくる左フック。下から跳ね上がって体ごと叩きつけるような感じに見えました。一撃目の左フックをもらっても次の右はあまりもらわないものですが、ネリの場合は右フックにつなげる時、空手の追い突き逆突きのコンビネーションのように踏み込んで構えを逆にする。意図的なスイッチというよりは身体の流れ、重心移動を最大限活かすために左フックのあとそのまま左足を少し前に踏み出して残すんですね。で、もういっちょ左フックで今度は右足を前に出して(映像では確認してませんが、時には足を引き戻すことで距離を調整します)元の構えに戻る。そういうコンビネーションなので、ワン・ツー・スリーが強力で一気に距離を詰められやすい。最初の左フックを打たせないように右ジャブで徹底して突き放すか、左のフックを狙っていると思わせるカウンターを何回かやらないと自由に攻め込まれてしまうでしょうね。いつもならオーソドックス相手の右フックなど封じることはたやすいはずですが、サウスポーからの一時的なスイッチ・オーソドックスに切り替えられると距離感がわからなくなりやすいですからね。
 山中が大したことはないと感じたというのも意外と正しいのかもしれません。1Rは遠い間合いから相手の感じを探って、2Rで僅かですが少し距離が縮まる。3Rでさらに縮まり、攻撃をより当てようとしていました。ネリの詰めを十分いなせるとそれまでは感じたのでしょう。しかし3Rの撃ち合いで少し様子をまだ見ようか、探ってみようともうちょっと様子見をするべきでしたね。いけると判断して、そのままの方針・もしくはさらに前に出ていった。これが敗因でしょうね。
 ネリの右ジャブはあたる。しかし山中の左ストレートは3回空振り、当たらない。ちょっと狙いを一旦変える。目線を上に挙げさせることで次のRでまたボディを叩くためだったのでしょうか?左ストレートが空を斬ります。左がネリの抑えにならないのならば、あとは右ジャブしかない。ネリは再三山中の右ジャブに合わせて大きなスイングの左を見せていましたから、いずれ右ジャブも合わせられたと思います。そしてネリの右ジャブからの左フックがヒットであとはもう一気呵成。ぐらつかせてからネリのいつものコンビネーションでガンガンいかれて距離を潰されて、ザ・エンドってね―という結末に至ったわけですね

【山中慎介VSルイス・ネリ戦解説①】 17/8/15初対決の内容分析<前編> 敗北の原因はセコンドの「暴走」によるものにあらず、陣営のファイトプランの誤りにあり


 山中・ネリ戦の結果を知ってから、この話を書こう書こうと思っていましたが、相撲云々で全然進みませんでした(ブラックフェイスの話書いてたからかな?)。まあ相撲関係は書き終わってたんですが、それ書いてエナジーを消耗して書く気がしなくなってたんで。先週から書き続けてようやく殆ど書き終わりました。
 あとはいつもどおり、クッソ長くなった分、整合性をつけて読みやすくするためにどういう順序で編集するかですね。おそらく一記事の三回分くらいの文量になったので、さあこっからどういうふうに分けるかで試行錯誤。4・5日か~一週間に一本くらいで適宜更新できるのが一番いいんですけどね~。いつも、そういやこれってどうだったっけ?とググると新しい情報や、ああそうかこういう視点もあったかと書きたくなることが次々でてくるんで中途半端に公開すると相撲の時みたいに初めの記事と整合性がつかないわけわかんないことになりそうで怖いんですよね~。どう考えてもシリーズモノなのに①~⑦と長引いた挙げ句のトータルの一貫性、最初と最後の整合性が…になってしまったのでね、相撲の記事。
 それはさておき、とりあえず山中=ネリ戦の経緯で分割。再戦の前のおかしな最初の対決の話をプレリュード的に書いて、残りを分割することにしました。追記とか文量次第でまた変わるでしょうけど、暫定感覚で公開します。暫定王者ですね。意味わからない王者の乱立のように、意味わからない事になったらこの記事もいつの間にか消えてるでしょう(笑)。
 一応、本題が再戦とその異常性の指摘なので、次回の本題で書くべき前書きをこちらでも重複して最初に書きます。繋がってる話ということを忘れてもらわないように&大事なテーマなので。

■前書き
 山中慎介とルイス・ネリ戦でのピント外れの声が大きいので書いておきたいと思いました。端的にいうとルイス・ネリを責めるのは筋違いであり、本当の問題はWBCどころかボクシング業界・構造・ルールそのものにこそあるのです。責めるとしたらそちらが筋。間違っているのは一人のボクサーではなく、そういう卑怯なやり方がまかり通ってしまう制度・システムそのもの。こういう卑怯な行為を禁止・厳罰化していないルールそのものなのです。
 そしてこの件においてはJBCも同罪。こういう事態が起こりうることは事前に想定できたのですから、そういう対処をしてこなかった以上、トップが責任を取るべき失態。責任を取らないJBC相撲協会以上に歪んだおかしい組織だということを我々はもっと認識すべきでしょう。
 また、このような試合を組んだ、プロモートした帝拳ジム本田明彦会長にも責任がある点を決して見過ごしてはならないでしょう。これらの責任を無視して、ネリ一個人を卑怯なクソ野郎として叩いて鬱憤(うっぷん)を晴らしても、問題は決して解決しない、また同じ失態が何度でも起こることを我々は理解しなければならないでしょう。ボクシング界の構造的問題から必然的に起きたのが今回のネリ騒動であり、その歪な構造が改善されない限りボクシングを見ない覚悟がファンには求められるでしょう。

■試合→TKO負け(セコンド乱入)→ドーピング発覚
 山中慎介が3月1日にルイス・ネリ(メキシコ)と再戦し敗れたことが本題なのですが、それ以前の最初の対戦について触れることがあまりにも多すぎるので、まず最初にこちらでその点について語りたいと思います。村田の判定負けと、この敗戦については拙ブログでも書こうと思ったんですけどめんどくさくて更新放置していたのと、ボクシングについて興味をなくしていたので書きませんでした。既に書いてあればよかったのですが、書かなかったので、ネリとの最初の対戦から改めて振り返りたいと思います。
 前年の8月15日、山中は具志堅用高の国内最多防衛記録に並ぶ13回目の防衛に挑むことになりました。しかし結果は指名挑戦者で歳が山中よりも一回り若いネリに4回2分29秒にTKO負けを喫し、WBC世界バンタム級王座の防衛に失敗。このまま引退か?―となったところ、試合後ネリがドーピング検査で陽性反応が出たことで、どうなるんだ?とネリ騒動の始まりとなるルール違反第一弾・第一章が展開されました。
 また、この試合はセコンドの乱入でTKOとなり、ストップが早いのではないか?と話題になりましたので、その点について触れておかねばならないのでまずその話からしたいと思います。
 そもそもなんでドーピングで引っかかったクソ違反野郎と再戦をするのかという話が本筋なのですが、それ以前の段階で色々おかしな話がありますので、まず一番おかしいと感じたセコンド「暴走」事件。セコンドへの帝拳ジムのおかしな態度について触れて、それからドーピングにまつわる事の経緯を時系列的に振り返りながら語っていきたいと思います。実はドーピングは今回に始まったことではないという伏線があったんですね、それについても触れないわけにはいかない大事なポイントなので。
 時系列的に言うと本当はドーピング→セコンドのストップの是非騒動の方がいいかなとも思ったんですが、まあ文章のオチ・シメとしていいのと、次回に話を繋げやすいので。ボクシングのリングでの内容・分析or解説的な話を最初にしたほうが読む人にとってもとっつきやすいでしょうしね(需要があるとは言ってない)。
 たんにセコンドのストップはおかしいことではないよで済む話だったらワタクシ一個人の感想で終えて詳細を語ることもない話なのですが、調べる内に帝拳ジム本田明彦会長への疑問が湧いてきたので、筆が止まらなくなった状態になったので長々詳細を書いて内容をみっちり振り返りたいと思います。

■本田会長のトレーナーのタオル判断を「暴走」と責める大失態
 で、そもそもなんですが、マッチメイク以前にも本田会長には問題があったんですね。最初の試合で山中がTKOとなった試合ではトレーナー・セコンドがタオルを入れた、リングに入って止めた。その判断を会長が非難したという一件がありました※参照*1


●セコンドのストップには遅すぎるという言葉はあっても早すぎるという言葉はあってはならない
 この試合は山中がキャリアのピークを過ぎていたため、というかボクシング自体に興味をなくして見ていなかったのですが、会長のこういったコメントには違和感しかありませんでした。
 セコンドのストップの判断というものは、早すぎたということはあっても、遅すぎたということはあってはならない。遅すぎればどういう事態になるか言うまでもないでしょう。無事に帰るまでが遠足、選手を無事に家まで返すのがトレーナー・セコンドの仕事。セコンドが周囲の人間が早いと思える段階でも止めてしまうのは業務上やむを得ない。

●ボクサーやジムの会長がトレーナーの判断に文句をつけることはありえない
 そもそもそういうピンチに陥った時点でもう本人の責任なのですから、それについて選手や会長が文句をつけるのはおかしいでしょう。日頃から選手と二人三脚で一緒に歩んできたトレーナーの判断に文句があるはずない。ともに歩み、ともに探し、ともに笑い、ともに誓ってここまで来た、コブクロ魂でここまで来たトレーナーがそう判断したというのならば、もうそれはしょうがないというか、違和感も異論もあるはずがないじゃないですか。
 わかりやすくいうと夫婦で夫が妻の判断がおかしかった云々責め立てて夫婦喧嘩を公衆の面前で始めるようなもの。一言で言うと大人気ない、またはみっともない行為です。
 まあ、夫婦でもどちらかがだらしなくて、夫や妻が困ることがある。それで揉めることはあるという人もいるかも知れません。しかし、事前にきっちり話し合って共通解を持っておけばそんなことで関係がこじれるようなことが起こるわけがない。深刻なトラブルを引き起こさないようにセコンド内での意思統一・作戦プランの明確な共有ができていなかった、事前準備がしっかりなされていなかったということですから、その時点で既に言い訳できない失態であると考えます。

 セコンド内での意思統一というのは戦う前に当然成されておく基本段階です。その戦いの基本を疎かにしていたというのならば、最早試合前から今回の勝負は決まっていたと言っても過言ではないでしょう。

●セコンド軽視、陣営の足並みが乱れていた時点で敗北は既に決まっていた
 可能性としては低いと思いますが、普段からイマイチ信用のおけないトレーナーだったというのなら、そういうトレーナーを他のトレーナーに替えなかったという別の問題になりますしね。実績・信頼関係があるスタッフでセコンドを固めるというのは基本ですから。
 ボクシングは個人競技と思われていますが、実は闘う選手以外にも重要な役割があるのです。相手を分析し、作戦プランを立てて、そのための練習プランを考える云々という大事な役割がセコンド達にはあります。それら作戦立案・マネジメントするトレーナー他セコンド集団のチーム戦という背景を持つ競技でもあるのですね。
 集団競技で長期間試合をし続けるプロ野球のコーチ・監督ほどではありませんが、彼らのバックアップが地味に重要になる競技なのですね。優れたサポートチームによって名ボクサー・チャンピオンは支えられるという要素があり、世界の最前線で闘うトップランクのボクサーならば、その要素を決して軽視してはならないものなのです。ボクシング雑誌などでたまにセコンドの視点・分析が語られるので、そういう陣営があの時何を考えて、どういう作戦を決断・変更したかということを知るとより面白くボクシングを観ることが出来るのでおすすめです(ダイマ)。
 大事なことなのでもう一度書いておきますが、そういう重要なスタッフの判断というものを信じられないというのはそもそもおかしなことですし、選手や会長がトレーナーと齟齬があったことを示す発言が試合後にポロポロ出てくるのはチーム内の意思統一の欠如という点で、大問題なのです。この点をもう深く掘り下げないとは思いますが、帝拳ジムの問題の一つとして記憶していただければと思います。

■映像を見る限り大和心トレーナーの判断は適切
 で、本当にそんなにまだまだ余裕がある段階なのに、何をトチ狂ったのかトレーナーが止めてしまったと言えるほど本当に止めるのが早かったのか?と気になったので、今頃映像をチェックしてきました。個人的には全く違和感がなく、大和心トレーナーの判断は妥当であるものだと思いました。

●TKO、セコンドのストップまでの個人的視点
 件のラウンドで山中はストップに至るまでに5回危ないシーンが有りました。テレビの解説者風にコメントすると大体次のような感じになります。
1回目:「ああ、良いのもらっちゃいましたね。効いたかな?」
2回目:「ああまた良いのをもらっちゃった。ちょっともう完全に相手ペースですね。チャンピオンの試合運びではなくなってますね。まずいでね。ああちょっと効いちゃったかな?効いてるなぁ~」
3回目:ここで良いパンチが入りました。この時点でヒートアップですね「あ!、これまずいですね!これ以上もらうともう倒されちゃう。なんとか凌がないと。パンチ返してペースを取り戻すなり、なんとかしていかないとまずいですよ、これ」(超興奮&早口)。
4回目:「ああ、連続してもらっている。もうこれじゃ負けちゃいますね。ダメージ次第では止めたほうが良いかもしれませんね」。
5回目:ここでパンチをまとめられる形になるわけですが、ストップが明らかに遅い。見ていて危ないと感じました。「ああ、もう駄目ですね。止めないとダメ。レフリーまだ止めないのかな?レフリーが止めないならセコンドは止めたほうが良いですよ、これ。ああ、危ない!止めろ止めろ止めろ!早く!」
 「ちょっと止めるのが遅いですよ。セコンド何やっとんの、選手を一体何だと思ってるの。帝拳さんのセコンドのタオル入れる体制・システムはどうなってるんですかね?ちょっと帝拳さんのやり方は問題ありますよ、これ。ちゃんとしていただかないと。いくら山中さんの日本記録かかっている試合だからと言ったってこれはダメですよ」と試合が終わったあとでも憤りを顕にしたでしょう。
 ―とまあこんな感じで。テレビ解説者・ゲストで喋れる立場だったらそういう風にコメントしていたでしょう。2ch(今は5ch)の実況スレで、「【放送事故】 ゲスト解説者ヒートアップしすぎwwwワロタwww」というクソスレが立つくらいには興奮してまくしたてたと思います。むしろレフリーのストップの判断が遅いと思えましたからね。セコンドを務めたトレーナー大和心氏の判断は極めて妥当。むしろあの段階・状況でストップを命じなかった会長の判断を非難すべきでしょう。

(※●余談スタンディングダウンの是非について―
 余談になりますが、長谷川も防衛記録がとまったJBC未公認の統一戦がありました。長谷川のケースは、個人的にレフリーストップは早いと思いました。早いというかスダンディングでダウンでカウントを取るべきで、一度間をおいて再開後また打たれたらストップが好ましいと思いました。
 今回のケースも山中がパンチをまとめられた時に、レフリーがスタンディングでダウンを取ってカウントを数えて間を開ける。そしてもう一度再開してほしかったと思いました。しかし、これはその選手を応援する側の贔屓目でもあります。もし長谷川があそこでスタンディングで間が空いたためにKOを免れて、持ち直して逆に判定で勝利した。結果、逆転することととなれば相手サイドはどう思うか?
 山中も同じ。あそこで畳み掛けるチャンスをレフリーがスタンディングダウンでもぎ取ることになってしまいます。安全性のためにはそれが最適であり、そうすべきだと思いますが、勝ち目が少なくワンチャンスにかけるしかないボクサーの勝利の芽を摘むことにもなります。「あそこでレフリーがスタンディングダウンを入れなかったら、うちのボクサーが残り1分もあったし、確実に仕留められたのに!レフリーがおかしい!」―ということになってしまいます。番狂わせが起きにくくスリリングでエキサイトする展開が少なくなる。ボクシングの魅力減に間違いなく繋がる。そういうことを許容できるか?と言われると難しいでしょうね。
 安全性のためにスタンディングダウンを取る方針が定められたとしても、まだ余裕があるのにスタンディングダウンのせいで2ポイント失ってしまったじゃないか!という問題は必ず起こるでしょうからね。
 まあ、何れにせよパンチをまとめられる展開は敗北の一歩手前の「詰み」(チェックメイト)の段階、敗北必死の展開なんです。スタンディングダウンで間が開こうが開くまいが負ける一歩手前な段階であることに違いはない。今回のテーマで大事なのはそこですね)<余談ここまで>

■続行していたとしても山中はまず敗れていた
 山中本人は意外と大したことないし、効いていなかったと言ってました。試合後のインタビューで意外ときれいな顔をしていたように、顔そらしや首ひねりで衝撃を上手く逃していたパンチもあったんでしょう。
 それでもストップという結論に変わりはないでしょう。前のRで左を当てながらも、相手のパンチをそれ以上に被弾して確実に劣勢展開。山中が支配したRはなく(判定は三人共37-39でネリでした)、挑戦者優位ペースで進み、4Rという早い段階で一方的にパンチをまとめられたことからも勝利の目は殆ど無い。
 タオル(WBCはタオル棄権制度はなく、正確にはセコンドのリングインで棄権となりますが面倒くさいのでタオルで表記します)に至るまでの過程で確実に何発かはもらっていた。どのパンチがどれくらい効果的だったかわかりませんが、まとめて何発かもらう展開が続いて、ロープ際に追い詰められてまともな対応ができていない状態でしたから、ストップは当然でしょう。あそこで止めずに続行していたら、それこそ決定的に効く一撃をもらっていたのは間違いないでしょうから。
 タオルに文句を言っている人が結構多くて驚いたのですが、おそらくあの場面が決定的に山中が劣位にあることを証明した展開だということを理解できないからなのでしょうね。後述しますが、普通あの展開を見せられたらもう山中に打つ手はないので以後ネリに一方的にやられて負けるということがわかります。しかしそれがわからない・知らない人は、「もしあそこでタオルがなく続行していれば山中が勝ったかも…」と考えるからなのでしょう。 
 ネリがラッシュをかける、ガンガン前に行くタイプで異国の地で初の世界挑戦という前提を考えると、スタミナ切れという可能性もありえます。あのピンチを凌いで、ネリのスタミナが切れた8・9R以降経験豊富な山中が逆転、試合を支配して山中ペースに―といった展開も一応は考えられるでしょう。
 しかし年齢差が一回り以上離れていて、ピークを過ぎた山中がスタミナを保ちながら終盤に有利な展開を築けるはずがない。そして相手のスタミナが切れて勝負所のRに入った頃にはもうポイントで圧倒的大差がついて山中の勝ちはKOしかなくなっている。となれば、公開採点のポイント差次第でしょうけども、それ以後はネリも逃げまくってポイントアウト・判定勝ちで試合が終わっていたでしょう。
 多少の予想外の出来事があったとしても、基本この流れでまず変わらない。37-39で4Rをしのいだとしても(タオル無しで続行してもしダウンをしていたら8-10判定で、36-39に変わります)、あのワンサイドの展開ではその後ダウンをせずにいくとしても殆どネリにポイントを持っていかれる。1度でもダウンをして8-10でネリになるRがあれば…。4R以後も防戦一方で押し込まれることを考えるとやはりどう都合よく考えても5ポイントは離されて終盤を迎えるでしょうから、まず勝ち目はなかったと見做すのが妥当なところでしょう。

●ピンチを凌ぐ方法、必要なディフェンス技術の欠如
 基本この展開で流れは変わらないと書きましたが、それは流れを変える武器は勿論、何よりもネリの攻撃を封じる防御力がないから。後述しますが神の左は無力化され、ネリの詰めを山中は裁くことが出来ずに定期的にロープやコーナーに追い込まれる展開が続くからですね。もうあの時点で負けは確定したと言っていいほど彼我の戦力差は明らかでした。どうして防御力・ディフェンス技術がないのかという話をしていきます。
 あの早いラウンドであんな一方的な展開を作られた以上、山中の負けは最早明らか。効いてなかったと言うのならばなぜ反撃でパンチを出さなかったのか?応戦して戦える意志表示をしなければレフリーがストップすることもありえますし、亀ガードのようにガードを固めてカウンター狙いでまだ戦えるところを見せるとか、何らかのパンチを引っ掛けて、体勢を入れ替えるなど、窮地脱出の模索をしなければならない。
 手が出ないけどまだまだ戦いたいと思っているのなら、打ってこいと挑発したり大声あげてまだやれるぞ!と示したり何らかのアクションを起こさないといけない。押されているけど、まだ大丈夫なんだな。余裕がまだあってやれるんだなと思わせる何らかの行為をしなくてはいけない。そうしなかった以上、一方的に打たれてどうしようもなくなっているようにしか見えないのでストップは当然。
 普通ディフェンスに専念していたとしても、打つぞという目・肩・足運びでのフェイントで相手の攻撃を抑制したり、ウィービングやダッキングを交えたり、肩をぶつけるタックルで相手の突進を止めたり、パーで相手をコントロールしようとしたり、サイドに回ってホールド気味にクリンチしたり、なんとかしてしのごうとするはず。ロープ際で何も出来ないディフェンススキルのなさ、ピンチを凌ぐ引き出しのなさを見せていた以上、セコンド・レフリーのストップは常識的なものでしょう。(ウィービングやダッキングのような動きでディフェンスしていただろ!という人がいるかも知れないので、一応書いておきますが窮地を脱しなければ意味がない。相手の攻撃を無効化したり、攻守が逆転するくらい効果的な技術になったりして初めてディフェンス技術というのは意味を成すものです。一方的に攻撃された苦し紛れではディフェンスとして成立していない。効果があるといえる一定水準に達成していないので当然ノーカンになります)
 あの展開でセコンドの判断の是非を試合後に問うなんてむしろそちらのほうがどうかしているかと思います。

(●※追記補足解説、首ひねり・顔そらし―
 首ひねりという技術はディフェンスの高等技術の一つであることはあるんですけど、山中の使っていたそれはちょっと違うんですね。
 ミニマム級のチャンピオンで星野か高山だったか、ちょっと誰だったか忘れちゃったんですが、無茶苦茶首ひねりが上手くて首ひねりを多用する選手がいたんですけど、その選手は本当もう傍目から見ていてもわかるくらいグルンって感じで顔に来たパンチをひねって、「いなす」んですね。んで、顔面打った相手がそれで上体流されてつんのってしまうくらい。そうやって相手のバランスが崩れてから攻撃の機会を作ってしまう。
 ピンチをチャンスにするほどの場面での首ひねりではなかったんですが、防御場面から攻撃場面に攻守を入れ替える。受即攻かな?というくらい見事に防御と攻撃を繋げてしまうというのを見たことがあるんですけど、それくらいの完成度でないと首ひねり・顔そらしは意味がない。
 ダメージを減らすので意味がないことはないんですけど、パンチを流すと同時に合わせてフックをかぶせるとかスウェー気味にのけぞりながらアッパーを出すとか、当たらないにせよ同時にパンチを出して攻撃に繋げられないと意味がない。最後のその場しのぎ・急場しのぎにしかならないんですね。
 実際、山中がうまくいなしていて効いてなかったとしても、そこで反撃をくわえられない、合わせるパンチを出せない以上、防御をする必要がないですから相手・ネリはお構いなしにドンドン回転あげてパンチ叩き込めてしまう。効いていてパンチを合わせられなかったのか、首ひねりに専念していたのかわかりませんが、専念してあのレベルならばディフェンススキルが低いということですから止められても文句は言えないですよね。
 要するに首ひねりというのは攻撃に繋げられるくらい高いレベルでないと意味がない。そうでない首ひねりは効いてしまってもうすることがこれしか残されていないという段階での技術なので、そこでパンチを出せずにずっと打たれ続けていたら止められるのは当然だと思います。
 ※更に追記、あと気づいたので追記しますが、攻撃技術に偏って左のストレートに拘った山中が、首ひねりという戦術にたどり着いたのは必然のように思えます。中・近距離タイプの選手が首ひねり+カウンターや相打ち覚悟で打ち合うというのならともかく、遠距離主体の山中のディフェンス技術としてそこまで最適とは思えない。勿論色んな戦術・得意パンチ・他のディフェンス技術などの兼ね合いで決まることですけどね。
 遠距離からズドンで決められる山中にとって同じ遠距離タイプに同じ土俵で負けることはない。オーソドックスの中・近距離はポジショニングで苦労しない。苦労するのは中・近距離タイプで間合いを詰めてくるサウスポー。得意な左ストレートが距離が足らない分打てなくなってしまいますからね。
 そうなると、当然左ストレートを打つために間合いを取るために下がるか左右に回るかしないといけない。そのケースで山中はあまりにも真っ直ぐ下る事が多いので、真っ直ぐ下る悪癖があると言われます。真っ直ぐ下ると当然追う方は追いやすいので、同じパターン(相手が詰める→下がる→また詰めてくる→また下がる)の繰り返しで防戦一方になりやすい。で更に追いつめられた時に逃れるのが首ひねりだったということのように思えますね。
 「だったらはじめから真っ直ぐ下るなよ。左右に動く練習しなさいよ、アウトボクサーなら基本中の基本だろ…」と思われるのですが、多分、彼の場合、真っ直ぐ下った時に生まれる距離感がちょうど左ストレートを打ちやすいんでしょうね。んで距離を詰めて来た相手にズドンとカウンター合わせて仕留めたいor圧力をかけたいとまあそういうことなんでしょう。
 これまでだってそういう風に距離を詰められて左ストレートそのものを打てなくなるという場面はあったはずです。その打開策が真っ直ぐ下がっての即左ストレートだった。オーソドックスだとそれでも右足のポジショニングで被弾しにくいところを確保できますが、サウスポーではまっすぐ詰められてしまうので対サウスポー用の捌く技術が求められるはずなんですが、山中は「神の左」があるので、相手はそれを警戒して詰めることが出来なかった。
 故にディフェンス面で苦労することもなく、もし距離をミスって詰められてちょっと危ないという展開になっても首ひねりやっておけば十分だったということでしょうね。左ストレートという突出した武器を基に構築されたのが「山中戦術」。山中のスタイルが攻撃主体戦術だということを考えると、何故山中が真っ直ぐ下って首ひねりを多用する癖があるのか、よく理解できると思います。いつでも左を振れるようにディフェンスは最小限に済ませる。左を振るための「真っ直ぐ下る」&「首ひねり」なんですね。
 ボクシングには「攻撃は最大の防御」という性質がありますから、次で書いているように山中の左が衰えた時点で大ピンチ。「攻撃力=防御力」という図式を成立させてきた山中の左の攻撃力・有効性が低下してしまえば、山中の防御力はガクッと落ちるということですからね)<補足解説ここまで>

●ネリ優位を裏付ける神の左の威力低下
 参照記事THE PAGEの記事では、ネリは今もレバーが痛いんだというセリフがあって、山中のパンチが効いていた証言があるので、もしかしたら終盤ボディの累積ダメージで足が止まってワンチャンKOあるのか?とも思えます。しかし、左が見えていたというセリフがあるので絶望的でしょうね。実際、ネリが山中の左を見切っているように映りましたし。山中の「見えない左」が早いRで見切られているとすると、その山中戦術の優位性は消失したということですからね。
 負けるだろうなと思わせるシーンは3Rの終盤にネリが山中の左を躱したシーン。左ストレートを多分2回程躱していたんですね。あの左を警戒せざるを得ないからこそ、殆どのボクサーは前に出られない・攻撃ができなかったのに、早いうちからヒットもしていましたが、いともたやすく(個人の感想です)攻撃の流れの中にある過程で避けたので、ネリがケアしなくても躱せてしまった以上ダメだなと思いました。
 ガンガン前に出ていくので4Rでも被弾はしていましたが、ネリの圧力は減らないし、また左をやはり見切って躱してしまうシーンがありましたから。結局ネリという選手の強さを甘く見て侮っていた。そして何より山中の現在の戦力を高いままだと甘く評価していたわけですね。彼我の戦力を正確に認識出来ていなかった。間違った認識から正しい結果・目的達成がならないことは言うまでもありませんね。

 おかしい…ドーピングの話で2本でまとめるはずだったのに、初対戦の分析でさえこの記事一本で終わらない…。ずっとボクシングネタで書いてなかったから、溜まりすぎて余計なことをグダグダ書きすぎた…。二本に分けても初戦の話が上手くまとまっている感は少ないなぁ…。技術論だけで一本に再構成するかな。
 まだまだ残っている初対決の解説②*2に続きます。

アイキャッチ用画像

*1:タオル投入早すぎる!山中 涙の陥落…4回TKOでV13夢散― スポニチ Sponichi Annex 格闘技
 会長の非難コメントについてこちらのほうが詳しかったのでこちらも参照

*2:

2016日本シリーズ広島カープVS北海道日本ハムファイターズ 不思議な日本シリーズのおまけ

 

 ―のおまけの感想などです。まずは三戦目の古田解説のあまりから。メモったので一応残しておこうかなと。2回表、黒田は大体狙ったところにボールが行っている。有原は行っていない。鈴木に対して外の球が甘く高く入ってヒット。エルドレッドはまとめ打ちするタイプ。オールスターまでに20~30本HR打ったと思ったらピタッと止まる。打つ・打たないが時期によって波がある。今打っている時・ノッている時かもしれない。要注意と言った所でHR。
 この試合の大野のリードは、左打者のインコース・右打者のアウトコースを軸に組み立てていました。初回は左が二人だったから積極的にインコースを攻める形になっていたが、二回は右打者が続いて全てアウトコース。9・10球全てアウトコース攻めになってしまった。右打者のインコース攻めがないというのが非常に気になるリードでしたね。
 で、古田解説に戻って、打たれだすときというのはバッテリーが後手を踏む。これまでの外のストレート・高めの釣り球をHRにした。なので今回はもうまっすぐで来ないだろと思っていたはず。ファール2球もタイミングが合っていたと。ということは、それを見て配球を変えなければいけなかった。どういう選択をするべきだったのか聞いてみたいですね。
 西川か中島かちょっと忘れましたけど、粘ってファーボールで繋いだ場面で、稲葉さんが「昔スリーツーは消極的に行けということを古田さんが言っていて、まさにその通りの結果」。それを受けて古田さんが「俺、そんなこと言ったっけ?」と応えていたのが面白かったですね(笑)。
 またプロ野球ニュースで笘篠さんのコメント。ハム側の不思議な攻め方。積極的な打者安部に初球簡単にストライクを取りに行った。これまでも初球には必ず手を出している傾向があるのになんで簡単にストライクを取りに行ったのかな?とのこと。ファイターズは投手の状況・投手が投げやすいということを中心に置きすぎという気がしましたね。

■第四戦in札幌ドーム 3-1 高梨VS岡田
 この試合は古田さんが解説ではなかったのでそんなに書くことありません。四戦目、外野の守備力が命運を分けたという話をしておきながら、外野守備に定評があるファイターズのエラー。この試合の広島の先制点はエルドレッドのライトフライを近藤がエラーによるものでした。なんでセンターが捕球しなかったんでしょうか?セカンドが深く追いすぎて迷ったところに近藤が突進してきて遠慮した?2アウトなのでランナー1塁なのに、生還されてしまった。タッチアップ警戒とか、足の早いランナーが2塁にいて、外野に飛んだ場合肩の強いライトが優先的にケアするという場面でもないですし…。そもそも1塁にいるランナーは新井でしたからねぇ…。というか近藤の肩はそもそもどうだったか、地肩はともかくイップスであんまり正確に送球できなかったような?
 というかそもそもこの場面、ここまでノーヒットで抑えられていた高梨相手に、丸が先頭ファーボールで出塁。で4番の新井の場面で1B2Sのカウントで盗塁失敗なんですよね。この場面で普通走るかなぁ?まともにやっていたら高梨は攻略できないという判断…?そりゃツラゲという固有名詞が発生するくらい、ゲッツー打つことで有名な人ですけど。ファールが一塁線切れるゴロでそれを見て引っ掛けてゲッツーがありそうというのもわかるんですけどね。で、結局ノーアウトランナー1塁という形が、ランナーを全く進めることが出来ない。ランナーが釘付けで1塁ままで終わるという最悪の場面だったんですよね。そのカープ側の拙攻を近藤がエラーで助けるという何だこのシリーズ…という展開でした。
レフト松山でレフト方向に狙おうという意識がファイターズ打線にあったかも?たまたまかな。

 10/26、この試合のプロ野球ニュースの気になったメモ。エルドレッドは145キロ以上のインハイ攻めで、低めに早く変化する球で打ち取るというのがセオリー。5回の満塁の場面、4番新井に外中心の攻め方、右打ちを意識していた新井はアウトローに構えていたのがインハイに来て中途半端なスイングになって討ち取られた。対照的に中田はスライダーに狙いを絞ってHR。新聞のインタビューには石原のリードにやられたという話があったが、達川曰く、石原のリードに慣れてきたのではないかとのこと。
 ジャクソンVSレアード。レアードの攻め方で達川解説。レアードのような外国人は真っ直ぐを待ちながらスライダーを打つタイミングのとり方を子供の頃から練習する。ストライクゾーンに入ってくるスライダーは危険。初球外のスライダーの厳しい良い球で、それをマークさせて次はアウトローのいいところ。レアードはいいスライダーを見せられてまっすぐは殆ど捨てていた。そこへアウトローでここまでは完璧。なのにHRを打たれたスライダーは甘いところへ入ったと。

■石原のリードへの感想
 キャッチャーはボールゾーンに投げさせたかったんでしょうね。しかしボール球を投げるという概念がない外国人投手にあの中途半端な所で構えてボール球だという意図が伝わっていたのでしょうか?このシリーズでキャッチャーがボール球を投げるんだぞ!ストライクいらないよ!という姿勢、歩かせても次の打者で勝負。トータルでアウトを三つ取るから歩かせてもいいとボール球という素材を惜しげもなくふんだんに使って豪華な料理をつくるという姿勢がまるで見られませんでしたね。そういう駆け引きが見どころなのに、そういうものがまるでなくて面白くなかったですね。
 それと気になったのが石原のリードで、彼のリードが良かったと言われることが何回かあったのですけど、それっておそらくジャクソンのリードだと思うのですね。良い投手・持ち球が豊富な投手を好リードしても、それはシリーズ全体の話ではないと思います。そのジャクソンの球を活かして次の試合につなげる、次の中継ぎ投手につなげるという展開があったのかと言われると、なかったように思えます。石原のリードに慣れられたというのも、パターンが決まってたんじゃないですかね?序盤はツーシーム・カットで、中盤でカーブ・チェンジアップ、ランナー溜まったら右バッターのインハイにカットというのが5戦目のパターンでしたけど、おそらく1戦目もこの組み立てとあまり変わらなかったのではないでしょうか?ランナー溜まった場面でファイターズ打線はインコースツーシーム・カットを狙っていましたからね。それと左ピッチャーといえば芯を外してのゴロ、引っ掛けさせてゲッツーを取る。ゲッツーを簡単に取れるからイニングを食える、ゲームを作れるというイメージがありますが、ゲッツーが非常に少なかったですよね。パワーピッチャー系だからということなんでしょうかねぇ?
 短期決戦というのは指揮官同士の対決であると同時に、キャッチャー同士の対決でもあります。石原VS大野・市川であまり目立ったところのないシリーズでしたが、どちらかが明確に上回ったとは言えないシリーズ。キャッチャー軽視どうし、課題の残るシリーズになりましたね。
 ファイターズはもう前からなので特に触れることはありませんが、問題は広島カープの方。中村奨成くんが入りましたけど、伝統的にキャッチャーが育たない球団ですからね。広島のキャッチャーと聞いてパッと思いつくのは達川さんしか居ない。そういう球団がキャッチャーを育てられるかと言われるとまず無理でしょうね。

■セパ格差、パ・リーグの壁を想定したチーム作りをすべし&試合ごとに悪くなった広島のリリーフと良くなっていった日ハムのリリーフ
 前回書いたようにポイントになったジャクソンのデッドボール。一度レアードにぶつけているために際どいところへ投げられなかったんですね。パワーピッチャーでまっすぐと外スラのみ。あそこでインコースをつけなければ、まあそうなるでしょうねという所。カープは大事な終盤にボコボコ打たれて同点・逆転されていた。そういうところを見てもキャッチャーの配球に問題がないとは言えないでしょうねエルドレッドもそうなんですが、ジャクソンの球速ではセ・リーグで通じてもパ・リーグでは通用しないという良い見本だったように思えます。マウンドが合わなかったのかも知れませんが、出ていた球速・最速は150や151でしたが、140後半の球が多かった。サファテの160キロなど速い投手がゴロゴロいるパ・リーグでは初見でも対応するのに難しいと感じさせなかったように思えましたね。

 8回表鈴木のサイン見落としからバントミス。さらに盗塁で代走赤松が刺されるというドタバタ・拙攻。なんか解説で去年西武コーチの人がいるから中継ぎのクイックなどのフォームの癖も知っている。札幌ドームのグラウンドは、ナゴドかどこかに似ていて走りやすいなんていうコメントが途中アナから上がってきた途端のこれですからね。うーん、というところ。
 6回からリリーフで出てきたバースの素晴らしいカットボール日本ハムは試合が経つに連れ素晴らしいリリーフが出てきた。リリーフの状態が上がっていった。この後に投げた宮西然り、どんどん内容が良くなっていった。宮西は最後に左にはスライダーでいく。自分の一番自信のあるボールで行くと、もう前から決めていたみたいですね。それで丸を討ち取ったと。対照的に広島はリリーフがどんどん悪くなっていった。その差でしょうね。この試合最終回、満塁まで持っていった広島カープの粘りは称賛すべきものでしたね。

■第五戦 加藤VSジョンソン 5☓-1
 三戦と五戦目は古田さん解説なので面白かったですね。細かく書くのはこれで最後ですね。
 一回表、鈴木誠也はスリーボール・ノーストライクでも振ってくる。要注意→振ってファール、その次の球でタイムリーヒット。若手らしからぬ待ち方をすると。
 ファイターズは前回ジョンソン相手にレアードのHRくらいでヒットは出てもいい当たりはあんまりなかった。前回やられた分、ファイターズは攻略の小細工をいろいろ考えてきているはず。加藤は腕のフリの割にボールが来ない。杉内のように腕のフリとボールの速さが一致しないピッチャーは打ちづらい。真っ直ぐでファールが取れるからコントロール、いっぱいいっぱいの所を狙わずにファールでカウントを稼ぐくらいのつもりで―と言ったそばから、チェンジアップが甘く高く入ってヒットと。まっすぐにタイミングがあっていなかった&追い込んでもいなかったのにどうしてチェンジアップを選択したのだろうか?
 同じく2表、ノーアウト2・3塁でショートゴロで3塁ランナーは突っ込まず。ピッチャーゴロのように見えた当たりだが、ピッチャーゴロでもランダウンで同じ2・3塁の形が作れる。ベンチの指示でピッチャーゴロの当たりは突っ込むなという指示だったかもとのことでしたが、これもおそらくカープベンチは明確な指示を出していなかったんでしょうね…。
 田中恒成に対して、まっすぐ8球インコースのきわどいところがボールで最後の勝負球がチェンジアップ。これでチェンジアップなら振るだろうと思えたが、選んだ。初めからカットで繋ぐつもりだったのか、よく繋いだ。とても素晴らしいプレーに映りました。で、継投策で代わったメンドーサが丸を三振と。
 2裏、前回苦労したカットボールが少し甘く入ったのを中田がレフト前ヒット。レアードはジョンソンとアメリカ時代に対戦経験がある。レアードの膝下にストライクが決まるのが大事。ココでストライクが取れて、しかも曲げられることでバッターは迷う。インハイが投げきれずに同じようにレフト前ヒット。
 稲葉曰く、左打者は追い込まれるまで、インコースのツーシム&外のカットボールのどっちかに絞るべき。西川が外のカットボールをレフトフライにしている。この球だと犠牲フライの可能性がある。故に外のカットボールは投げてこない場面。よって田中賢介にはインコースのツーシムの連投でファーストゴロと。賢介も外に打ち上げにくいこの球で勝負と分かっていたはず。分かっていてもこの結果、いいピッチャーですな。こういう球が投げられるからこそ沢村賞ということでしょうね。ふと思いましたが左右の違いはあれど黒田とタイプが似ていますね。メジャー流の動かす球使いという点で。そういう意味でもこの第五戦で慣れという要素があったんでしょうか?
 ラストバッター市川、中田・レアードが打ったのと同じような球。それが三遊間ではなくセンター前に飛んだ。田中は中田・レアードの当たり同じく、三遊間をケアしていたのに逆方向の打球を上手く取った。ファインプレーだと。田中の送球がそれたのをエルドレッドがうまくカバー。二重の好守備でしたね。しかし右打者に3回インハイを投げきれなかった。投げきれるわけでもないのに危険なところに要求し続けた石原のリードはどうなのでしょう?これはいいのでしょうか…?全部ゴロ性になったように、あのボールがフライとして上がるリスクがないということなんでしょうかね?ジョンソンのカットはまず上がっていかないということだから、この選択でいいということなのでしょうか?
 2塁ベース付近の当たり、人工芝かアンツーカーでツーバウンド目の跳ね方が違う。ホームグラウンドは有利。
 3裏、中島セーフティーの構え・ゆさぶり。岡のインコースの見逃し方ぶつかりそうな当たりでクルッと回る見逃し方はインコースに強いタイプの見逃し方なのかな?四戦目でもこの巧い見逃し方をやっていたんですよね、岡。ジョンソンは右バッターに対するインコースのカットが生命線。ストロングポイントを逆に狙い撃って投げにくくさせる。マイナス思考に入るとじゃあ外へ。そして逆にその外が狙われたら…となっていくと。相手投手の攻略法の一つに相手の最もいい球を逆に狙ってそれを投げにくくさせるというものがあるということですね。
 で、岡が選んで繋いで西川へ。西川もセーフティと打線で攻略しようという意志が感じられると。西川はジョンソンに対し、ゆるい球・遅い球にタイミングを合わせながら、速い球に対応しようとする。速い球に対応しようとするとファールがもっと前に飛ぶはず。インコースツーシームをバットの根っこにでも当ててカット・ファールに出来るから外のゆるい球が見逃せる。とにかく当てて転がしてなんとかしようという狙い。初戦の3塁への内野安打・ボテボテの当たりもそういう意図から生まれたもの。で、菊池の守備でセカンドゴロになるもののランナーを3塁に進めた。
 4表、メンドーサの好投。ツーシームばっかり、特に右バッターのインサイド右打者は打ちづらい。角度があって140キロ後半で沈んでくる。広島は左投手の加藤用に右打者を並べているから尚更。古田さんは狙ってやったわけじゃないんだろうけどとコメントしていましたが、CSでやっているので確実に計算内ですよね。吉井コーチの計算通り、手のひらの上でコロコロされていますね。
 4裏、カーブ・チェンジアップ、ゆるい球を使い出す。全て変化球で最後に頭にないインローまっすぐでレアードを見逃し三振。打者の頭にない裏を書く石原のリード。右打者へのカットで勝負する場面が多い。逆に言うとランナーのいない場面ではカーブ・スライダーなどで勝負して、その球を効果的に使うためにランナーがいない場面ではあまり使いたくないとのこと。
 5表、メンドーサの膝下に来るボールの角度から言ってバットの下で打ってしまう。初見で対処するのは難しい。ベンチはゴロを打たせないような指示・対策をしないといけない。石原が裏を書いたように、菊池へのインコース攻めで意識付けをさせて外で三振。丸にカーブを見せて外への甘いスライダーを打ち損じからのまたカーブでの見逃し三振。市川の好リード。
 5裏、外の球を合わせてレフト前ヒット。そして市川の送りバントからの中島の三遊間の当たりで暴走・三塁憤死。前日の近藤のエラーのように、このようにハムにもまずいプレーはチラホラあったわけですね。しかし結果はファイターズの勝利という…。
 6表、その前からも使っていたとは思うが、印象に残るツーシーム以外にチェンジアップが冴えたという印象。チェンジアップも決まりだして最後までメンドーサで行けるんじゃないかと思わせる快投。
 6裏、左に対して外主体で攻めるようになってきたかな?どうだったか。前回は粘った西川も今回は普通に凡退。序盤内に投げて意識させて回が進むごとに外を使い、広く使おうということかな。全く肩が開かない大谷のバッティングでツーベース。中田に対して、ツーシームインコースではなくまっすぐの連投。まっすぐとツーシームの使い分けが効果的ということなのかな?待っていなかったカーブで勝負。裏を書かれて見逃すところだが甘く入ってきたのでつい手を出してしまったと。

■勝負を分けた継投策
 ここでジョンソンは95球。まだまだ行ける球数だがベンチは動き出した。ここで代えるのか?7表、小窪にストレートのファーボール。送って石原、進塁打で3塁の形を作るも無駄に。
 7裏、ピッチャー今村に交代で先頭賢介に四球。また送って中島が三遊間にという展開。今度は三塁に進む。浅いセンターフライで賢介が生還同点。カープはダメで、ファイターズは虎の子の1点をもぎ取った。両チームの実力の差を見せつける決定的な場面でしたね。
 確かに前回も7回でジョンソンは捕まったというか、打たれだした。100球が一つの目処になる投手なんでしょう。そういう要素を考慮したというのは十分わかります。しかし789の8回を任されているジャクソンが二試合連続で打たれている。少なくとももう札幌ドームで投げさせられない。投げれば3連投という悪条件も付きますからね。そう考えると7回まで引っ張る。出来るだけ引っ張って、ヘーゲンスか大瀬良なんか挟んで今村と繋いで最後は中崎。ファイターズがマツダに合わなかったように、どうもカープサイドも札幌ドームに合わないという傾向がある以上、今投げているジョンソンに託す。同点覚悟で出来るだけ引っ張って、延長を視野に中継ぎは温存すべき所。そういう場面で789の3枚を通常通り投入するという継投は大問題でしょうね。

 どういう決断を下すにせよ、大事なシリーズ・短期決戦でその都度その都度、調子を見極めつつ状態のいい選手から使っていくという短期決戦のセオリーを無視したことには違いありませんね。継投のやりくりというのはどの監督・コーチでも頭を悩ませる問題ですが、決まり決まった789回のパターンに固執する。JFKで毎回投げさせる投手が同じということをやるのは愚か極まりない判断・決断でしょう。パワプロのCPUじゃないんですから、毎回同じことやっていれば良いのならば監督なんて必要ないでしょうに。監督個人の意志・裁量が極力反映されない決断をする≒責任逃れですね。そういう官僚の前例踏襲主義のような決定をする人間を監督にする組織というのはろくな組織ではないでしょう。谷元・宮西・バースをその日の状況に応じて使い分けた。クローザーをその日ごとに柔軟に使い分け、見事に結果を出した吉井コーチと極めて対蹠的でしたね。

■追いつかれた時点で負け確定。ラストはまさかのサヨナラ負け、しかもクローザーが満塁弾被弾
 第四戦でのジャクソンのスライダー・ウイニングショットを狙って打ったレアードはキャッチャーとして非常に嫌なタイプと。大谷との対決で、ジャクソンはパワーピッチャー。速球・ファールでカウントを稼いでスライダーで勝負をするタイプ。追い込んで外に落したいがそういう球を持ってない。インコースか膝下にスライダーを投げるしかない。
 最後は札幌ドーム初登板の中崎が西川に満塁弾を打たれて前田さんが「ホームランはないだろー」と叫んでジエンド。賢介にファーボールを出してからなのですが、左打者相手に制球が良くなかった。急に悪くなっていました。まあ、正確にはその前の陽に対するインコースの勝負球が甘く入ってレフトフライというところからですが。で歩かせてからバント&ヒットで岡へのデッドボールなのですけども、問題のデッドボールの前のバントとヒットはピッチャー前の当たりで、中崎が処理をしたんですよね。それで慣れないマウンドから降りる時に足でも痛めたのか、内野安打を自分のフィールディングのミスと捉えたために動揺でもしたのでしょうか?更に続く左バッター岡にデッドボールとなりました。岡が怒ったのはそれまでも執拗に危ないところに行っていたからですね、ぶつかってはいませんでしたけど。避けられるところなともかく絶対に避けられないところに行きましたからね、思わず怒鳴ってしまったんでしょう。で、さらに制球のつかない左打者が出てきた時点で勝負は既についていたというところでしょうね。
 また、バントの後で一度投手コーチがマウンドに行っていたので、そこで間を取ることが出来なかった。両軍ベンチ騒然という緊張の場面で、中崎を落ち着けるために間を開けることが出来なかった。あそこで石原が一度マウンドに行ってほしかったですね。もしくはファーストかサードがマウンドに行って肩を抱いてアドバイス・声掛けで間を開ける。一呼吸間をとってほしかった。ファーストがエルドレッドサードが小窪。どちらかにベテラン新井がいて、そういう事が出来れば…。歳を考えれば守備はもうキツイから無理でしょうけどね。
 
 で、10・27のプロ野球ニュース解説。大矢いわく、レアードはちょっとスピードの落ちるアウトコースよりにツボがある。そして高く浮く甘い球。大野とは違って市川はインサイドの速い球を上手く使う。高木いわくファイターズは大谷・中田・レアードがしっかりしている。が、カープエルドレッドしかいない。そしてエルドレッドの攻め方、インハイにきっちりいくようになった。ファイターズは本当に攻め方を知らなかったのか?インハイを付けきれなかったのか気になる所。4番にエルドレッドだが、穴が大きいエルドレッドを4番に置くか?という高木の疑問に、大矢は「僕は置かない」とのこと。まあ、そういう意味では4番の差なんでしょうね。4番を打てる中田にレアードが控えているファイターズと1~3番はタナキクマルと揃っていても4・5番がいないカープの差と言えるでしょうね。
 ジョンソンのインサイドの使い方、石原のリードが上手かった。高木曰く、7回の犠牲フライで賢介の生還。肩の強いライト・鈴木誠也が取ったほうが良かった。ライトに任せてほしかった。ホークス柳田のように強引に奪い取っても良かったのでは?と。
 エルドレッドがそれたボールを倒れ込みながら捕球しましたが、守備上手いんですね。ファーストの捕球能力は内野の守備力に直結するといいますが、こんなところも広島がリーグ制覇できた要因なのかもしれませんね。

■第六戦 inマツダスタジアム 野村VS増井 4-10
 まあ、もう言うこともないのでラストの締めに入るのですが、間違いなくこの試合でファイターズが勝って終わるだろうなという展開になりました。広島サイドは、内弁慶シリーズになることを願って闘うしかなかったでしょう。言うまでもなくそんな都合のいいことは起こらないし、甘い考えが通じるはずもないわけで。
 カープはこのシリーズ一貫して優位な展開で進めていた。広島ペースの試合運びをしていました。殆どすべてカープ先制で、第三戦で先制を許してもすぐに点を取り返してカープリードの展開にもっていった。このシリーズを見ていない人に全ての試合の6・7回までを見せて、どっちが勝ったと思うか尋ねれば、どう答えるか?そしてカープは7・8・9の三枚が機能していて、ファイターズの三枚が機能していないことを付け加えれば、カープ日本シリーズを制したと10人中10人がそう答えるでしょう。
 とにかくカープは7・8・9回というの大事な終盤に失点する(三戦目は延長10回ですが同じこと)。終盤になればなるほど重要な一点を取ること、一点を守ることという野球のセオリーが出来ない。となると、カープが勝つ試合展開は初戦・二戦目のように4点差以上の大差をつけるしかない。3点でもいけるかも知れませんがまあ何れにせよクロスゲームではまず追いつかれて逆転負けする。打線が序盤に大爆発するしかない。そういう前提で最終戦に突入しました。

■考えられない8回での大量失点
 今回は珍しくファイターズがリードしてゲームを進める。これまでの勢い・流れを引きずった展開となりました。劣勢から5・6回で1点ずつ追加して追いつくというこれまでにないゲーム展開。これならばひょっとして同点のまま9回サヨナラもあるか?とかすかな希望を抱かせながらの件の8回の満塁弾。
 2アウトからあれよあれよと3連打で中田で押し出し。そしてピッチャーバースにタイムリーを打たれてしまい、限界だろうというとこでも投手を代えずジャクソン続投。挙げ句にレアードに満塁弾という???な展開に。伊集院さんがラジオで「勝つにせよ負けるにせよ、今日だけは勝って明日黒田の最後の登板だけは見たい。そういう一種異様な空気に包まれて相当なプレッシャーがあった」。レアードのところも「あれよあれよという間にヒットで繋がれて混乱している所でまさかのバースのタイムリーで何が起こったか分からなかった。そこで更に満塁弾。あっという間の出来事だった」と。観客席・広島ファンからすると本当に衝撃な展開過ぎて血の気が引く思いをしたところではないでしょうか?
 ファンがそうなったとしても何の問題もない話ですが、指揮官・ベンチの人間がこれでは困る。もちろんベンチに居るコーチや監督がどう思っていたかはわかりえませんが、彼らも同じくパニックになっていたんでしょうね。でなければレアードに打たれた後での大瀬良交代というのは説明が付きませんからね。もう今日負けたら終わりという場面でなんで?としか言えない。
 大事な1点を争う場面でこのシリーズ調子を落としていたジャクソンを登板させたことも疑問ですし、使うのならばこのような不出来、ピンチを作ることを想定して、すぐ降ろすことも計算して使うはず。北海道で3連投させてあげくこれですから、もうなんと言って良いかわかりませんね…。
 まあ何度もいいますけど選手を信頼する・任せる・心中すると言えば聞こえはいいですが、要するに何にも考えていないということですからね。心中するというのは、あらゆる手段を尽くして他に打つ手がない。ここでもうこの選手が打たれたらどうしようもない。他に彼以上の選手はいないという状況・場面ならばわかりますけども、そうではないですからね。
 人事を尽くして天命を待つではなく、初めからこの回で使うとただ決めて状態・試合状況を無視して使っているだけですから、最低な采配としか言いようがありません。
 8回という大事な終盤で、しかも今日負けたら終わりというゲームで、2アウトからファーボール挟んでの5連打で6失点という展開はなかなか見れないゲームでしょうね。

■危機管理・継投・投手コーチの差
 吉井コーチはいつものようにあらゆる投手を試して、あらゆる状況・展開に備えるようにしていました。ベンチ全ての投手を使って、先発がろくに機能しないという最悪に近い状況でも勝ちを拾う展開に繋げていきました。対照的に緒方監督・畝コーチは何も考えない投手起用・継投。こういう時にどうするか、危険球・故障などのアクシデント、先発・勝利パターンに投げる投手の不調に予め備えて、投手陣を整備する・試すという発想がなかった。勝ちパターン以外はヘーゲンスと大瀬良くらいでしょう、確か投げたのは。バースの活躍が際立ったシリーズになりはしましたが、他に石井・井口・鍵谷なども使って勝ちを拾いました。ベンチ入り投手で使わなかったのは万一の際のロングリ&右打者対策の左投手&既に構想から外れていた吉川以外では白村くらい。ベンチ入り全員で戦ったファイターズに対し、勝ちパターンに拘ったカープの差ですね。
 一岡や九里や福井を上手く使いこなせなかったカープの投手起用・継投には大きな問題があると言えるでしょうね。この記事(※参照―【日本シリーズ】広島の「DH解除」にネット裏から異論噴出)なんかにあるようにDH解除をするなど戦い方に大きな問題があります。都合の良いこと・都合の良い展開になるということしか考えていなくて、それ以外のパターンに入った時に、予想外の事が起こった場合に極めて脆いという拙さがそこにはあるでしょうね。危機管理の思想がそこにはない。危機管理思想を徹底してペナントを戦い、短期決戦を見据えたチーム作りをしなければならないでしょう。
 まあ、アニマル浜口氏が五輪で娘の敗戦について、引き分けでポイント先取という極めて有利な場面で逆転負けして、「あの場面では足を取られてから投げられながら返す以外にない。そうされないように徹底してそうされない練習をしてきたのに、それをくらうなんてなんていう負け方をしたんだ…。なんて言う負け方をしたんだ…。」とぼやいて呆然としていたのを思い出しましたね。
 松山という大谷キラー、大谷からプロ初HRを打った選手がいて、このシリーズでもまた大谷からHRを打つという最高の展開になった。絶対的な投手から勝利をとる。まず厳しいと思われていた大事な初戦を取れて、しかも二戦目も続けて取れた。これ以上ない最高の結果となった。ファイターズは残り5試合で4勝しないといけない。もう殆ど不可能。これだけ幸運が舞い込んできても活かせないというのは相当な実力差・問題がそこに内包されているということ指揮官の決断欠如・投手継投の拙さ・短期決戦に必要な戦力整備欠如などの問題を解決しない限りこの広島カープの短期決戦での弱さというのは依然変わらず続くでしょうね。

■バランスの悪いカープの戦力・左欠乏症
 で、最後なんですけど、何かの記事でどうして清宮を指名しなかったのか?みたいな話で、カープは年齢別にどのポジションの選手がどれくらいいて、チームに求められる選手が一目瞭然でわかる。清宮はそこにハマらなかったから早々とカープは撤退した。長期的なビジョンがあってそれに沿って動いているカープは素晴らしい―的な記事がありました*1
 で、「え?」っていう話になるんですけど、今年散々話題になりましたが、広島は左投手・左のリリーフがいない。左のワンポイントリリーフがいないから勝負所で筒香に打たれて負けたというような場面がありました。先発左腕に左のワンポイントに、ロングリリーフ。7・8・9回も必ずというわけではないですけど、やはり左投手を1枚挟みたいもの。森福がやっていたように7回でもいいですけどね。9回岩瀬はちょっとというかかなりレアなケースですけど、右が三枚続くというのはなるべくなら避けたい。こういう事を考えても明らかに&絶対的に左投手が足りない。これでどこにビジョンがあるといえるの…?そもそも広島は右のロングリリーフもよくわからない。右のロングリリーフは誰なんでしょうかね?
 また、このシリーズでも加藤→メンドーサで目立ちましたがとにかく左バッターが弱かった。松山が活躍したのは初戦の大谷のみで優秀な左バッターは田中と丸くらいでしょう。これはいくらなんでも問題がある。この広島東洋カープ部には問題がある。左投手どころか左打者も足りていない。左欠乏症というのを何とかする必要性があるでしょうね。広島カープは。

 まあ、そういう問題は2016年の時点でわかっていたはずで、そういうチームの課題・欠点に手を付けないからこそ、今年(もう去年ですが)風物詩を爆発させたわけで*2。まさに負けに不思議の負け無しというやつですね。しばらくリーグで優勝を狙えるチームなだけに、今年・来年いつまた風物詩となるかわからない。こういうリスクを抱えているのに放置していていいのでしょうか…。
 金村さんが采配を痛烈に批判して、試合後鈴木誠也が泣きながらバッティング練習をしていたという話をしていましたが、選手たちが可愛そうですね。丸・菊池の存在は前から知っていましたが、田中・鈴木といい選手が揃って、凄い良いチームになった。それがこんな大逆転負け・惨敗をするのですから心情察するに余りあります。まあ問題の本質に手がつけられることはないでしょうね…。オーナーが代わらない限りは。

アイキャッチ用画像

*1:ちょっと話は違いますが、これにも書かれていますね。広島は、なぜ清宮争奪戦から撤退したのか? 再び脚光浴びるドラフト戦略3カ条 | VICTORY

*2:大砲と先発投手・クローザーなど、戦力を集めればそれで勝てると考えるかつてのダイエーホークスに似てきているとみなしても良いかも知れません。大砲ではなくて俊足巧打者という点では決定的に違いはあるんですけどね。これで強打の捕手が揃えば…

2016日本シリーズ広島カープVS北海道日本ハムファイターズ 不思議な日本シリーズ<後編>何故広島東洋カープは短期決戦に弱いのか

※2018の日本シリーズのために、アクセスが増えたので要点を追記します。広島カープがなぜ短期決戦に弱いのか。
 ①セ・リーグパ・リーグの実力・地力の違い。
 ②DH制の有無によるパ本拠地、ビジター・アウェイでの弱さ。
 ③短期決戦の戦い方・セオリーを知らないor無視した戦い方をする。
 ④短期決戦を勝ち抜くための選手・脇役的な選手がいない
 ⑤監督が戦術を考えて選択をしない。戦略・戦術を決める頭脳であるはずの監督がその役割を果たしていない
 ―とまあ大体そんなことを書いているということを念頭にお読みになっていただければ宜しいかと思います*1。①は当たり前のことなので別に触れてはいませんけどね。この文は個人的に思った感想文、書きたいことをただ書き連ねただけの文でまとまり・一貫性に少し書けるものなので、本質・要点を絞って伝える文になってない。なので、今一度ポイントだけ絞ってまとめておきました。

 ※※今、読んだらあんまり上手いまとめになっていなかった、というかこの文章のまとめになっていなかったので、文章の<前書き>・<導入>を兼ねて再度追記します。
 前回書いたとおり、日本ハムファイターズというのはいくつかの点から短期決戦が苦手、弱いチームであるということがわかる。その短期決戦を不得意にしているチームに対し、広島カープはなんと球界を代表する絶対的な投手大谷を打ち崩しホームで連勝するという幸運・最高の結果を引き出したにもかかわらず、日本シリーズで敗退することになってしまった。短期決戦で連勝しながら4連敗で敗退するということは正直近代野球以後の現代ではありえない。33-4で4連敗するより難しい負け方、考えうる限り最低最悪の出来事であると言える。
 では、どうして4連敗という惨憺たる事態を招いたのか?その理由は一体何なのか?それは広島カープがファイターズのさらに下を行く短期決戦下手だから。そもそも短期決戦というもの・戦いゲームの構造を理解していないからということに尽きる。短期決戦というのは言うまでもなく彼我の戦力差によって決まるものだが、その当たり前の要素の次の要点となるのは、まず守備・守りの計算。そして相手に対する戦略・戦術プラン。つまり指揮官の事前の戦略と当日の現場・結果に対して臨機応変に戦術を繰り出す采配によって決まるもの。それが拙いというだけならばまだしも、最後の指揮官の采配という点では拙いレベルを通り越して存在していないのだから、組織が機能するわけがない。組織が機能不全に陥って機構を停止すれば惨敗をするのは火を見るより明らか。
 守備の軽視、対ファイターズ戦略・戦術プランという采配の欠如、指揮官の采配の放棄、それらがカープがファイターズの下を行った。下回った要因と言えるでしょう。(追記ここまで、以下本文)

 前回(2016日本シリーズ広島カープVS北海道日本ハムファイターズ 不思議な日本シリーズ<前編>何故日本ハムファイターズは短期決戦に弱いのか)の続きです。前回書いたように何故、菊池のバスターと丸の意表を突くバントで広島がシリーズで勝てないと言えるのか?どうしてこの素晴らしいプレーがカープの敗因になるのか?それはこれが指揮官・緒方監督の判断によるものではないからですね。
 日本ハムファイターズの敗因は、日本シリーズという短期決戦用の策がないこと。短期決戦では相手の特徴を理解し、相手の長所を殺しストロングポイントが発揮できないようにして、短所をついていくことが基本です。また、打線の処理で誰を殺すか、どのバッターに焦点を当てて集中的にアウトを重ねるのかというのがポイントになるように、打線を線にしないで分断して処理をする(=アウトを取る)、失点を最小限に抑える工夫が大事になります。そういう工夫がまるで見られないシリーズだったので残念でしたね。お互い戦術と戦術をぶつけて知恵を巡らせるという駆け引きがあまり見られませんでしたから。
 最近の野球の特徴と言っていいかも知れませんが、一試合一試合、途切れてしまっている。バラバラになっている感が強いんですよね。前の試合を活かした判断、プレー。そして次の試合につなげるための工夫・配慮というものが見られない。ある程度のスパン、特定の期間でトータルに考えて長期的視点から戦術・戦略を構築するということをしない傾向があるように思えます。その試合が終わったら、それまでの流れ・経過はポイ捨てして、また違う試合にゼロから取り組む。1カード=3試合で捕手を固定しない、捕手軽視なんかもそうですよね。明日は明日の風が吹く的な傾向が非常に強くなっていて興ざめしてしまいます。

■ファイターズ同じく短期決戦の基本・セオリーを知らないカープ。そのカープ日本シリーズで惨敗するのは当然
 話をもとに戻して、日本ハムファイターズがその基本をやっていないというのと同じく、広島東洋カープも同じ。その基本を抑えていない。日本シリーズという短期決戦用の策がない。指揮官が戦略・戦術を練って、その基本プランに応じて、状況を判断し決断する。指揮官の指示を明確にコーチ・選手に伝えて、実行するという意志決定過程がそこに存在していないのですね。組織としての明確な指揮系統が存在していない、これではチームとは呼べない。そういうチームが短期決戦で弱いのは至極当然、当たり前すぎるほど当たり前ですね。
 広島のリーグ優勝は25年ぶりだった―ということは、日本シリーズの経験が25年ないということ。ベテランも黒田や新井くらいで経験豊富で支柱となる存在がいない。新井が阪神日本シリーズで何回も活躍してチームを日本一に導いているとかでもあれば、また少し話は違ったのでしょうけど、もちろんそういうわけでもない。圧倒的に経験値が足りない。以前書いたように、広島カープが日本一になるには数回は日本シリーズに出続けて経験を積む必要がある。短期決戦の豊富な経験を積んで初めて日本シリーズに勝てるようになる。クライマックスは同じリーグ同士の対決なので違うリーグの短期決戦の経験とは別ですからね。どう見ても日本シリーズの経験値が足りない。まあ、そんな当たり前のことも理解せずに拙記事に難癖つけてきた輩がいましたが(笑)。
 ①日本シリーズ用の特別な戦術・戦略の欠如、②経験値不足、③頼りになるベテランの欠如。この三点が広島の弱点であり、ままファイターズと共通するんですね、実は。それでも両チームを比べてみると、②でも③でもファイターズの方がまだ上回っている(③は互角にしてもいいですけども)。そういう点でファイターズが上を行った・シリーズを制することが可能だったと見ることも出来るでしょう。より正確に言うと、ファイターズが上回ったと言うより、カープが下回った。勝手に自滅していったというべきですね。

■シリーズ前の懸念と二連敗後の緒方監督への評価
 チーム力というかパ・リーグで普段から揉まれているファイターズが普通に勝つだろう。しかし、シーズン終盤怪我が多発して、万全とは程遠い状態。そこで経験値不足な大谷が乱調となり、初戦を落してしまうと…。短期決戦に強いチームではないだけにファイターズがコケる可能性がある。それがちょっと怖いなぁと戦前は見ていました。ファイターズが勝ってもらわないと球界改革が進まない、セ・リーグの停滞・腐敗状態が改まらない。球界全体の構造・流れが変わらない。ですから、ここでファイターズが負けると、下手すればまた10年は球界改革が遅れる。だから、そうならないようにちゃんと取りこぼさないで上手くやってくれよ…と思って見ていたのですが、連敗で「ああやっぱりやっちゃったか…。何やってんだよファイターズ…。そしてこんなに短期決戦に弱いチームに負けやがってバカ工藤&佐藤義ィイ!」とイライラしていました。
 それとは別として、戦前から緒方評はあまり良くなかった。そんな大した監督だとは思っていなかったので、件のバスターとバントで「こんな思い切ったことをやる監督なのか…。ちゃんと作戦を実行できる監督じゃないか。こういうことをやってくる監督ならば、戦術面で広島にやられてしまう、日ハムは負けるだろうな…」と思い、半ば諦めていました。中村晃めて三戦目を見ました。

■二連敗でファイターズの敗北・カープの日本一は決まったも同然
 第三戦は、ファイターズのホームに帰る。ここで流れを変えるしかない。ココで流れを変えれば少し分からなくなる。というかもうホームで三連勝するしかファイターズに勝ち目はない。大谷はもう投げられないし、増井も頼りにならない。広島・マツダのマウンドで実力を発揮できる先発が考えにくい。クローザーだったマーティンも故障でいないため、後ろにつないでいく投手継投でも四苦八苦。将棋で言うと金2枚・銀1枚落ちくらいの感じでしょうか?状況は絶望的。これでここから日本ハムがホームで3つ取ることが出来るか?広島は789に投げる三枚が機能しているのに対し、こちらは誰が789投げるのかわからない状況。これでファイターズが勝つと見なすほうが不自然でしょう。
 さまぁ~ず三村さんがツイートして炎上していましたが、「ファイターズってこんなに弱いのか」というのはプロ野球ファンなら当然の感想でしょう。短期決戦で大事な初戦・二戦をいくら敵地だとは言え、連続して落とすことはありえない。それだけは絶対しないように闘うのが普通。負けたとしても打線を丸裸にした、これでここから1点も取られない。すべてわかった!とでも言うなら別ですが、いくら本来のチーム状態でなかったとは言え、この結果を見れば栗山監督は短期決戦に向かない監督と言えるでしょう。
 結果的にはその後、四連勝で栗山監督の想定内だったのでは?という人もいるかも知れませんが、三戦目は辛勝。9割5分負けていて、ぎりぎりなんとかひっくり返した形。いつ負けてシリーズ敗退となってもおかしくないゲーム運びでした。終始相手ペースで戦ったゲームで計算内・想定内とは到底見做すことは出来ないでしょう。

■2016のファイターズはリーグ制覇・CS突破は素晴らしくとも日本シリーズの戦い方は稚拙
 それだけ投手陣の不調が大きかった。むしろこの状態でよくパ・リーグで勝ち上がってこれたと見ることも可能ですね。その点の評価は決して落ちないですし、称賛されるべきでしょう。しかし、本来の7割位のチーム状況で万全な戦い方ができない。不利な状態で最終決戦に望むという状況にある以上、本来取らない作戦・奇策で立ち向かうべきなんですね。普通にやったら、ファイターズの7割はカープの10割を上回るわけが無いのですから*2 
 何度も言うように、ペナントのような長期の戦いと違う、短期の戦いではいつもと違う戦い方が必要になる。その短期決戦においていつものファイターズの野球をしてしまった。これが大問題なんですね。チームには基本の形があり、それを基準に闘う。しかし、いつもと違う短期決戦ではそれをベースに奇策を盛り込む・特別な戦術をその上に重ねなければいけない。割合はどうなるかは状況次第で変化するためにわかりませんけども、大体いつもの戦い方=基本・基盤が7で奇策・特別な戦い方が3という7:3位の割合ですかね。まあチームスタイルやその時のチームコンディションにその年の対戦相手などに応じて割合は可変するものでしょうけどね。
 いずれにせよ何割かはいつもと違う奇策・対策を盛り込むものなのにもかかわらず、いつもどおりのファイターズの野球をした。これは短期決戦に弱いチームだなぁとしみじみ思いましたね。あまり走らず、犠打で繋いでいく。これは手堅い王道野球です。が、しかしこの王道野球というのはこちらの戦力が確実に相手の戦力を上回っており、かつペナントレースのような単位で戦った時の話です。そういう条件を満たしてのみ効果を発揮すること。巨大戦力を保有するかつてのジャイアンツのような思想ですよね。ジャイアンツのように細かい作戦を実行できる選手が少ない・野球脳が足らない選手が多いとでも言うのならばともかく、どうしてファイターズのような球団がこういう方針を採用してしまっているのか不思議でなりませんねぇ…。

 そしてそのような稚拙な戦い方をしたファイターズに敗れてしまった広島カープはもっと大きな問題を抱えていると言えるわけですね。次はその点にスポットを当ててみたいと思います。

■シリーズ全体を決めることになった第三戦の決断欠如の緒方采配
 で、本題の緒方監督の話ですが、三戦目の古田氏のテレビ解説で元広島の前田氏に話を振って、こんなことを言っていました。古田曰く

 「カープは守備・攻撃が自由・各個人の裁量に任されていますよね。」

 一回裏のランナーがいる場面で、長打が出る場面ではないから、外野がもう少し前に出ていい。なのに外野は殆ど定位置だった。これを見て古田氏がこういう解説をしていたんですね。ハッキリ言ってこれはありえないこと。選手の自主性を重んじるという領域ではない。外野の守備位置をその選手に任せるなんてありえない。その打者の調子・投手の調子を把握して配球を考えているキャッチャーが指示を出すというのならまだしも、大事な短期決戦で外野手各個人がそれぞれ位置を自分自身で決めるなんてありえない。指揮官の判断もしくはコーチが指示を出して決めるべきことでしょう。
 そしてこの試合・第三戦目は延長でファイターズが制しましたが、そのサヨナラの場面は次のようなものでした。延長10回裏、西川が走って2塁へ。西川が還ればサヨナラ、外野は前進するはず。丸がコーチの指示を確認して定位置よりも少し前に来たくらいであまり位置を変えなかった。それを見て、古田は―ということは歩かせるんでしょうねと、語る。しかしバッテリーはゾーンで勝負して、石原がマウンドへ確認しに行く。大瀬良は勝負するんですか(もしくは勝負しないんですか)?という顔付きで石原やベンチを見ていた。そういうどっちなんだ?と誰もが思う中で、「ベンチの指示がバッテリーに任せるというのならバッテリーが考えることだが…」と古田氏が解説していた所で結局、勝負を選んで大谷がヒットを打ちサヨナラとなりました。勝負に至る過程で明らかにベンチと選手の意思疎通が取れていない・上手く図れていない。これではピンチにおいて、危機管理が出来る・臨機応変の対処ができると考える事はできないでしょう。いくつかのケースを想定しておいて、すぐ指示が出せるようになっていなければ選手が目先の勝負に集中することは出来ませんからね。
 そして、この決断の根拠が結局よくわからない。個人的に理解が出来ないんですよね。大谷>中田と決めていたなら最後まで中田勝負で敬遠すべき。投手ジャクソンと大瀬良の違いなのか?ジャクソンならともかく、大瀬良ならば大谷のほうが抑えやすいという判断・根拠があったというのか?また中田の次の岡を見れば岡勝負というのも十分にある。ジャクソンが岡を簡単に打ち取っていたのだし、岡勝負でいい。最悪大谷・中田二人敬遠して、岡と勝負ではないのか?打線単位で考えて処理をすることを考えれば後者でしょう。大谷・中田二人からアウトを取ることと、岡とどちらが怖いのか、どちらがアウトを取れる可能性が高いのか言うまでもないでしょう。1点でゲームが決まる場面でなぜ警戒していた大谷と勝負なのか理解できません。大谷・中田にはくさい所を突き続けて駄目なら駄目でいい。結果的に歩かせて満塁にしてしまってもいい。1点勝負でどのバッターからアウトを取るのがベストなのかを考えると大谷・中田はカウント次第で勝負すべき。1アウト満塁でもう歩かせられない場面になったとしても、岡で2つアウトを取る(無論、三振でアウト1つ止まりならその次のバッターとさらに勝負)という選択でよかったでしょう。トータル3人でアウトを取るという視点が何故なかったのか?今日負けるとしても、主軸・クリーンナップの大谷・中田に打たれて負けるのと、伏兵岡どちらに打たれて負けるのがシリーズ的にいいのか、本当にちゃんとした計算があったのでしょうか?それがあって、大谷・中田勝負のほうが抑える確率が高いというのだったなら良いのですが…。どうもそういう物があったように思えないんですよね。ベンチのドタバタを見る限り、思い切っていけ!位の感覚しかなかったように見えました。

■シリーズ敗退を決定づけた外野守備軽視
 10/25の第三戦は本当に不思議な日本シリーズを象徴する試合でしたね。また、その前の8回の勝負所。カープが1点リードで8回を迎えた所、大谷敬遠で中田勝負、レフトの松山がボールを後ろにそらしてしまって同点どころか逆転を招いてしまったのも言うまでもなく疑問。何故そこで外野を松山から赤松に変えておかなかったのか?守りきる・逃げ切る展開で次の回松山に打順が回るなどと欲張るべきではない。初めから中田に打たれる前提でいたのか?守備固めをしなかったというのは、同点のリスクが高いということ。もしくは同点延長で十分こちらに勝算があるということ。最悪同点でもOKだと判断したということ。であるならば、外野に飛ぶ際どい打球は無理するなという指示を出しておかなくてはいけない。後ろに逸らすということだけはするなよという指示を出さなくてはいけない。それを怠った。指揮官が判断・決断を放棄した。これで広島カープのシリーズ敗北が決まったと言っていい場面でしたね。
 どういう考えを持ってああいう形にしたのかはともかく、いずれにせよカープの弱点外野守備がここで出たわけですね。どこで書いたか忘れましたが、カープがホークスにむちゃくちゃ弱い・天敵状態になっているのは、走られ放題であることに加えて、外野守備が拙い。広島カープというかセ・リーグ全体の傾向ですが、外野が狭い分、ヤフオクドームや札幌ドームの広い外野で致命的なミスをしたり、守備範囲が狭い外野手をおいて捕れそうな当たりもヒットにしてしまうという傾向がありました*3。一点を競ったクロスゲームで終盤エルドレッドだったか忘れましたが、外野の何でも無い当たりを捕れずに大事な一点をホークスに取られて敗戦という試合があったのを覚えていますからね。外野守備のレベルの差というのも交流戦パ・リーグが圧倒する理由の一つになってるわけですね。長年自チームの課題を克服できずにいる、対策を打ってないことも広島カープの問題点でしょう。

■短期決戦用のチーム作りを怠ったまま日本シリーズに挑んだカープが敗北するのは必定
 1点が大事な終盤で外野の守備固めを怠る。外野の守備固めをすると、得点力が落ちるのが怖くて代えられない。そういうチーム作りをしていたことが本質とは言えないまでも、カープの敗戦の要因の一つと言えるでしょう。レギュラーに素晴らしい選手が揃った、主力がリーグを代表する選手だらけになったとは言え、選手層が厚いとは決して言えない。であるならば、脇役でそれぞれ役割をこなせる選手を育てる・トレードなどで獲得しておくべきだった。
 たとえば守備固め代走要員に左右の代打の切り札。選手を交代した時の控えもしくはアクシデントのときのためのユーティリティープレーヤーなどですね。そういう役割をこなせる選手を普段から求めて試合で使うようにしておくべきだった。こういう選手がいない以上、短期決戦を考えたチーム作りがなされていないとしか思えない。短期決戦・日本シリーズを戦うつもりがなかった・勝つつもりがなかったとしか思えない。各戦局で重要になる役割に応じた選手がいない。これでどうやって日本シリーズを闘うつもりだったのか逆に聞いてみたいくらいですね。「いったいどういうつもりなのですか?これで短期決戦どうやって勝つつもりなのですか」と。現代野球のセオリー無視という要素は決して見過ごすことができないでしょうね。

■指揮系統・意志決定が存在しない広島カープ
 後でわかったことですが、広島カープはこのように選手が判断する領域が多すぎる。菊池のバスターも丸のバントも、実は緒方監督の判断・策ではなく選手自身のアイデア・思いつきだったとか。短期決戦の重要な場面での判断を選手に任せるということは、自分自身は何も考えていないと言うのに等しい。監督が選手の意見を聞きいれないとかそういう類の話ではなく、基本的にプレー・作戦の判断は監督・コーチの仕事。いくつか状況に応じて選択権を与える。この場合はこうして、違う場合はああするという指示を出して、最終的にどれを選ぶか選手が決めるということももちろんあります。しかしそういう場面ではない。大事な場面では絶対監督・コーチが明確な指示を出さなくてはいけない。流石「行けたら行け」というあやふやな指示を出す監督を輩出したチームだと思いました。
 戦略プラン上、ここは少しおかしな指示でも長期的判断に基づいてセオリーから外れる選択をするというのは監督にしかできない仕事。選手は指示がおかしいと思っても長期的な判断・作戦立案をすることはできないし、わからない。ですから言われたことをただ実行するしかない*4。目先のプレー・仕事に専念することが選手の役割だからです。選手が各自勝手に判断して行動していたら、組織は機能しない。チームは破綻します。
 監督が作戦立案・采配を放棄している。これでは監督が存在していないのと一緒。ベンチにFAXが送られて来て、その指示どおりに采配が決まるのと一緒ですね。これで勝てという方がおかしい。いったいどういうつもりで采配しているのか。またどういうつもりでフロントは彼を監督にしたのか。地元メディアは荒れに荒れてフロントを叩くレベルでしょう。ちょっと近代組織の常識からは考えられない人事ですね。

 要点は語り尽くしたので、もう殆ど重要なことで語り残したことはないのですけど、プロ野球ニュースメモや古田さん解説でメモったことがあるので、それにチラホラ触れて終わりたいと思います。中途半端な長さになるのでおまけとして別枠で日本シリーズの感想を残しておきます。おまけも意外に長くなりそうなので、ちょっとバランスがおかしくなったら、またこちらにいくつか追記します。おまけ編→2016日本シリーズ広島カープVS北海道日本ハムファイターズ 不思議な日本シリーズのおまけ

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*1:守備軽視とか入れても良いんですけどね、それはまあいずれ書く2018の日本シリーズのところで書きましょうかね?いつ書くのか知らんけど

*2:セ・リーグ見ていないので、その時のカープの状態が10割か9割か断定できないんですけどね、実は7割だった!!ということもあり得るかもしれませんけど、まあ多分9割以上の状態だったと思います。

*3:ヤフオクドームはテラスができてからは狭くなりましたけどね

*4:無論、事前に監督・トップがこれこれこういうことでプランを立てているから、おかしいと感じるかもしれないが実行してくれと事前に説明することはありますけどね