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身体論・武術・スポーツ関係を分割してこちらで独立して書いてます 野球評論は辛辣に書いてますので苦手な方はご注意下さい。また基本長いので長文が無理な方はお気をつけ下さい

【山中慎介VSルイス・ネリ戦解説④】 ドーピングは体重超過よりはるかに悪質な問題

 続きです*1。山中の技術論をいずれ書くので③を飛ばして今回は④で、再戦で新しい展開があったのならば再戦での技術的な話をまとめて書いてシリーズの一番最後を技術論にしてもいいんですけどね。再戦は技術的に触れる点もないので。
 ①で書いた要点・前書きをもう一度書いてからスタートです。今回は試合後に発覚したネリのドーピング問題と、その処分についてです。

■前書き
 山中慎介とルイス・ネリ戦でのピント外れの声が大きいので書いておきたいと思いました。端的にいうとルイス・ネリを責めるのは筋違いであり、本当の問題はWBCどころかボクシング業界・構造・ルールそのものにこそあるのです。責めるとしたらそちらが筋。間違っているのは一人のボクサーではなく、そういう卑怯なやり方がまかり通ってしまう制度・システムそのもの。こういう卑怯な行為を禁止・厳罰化していないルールそのものなのです。
 そしてこの件においてはJBCも同罪。こういう事態が起こりうることは事前に想定できたのですから、そういう対処をしてこなかった以上、トップが責任を取るべき失態。責任を取らないJBC相撲協会以上に歪んだおかしい組織だということを我々はもっと認識すべきでしょう。
 また、このような試合を組んだ、プロモートした帝拳ジム本田明彦会長にも責任がある点を決して見過ごしてはならないでしょう。これらの責任を無視して、ネリ一個人を卑怯なクソ野郎として叩いて鬱憤(うっぷん)を晴らしても、問題は決して解決しない、また同じ失態が何度でも起こることを我々は理解しなければならないでしょう。ボクシング界の構造的問題から必然的に起きたのが今回のネリ騒動であり、その歪な構造が改善されない限りボクシングを見ない覚悟がファンには求められるでしょう。

■試合までの簡単な経緯
 山中慎介が3月1日にルイス・ネリ(メキシコ)と再戦し、敗れました。前年の8月15日以来の再戦であり、その試合で山中は4回2分29秒TKO負けでプロ初黒星を喫し、WBC世界バンタム級王座の13度目の防衛に失敗しました。この試合は具志堅用高の防衛記録に並ぶということで話題になったので、多くの人が注目した試合でもありました。

●ドーピング陽性の次は二階級のウェイトオーバー
 しかし、試合後ルイス・ネリのドーピング検査で禁止薬物のジルパテロールの陽性反応が出たことで、筋肉増強剤の用途での使用を疑われ、WBCから再戦指令が下り、今回の再戦という流れになりました。そのような経緯・前提であるのにもかかわらず、ネリは体重を十分に落としてこなかった故に世論は沸騰。ネリふざけるな!という声が天下に満ちることになりました。
 バンタム級のウェイトリミットは53.5kgにもかかわらず、一度目の計量で55.8kg。これは二つ上のフェザー級の体重であり、二度目の計量でも54.8kg。一つ上のスーパーバンタム級の体重でした。きっちり体重を作ってきた山中慎介がふざけるなと怒鳴るのも当然。
 というのもボクシングは階級・体重が物を言う競技であり、実力差があったとしても体重が多い方が圧倒的に有利になるからです。相撲で「技の研鑽よりも安易な増量に走るとは嘆かわしい。押し相撲ばかりでまるで技量がない。技術よりもフィジカル・力ばかりになってしまっているから、見ていてつまらない」と批判されるのも同じですね。僅かの例外を除いてライトやミドル級のボクサーはまずヘビー級のボクサーには勝てない。故に体重制限・階級で区分して闘うことになっている。この前提を無視するというのは、ボクシングという競技構造を無視することですから暴挙としか言いようがありません。

 卑怯なネリを偉大なチャンピオン山中がスカッとKOして倒してほしいと願う人々の想いも虚しく、山中は返り討ちに遭い引退ということになりました。

■そもそも山中はドーピング違反者であるネリと再戦をすること自体がおかしい。するならば無効試合での再戦、王者山中VS挑戦者ネリの図式でないとおかしい
 簡単にこの試合の背景・流れをまとめたところで本題に入りたいと思います。最初に書いた通りネリを責めるのは筋違いです。体重オーバーという失態を犯したクソ野郎ということに異論はないですが、というか言語道断のサボテンポンチョタコス野郎!と腹立たしい対象であることに違いはありませんが、そこは問題の本質ではないのです。問題の本質の1つは、そもそもなんでドーピングで引っかかった違反野郎と再戦をするのかということです。
 ドーピングをした=アンフェアである。故意であれなかれ、試合が無効になって当然。明確な違反行為であることに変わりはないわけです。懲罰が下され、場合によってはボクシング界から永久追放されてもおかしくないわけですね。ところが、WBCによれば、明確な違反とは言えない・意図的な摂取であるという証拠がないと再戦指令を出したわけです。これは事実上の無罪放免に等しい処置でしょう※参照*2
 注にあるように、WBCはこれまでのドーピング検査でシロだったこと、過去の違反・前歴がないことを以ってネリに処罰を下しませんでした。メキシコの畜産業界では違法なジルパテロールが使用されることがあり、たまたまその汚染肉を食べてしまったとみなした。WBCは今回の陽性反応をアクシデントであり、意図的なドーピングではないと裁定したわけです。
 検体を日本に提供して改めて検査してもらって陰性だったとされています。―となると、ネリの薬物反応陽性は一時的なものであり、結局汚染肉によるもので、ドーピングをしたわけではないと見做すことが出来るでしょう。

●ドーピング検査で意味があるのは直前と直後の二回のチェック。過去の抜き打ち検査でクリーンという主張は無意味
 しかし、ドーピング検査というのは試合直前と直後の二つがポイントになるもの。試合直前に採尿しても検査後にこっそり薬物を服用することが可能なので、直前と直後の二回が必要になるわけですね(いくらなんでも競技をする直前にチェックさせろ!というのは不可能ですからね(^ ^;) )。その直前と直後の検体をチェックすれば違反したか、それともしていないかは一目瞭然のはず…。チェックが問題ないとするのならば、その検体を提出・診査すればいいだけ。
 そのチェックをパスしたのならば、一時騒がれたネリのドーピング疑惑は一時的な反応にすぎず問題ない。シロでセーフですから、再戦指令を出す必要もないわけです。「何だ、結局疑惑は疑惑でネリはシロだったじゃないか」で終わる話。
 しかし、文を読む限りちょっと記事がわかりづらい。過去の抜き打ちチェックの検体の再検査なのか、直前直後のチェックなのか書き方が下手でいまいち判断しづらいのですが、読んだ限り過去の検体提出だと思われるので、それ前提で話を進めたいと思います。

●アクシデントであろうがドーピング検査で引っかかった以上何らかの処分を受けるべき
 ポイントは直前直後の検体。それを診査してセーフかアウトかジャッジすればいいだけ。汚染肉かどうかなんて関係ない。プロアスリートである以上、ドーピングで引っかかったら罰というか一定の処分を受けるべきもの。逆にセーフならば疑惑があろうがなかろうがそれで良し。再戦をする必要もない。

試合前後のドーピング検査、及び違反した際の適正な処罰が一律に定められていないボクシング界は、プロスポーツとして異常
 そういう過程・一連の流れになるはずですが、世界戦という大事な試合でしっかりとしたドーピングチェックが行われていない…。しかも過去の抜き打ちチェックの検体で引っかかったことがないからOK、処分なしとするというのは筋が通らない。ドーピングの疑いがあるから再戦してケリを付けましょうというのはもっと意味がわからない。初めからそういう不透明な事態が生じないように、ドーピング検査を義務付けておいて、引っかかったらその深刻度・悪質さに応じて処分を重くする。ライセンス剥奪や一定期間の試合禁止、罰金…などの処罰を下すように定めておけばいいだけの話。こういう失態を招くボクシング業界というものの不透明さ不信感は今に始まったことではありませんが、心底がっかりしましたね。

■ドーピング問題を無視して再戦を許容したJBCも同罪・大問題。JBCWBCを認定団体から外すべきだった
 ドーピング違反を問題視して、処分と今後の薬物使用に対する徹底した取り組み・対策を約束すること。これを行わない限りWBCを認定団体から外す。更にJBCはドーピング違反を多発しているメキシコ相手(あちらのボクシング団体はCBLLもしくは、WBC直轄のFECOMBOXですね)にも、ドーピングに対する徹底した取り組みを要請し、それが甘い場合には以後関係断絶、メキシコボクサーとの試合を認めないといった徹底した対策を取るべきだった。

 そもそもIBFWBOを認めないのは世界王者の乱立で権威の低下につながるというロジックからですが、今回の一件で間違いなく権威は低下した。王者の価値ではなく、ボクシングそのものの価値が。ボクシングというスポーツ・競技の価値を守るべきJBCがボクシングの価値・権威を思いっきり低下させてしまいました。この責任は一体誰が取ってくれるのか、今から楽しみでしょうがないくらいです。

WBCの言い訳は詭弁、重要なビッグマッチでのドーピングをしていない証明にならない
 過去に違反を犯したことのないクリーンな選手ならいいのでは?と思う人もいるかも知れませんが、ボクシングはビッグマッチで大金を稼ぐシステムですから、大事なビッグマッチ以前にドーピングをしないのは当然※補足*3。世界王座挑戦やビッグネームとの試合、ここぞという試合だけドーピングをして、勝って名前を売るor大金を手に入れるということは当然考えられます。なので過去の抜き打ちチェックでの検体を再度診査するなんていう手法は何ら有効性を持たないわけですね。※補足*4
 WBCがこの試合は厳しいチェックのもとに行われたクリーンなものだった。だから処分なしの再試合で決着をつけようなんていう主張は全くの詭弁。
 そして、そういう論理を許容したJBCはおかしい。無効試合で山中が王者のままでない限り、WBCを認めてはならない。WBCを認定団体から外すべき。そうしないと筋が通らない。帝拳ジムや山中本人がどういう主張をしようが、どういう意向であろうがそんなことは関係がない。JBCは毅然とした態度で処罰を求めるべきだった。
 ドーピング問題が発覚した以上、今回の再戦はもちろん今後世界戦の直前直後には検査を義務付けるように規則を改善すべきだった。ところがJBCは何もしなかったその無作為は最早犯罪行為であると言っても言い過ぎではないでしょう。

●メキシコボクシング界の不作為・ドーピング対策の甘さ
 一時期話題になったように、過去に既に卓球でドイツ選手が中国で豚肉を食べてこのジルバテロール反応の陽性でドーピングに引っかかってしまったケースがあるわけです(自転車競技でも引っかかって失格となった事例があるようです)。全く前例がない出来事ではないわけです。中国とメキシコでは飼料にこういう薬物が混ぜられてドーピングにひっかかるという汚染肉の問題が昔からある。
 であるならばアスリートはこの二つの国での食事・肉を摂取する際には厳重に対処しなくてはならない。たまたま汚染肉を食べてしまったから陽性反応がでただけです、ごめんちゃい(テヘペロ)は通用しない。ドーピングの隠れ蓑になりかねないわけですから、知らずに食事をした時点ですでにアウトなのです。

■ドーピングは体重超過よりも遥かに深刻で悪質な違反。その問題・処分を軽んじて体重超過を過度に取り上げる歪んだ視点
 今回の事件で体重超過が話題となって騒がれましたが、そんなことよりドーピングのほうが遥かに罪が重い。体重超過はボクシングのルール枠上の問題でしかありませんが、ドーピングはスポーツ・プロ競技全体の問題ですから、これで厳罰にしないというのはありえない(勿論アマでもですが)。スポーツマンシップの問題に、健康上の問題等色々ありますが、ドーピングをやったもん勝ちで、クリーンな選手がバカを見る。正直者が馬鹿を見る世界が公平なわけがありませんから、いちいち説明するまでもないでしょう。
 もちろん、この薬物が目に見える明確な効果がない。件の検査の結果、間違いなく汚染肉の影響でしかないという事も考えられます。しかしどういう事態であれ、禁止薬物とされるものに引っかかった。ドーピング検査に引っかかったという時点で、ボクシング界に与える負のイメージは計り知れないわけです。ああ、やっぱりボクシングってそういう世界なのねとなってしまう。ダーティーな世界というイメージが払拭できなければ、確実に業界は衰退する。

●ドーピング問題を棚上げして再戦する帝拳ジム・山中はそもそも間違っている
 不思議なことに帝拳ジムも山中も、王者の権利・無効試合を主張しませんでした。再戦を求めて、処分を求めなかった。これがそもそもおかしい。どこかの週刊誌の記事で「前日計量よりも明らかに身体が一回り大きかった」「ジルバロテールは牛一頭食べない限り反応が出ないと聞いている。ふざけるな」「向こうのボクサーはドーピングが珍しくないから、事前検査を義務付けた」※参照*5―といった関係者や帝拳ジム会長の談があって、間違いなく意図的なものと考えているという趣旨の文がありました。
 ―であるならば、相手サイドが意図的にやったとみなしている確信犯であることに間違いないわけですから、無効試合で改めて防衛記録をかけて違う相手と試合を組み直すのが普通でしょう。
 ボクシングファンの中にも、「負けた相手と再戦しないのはありえない。負けてそのまま王座・王者のままというわけにはいかない」「途切れた記録をノーコンテストで繋いでも意味がない」という主張をする人がかなりいました。正直何を言っているかわからない。
 ドーピングが発覚した以上、相手はいわば犯罪者であり、犯罪者との試合は無効になるに決まっている。下手したらそれで致命的な怪我をして選手生命が絶たれるリスクだってあるのに、ドーピングということを軽んじているとしか思えない。
 あとから詳細な顛末・薬物の知識を知って、今回のドーピングを黒ではなくグレーの可能性もあると帝拳ジム会長が捉え直したからかも知れませんけど、瑕疵があるのは相手サイドであって、こちらにはない。再戦するならするで条件は以前のそれに戻すべき。山中が王者であるというのは絶対譲れない、ゆずってはいけないライン。仮にそうでなくてもネリが王者を名乗るのは絶対アウト。そういう前提を無視して再戦提案をのんだ以上、何があっても帝拳・山中サイドを擁護する気にはなれないというのが個人的な感想でした。

●ドーピング違反を繰り返す悪質なメキシカンボクサー
 参照5のところの記事の続きになりますが、文中にあるように15年11月に同じく帝拳所属の元WBC世界スーパーフェザー級王者・三浦隆司がフランシスコ・バルガス(メキシコ)戦があり、三浦はその一戦に敗れました。しかしその試合後16年4月にドーピング検査で対戦相手だったフランシスコ・バルガスからクレンブテロールの陽性反応が出たという事件がありました。
 また別に帝拳ジム所属の粟生隆寛選手のケースもありました。2015年5月1日にアメリカでテレンス・クロフォードの王座返上に伴い組まれたレイムンド・ベルトラン(ファン・ディアスの負傷でベルトランになりました)とのWBO世界ライト級王座決定戦でも同様の問題がありました。というか、こちらはかなり悪質で、今回のように前日計量でベルトランは計量パスできず体重超過、かつ薬物使用(スタノゾロールで陽性反応)という前例があったんですね。ネリが陽性体重超過野郎といっても、それぞれ一度ずつだったのに対し、このケースはダブル違反。よつばと!ならハンバーグとカレーのダブルです。とんだハンバーグカレー野郎です。
 粟生は2回1分29秒TKOで敗れて3階級制覇に失敗。体重超過にもかかわらず、ベルトランが8万5千ドル、粟生が5万ドルというファイトマネー配分となり、薬物使用の発覚で無効試合となった経緯がありました*6ネバダ州アスレチック・コミッションにより、9ヵ月間のネバダ州ボクシングライセンスの停止とファイトマネーの30%にあたる2万5500ドル(約316万円)の罰金という事態になりました。これ以上の情報が見当たらなかったので、想像になりますがおそらく帝拳ジムサイドや粟生に対する補填、ベルトランからファイトマネーを没収して充てるといった処分はなされていないと考えていいでしょう。
 体重超過もドーピングもやったもん勝ちの卑怯な世界がボクシングということです。だったらドーピングや体重超過をすることをためらうボクサーが少ないのは当たり前。被害者サイドに対する十分な補填もない。だったら被害者になるより加害者になろうと考えても一体誰がそれを愚かだ、卑怯だと言えようか。いや言えない(反語)。
 抑止効果になるからと、数百万の費用持ちで要請&実施とありますが、完全に無駄でしたね。メキシカンは卑怯なことを平気でしてくる。であれば、そういうボクサーと試合を組んではならない。組むのならば、事前・事後のドーピングを義務付け、違反したならば目玉が飛び出るような罰金を払う。そういう契約をのめないのならばやらないと言うスタンスで交渉すべきだった。メキシコ人は卑怯者・反則クソ野郎という前提で望まなくてはいけなかったのに、その必要不可欠なステップを怠った。体重超過も同じですね。事前に相手が違反をできないような契約項目を盛り込んでおくべきだった。過去の経緯からしてそうすべきだったのに何故しなかったのか?山中も同じ条件であれば相手も文句をつけられなかったでしょうに…。抑止効果ならば契約に盛り込むのが筋でしょうにちょっと意味がわからないですね…。何回も書いてきましたが、本田会長の罪・責任は極めて重いでしょう。 

IBF世界スーパーヘビー級王者尾川堅一の陽性反応
 こういうメキシカンドーピング対策についての手腕がまるでない。一体何のために防止策としての検査だったのかわからないことに加えて更に問題が起こりました。帝拳ジム所属の尾川堅一IBFのチャンピオンになったのですが、その選手がドーピングに引っかかるという失態…。これからWBCやメキシコをドーピング問題で吊るし上げなくてはいけない大事な時に、こんなことをやってしまえばどうなるか?言うまでもないですよね、相手サイドから「な、こういうのはよくあるんや、お互い様だから水に流そうや」と言われてしまう。山中を泣き寝入りさせてしまう大失態・大ミスです。本当に帝拳ジムは何をやっているんでしょうね…。

■明確な違反行為をした相手との再戦、処罰なき再戦を望むのはワガママ
 おそらく、どんな理由であろうと負けには違いない。負けた側としてどうしてもリベンジをしたい。リベンジできるならばどんな形でも良い。
 ―とまあ、そういったスタンスなのでしょうけど、それはハッキリ言ってわがまま。ネリサイドの行為は卑怯な犯罪行為、それを一時的であれ何であれ、認めてしまえば卑怯な犯罪行為が黙認されてしまう・ルールの許容範囲内の出来事だと公認してしまうことになる。
 一個人として、一ジムとして、それで良いことなのかも知れませんが、日本や世界のボクシング界全体を考えるとそれは絶対ダメ、業界にとってマイナスにしかならない。何が何でも再戦・リベンジしたいからと言って、そういう卑怯な行為を認めてしまうのはワガママでしかないでしょう。
 被害者サイドが良いと言ってるからといって許して良い領域の問題ではない。被害者のそういう主張・願望があるからと言って許容してしまったWBC及びJBCは猛省すべきでしょう。
 もしネリが汚染肉で薬物を使用していなかったとしても、違法な薬物によってドーピングで勝利・ビッグマネーを手に入れようという事例はあるわけです。ドーピングで競技・業界を腐らせる可能性は僅かなものであっても、どんな小さい芽でも摘まないといけない。ネリは検査に引っかかった以上、無罪に限りなく近くても無効でもう一度挑戦者として王座に挑むべきなのです。
 ところがその疑いを持ちながらも、ネリは王者として試合をすることが出来、それによって王者側としてファイトマネーをもらえる契約となっていました。
 ボクシングの試合は通常入札でどちらの地で開催するか決まり、基本的にチャンピオンサイドに多くの報酬・ファイトマネーが支払われます。つまりドーピング疑惑がかかっているのにもかかわらず、ネリは王者として山中よりも多額のファイトマネーを受け取れてしまうわけです。何故ドーピングの疑いがあった選手が多額の報酬を得られるのか?バカじゃないのか?ドーピング・違反をしたほうが得になるじゃないか。ズル得じゃないか…。正直こんなことがまかり通ってしまう現状を知って、呆れてものが言えません。
 今回の再戦で、WBCからファイトマネーのサスペンドがなければそのままファイトマネーを支払うつもりだったようです。まさに盗人に追い銭。帝拳ジム本田会長は試合・カードを組む事前調停能力・交渉能力に問題のある人物と言えるでしょう。

今回はドーピングの件でここまでです。次回は体重超過及びその対策について必要なことを論じたいと思います。

続き→【山中慎介VSルイス・ネリ戦解説⑤】 予見できた不正を防げなかったJBCと帝拳ジム。厳格な不正防止策を講じよ


アイキャッチ用画像

*1:前回までの記事はこちらです。

*2:

*3: 正確に言うと今回のケースは大金のかかったビッグマッチというよりも、山中というビッグネームに勝てばネリの選手としての価値が上がる。商品価値を飛躍的に高めるという意味合いです。この一戦を機会にネリの商品価値は高まり、ファイトマネーがどんどん上がっていく大事なワンステップだったということですね。
 もう一つついでですが、山中はダルチニアンやモレノと言ったビッグネームに勝ったので、世界的にも名を知られるボクサーとなりました。しかし年齢的な問題や米などでビッグマッチを行っていないので、そこまでビッグネームというわけではないように思えます。レオ・サンタクルスとの試合も実現しませんでしたしね

*4:https://www.sponichi.co.jp/battle/news/2017/11/01/kiji/20171101s00021000164000c.html?feature=related というもっと詳しく説明してある記事がありました。こちらによると、帝拳ジムがVADA(ボランティア・アンチドーピング機構)に検査を要請。で、試合前の7月27日にメキシコ・ティファナで抜き打ち検査が行われ、8月22日に筋肉増強作用があるジルパテロールの陽性反応が判明。WBCはネリが同団体の「クリーン・ボクシング・プログラム」に賛同し、過去にドーピング違反歴がないこと、陽性反応を示した検査が試合以外であったこと、その後来日して行われた3度の検査が全て陰性だったことを踏まえ、ジルパテロールの検出は牛肉摂取によるものと結論づけたとしている。
 ―だいたいこういうことになるようです。このWBCの主張を見るとセーフに思えますが、同じですね。試合直前・直後のチェックの不在という問題。そしてジルパテロールという薬物が筋肉増強剤・ドーピング目的のために使用された場合、どのくらい陽性反応が続くものなのかという説明がない。仮に1ヶ月で反応が消えてしまう性質を持つものならばその後来日してのチェック自体が意味のないものですからね。ドーピング診査の過程がそもそもおかしすぎですね。

*5:牛一頭云々https://www.nikkansports.com/battle/news/1878464.html

*6:王座決定戦とは言え、ライト級でずいぶん安いファイトマネーですね。ペイ・パー・ビューの対象になる人気ボクサーでないとこんなもんなんでしょうかね?

【山中慎介VSルイス・ネリ戦解説②】 17/8/15初対決の内容分析<後編> 敗北はセコンドの「暴走」によるものにあらず、陣営のファイトプランの誤りにあり

 続き*1です。この前後編では、①大和心トレーナーの判断は正しかった&②おかしいのは本田会長の姿勢―という二つのテーマからなるのですが、①と②で上手く分けて、前後編でそれぞれ一つづつ扱って簡潔にしたかったんですが、ダメでした。ちょいちょい書き続けて溜めてきたことがうまく繋がらなくなるので。う~ん文章力&編集力がない。今回の話風に言うと「引き出し」がなさすぎですね。長々書いているので忘れそうになってしまったら「ああ、そうそう①と②のことが言いたいんだっけ」と思い返していただければと思います。
 それと大和心氏が正しくて、本田会長(&山中慎介)が間違っているかという話になると、どうしても③「衰え」の見えだした山中への認識の誤り、その結果ネリ対策も間違っていた―という話になってきますので、その話が折りに触れて出てきますね。まあ、③もあるので、上手く前後編にまとめられないのも仕方ないですね(開き直り)。

本田明彦会長のトレーナー批判こそ「暴走」レベルのトンデモ主張
 「大事な記録がかかっているから、終わるなら自分の判断で。見に来てくれたお客さんに申し訳がない」―たしかそんなコメントが有ったと記憶していますが、何を言ってるんだこいつは…と当時憤った覚えがあります。
 前述、参照リンク内にコメントが載ってましたね*2。いわく、「ダウンしてないからタオルを投げるタイミングじゃない。冷静に判断できなくなるから、情が入る親にセコンドをやらせないんだ。山中は相手のフックを流していた。それをわかっていない。一回我慢してから巻き返し倒して勝つのが山中のボクシング。展開は予想通り。7回や8回ならまだわかるが、今回山中は練習の段階から肉体が丈夫で強くなっていた。チケットが手に入らないほどの記録のかかった大きな興行。お客さんやファンに申し訳ないし、これからという展開で、ああいうことが起きて、もし私がファンならカネ返せですよ。」

●トレーナーを公式に非難してはいけない
 もう何を言っているのか分からないレベル…。選手の調子の良し悪しや、打たれて危険だ!まずい!という状況判断はジムのトップより普段からつきっきりで面倒を見ているトレーナーの方がよく知っているはず。そのトレーナーの判断を批判するなんて何を考えているのか…。
 仮にもしそうするのならば、個人的に裏でやるべきこと。公の場で言うなんて…。公にメッセージするなんてありえない。もし責めるならそういう状況判断を誤るトレーナーを採用した自分でしょうに。こういう展開になったらどうするこうすると明確に指示を出していなかった、細かい部分で詰めて確認しておかなかった本人の責任でしょう。自分の責任下にあった事項をミスとして部下に押し付けるなんて最低です。

●本田会長の歪んだ認識と戦闘プラン
 氏のコメントでは、我慢してやり返すのが山中のスタイルと言いますが、どう考えてもそんなスタイルではないでしょう。神の左を軸に優位に試合を進める。その中で多少の被弾はあっても、それはあくまで山中優位での話。山中劣位の前提ではない。劣勢から必殺技・切り札で逆転するというのは本来の山中のボクシングではない。
 また練習によって頑丈になっていたという主張には違和感を通り越して、一体どういう論理なの…?と呆れてしまいます。不思議でしょうがありません。この意味不明な主張をする会長の異常な論理を何故ボクシング関係のジャーナリストは突っ込んでくれないのか…?
 山中は当時34歳。階級を上げて減量苦から解放されて一回り肉の厚みを増した分パワー・攻撃力も耐久力もついたというのならばまあわからなくもないですが、当然そんなこともない。直近の試合を見てもわかるようにピークを過ぎて劣化が始まっている山中が、対策のために新しい工夫とトレーニングでも眼を見張るような成果を挙げられるとは考えづらい。
 そして事実4Rに一方的に押された展開を見ても、山中のフィジカル面・耐久力が強化されたなんていう事実は存在しないと見做すべきでしょう。
 そういう衰えが見えている状況にある山中に対する認識がそもそもおかしいし、試合プランも相手への対策もおかしい。頑丈になって打たれても終盤に逆転狙いなんて衰えが始まっていて、次の試合ではどのくらいパフォーマンスが落ちるかわからない選手に採用する作戦ではないでしょう…。
 昔のボクシング・ボクサーのように何度も打たれても立ち上がって殴り合うというスタイルもあることはあります(直近でわかりやすいのは打たれてもガンガン前に出る八重樫でしょうか?)。若くてかつ頑丈なタイプで回復力が高い・自動回復スキル持ちとかならわかりますが、言うまでもなく山中はそのケースに当てはまらないので何をか言わんや。だいたいそういうボクサーって殆どガンガン前に出て挑んでいくインファイター系のハードパンチャータイプですからね。長身・細身系の山中はどう見てもそういうタイプではありませんから。

●本田会長のマッチメイク能力への疑問
 そもそもなんですけど、防衛記録を達成したら引退もという状況の選手なんですから、指名挑戦者ではなくもっと相性のいい相手を連れてくればよかったんですよ。記録に恥じない強い選手をというのならば、14回目の防衛記録に指名挑戦者・ネリを選べばいい。確実に記録を達成するためにはネリのようなタイプではなく、山中が衰えたとしてもキャリアの差でなんとか判定で勝つことを可能にする前後の出入りを主体とする選手を選ぶべきなんですよね。
 ネリが苦手なタイプではないにせよ、山中が料理するのに手こずる可能性があるタイプ。そして衰えて山中の絶対的な武器・神の左の効果が落ちた場合、遠距離を主体として闘う山中の距離を潰してくるので危険になるタイプなんですから、想像以上に衰えているかもしれないリスクを考えると選ぶべきではない。
 山中の武器はまっすぐ・タテ系統のパンチ(個人的にストレート・ジャブなどをタテ系統のパンチと呼んでいます、日拳のような直突きのことではありません)。左右に動くタイプではなく、タテ系統のパンチを主体として、前後の動きに引き出しがある・主体とするボクサーならば衰えた山中でもまず捌くことは十分可能だったと思います。
 またサウスポー相手に苦労するということはないでしょうが、明らかにオーソドックスのほうがやりやすいはず。相手がサウスポー相手に特別な武器があって自信があるボクサーでもない限り、オーソドックスの選手を選ぶべきだったのではないか?とも思いました*3
 オーソドックスで前後の動き主体のボクサーをどうして選ばなかったのか?いくらなんでも4団体の世界ランカー全てを見渡して一人もいない、条件が合わないということはないはず…。
 また後述しますが、メキシカンは今非常にダーティーでルール違反ばっかりしている。事情を知らなかった我々には、ドーピングは青天の霹靂でしたが、ボクシング関係者・特に帝拳ジムにとっては、また「メキシカンかよ…いい加減にしろや腐れ犯罪者共が!」と言いたくなるほどドーピング違反があることを知っている。というかモロにその被害を受けている、実害を被っているわけです。そういう状況にある中でなぜ大事な試合の挑戦者に犯罪者予備群メキシカンを選んだのか? 
 ハッキリ言って本田会長のマッチメイクに疑問がある。そういう山中にとってやりやすい相手を選ばない・一番強い挑戦者を受けるということはまだ理解できるにせよ、普通はダーティーなメキシカンは選ばない。クリーンでまず試合後に後腐れのない評判のあるジム・プロモーター下の選手や国の選手を選ぶはず。本田会長はどちらかと言うと被害者ではなく加害者側であることを我々は決して忘れてはならないでしょう。*4

高崎計三氏のストップに対する正論
 こういう見当違いのコメントを公に平気でする人ですから、まず徹底的に戦術プラン・方針を詰めておくことはなかったと思いますが、実はそれが徹底されていたとしましょう。その上で、セコンドの大和氏の判断を間違いだとするのも問題です。色々書いたあとで見つけてしまって、また困ったのですが(^ ^;)、本田会長がいかに間違っているのか理解するのに最適なものを見つけました。参照*5
 こちらの記事で高崎計三氏が的確なコメントをしていたので、そちらを紹介したいと思います。
○山中を知り尽くしている大和トレーナーが止めたということは、「後半勝負どころではない」事態だという判断。
○トレーナーは誰よりも選手を知り尽くしている。コンディション・山中の年齢的な変化やダメージの蓄積など、持っている判断材料も誰よりも多い。その判断を根拠なく間違いとするのは誤り
○状況は「止めなければおかしい」段階、「止めてもおかしくない」段階、そして「止める必要のない」段階の3つに分けられる。誰もが「止めなければおかしい」と思う段階ではないが、「止めてもおかしくない」段階に入っていた。
○本田会長は自分に判断を求められなかったことも問題視したが、その間選手が致命的なダメージを受けることがある以上、そのリスクがあった結果の判断。
○ボクシングは、死につながる可能性を持つ。選手はリングに上がる以上、セコンドには全てを任せなければならないし、逆に全てを任せられない人間にはセコンドを務めさせてはならない。
○山中は「効いていなかった」とコメントしたが、続行不可能なダウンを喫した選手が、ストップされた後に「まだやれた」と言う例は珍しくない。
○スポーツ・興行である以上、守られるべきは「とことんまで戦いたい」という選手の気持ちや観客のまだ観たいという気持ちなどではなく、選手の命。
○セコンドによるタオル投入や棄権のタイミングは「遅すぎる」ということはあっても、「早すぎる」ということはない。「早い」と思えるストップには、必ずそこに根拠がある。
○トレーナー自身の見解がどこにも出ていないにもかかわらず、「暴走」と表現することへの疑問。欠席裁判のようにして判断ミスであるかのように報じることはおかしい。

 ―リンク先読んでねというだけで十分なのですが、的確でこれこそ正論だろうと言えるものなので、個人的にポイントをまとめました。真にそのとおりだと思います。本田会長への批判、トレーナー批判への反論として実に的確であると思いました。
 誰よりも選手を知り尽くしているトレーナーの判断を一体誰が間違っていると言えるのか?山中のコンディションが良くない、ディフェンススキルが拙いことを考えると妥当な判断であったとすべきでしょう。
 KOタイムが2分29秒。これがもし、あと10秒でRが終わるという時間だったら我慢したんでしょうけどね。乱入してのラグを考えるとおそらく乱入したのは残り50秒前後というところではないでしょうか?大体、最初の一発から大体1分10秒くらいずっと押される展開でしたからね。最低でも残り40秒間も打たれ続けることを考えれば、そのダメージはこの試合中ずっと残る。容易に回復しないでしょうから、残り時間から逆算して止める判断に至ったとしても何らおかしくないでしょう。

●大事なのは同じセコンドの意見、元選手の意見ではない。セコンドの役割を軽視するマスコミの無知
 また、ポイントの一つとして、このような判断をした大和氏にどうしてああいう判断になったのか検証する必要があるはずです。その検証プロセスがすっぽり抜け落ちて「暴走」というような指摘が成されてしまうのは実に問題であると思います。
 竹原が「俺なら納得行かない」とセコンドの判断に異を唱えていましたが、前に村田の判定騒動時にWBAの会長も判定のおかしさに同調した時、「このオッサンの言うことは関係ない」と会長の意見をとるに足らないこととしました。同じように、今回の事件では元選手の意見というのは関係ないのです。高崎氏が言うように、大事なのは選手や観客のやりたい・観たいという意見ではなく、セコンドのトレーナーの判断なのですから、話を聞くのなら元王者ではなく、同業者であるセコンドに意見を聞くべきなのです。なぜどこもかしこも元選手・格闘家などに意見を聞くのか、理解できない。
 メディアもセコンドという役割を理解していない、軽視しているということでしょうか?野球報道や相撲報道の質の低さを考えるとまあそういうことなんでしょうね。ボクシングだけスポーツ報道のクオリティが高いなどということはありえないでしょう。これまでの既存報道を見ても何をか言わんや。

●過去にリング禍があったのに…
 また、公の場で止めるのが早いとクレームを付けるようなことをしてしまえば、以後大和氏はもちろん、他のトレーナーも判断をためらいタオル投入が遅れる。不幸な事故が起こるリスクを高めてしまいかねないことに何故思いが至らないのか疑問でしょうがありません。
 ―ということを、書いていたあとでわかったのですが、09年に帝拳ジム所属の辻昌建という選手がリング禍で亡くなっているんですね。となれば、ナーバスになるのは当然すぎるほど当然のことでしょう…。山中が件のケースのごとくクモ膜下出血(辻選手の死因は急性硬膜下出血のようです)にでもなったら…。というかリング禍を出しておいてナーバスにならなければ、ジムの運営にも関わってくるのに、下手すれば潰れることになるのに、公にこんな事を言うセンスはちょっとトップとして信じられませんね。ジムの運営者としてのセンスが欠けていると言わざるをえないでしょう。

■山中にはディフェンススキルの引き出しがない―故にダルチニアンとも打ち合わなかった
 ディフェンススキルで思い出したので、また余計な話を書きますが、個人的に彼を好きになれなかったのは、ダルチニアン戦で終盤倒しにいける展開なのにアウトボクシングで倒しにいかなかったから。体格差があって相手を完全にコントロールできた。ビッグマッチでKOするかポイントアウトで逃げ切りかでは持つ意味合いが変わってくる。あれだけ優位に進めてなんで最後倒しにいかないのか?積極性に乏しすぎるから好きになれなかったんですね。
 で、今頃その謎が解けたわけですが、ディフェンススキルがないからでしょうね。山中はパンチが効いて足が使えず、ロープ際でまともな防御ができなかった。つまり、もし一発でもぐらつくパンチが入ってしまえば、一気に逆転KO負けがありうるという脆さを持つ選手だったわけですね。ちょっとでも不利になると極めて脆い。そういう特性が山中には実はあったから、ダルチニアンと最後まで打ち合わなかったということだったわけですね。彼もサウスポーなので、ちょっとでもミスしたら今回のネリのようになる可能性があったということでしょう。
 彼の優位というのは神の左を活かした攻撃力でその攻撃力を前提とした防御力ですから、攻撃力・圧力が衰えれば防御力はそれ以上にガクッと落ちてしまう。その結果が4Rでの一方的な展開だったというわけです。*6

●「山中戦術」の崩壊とそれを補うプランの欠如
 ピンチを凌いで後半勝負だとか言ってましたけど、山中というボクサーは一つの突出した武器、神の左とそれを軸としたワンツーという引き出ししかない※参照*7。引き出しの少ないボクサーが早いラウンドで一方的に追い込まれるような形となって、そこから巻き返せるなんて普通は思わないですよ。
 というかもう年齢的に衰えがあって厳しいわけで、それが露呈して殆ど初めてと言っていい相手ペースの試合・相手に押された展開ですからね。最初にモレノに勝った次の試合のソリス戦でも、ソリスにダウンをもらって序盤危ない展開でしたが、その試合も結局は3・4R以外はポイントを取られませんでしたから。
 山中というボクサーはその圧倒的な武器を前に圧力をかけて試合を支配する・自分ペースにして試合を進めるタイプですから、その前提がなくなった以上、もうかなり無理があるんですよね。異常に突出した武器・独特な技術を前提に技術体系を構築したスタイルですから。神の左がもう神と言えないようになってしまった。全く機能していないということはないでしょうけど、「神」から「超人」くらいには落ちていたでしょう*8
 山中にとって「神」の左の威力・精度が失われるというのは、まさに「神通力」が失われるに等しい致命的な要素だったわけですね。
 突出した左を前提に築き上げられたスタイルを「山中戦術」と呼ぶならば、その戦術の前提が崩壊しているわけですから、それを補完する新しい武器や補った上での「新山中戦術」が必要なのに、それがないわけですからそもそも無理があるに決まっている(当然、世界のトップに長年君臨し続けることを可能にした超高等技術を補完するような技術を身につけることなどそう簡単に出来るものでないことはいうまでもありません)。
 左ストレート・大砲は威力があるが、当てづらい。ジャブは決まるが、大砲であるストレートはなかなか決まらないというのがボクシング。その大砲を当てるために長いラウンドをかけてお互いの戦力を削りあいをして、終盤大砲を打ち合うという展開が基本。戦力差がある時は、実力者が早いうちに相手の戦力を削りきって攻撃力もない状態・無力化に成功して、中盤くらいで大砲・得意パンチを思う存分振ってKOなんていうのもそうですね。結局ボクシングというのは最も威力のあるパンチをいかに決めるか、決めるまでに相手の戦力をいかに削るかという競技。そのボクシングのセオリーを根底から覆すのが山中の左。威力があってなお序盤・中盤から当てることが出来るというラノベもびっくりのチート性能持ちボクサー。そんな異常・独特の武器を持つ山中の前にはその大砲を重視してマークしなくてはならない。相手が警戒してくれるから、その分防御を気にせず攻撃できる。そういう優位性を持っているからこそ、山中は世界の最前線で長年トップを維持し、KOのヤマを築き上げ続けることが出来たのですね。

●誤った認識・前提からは誤った結果がしか導かれえない
 仮にあそこをしのいでも結果は同じ。欲目で見過ぎです。正確な状況判断、現状認識が出来ない人物なんでしょうね。山中というボクサーが素晴らしいばかり、肩入れしすぎた。贔屓目で見るようになってしまった。それで物事が正確に見えなくなったということでしょう。
 まあ、2・3回ダウンすることも覚悟していたと言った根本的な認識の甘さ以前の戦術プランを見ると、やはり根本的におかしい人なのかもしれません。数回ダウンして、ポイントで圧倒的にリードされてボロボロになりながら、11・12Rで大逆転KOということになればカッコイイことこの上ありませんが、そんなこと現実的にありえないでしょう…。
 そういうバカなプランを前提にしていたからこそ、誤った認識の上に陣営が無謀な戦術を採用して試合に臨んでいたからこそ、セコンドの大和氏は「暴走」したんじゃないでしょうか?山中の衰えを正確に認識していた大和氏はだからこそ、ちょっとでも危なくなれば会長の意見も無視して早めに試合を止めるつもりだったのではないでしょうか?そうだったとしても少しも違和感がないことのように思えます。耐久力をあげるという対策は打ち合いも辞さずということですから、その分被弾率が高い・被ダメも多い。むしろ中途半端に頑丈になった分危険な一歩手前まで耐えられてしまう。そしてフラフラでも応戦できる状態で危険な一撃をもらうという最悪な未来を予想できたということかも知れませんね、大和氏の判断は。

●ダルチニアンには勇敢に、ネリには臆病に
 ダルチニアンに対しては、もしもらっても凌げるディフェンス技術を磨いておくべきだった。そうであれば打ち合って倒しに行くことが出来た。終盤もしもらったとしても凌げる、リスクヘッジをしておけばより攻撃的に行けたでしょう。
 逆にネリに対しては、初めから前に出てくる相手に対してアウトボクシングに徹するべきだった。一から十までそうすべきとは言わないが、衰えが見え始めた以上これまでの積極的に倒しに行くスタイルを転換しなければならなかった。倒すスタイルというのは当然それに伴いスキが生まれやすくなる。今回の被弾も倒そうというスタイルから生まれた攻撃の意識偏重で生まれたスキによるもの。全盛期ならばそのスキを突かれることもなかったが衰えが始まった山中ではそうもいかない。

●衰えとそれに伴うディフェンスに対する強化の認識の誤り 
 要するに「衰え」とそれに伴う「ディフェンスの比重強化」(これまで以上にディフェンスに重点を置いて練習し、試合に挑むこと)、この二つに対する認識が甘かった。そういう前提の元にして「では、どうするか?」と戦術をこれまでの「山中戦術」を一旦放棄して、一から練り直す必要があったのに、それに対する取り組みが根本的に足りないどころか、間違っていた。その認識から戦術を柔軟に変更する・再構築する必要があったのにそれを怠ったわけですね。セコンドの「暴走」の前提には、選手本人と会長が従来のままでいけるという誤りがあった。その間違った前提からもたらされたのがトレーナーの「暴走」ということは、誤×誤は正とでもいうような結論になると言っていいでしょう。*9

問われる山中の人間性
 最後に山中の態度についての疑問を残しておきたいと思います。試合後、多くの人から応援された姿を見て山中の人間性が素晴らしいことに疑問は抱く人はいないでしょう。当然個人的にもありません。しかし、「暴走」と報道されて自分のトレーナーが叩かれている。自分のパートナーが世間から非難を浴びている。今はSNSなどがあって攻撃にさらされやすい。ボクシングに詳しくない人間が、また人を叩いて平気な感覚を持つ人間がネット上で、大和心氏に暴言を吐く・攻撃することは想像に難くない。
 となれば、公の目立つ場で「大和氏は正しい。自分が悪い」と発言して取り上げてもらわないといけない。大和氏へのバッシングを止めることをしないといけない。山中についての試合をググってもそういう言葉・強いメッセージが彼の口から出てこないのは非常に疑問に思いました。イクメンみたいな式で育児ではタオルは投げないとか、NHKのプロフェッショナルで練習中にタオルを投げないでよと大和氏をいじっていたりだとか、自分のミスや非というものに対する認識が見られない情報しか出てきませんでした。
 「責められない」みたいなことをコメントしていましたが、それではダメ、弱い。それではあの場面で大和氏が間違っても仕方ないみたいな受け取られ方をされてしまう。たとえ、そう思っていなかったとしても「悪いのは自分。間違っていたのは自分」と。自分の責任を明示して庇ってやらなければいけない。一緒にここまで歩んできた盟友・大事なパートナー・相棒であるセコンドに対するこの姿勢は個人的に非常に残念でした。
 山中は自分の責任であり大和氏に一切の責任はないと明言してほしかった。それこそ、「他の誰かだったら、例えば後輩の村田がセコンドにいてタオルを投げたのなら、お前ふざけんなよ。ぶっ殺すぞって話ですけど、他ならぬ大和さんの判断。僕のことを誰よりも知り尽くして一緒にここまで来た大和さんがダメだと思ったということは、業界のすべてのセコンドがいけると判断しても、ダメだということです。世界中の人間、みんながイケると思っても、大和さんがダメだと思ったのならそれはダメなんです。そういう状態に追い込まれた自分が悪い、自分が弱かった・下手だったと言うだけです。大和さんのタオルを責めるなら弱くて応援に応えられなかった情けない自分を責めてください。
 何度でもいいますけど大和さんに一切の非はないんです。彼を叩くような行為は止めてください。まぁ、叩くならあそこでタオルを投げた村田を責めてください(笑)。ゴロフキンに勝ってベルト取ってくるまで許さないから、早くゴロフキンに勝って、俺の前にベルトと百万円とハワイ旅行をもってこい(笑)」
 ―とか、まあそういうような大和氏に責任はないということを明言してほしかった。陣営スタッフに対する配慮がないのは名王者である山中だからこそ残念だと感じましたね。
アイキャッチ用画像

https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/41Tjy08bDCL._SL160_.jpg

*1:

*2:一応、もう一度リンク先を貼っておきます―V13具志堅超えに失敗した山中はタオル投入の暴走がなければ勝てていたのか | THE PAGE

*3:KOシーン集を見たところ、山中のオーソドックスを相手にした左ストレートの打ち方は目を見張る物がありました。個人的にサウスポーの利点を「斜角」の優位性という用語で説明しているのですが、「斜角」の使い方が非常に上手い。お手本・教科書と言っていいくらい見事でした。トレーナーだったらこのビデオをまず見せて教えるくらい理想的でした。オーソドックス相手には相手の左足の外側に右足を踏み込むのがポイントなのですが、それに伴う右側へ身体を傾けながら打つ左ストレートが基本。
 それが見事であった以外にも遠間から飛び込んで打つ距離の詰め方が素晴らしい。浮身をかけて身体を上下動せずに足で蹴らずに、一気に滑るようにして相手に迫るというのが武術・武道で行う理想的な移動方法・歩法の一つ。身体が上下動せずに平行移動で近づかれると相手は動きを捉えられないんですね。その移動方法をかなり高いレベルで使いこなせるから遠い距離からの左ストレートを相手は無警戒にもらってしまう。本来届かない距離なので左が来るとは思わないと警戒を解いている状態からミサイルが放り込まれるようなもので、警戒システムをくぐり抜けてしまうんですよね。真正面にいて見ているはずなのに、パンチを貰ってしまうという不思議な感覚に陥ってるのではないかと推測します。他にも素晴らしい左ストレートの使い方もあって、お見事と感心する左がいくつもありました。ちょっとこの左の技術は世界的にもそうそうやれるボクサーはいないんじゃないのかなと惚れ惚れしましたね。
 ただこの歩法での左の使い方はオーソドックスで有効な遠間からのストレートなんですよね。正対した状態、サウスポー相手にはこのスライド歩法は左足を踏み込んでスイッチする・オーソドックスの構えになるようにしないと使えない。まあサウスポー相手でも上体を突っ込ませることで遠間から左を放り込んでうろたえさせるというシーンが有ったので有効なのは言うまでもないですが、サウスポー相手には引き出しが狭まることは言うまでもないでしょう。

*4:参照―セコンドによるタオル投入を批判する本田明彦会長は、選手の健康や人命を軽視しているのか? - HARD BLOW ! こちらの記事によるとやはり本田会長に問題があるようです。帝拳ジムだけが、会長に対してお礼を言うような状態であるならば、やはり業界の天皇として威圧している。選手スタッフは勿論、記者や業界関係者に圧力をかける。君臨して権力を振るうことをためらわない人なんでしょうね。帝拳と言えば読売・日テレ枠ですが、読売のトップの誰かさんと似たタイプで相性が良いんでしょうね、きっと

*5:

*6:もちろん山中にも優れたディフェンススキルがあって、過去にそういう物を見せていても不思議はないです。能力というのはあくまで相対的なものですからね。世界2位の攻撃力・防御力を持っていても、相手が世界1位のそれを持つというのなら、結局攻撃力・防御力両面で劣位にある、不利にあるということですから。他のボクサーならばディフェンススキルを使えても、ネリのようなタイプを相手にした場合には、ディフェンススキルが使えないということもありえます。いずれにせよ山中のディフェンススキルはネリ相手に発揮されなかったということですね。

*7:山中慎介6401発中5896発の信念、そのすごさ - ボクシング : 日刊スポーツ

*8:山中の神の左についての技術論なんか色々面白そうなんですけどね。山中の試合をそんなに見てないのであまり確信が持てません。威力・パワーと言うより、見えないパンチなんだろうなとは思ってますが。相手が気づいたらもらってしまうという「おこり」の少なさ、モーションが殆ど無いとか、ワンツーで相手の行動範囲・支配距離をある程度操れる。そして誘導した上でズドンとかそういう技術なんでしょうね。ダウンシーンも強打が入ってKOというよりも、相手が予想外にもらってしまって面食らって・バランスを崩してたたらを踏んで崩れるというのを何回か見ましたし。あとはAFSに分類されるボクシングなのに、神の左だけBFS気味に打っているから、いきなりパンチが飛んでくるとかですかね。雑誌の写真でちょうど左ストレートをBFSみたいに突っ込んで打っていた写真を見たので

*9:やっぱり技術論を書こうかな、もう一度見直したところ、もらった一撃以外、回ってネリの追撃をかわそうとしたり小細工していましたね。それでもネリに詰められてやられてしまったわけですが、じゃあ何故やられてしまったのかときっちり書いたほうが良いかな。
 サウスポー対決ということは要するに普通のオーソドックス対決と同じ。いつもと違いサウスポーにとっては左の大砲よりも右のジャブの差し合い・使い方が一つのポイントになってくる。神の左を磨き、それ一本に頼ることで右の使い方が雑になった、相対的に少なくなったと言われる山中ですが、それでも右を使ってコントロールしようという意図が見えました。そして、大砲の左がいきなり当たるわけもないので、下のボディにまずは左ストレートをちらしてスタミナを奪い、相手の足が止まった8R以降にKOというプランだったんでしょうね。
 右を使うと前傾して低い地位にあるネリには打ち下ろし気味になる。突進を止める・上手く突き放してコントロールする・身体を起こすために右のリードを下げてフリッカーのように払う使い方をもしようとしていました。まあしようとしていただけでそこまで上手く行ったようには思えませんでしたが。右をあまり高くに持ってくると、ジャブの打ち終わりを突進してくるネリの左フックで被せられる。格好のカモになるので、あの少し低い位置が正解でしょう。ガードが甘いという問題はなかったと思います。あのくらいで正解・適切かと思います。
 キーになったのはネリの右。同じサウスポー同士、左は見えやすいのでそこまで問題にならないが、ネリの場合は右の打ち方に特徴があって、突進してくる左フック。下から跳ね上がって体ごと叩きつけるような感じに見えました。一撃目の左フックをもらっても次の右はあまりもらわないものですが、ネリの場合は右フックにつなげる時、空手の追い突き逆突きのコンビネーションのように踏み込んで構えを逆にする。意図的なスイッチというよりは身体の流れ、重心移動を最大限活かすために左フックのあとそのまま左足を少し前に踏み出して残すんですね。で、もういっちょ左フックで今度は右足を前に出して(映像では確認してませんが、時には足を引き戻すことで距離を調整します)元の構えに戻る。そういうコンビネーションなので、ワン・ツー・スリーが強力で一気に距離を詰められやすい。最初の左フックを打たせないように右ジャブで徹底して突き放すか、左のフックを狙っていると思わせるカウンターを何回かやらないと自由に攻め込まれてしまうでしょうね。いつもならオーソドックス相手の右フックなど封じることはたやすいはずですが、サウスポーからの一時的なスイッチ・オーソドックスに切り替えられると距離感がわからなくなりやすいですからね。
 山中が大したことはないと感じたというのも意外と正しいのかもしれません。1Rは遠い間合いから相手の感じを探って、2Rで僅かですが少し距離が縮まる。3Rでさらに縮まり、攻撃をより当てようとしていました。ネリの詰めを十分いなせるとそれまでは感じたのでしょう。しかし3Rの撃ち合いで少し様子をまだ見ようか、探ってみようともうちょっと様子見をするべきでしたね。いけると判断して、そのままの方針・もしくはさらに前に出ていった。これが敗因でしょうね。
 ネリの右ジャブはあたる。しかし山中の左ストレートは3回空振り、当たらない。ちょっと狙いを一旦変える。目線を上に挙げさせることで次のRでまたボディを叩くためだったのでしょうか?左ストレートが空を斬ります。左がネリの抑えにならないのならば、あとは右ジャブしかない。ネリは再三山中の右ジャブに合わせて大きなスイングの左を見せていましたから、いずれ右ジャブも合わせられたと思います。そしてネリの右ジャブからの左フックがヒットであとはもう一気呵成。ぐらつかせてからネリのいつものコンビネーションでガンガンいかれて距離を潰されて、ザ・エンドってね―という結末に至ったわけですね

【山中慎介VSルイス・ネリ戦解説①】 17/8/15初対決の内容分析<前編> 敗北の原因はセコンドの「暴走」によるものにあらず、陣営のファイトプランの誤りにあり


 山中・ネリ戦の結果を知ってから、この話を書こう書こうと思っていましたが、相撲云々で全然進みませんでした(ブラックフェイスの話書いてたからかな?)。まあ相撲関係は書き終わってたんですが、それ書いてエナジーを消耗して書く気がしなくなってたんで。先週から書き続けてようやく殆ど書き終わりました。
 あとはいつもどおり、クッソ長くなった分、整合性をつけて読みやすくするためにどういう順序で編集するかですね。おそらく一記事の三回分くらいの文量になったので、さあこっからどういうふうに分けるかで試行錯誤。4・5日か~一週間に一本くらいで適宜更新できるのが一番いいんですけどね~。いつも、そういやこれってどうだったっけ?とググると新しい情報や、ああそうかこういう視点もあったかと書きたくなることが次々でてくるんで中途半端に公開すると相撲の時みたいに初めの記事と整合性がつかないわけわかんないことになりそうで怖いんですよね~。どう考えてもシリーズモノなのに①~⑦と長引いた挙げ句のトータルの一貫性、最初と最後の整合性が…になってしまったのでね、相撲の記事。
 それはさておき、とりあえず山中=ネリ戦の経緯で分割。再戦の前のおかしな最初の対決の話をプレリュード的に書いて、残りを分割することにしました。追記とか文量次第でまた変わるでしょうけど、暫定感覚で公開します。暫定王者ですね。意味わからない王者の乱立のように、意味わからない事になったらこの記事もいつの間にか消えてるでしょう(笑)。
 一応、本題が再戦とその異常性の指摘なので、次回の本題で書くべき前書きをこちらでも重複して最初に書きます。繋がってる話ということを忘れてもらわないように&大事なテーマなので。

■前書き
 山中慎介とルイス・ネリ戦でのピント外れの声が大きいので書いておきたいと思いました。端的にいうとルイス・ネリを責めるのは筋違いであり、本当の問題はWBCどころかボクシング業界・構造・ルールそのものにこそあるのです。責めるとしたらそちらが筋。間違っているのは一人のボクサーではなく、そういう卑怯なやり方がまかり通ってしまう制度・システムそのもの。こういう卑怯な行為を禁止・厳罰化していないルールそのものなのです。
 そしてこの件においてはJBCも同罪。こういう事態が起こりうることは事前に想定できたのですから、そういう対処をしてこなかった以上、トップが責任を取るべき失態。責任を取らないJBC相撲協会以上に歪んだおかしい組織だということを我々はもっと認識すべきでしょう。
 また、このような試合を組んだ、プロモートした帝拳ジム本田明彦会長にも責任がある点を決して見過ごしてはならないでしょう。これらの責任を無視して、ネリ一個人を卑怯なクソ野郎として叩いて鬱憤(うっぷん)を晴らしても、問題は決して解決しない、また同じ失態が何度でも起こることを我々は理解しなければならないでしょう。ボクシング界の構造的問題から必然的に起きたのが今回のネリ騒動であり、その歪な構造が改善されない限りボクシングを見ない覚悟がファンには求められるでしょう。

■試合→TKO負け(セコンド乱入)→ドーピング発覚
 山中慎介が3月1日にルイス・ネリ(メキシコ)と再戦し敗れたことが本題なのですが、それ以前の最初の対戦について触れることがあまりにも多すぎるので、まず最初にこちらでその点について語りたいと思います。村田の判定負けと、この敗戦については拙ブログでも書こうと思ったんですけどめんどくさくて更新放置していたのと、ボクシングについて興味をなくしていたので書きませんでした。既に書いてあればよかったのですが、書かなかったので、ネリとの最初の対戦から改めて振り返りたいと思います。
 前年の8月15日、山中は具志堅用高の国内最多防衛記録に並ぶ13回目の防衛に挑むことになりました。しかし結果は指名挑戦者で歳が山中よりも一回り若いネリに4回2分29秒にTKO負けを喫し、WBC世界バンタム級王座の防衛に失敗。このまま引退か?―となったところ、試合後ネリがドーピング検査で陽性反応が出たことで、どうなるんだ?とネリ騒動の始まりとなるルール違反第一弾・第一章が展開されました。
 また、この試合はセコンドの乱入でTKOとなり、ストップが早いのではないか?と話題になりましたので、その点について触れておかねばならないのでまずその話からしたいと思います。
 そもそもなんでドーピングで引っかかったクソ違反野郎と再戦をするのかという話が本筋なのですが、それ以前の段階で色々おかしな話がありますので、まず一番おかしいと感じたセコンド「暴走」事件。セコンドへの帝拳ジムのおかしな態度について触れて、それからドーピングにまつわる事の経緯を時系列的に振り返りながら語っていきたいと思います。実はドーピングは今回に始まったことではないという伏線があったんですね、それについても触れないわけにはいかない大事なポイントなので。
 時系列的に言うと本当はドーピング→セコンドのストップの是非騒動の方がいいかなとも思ったんですが、まあ文章のオチ・シメとしていいのと、次回に話を繋げやすいので。ボクシングのリングでの内容・分析or解説的な話を最初にしたほうが読む人にとってもとっつきやすいでしょうしね(需要があるとは言ってない)。
 たんにセコンドのストップはおかしいことではないよで済む話だったらワタクシ一個人の感想で終えて詳細を語ることもない話なのですが、調べる内に帝拳ジム本田明彦会長への疑問が湧いてきたので、筆が止まらなくなった状態になったので長々詳細を書いて内容をみっちり振り返りたいと思います。

■本田会長のトレーナーのタオル判断を「暴走」と責める大失態
 で、そもそもなんですが、マッチメイク以前にも本田会長には問題があったんですね。最初の試合で山中がTKOとなった試合ではトレーナー・セコンドがタオルを入れた、リングに入って止めた。その判断を会長が非難したという一件がありました※参照*1


●セコンドのストップには遅すぎるという言葉はあっても早すぎるという言葉はあってはならない
 この試合は山中がキャリアのピークを過ぎていたため、というかボクシング自体に興味をなくして見ていなかったのですが、会長のこういったコメントには違和感しかありませんでした。
 セコンドのストップの判断というものは、早すぎたということはあっても、遅すぎたということはあってはならない。遅すぎればどういう事態になるか言うまでもないでしょう。無事に帰るまでが遠足、選手を無事に家まで返すのがトレーナー・セコンドの仕事。セコンドが周囲の人間が早いと思える段階でも止めてしまうのは業務上やむを得ない。

●ボクサーやジムの会長がトレーナーの判断に文句をつけることはありえない
 そもそもそういうピンチに陥った時点でもう本人の責任なのですから、それについて選手や会長が文句をつけるのはおかしいでしょう。日頃から選手と二人三脚で一緒に歩んできたトレーナーの判断に文句があるはずない。ともに歩み、ともに探し、ともに笑い、ともに誓ってここまで来た、コブクロ魂でここまで来たトレーナーがそう判断したというのならば、もうそれはしょうがないというか、違和感も異論もあるはずがないじゃないですか。
 わかりやすくいうと夫婦で夫が妻の判断がおかしかった云々責め立てて夫婦喧嘩を公衆の面前で始めるようなもの。一言で言うと大人気ない、またはみっともない行為です。
 まあ、夫婦でもどちらかがだらしなくて、夫や妻が困ることがある。それで揉めることはあるという人もいるかも知れません。しかし、事前にきっちり話し合って共通解を持っておけばそんなことで関係がこじれるようなことが起こるわけがない。深刻なトラブルを引き起こさないようにセコンド内での意思統一・作戦プランの明確な共有ができていなかった、事前準備がしっかりなされていなかったということですから、その時点で既に言い訳できない失態であると考えます。

 セコンド内での意思統一というのは戦う前に当然成されておく基本段階です。その戦いの基本を疎かにしていたというのならば、最早試合前から今回の勝負は決まっていたと言っても過言ではないでしょう。

●セコンド軽視、陣営の足並みが乱れていた時点で敗北は既に決まっていた
 可能性としては低いと思いますが、普段からイマイチ信用のおけないトレーナーだったというのなら、そういうトレーナーを他のトレーナーに替えなかったという別の問題になりますしね。実績・信頼関係があるスタッフでセコンドを固めるというのは基本ですから。
 ボクシングは個人競技と思われていますが、実は闘う選手以外にも重要な役割があるのです。相手を分析し、作戦プランを立てて、そのための練習プランを考える云々という大事な役割がセコンド達にはあります。それら作戦立案・マネジメントするトレーナー他セコンド集団のチーム戦という背景を持つ競技でもあるのですね。
 集団競技で長期間試合をし続けるプロ野球のコーチ・監督ほどではありませんが、彼らのバックアップが地味に重要になる競技なのですね。優れたサポートチームによって名ボクサー・チャンピオンは支えられるという要素があり、世界の最前線で闘うトップランクのボクサーならば、その要素を決して軽視してはならないものなのです。ボクシング雑誌などでたまにセコンドの視点・分析が語られるので、そういう陣営があの時何を考えて、どういう作戦を決断・変更したかということを知るとより面白くボクシングを観ることが出来るのでおすすめです(ダイマ)。
 大事なことなのでもう一度書いておきますが、そういう重要なスタッフの判断というものを信じられないというのはそもそもおかしなことですし、選手や会長がトレーナーと齟齬があったことを示す発言が試合後にポロポロ出てくるのはチーム内の意思統一の欠如という点で、大問題なのです。この点をもう深く掘り下げないとは思いますが、帝拳ジムの問題の一つとして記憶していただければと思います。

■映像を見る限り大和心トレーナーの判断は適切
 で、本当にそんなにまだまだ余裕がある段階なのに、何をトチ狂ったのかトレーナーが止めてしまったと言えるほど本当に止めるのが早かったのか?と気になったので、今頃映像をチェックしてきました。個人的には全く違和感がなく、大和心トレーナーの判断は妥当であるものだと思いました。

●TKO、セコンドのストップまでの個人的視点
 件のラウンドで山中はストップに至るまでに5回危ないシーンが有りました。テレビの解説者風にコメントすると大体次のような感じになります。
1回目:「ああ、良いのもらっちゃいましたね。効いたかな?」
2回目:「ああまた良いのをもらっちゃった。ちょっともう完全に相手ペースですね。チャンピオンの試合運びではなくなってますね。まずいでね。ああちょっと効いちゃったかな?効いてるなぁ~」
3回目:ここで良いパンチが入りました。この時点でヒートアップですね「あ!、これまずいですね!これ以上もらうともう倒されちゃう。なんとか凌がないと。パンチ返してペースを取り戻すなり、なんとかしていかないとまずいですよ、これ」(超興奮&早口)。
4回目:「ああ、連続してもらっている。もうこれじゃ負けちゃいますね。ダメージ次第では止めたほうが良いかもしれませんね」。
5回目:ここでパンチをまとめられる形になるわけですが、ストップが明らかに遅い。見ていて危ないと感じました。「ああ、もう駄目ですね。止めないとダメ。レフリーまだ止めないのかな?レフリーが止めないならセコンドは止めたほうが良いですよ、これ。ああ、危ない!止めろ止めろ止めろ!早く!」
 「ちょっと止めるのが遅いですよ。セコンド何やっとんの、選手を一体何だと思ってるの。帝拳さんのセコンドのタオル入れる体制・システムはどうなってるんですかね?ちょっと帝拳さんのやり方は問題ありますよ、これ。ちゃんとしていただかないと。いくら山中さんの日本記録かかっている試合だからと言ったってこれはダメですよ」と試合が終わったあとでも憤りを顕にしたでしょう。
 ―とまあこんな感じで。テレビ解説者・ゲストで喋れる立場だったらそういう風にコメントしていたでしょう。2ch(今は5ch)の実況スレで、「【放送事故】 ゲスト解説者ヒートアップしすぎwwwワロタwww」というクソスレが立つくらいには興奮してまくしたてたと思います。むしろレフリーのストップの判断が遅いと思えましたからね。セコンドを務めたトレーナー大和心氏の判断は極めて妥当。むしろあの段階・状況でストップを命じなかった会長の判断を非難すべきでしょう。

(※●余談スタンディングダウンの是非について―
 余談になりますが、長谷川も防衛記録がとまったJBC未公認の統一戦がありました。長谷川のケースは、個人的にレフリーストップは早いと思いました。早いというかスダンディングでダウンでカウントを取るべきで、一度間をおいて再開後また打たれたらストップが好ましいと思いました。
 今回のケースも山中がパンチをまとめられた時に、レフリーがスタンディングでダウンを取ってカウントを数えて間を開ける。そしてもう一度再開してほしかったと思いました。しかし、これはその選手を応援する側の贔屓目でもあります。もし長谷川があそこでスタンディングで間が空いたためにKOを免れて、持ち直して逆に判定で勝利した。結果、逆転することととなれば相手サイドはどう思うか?
 山中も同じ。あそこで畳み掛けるチャンスをレフリーがスタンディングダウンでもぎ取ることになってしまいます。安全性のためにはそれが最適であり、そうすべきだと思いますが、勝ち目が少なくワンチャンスにかけるしかないボクサーの勝利の芽を摘むことにもなります。「あそこでレフリーがスタンディングダウンを入れなかったら、うちのボクサーが残り1分もあったし、確実に仕留められたのに!レフリーがおかしい!」―ということになってしまいます。番狂わせが起きにくくスリリングでエキサイトする展開が少なくなる。ボクシングの魅力減に間違いなく繋がる。そういうことを許容できるか?と言われると難しいでしょうね。
 安全性のためにスタンディングダウンを取る方針が定められたとしても、まだ余裕があるのにスタンディングダウンのせいで2ポイント失ってしまったじゃないか!という問題は必ず起こるでしょうからね。
 まあ、何れにせよパンチをまとめられる展開は敗北の一歩手前の「詰み」(チェックメイト)の段階、敗北必死の展開なんです。スタンディングダウンで間が開こうが開くまいが負ける一歩手前な段階であることに違いはない。今回のテーマで大事なのはそこですね)<余談ここまで>

■続行していたとしても山中はまず敗れていた
 山中本人は意外と大したことないし、効いていなかったと言ってました。試合後のインタビューで意外ときれいな顔をしていたように、顔そらしや首ひねりで衝撃を上手く逃していたパンチもあったんでしょう。
 それでもストップという結論に変わりはないでしょう。前のRで左を当てながらも、相手のパンチをそれ以上に被弾して確実に劣勢展開。山中が支配したRはなく(判定は三人共37-39でネリでした)、挑戦者優位ペースで進み、4Rという早い段階で一方的にパンチをまとめられたことからも勝利の目は殆ど無い。
 タオル(WBCはタオル棄権制度はなく、正確にはセコンドのリングインで棄権となりますが面倒くさいのでタオルで表記します)に至るまでの過程で確実に何発かはもらっていた。どのパンチがどれくらい効果的だったかわかりませんが、まとめて何発かもらう展開が続いて、ロープ際に追い詰められてまともな対応ができていない状態でしたから、ストップは当然でしょう。あそこで止めずに続行していたら、それこそ決定的に効く一撃をもらっていたのは間違いないでしょうから。
 タオルに文句を言っている人が結構多くて驚いたのですが、おそらくあの場面が決定的に山中が劣位にあることを証明した展開だということを理解できないからなのでしょうね。後述しますが、普通あの展開を見せられたらもう山中に打つ手はないので以後ネリに一方的にやられて負けるということがわかります。しかしそれがわからない・知らない人は、「もしあそこでタオルがなく続行していれば山中が勝ったかも…」と考えるからなのでしょう。 
 ネリがラッシュをかける、ガンガン前に行くタイプで異国の地で初の世界挑戦という前提を考えると、スタミナ切れという可能性もありえます。あのピンチを凌いで、ネリのスタミナが切れた8・9R以降経験豊富な山中が逆転、試合を支配して山中ペースに―といった展開も一応は考えられるでしょう。
 しかし年齢差が一回り以上離れていて、ピークを過ぎた山中がスタミナを保ちながら終盤に有利な展開を築けるはずがない。そして相手のスタミナが切れて勝負所のRに入った頃にはもうポイントで圧倒的大差がついて山中の勝ちはKOしかなくなっている。となれば、公開採点のポイント差次第でしょうけども、それ以後はネリも逃げまくってポイントアウト・判定勝ちで試合が終わっていたでしょう。
 多少の予想外の出来事があったとしても、基本この流れでまず変わらない。37-39で4Rをしのいだとしても(タオル無しで続行してもしダウンをしていたら8-10判定で、36-39に変わります)、あのワンサイドの展開ではその後ダウンをせずにいくとしても殆どネリにポイントを持っていかれる。1度でもダウンをして8-10でネリになるRがあれば…。4R以後も防戦一方で押し込まれることを考えるとやはりどう都合よく考えても5ポイントは離されて終盤を迎えるでしょうから、まず勝ち目はなかったと見做すのが妥当なところでしょう。

●ピンチを凌ぐ方法、必要なディフェンス技術の欠如
 基本この展開で流れは変わらないと書きましたが、それは流れを変える武器は勿論、何よりもネリの攻撃を封じる防御力がないから。後述しますが神の左は無力化され、ネリの詰めを山中は裁くことが出来ずに定期的にロープやコーナーに追い込まれる展開が続くからですね。もうあの時点で負けは確定したと言っていいほど彼我の戦力差は明らかでした。どうして防御力・ディフェンス技術がないのかという話をしていきます。
 あの早いラウンドであんな一方的な展開を作られた以上、山中の負けは最早明らか。効いてなかったと言うのならばなぜ反撃でパンチを出さなかったのか?応戦して戦える意志表示をしなければレフリーがストップすることもありえますし、亀ガードのようにガードを固めてカウンター狙いでまだ戦えるところを見せるとか、何らかのパンチを引っ掛けて、体勢を入れ替えるなど、窮地脱出の模索をしなければならない。
 手が出ないけどまだまだ戦いたいと思っているのなら、打ってこいと挑発したり大声あげてまだやれるぞ!と示したり何らかのアクションを起こさないといけない。押されているけど、まだ大丈夫なんだな。余裕がまだあってやれるんだなと思わせる何らかの行為をしなくてはいけない。そうしなかった以上、一方的に打たれてどうしようもなくなっているようにしか見えないのでストップは当然。
 普通ディフェンスに専念していたとしても、打つぞという目・肩・足運びでのフェイントで相手の攻撃を抑制したり、ウィービングやダッキングを交えたり、肩をぶつけるタックルで相手の突進を止めたり、パーで相手をコントロールしようとしたり、サイドに回ってホールド気味にクリンチしたり、なんとかしてしのごうとするはず。ロープ際で何も出来ないディフェンススキルのなさ、ピンチを凌ぐ引き出しのなさを見せていた以上、セコンド・レフリーのストップは常識的なものでしょう。(ウィービングやダッキングのような動きでディフェンスしていただろ!という人がいるかも知れないので、一応書いておきますが窮地を脱しなければ意味がない。相手の攻撃を無効化したり、攻守が逆転するくらい効果的な技術になったりして初めてディフェンス技術というのは意味を成すものです。一方的に攻撃された苦し紛れではディフェンスとして成立していない。効果があるといえる一定水準に達成していないので当然ノーカンになります)
 あの展開でセコンドの判断の是非を試合後に問うなんてむしろそちらのほうがどうかしているかと思います。

(●※追記補足解説、首ひねり・顔そらし―
 首ひねりという技術はディフェンスの高等技術の一つであることはあるんですけど、山中の使っていたそれはちょっと違うんですね。
 ミニマム級のチャンピオンで星野か高山だったか、ちょっと誰だったか忘れちゃったんですが、無茶苦茶首ひねりが上手くて首ひねりを多用する選手がいたんですけど、その選手は本当もう傍目から見ていてもわかるくらいグルンって感じで顔に来たパンチをひねって、「いなす」んですね。んで、顔面打った相手がそれで上体流されてつんのってしまうくらい。そうやって相手のバランスが崩れてから攻撃の機会を作ってしまう。
 ピンチをチャンスにするほどの場面での首ひねりではなかったんですが、防御場面から攻撃場面に攻守を入れ替える。受即攻かな?というくらい見事に防御と攻撃を繋げてしまうというのを見たことがあるんですけど、それくらいの完成度でないと首ひねり・顔そらしは意味がない。
 ダメージを減らすので意味がないことはないんですけど、パンチを流すと同時に合わせてフックをかぶせるとかスウェー気味にのけぞりながらアッパーを出すとか、当たらないにせよ同時にパンチを出して攻撃に繋げられないと意味がない。最後のその場しのぎ・急場しのぎにしかならないんですね。
 実際、山中がうまくいなしていて効いてなかったとしても、そこで反撃をくわえられない、合わせるパンチを出せない以上、防御をする必要がないですから相手・ネリはお構いなしにドンドン回転あげてパンチ叩き込めてしまう。効いていてパンチを合わせられなかったのか、首ひねりに専念していたのかわかりませんが、専念してあのレベルならばディフェンススキルが低いということですから止められても文句は言えないですよね。
 要するに首ひねりというのは攻撃に繋げられるくらい高いレベルでないと意味がない。そうでない首ひねりは効いてしまってもうすることがこれしか残されていないという段階での技術なので、そこでパンチを出せずにずっと打たれ続けていたら止められるのは当然だと思います。
 ※更に追記、あと気づいたので追記しますが、攻撃技術に偏って左のストレートに拘った山中が、首ひねりという戦術にたどり着いたのは必然のように思えます。中・近距離タイプの選手が首ひねり+カウンターや相打ち覚悟で打ち合うというのならともかく、遠距離主体の山中のディフェンス技術としてそこまで最適とは思えない。勿論色んな戦術・得意パンチ・他のディフェンス技術などの兼ね合いで決まることですけどね。
 遠距離からズドンで決められる山中にとって同じ遠距離タイプに同じ土俵で負けることはない。オーソドックスの中・近距離はポジショニングで苦労しない。苦労するのは中・近距離タイプで間合いを詰めてくるサウスポー。得意な左ストレートが距離が足らない分打てなくなってしまいますからね。
 そうなると、当然左ストレートを打つために間合いを取るために下がるか左右に回るかしないといけない。そのケースで山中はあまりにも真っ直ぐ下る事が多いので、真っ直ぐ下る悪癖があると言われます。真っ直ぐ下ると当然追う方は追いやすいので、同じパターン(相手が詰める→下がる→また詰めてくる→また下がる)の繰り返しで防戦一方になりやすい。で更に追いつめられた時に逃れるのが首ひねりだったということのように思えますね。
 「だったらはじめから真っ直ぐ下るなよ。左右に動く練習しなさいよ、アウトボクサーなら基本中の基本だろ…」と思われるのですが、多分、彼の場合、真っ直ぐ下った時に生まれる距離感がちょうど左ストレートを打ちやすいんでしょうね。んで距離を詰めて来た相手にズドンとカウンター合わせて仕留めたいor圧力をかけたいとまあそういうことなんでしょう。
 これまでだってそういう風に距離を詰められて左ストレートそのものを打てなくなるという場面はあったはずです。その打開策が真っ直ぐ下がっての即左ストレートだった。オーソドックスだとそれでも右足のポジショニングで被弾しにくいところを確保できますが、サウスポーではまっすぐ詰められてしまうので対サウスポー用の捌く技術が求められるはずなんですが、山中は「神の左」があるので、相手はそれを警戒して詰めることが出来なかった。
 故にディフェンス面で苦労することもなく、もし距離をミスって詰められてちょっと危ないという展開になっても首ひねりやっておけば十分だったということでしょうね。左ストレートという突出した武器を基に構築されたのが「山中戦術」。山中のスタイルが攻撃主体戦術だということを考えると、何故山中が真っ直ぐ下って首ひねりを多用する癖があるのか、よく理解できると思います。いつでも左を振れるようにディフェンスは最小限に済ませる。左を振るための「真っ直ぐ下る」&「首ひねり」なんですね。
 ボクシングには「攻撃は最大の防御」という性質がありますから、次で書いているように山中の左が衰えた時点で大ピンチ。「攻撃力=防御力」という図式を成立させてきた山中の左の攻撃力・有効性が低下してしまえば、山中の防御力はガクッと落ちるということですからね)<補足解説ここまで>

●ネリ優位を裏付ける神の左の威力低下
 参照記事THE PAGEの記事では、ネリは今もレバーが痛いんだというセリフがあって、山中のパンチが効いていた証言があるので、もしかしたら終盤ボディの累積ダメージで足が止まってワンチャンKOあるのか?とも思えます。しかし、左が見えていたというセリフがあるので絶望的でしょうね。実際、ネリが山中の左を見切っているように映りましたし。山中の「見えない左」が早いRで見切られているとすると、その山中戦術の優位性は消失したということですからね。
 負けるだろうなと思わせるシーンは3Rの終盤にネリが山中の左を躱したシーン。左ストレートを多分2回程躱していたんですね。あの左を警戒せざるを得ないからこそ、殆どのボクサーは前に出られない・攻撃ができなかったのに、早いうちからヒットもしていましたが、いともたやすく(個人の感想です)攻撃の流れの中にある過程で避けたので、ネリがケアしなくても躱せてしまった以上ダメだなと思いました。
 ガンガン前に出ていくので4Rでも被弾はしていましたが、ネリの圧力は減らないし、また左をやはり見切って躱してしまうシーンがありましたから。結局ネリという選手の強さを甘く見て侮っていた。そして何より山中の現在の戦力を高いままだと甘く評価していたわけですね。彼我の戦力を正確に認識出来ていなかった。間違った認識から正しい結果・目的達成がならないことは言うまでもありませんね。

 おかしい…ドーピングの話で2本でまとめるはずだったのに、初対戦の分析でさえこの記事一本で終わらない…。ずっとボクシングネタで書いてなかったから、溜まりすぎて余計なことをグダグダ書きすぎた…。二本に分けても初戦の話が上手くまとまっている感は少ないなぁ…。技術論だけで一本に再構成するかな。
 まだまだ残っている初対決の解説②*2に続きます。

アイキャッチ用画像

*1:タオル投入早すぎる!山中 涙の陥落…4回TKOでV13夢散― スポニチ Sponichi Annex 格闘技
 会長の非難コメントについてこちらのほうが詳しかったのでこちらも参照

*2:

2016日本シリーズ広島カープVS北海道日本ハムファイターズ 不思議な日本シリーズのおまけ

 

 ―のおまけの感想などです。まずは三戦目の古田解説のあまりから。メモったので一応残しておこうかなと。2回表、黒田は大体狙ったところにボールが行っている。有原は行っていない。鈴木に対して外の球が甘く高く入ってヒット。エルドレッドはまとめ打ちするタイプ。オールスターまでに20~30本HR打ったと思ったらピタッと止まる。打つ・打たないが時期によって波がある。今打っている時・ノッている時かもしれない。要注意と言った所でHR。
 この試合の大野のリードは、左打者のインコース・右打者のアウトコースを軸に組み立てていました。初回は左が二人だったから積極的にインコースを攻める形になっていたが、二回は右打者が続いて全てアウトコース。9・10球全てアウトコース攻めになってしまった。右打者のインコース攻めがないというのが非常に気になるリードでしたね。
 で、古田解説に戻って、打たれだすときというのはバッテリーが後手を踏む。これまでの外のストレート・高めの釣り球をHRにした。なので今回はもうまっすぐで来ないだろと思っていたはず。ファール2球もタイミングが合っていたと。ということは、それを見て配球を変えなければいけなかった。どういう選択をするべきだったのか聞いてみたいですね。
 西川か中島かちょっと忘れましたけど、粘ってファーボールで繋いだ場面で、稲葉さんが「昔スリーツーは消極的に行けということを古田さんが言っていて、まさにその通りの結果」。それを受けて古田さんが「俺、そんなこと言ったっけ?」と応えていたのが面白かったですね(笑)。
 またプロ野球ニュースで笘篠さんのコメント。ハム側の不思議な攻め方。積極的な打者安部に初球簡単にストライクを取りに行った。これまでも初球には必ず手を出している傾向があるのになんで簡単にストライクを取りに行ったのかな?とのこと。ファイターズは投手の状況・投手が投げやすいということを中心に置きすぎという気がしましたね。

■第四戦in札幌ドーム 3-1 高梨VS岡田
 この試合は古田さんが解説ではなかったのでそんなに書くことありません。四戦目、外野の守備力が命運を分けたという話をしておきながら、外野守備に定評があるファイターズのエラー。この試合の広島の先制点はエルドレッドのライトフライを近藤がエラーによるものでした。なんでセンターが捕球しなかったんでしょうか?セカンドが深く追いすぎて迷ったところに近藤が突進してきて遠慮した?2アウトなのでランナー1塁なのに、生還されてしまった。タッチアップ警戒とか、足の早いランナーが2塁にいて、外野に飛んだ場合肩の強いライトが優先的にケアするという場面でもないですし…。そもそも1塁にいるランナーは新井でしたからねぇ…。というか近藤の肩はそもそもどうだったか、地肩はともかくイップスであんまり正確に送球できなかったような?
 というかそもそもこの場面、ここまでノーヒットで抑えられていた高梨相手に、丸が先頭ファーボールで出塁。で4番の新井の場面で1B2Sのカウントで盗塁失敗なんですよね。この場面で普通走るかなぁ?まともにやっていたら高梨は攻略できないという判断…?そりゃツラゲという固有名詞が発生するくらい、ゲッツー打つことで有名な人ですけど。ファールが一塁線切れるゴロでそれを見て引っ掛けてゲッツーがありそうというのもわかるんですけどね。で、結局ノーアウトランナー1塁という形が、ランナーを全く進めることが出来ない。ランナーが釘付けで1塁ままで終わるという最悪の場面だったんですよね。そのカープ側の拙攻を近藤がエラーで助けるという何だこのシリーズ…という展開でした。
レフト松山でレフト方向に狙おうという意識がファイターズ打線にあったかも?たまたまかな。

 10/26、この試合のプロ野球ニュースの気になったメモ。エルドレッドは145キロ以上のインハイ攻めで、低めに早く変化する球で打ち取るというのがセオリー。5回の満塁の場面、4番新井に外中心の攻め方、右打ちを意識していた新井はアウトローに構えていたのがインハイに来て中途半端なスイングになって討ち取られた。対照的に中田はスライダーに狙いを絞ってHR。新聞のインタビューには石原のリードにやられたという話があったが、達川曰く、石原のリードに慣れてきたのではないかとのこと。
 ジャクソンVSレアード。レアードの攻め方で達川解説。レアードのような外国人は真っ直ぐを待ちながらスライダーを打つタイミングのとり方を子供の頃から練習する。ストライクゾーンに入ってくるスライダーは危険。初球外のスライダーの厳しい良い球で、それをマークさせて次はアウトローのいいところ。レアードはいいスライダーを見せられてまっすぐは殆ど捨てていた。そこへアウトローでここまでは完璧。なのにHRを打たれたスライダーは甘いところへ入ったと。

■石原のリードへの感想
 キャッチャーはボールゾーンに投げさせたかったんでしょうね。しかしボール球を投げるという概念がない外国人投手にあの中途半端な所で構えてボール球だという意図が伝わっていたのでしょうか?このシリーズでキャッチャーがボール球を投げるんだぞ!ストライクいらないよ!という姿勢、歩かせても次の打者で勝負。トータルでアウトを三つ取るから歩かせてもいいとボール球という素材を惜しげもなくふんだんに使って豪華な料理をつくるという姿勢がまるで見られませんでしたね。そういう駆け引きが見どころなのに、そういうものがまるでなくて面白くなかったですね。
 それと気になったのが石原のリードで、彼のリードが良かったと言われることが何回かあったのですけど、それっておそらくジャクソンのリードだと思うのですね。良い投手・持ち球が豊富な投手を好リードしても、それはシリーズ全体の話ではないと思います。そのジャクソンの球を活かして次の試合につなげる、次の中継ぎ投手につなげるという展開があったのかと言われると、なかったように思えます。石原のリードに慣れられたというのも、パターンが決まってたんじゃないですかね?序盤はツーシーム・カットで、中盤でカーブ・チェンジアップ、ランナー溜まったら右バッターのインハイにカットというのが5戦目のパターンでしたけど、おそらく1戦目もこの組み立てとあまり変わらなかったのではないでしょうか?ランナー溜まった場面でファイターズ打線はインコースツーシーム・カットを狙っていましたからね。それと左ピッチャーといえば芯を外してのゴロ、引っ掛けさせてゲッツーを取る。ゲッツーを簡単に取れるからイニングを食える、ゲームを作れるというイメージがありますが、ゲッツーが非常に少なかったですよね。パワーピッチャー系だからということなんでしょうかねぇ?
 短期決戦というのは指揮官同士の対決であると同時に、キャッチャー同士の対決でもあります。石原VS大野・市川であまり目立ったところのないシリーズでしたが、どちらかが明確に上回ったとは言えないシリーズ。キャッチャー軽視どうし、課題の残るシリーズになりましたね。
 ファイターズはもう前からなので特に触れることはありませんが、問題は広島カープの方。中村奨成くんが入りましたけど、伝統的にキャッチャーが育たない球団ですからね。広島のキャッチャーと聞いてパッと思いつくのは達川さんしか居ない。そういう球団がキャッチャーを育てられるかと言われるとまず無理でしょうね。

■セパ格差、パ・リーグの壁を想定したチーム作りをすべし&試合ごとに悪くなった広島のリリーフと良くなっていった日ハムのリリーフ
 前回書いたようにポイントになったジャクソンのデッドボール。一度レアードにぶつけているために際どいところへ投げられなかったんですね。パワーピッチャーでまっすぐと外スラのみ。あそこでインコースをつけなければ、まあそうなるでしょうねという所。カープは大事な終盤にボコボコ打たれて同点・逆転されていた。そういうところを見てもキャッチャーの配球に問題がないとは言えないでしょうねエルドレッドもそうなんですが、ジャクソンの球速ではセ・リーグで通じてもパ・リーグでは通用しないという良い見本だったように思えます。マウンドが合わなかったのかも知れませんが、出ていた球速・最速は150や151でしたが、140後半の球が多かった。サファテの160キロなど速い投手がゴロゴロいるパ・リーグでは初見でも対応するのに難しいと感じさせなかったように思えましたね。

 8回表鈴木のサイン見落としからバントミス。さらに盗塁で代走赤松が刺されるというドタバタ・拙攻。なんか解説で去年西武コーチの人がいるから中継ぎのクイックなどのフォームの癖も知っている。札幌ドームのグラウンドは、ナゴドかどこかに似ていて走りやすいなんていうコメントが途中アナから上がってきた途端のこれですからね。うーん、というところ。
 6回からリリーフで出てきたバースの素晴らしいカットボール日本ハムは試合が経つに連れ素晴らしいリリーフが出てきた。リリーフの状態が上がっていった。この後に投げた宮西然り、どんどん内容が良くなっていった。宮西は最後に左にはスライダーでいく。自分の一番自信のあるボールで行くと、もう前から決めていたみたいですね。それで丸を討ち取ったと。対照的に広島はリリーフがどんどん悪くなっていった。その差でしょうね。この試合最終回、満塁まで持っていった広島カープの粘りは称賛すべきものでしたね。

■第五戦 加藤VSジョンソン 5☓-1
 三戦と五戦目は古田さん解説なので面白かったですね。細かく書くのはこれで最後ですね。
 一回表、鈴木誠也はスリーボール・ノーストライクでも振ってくる。要注意→振ってファール、その次の球でタイムリーヒット。若手らしからぬ待ち方をすると。
 ファイターズは前回ジョンソン相手にレアードのHRくらいでヒットは出てもいい当たりはあんまりなかった。前回やられた分、ファイターズは攻略の小細工をいろいろ考えてきているはず。加藤は腕のフリの割にボールが来ない。杉内のように腕のフリとボールの速さが一致しないピッチャーは打ちづらい。真っ直ぐでファールが取れるからコントロール、いっぱいいっぱいの所を狙わずにファールでカウントを稼ぐくらいのつもりで―と言ったそばから、チェンジアップが甘く高く入ってヒットと。まっすぐにタイミングがあっていなかった&追い込んでもいなかったのにどうしてチェンジアップを選択したのだろうか?
 同じく2表、ノーアウト2・3塁でショートゴロで3塁ランナーは突っ込まず。ピッチャーゴロのように見えた当たりだが、ピッチャーゴロでもランダウンで同じ2・3塁の形が作れる。ベンチの指示でピッチャーゴロの当たりは突っ込むなという指示だったかもとのことでしたが、これもおそらくカープベンチは明確な指示を出していなかったんでしょうね…。
 田中恒成に対して、まっすぐ8球インコースのきわどいところがボールで最後の勝負球がチェンジアップ。これでチェンジアップなら振るだろうと思えたが、選んだ。初めからカットで繋ぐつもりだったのか、よく繋いだ。とても素晴らしいプレーに映りました。で、継投策で代わったメンドーサが丸を三振と。
 2裏、前回苦労したカットボールが少し甘く入ったのを中田がレフト前ヒット。レアードはジョンソンとアメリカ時代に対戦経験がある。レアードの膝下にストライクが決まるのが大事。ココでストライクが取れて、しかも曲げられることでバッターは迷う。インハイが投げきれずに同じようにレフト前ヒット。
 稲葉曰く、左打者は追い込まれるまで、インコースのツーシム&外のカットボールのどっちかに絞るべき。西川が外のカットボールをレフトフライにしている。この球だと犠牲フライの可能性がある。故に外のカットボールは投げてこない場面。よって田中賢介にはインコースのツーシムの連投でファーストゴロと。賢介も外に打ち上げにくいこの球で勝負と分かっていたはず。分かっていてもこの結果、いいピッチャーですな。こういう球が投げられるからこそ沢村賞ということでしょうね。ふと思いましたが左右の違いはあれど黒田とタイプが似ていますね。メジャー流の動かす球使いという点で。そういう意味でもこの第五戦で慣れという要素があったんでしょうか?
 ラストバッター市川、中田・レアードが打ったのと同じような球。それが三遊間ではなくセンター前に飛んだ。田中は中田・レアードの当たり同じく、三遊間をケアしていたのに逆方向の打球を上手く取った。ファインプレーだと。田中の送球がそれたのをエルドレッドがうまくカバー。二重の好守備でしたね。しかし右打者に3回インハイを投げきれなかった。投げきれるわけでもないのに危険なところに要求し続けた石原のリードはどうなのでしょう?これはいいのでしょうか…?全部ゴロ性になったように、あのボールがフライとして上がるリスクがないということなんでしょうかね?ジョンソンのカットはまず上がっていかないということだから、この選択でいいということなのでしょうか?
 2塁ベース付近の当たり、人工芝かアンツーカーでツーバウンド目の跳ね方が違う。ホームグラウンドは有利。
 3裏、中島セーフティーの構え・ゆさぶり。岡のインコースの見逃し方ぶつかりそうな当たりでクルッと回る見逃し方はインコースに強いタイプの見逃し方なのかな?四戦目でもこの巧い見逃し方をやっていたんですよね、岡。ジョンソンは右バッターに対するインコースのカットが生命線。ストロングポイントを逆に狙い撃って投げにくくさせる。マイナス思考に入るとじゃあ外へ。そして逆にその外が狙われたら…となっていくと。相手投手の攻略法の一つに相手の最もいい球を逆に狙ってそれを投げにくくさせるというものがあるということですね。
 で、岡が選んで繋いで西川へ。西川もセーフティと打線で攻略しようという意志が感じられると。西川はジョンソンに対し、ゆるい球・遅い球にタイミングを合わせながら、速い球に対応しようとする。速い球に対応しようとするとファールがもっと前に飛ぶはず。インコースツーシームをバットの根っこにでも当ててカット・ファールに出来るから外のゆるい球が見逃せる。とにかく当てて転がしてなんとかしようという狙い。初戦の3塁への内野安打・ボテボテの当たりもそういう意図から生まれたもの。で、菊池の守備でセカンドゴロになるもののランナーを3塁に進めた。
 4表、メンドーサの好投。ツーシームばっかり、特に右バッターのインサイド右打者は打ちづらい。角度があって140キロ後半で沈んでくる。広島は左投手の加藤用に右打者を並べているから尚更。古田さんは狙ってやったわけじゃないんだろうけどとコメントしていましたが、CSでやっているので確実に計算内ですよね。吉井コーチの計算通り、手のひらの上でコロコロされていますね。
 4裏、カーブ・チェンジアップ、ゆるい球を使い出す。全て変化球で最後に頭にないインローまっすぐでレアードを見逃し三振。打者の頭にない裏を書く石原のリード。右打者へのカットで勝負する場面が多い。逆に言うとランナーのいない場面ではカーブ・スライダーなどで勝負して、その球を効果的に使うためにランナーがいない場面ではあまり使いたくないとのこと。
 5表、メンドーサの膝下に来るボールの角度から言ってバットの下で打ってしまう。初見で対処するのは難しい。ベンチはゴロを打たせないような指示・対策をしないといけない。石原が裏を書いたように、菊池へのインコース攻めで意識付けをさせて外で三振。丸にカーブを見せて外への甘いスライダーを打ち損じからのまたカーブでの見逃し三振。市川の好リード。
 5裏、外の球を合わせてレフト前ヒット。そして市川の送りバントからの中島の三遊間の当たりで暴走・三塁憤死。前日の近藤のエラーのように、このようにハムにもまずいプレーはチラホラあったわけですね。しかし結果はファイターズの勝利という…。
 6表、その前からも使っていたとは思うが、印象に残るツーシーム以外にチェンジアップが冴えたという印象。チェンジアップも決まりだして最後までメンドーサで行けるんじゃないかと思わせる快投。
 6裏、左に対して外主体で攻めるようになってきたかな?どうだったか。前回は粘った西川も今回は普通に凡退。序盤内に投げて意識させて回が進むごとに外を使い、広く使おうということかな。全く肩が開かない大谷のバッティングでツーベース。中田に対して、ツーシームインコースではなくまっすぐの連投。まっすぐとツーシームの使い分けが効果的ということなのかな?待っていなかったカーブで勝負。裏を書かれて見逃すところだが甘く入ってきたのでつい手を出してしまったと。

■勝負を分けた継投策
 ここでジョンソンは95球。まだまだ行ける球数だがベンチは動き出した。ここで代えるのか?7表、小窪にストレートのファーボール。送って石原、進塁打で3塁の形を作るも無駄に。
 7裏、ピッチャー今村に交代で先頭賢介に四球。また送って中島が三遊間にという展開。今度は三塁に進む。浅いセンターフライで賢介が生還同点。カープはダメで、ファイターズは虎の子の1点をもぎ取った。両チームの実力の差を見せつける決定的な場面でしたね。
 確かに前回も7回でジョンソンは捕まったというか、打たれだした。100球が一つの目処になる投手なんでしょう。そういう要素を考慮したというのは十分わかります。しかし789の8回を任されているジャクソンが二試合連続で打たれている。少なくとももう札幌ドームで投げさせられない。投げれば3連投という悪条件も付きますからね。そう考えると7回まで引っ張る。出来るだけ引っ張って、ヘーゲンスか大瀬良なんか挟んで今村と繋いで最後は中崎。ファイターズがマツダに合わなかったように、どうもカープサイドも札幌ドームに合わないという傾向がある以上、今投げているジョンソンに託す。同点覚悟で出来るだけ引っ張って、延長を視野に中継ぎは温存すべき所。そういう場面で789の3枚を通常通り投入するという継投は大問題でしょうね。

 どういう決断を下すにせよ、大事なシリーズ・短期決戦でその都度その都度、調子を見極めつつ状態のいい選手から使っていくという短期決戦のセオリーを無視したことには違いありませんね。継投のやりくりというのはどの監督・コーチでも頭を悩ませる問題ですが、決まり決まった789回のパターンに固執する。JFKで毎回投げさせる投手が同じということをやるのは愚か極まりない判断・決断でしょう。パワプロのCPUじゃないんですから、毎回同じことやっていれば良いのならば監督なんて必要ないでしょうに。監督個人の意志・裁量が極力反映されない決断をする≒責任逃れですね。そういう官僚の前例踏襲主義のような決定をする人間を監督にする組織というのはろくな組織ではないでしょう。谷元・宮西・バースをその日の状況に応じて使い分けた。クローザーをその日ごとに柔軟に使い分け、見事に結果を出した吉井コーチと極めて対蹠的でしたね。

■追いつかれた時点で負け確定。ラストはまさかのサヨナラ負け、しかもクローザーが満塁弾被弾
 第四戦でのジャクソンのスライダー・ウイニングショットを狙って打ったレアードはキャッチャーとして非常に嫌なタイプと。大谷との対決で、ジャクソンはパワーピッチャー。速球・ファールでカウントを稼いでスライダーで勝負をするタイプ。追い込んで外に落したいがそういう球を持ってない。インコースか膝下にスライダーを投げるしかない。
 最後は札幌ドーム初登板の中崎が西川に満塁弾を打たれて前田さんが「ホームランはないだろー」と叫んでジエンド。賢介にファーボールを出してからなのですが、左打者相手に制球が良くなかった。急に悪くなっていました。まあ、正確にはその前の陽に対するインコースの勝負球が甘く入ってレフトフライというところからですが。で歩かせてからバント&ヒットで岡へのデッドボールなのですけども、問題のデッドボールの前のバントとヒットはピッチャー前の当たりで、中崎が処理をしたんですよね。それで慣れないマウンドから降りる時に足でも痛めたのか、内野安打を自分のフィールディングのミスと捉えたために動揺でもしたのでしょうか?更に続く左バッター岡にデッドボールとなりました。岡が怒ったのはそれまでも執拗に危ないところに行っていたからですね、ぶつかってはいませんでしたけど。避けられるところなともかく絶対に避けられないところに行きましたからね、思わず怒鳴ってしまったんでしょう。で、さらに制球のつかない左打者が出てきた時点で勝負は既についていたというところでしょうね。
 また、バントの後で一度投手コーチがマウンドに行っていたので、そこで間を取ることが出来なかった。両軍ベンチ騒然という緊張の場面で、中崎を落ち着けるために間を開けることが出来なかった。あそこで石原が一度マウンドに行ってほしかったですね。もしくはファーストかサードがマウンドに行って肩を抱いてアドバイス・声掛けで間を開ける。一呼吸間をとってほしかった。ファーストがエルドレッドサードが小窪。どちらかにベテラン新井がいて、そういう事が出来れば…。歳を考えれば守備はもうキツイから無理でしょうけどね。
 
 で、10・27のプロ野球ニュース解説。大矢いわく、レアードはちょっとスピードの落ちるアウトコースよりにツボがある。そして高く浮く甘い球。大野とは違って市川はインサイドの速い球を上手く使う。高木いわくファイターズは大谷・中田・レアードがしっかりしている。が、カープエルドレッドしかいない。そしてエルドレッドの攻め方、インハイにきっちりいくようになった。ファイターズは本当に攻め方を知らなかったのか?インハイを付けきれなかったのか気になる所。4番にエルドレッドだが、穴が大きいエルドレッドを4番に置くか?という高木の疑問に、大矢は「僕は置かない」とのこと。まあ、そういう意味では4番の差なんでしょうね。4番を打てる中田にレアードが控えているファイターズと1~3番はタナキクマルと揃っていても4・5番がいないカープの差と言えるでしょうね。
 ジョンソンのインサイドの使い方、石原のリードが上手かった。高木曰く、7回の犠牲フライで賢介の生還。肩の強いライト・鈴木誠也が取ったほうが良かった。ライトに任せてほしかった。ホークス柳田のように強引に奪い取っても良かったのでは?と。
 エルドレッドがそれたボールを倒れ込みながら捕球しましたが、守備上手いんですね。ファーストの捕球能力は内野の守備力に直結するといいますが、こんなところも広島がリーグ制覇できた要因なのかもしれませんね。

■第六戦 inマツダスタジアム 野村VS増井 4-10
 まあ、もう言うこともないのでラストの締めに入るのですが、間違いなくこの試合でファイターズが勝って終わるだろうなという展開になりました。広島サイドは、内弁慶シリーズになることを願って闘うしかなかったでしょう。言うまでもなくそんな都合のいいことは起こらないし、甘い考えが通じるはずもないわけで。
 カープはこのシリーズ一貫して優位な展開で進めていた。広島ペースの試合運びをしていました。殆どすべてカープ先制で、第三戦で先制を許してもすぐに点を取り返してカープリードの展開にもっていった。このシリーズを見ていない人に全ての試合の6・7回までを見せて、どっちが勝ったと思うか尋ねれば、どう答えるか?そしてカープは7・8・9の三枚が機能していて、ファイターズの三枚が機能していないことを付け加えれば、カープ日本シリーズを制したと10人中10人がそう答えるでしょう。
 とにかくカープは7・8・9回というの大事な終盤に失点する(三戦目は延長10回ですが同じこと)。終盤になればなるほど重要な一点を取ること、一点を守ることという野球のセオリーが出来ない。となると、カープが勝つ試合展開は初戦・二戦目のように4点差以上の大差をつけるしかない。3点でもいけるかも知れませんがまあ何れにせよクロスゲームではまず追いつかれて逆転負けする。打線が序盤に大爆発するしかない。そういう前提で最終戦に突入しました。

■考えられない8回での大量失点
 今回は珍しくファイターズがリードしてゲームを進める。これまでの勢い・流れを引きずった展開となりました。劣勢から5・6回で1点ずつ追加して追いつくというこれまでにないゲーム展開。これならばひょっとして同点のまま9回サヨナラもあるか?とかすかな希望を抱かせながらの件の8回の満塁弾。
 2アウトからあれよあれよと3連打で中田で押し出し。そしてピッチャーバースにタイムリーを打たれてしまい、限界だろうというとこでも投手を代えずジャクソン続投。挙げ句にレアードに満塁弾という???な展開に。伊集院さんがラジオで「勝つにせよ負けるにせよ、今日だけは勝って明日黒田の最後の登板だけは見たい。そういう一種異様な空気に包まれて相当なプレッシャーがあった」。レアードのところも「あれよあれよという間にヒットで繋がれて混乱している所でまさかのバースのタイムリーで何が起こったか分からなかった。そこで更に満塁弾。あっという間の出来事だった」と。観客席・広島ファンからすると本当に衝撃な展開過ぎて血の気が引く思いをしたところではないでしょうか?
 ファンがそうなったとしても何の問題もない話ですが、指揮官・ベンチの人間がこれでは困る。もちろんベンチに居るコーチや監督がどう思っていたかはわかりえませんが、彼らも同じくパニックになっていたんでしょうね。でなければレアードに打たれた後での大瀬良交代というのは説明が付きませんからね。もう今日負けたら終わりという場面でなんで?としか言えない。
 大事な1点を争う場面でこのシリーズ調子を落としていたジャクソンを登板させたことも疑問ですし、使うのならばこのような不出来、ピンチを作ることを想定して、すぐ降ろすことも計算して使うはず。北海道で3連投させてあげくこれですから、もうなんと言って良いかわかりませんね…。
 まあ何度もいいますけど選手を信頼する・任せる・心中すると言えば聞こえはいいですが、要するに何にも考えていないということですからね。心中するというのは、あらゆる手段を尽くして他に打つ手がない。ここでもうこの選手が打たれたらどうしようもない。他に彼以上の選手はいないという状況・場面ならばわかりますけども、そうではないですからね。
 人事を尽くして天命を待つではなく、初めからこの回で使うとただ決めて状態・試合状況を無視して使っているだけですから、最低な采配としか言いようがありません。
 8回という大事な終盤で、しかも今日負けたら終わりというゲームで、2アウトからファーボール挟んでの5連打で6失点という展開はなかなか見れないゲームでしょうね。

■危機管理・継投・投手コーチの差
 吉井コーチはいつものようにあらゆる投手を試して、あらゆる状況・展開に備えるようにしていました。ベンチ全ての投手を使って、先発がろくに機能しないという最悪に近い状況でも勝ちを拾う展開に繋げていきました。対照的に緒方監督・畝コーチは何も考えない投手起用・継投。こういう時にどうするか、危険球・故障などのアクシデント、先発・勝利パターンに投げる投手の不調に予め備えて、投手陣を整備する・試すという発想がなかった。勝ちパターン以外はヘーゲンスと大瀬良くらいでしょう、確か投げたのは。バースの活躍が際立ったシリーズになりはしましたが、他に石井・井口・鍵谷なども使って勝ちを拾いました。ベンチ入り投手で使わなかったのは万一の際のロングリ&右打者対策の左投手&既に構想から外れていた吉川以外では白村くらい。ベンチ入り全員で戦ったファイターズに対し、勝ちパターンに拘ったカープの差ですね。
 一岡や九里や福井を上手く使いこなせなかったカープの投手起用・継投には大きな問題があると言えるでしょうね。この記事(※参照―【日本シリーズ】広島の「DH解除」にネット裏から異論噴出)なんかにあるようにDH解除をするなど戦い方に大きな問題があります。都合の良いこと・都合の良い展開になるということしか考えていなくて、それ以外のパターンに入った時に、予想外の事が起こった場合に極めて脆いという拙さがそこにはあるでしょうね。危機管理の思想がそこにはない。危機管理思想を徹底してペナントを戦い、短期決戦を見据えたチーム作りをしなければならないでしょう。
 まあ、アニマル浜口氏が五輪で娘の敗戦について、引き分けでポイント先取という極めて有利な場面で逆転負けして、「あの場面では足を取られてから投げられながら返す以外にない。そうされないように徹底してそうされない練習をしてきたのに、それをくらうなんてなんていう負け方をしたんだ…。なんて言う負け方をしたんだ…。」とぼやいて呆然としていたのを思い出しましたね。
 松山という大谷キラー、大谷からプロ初HRを打った選手がいて、このシリーズでもまた大谷からHRを打つという最高の展開になった。絶対的な投手から勝利をとる。まず厳しいと思われていた大事な初戦を取れて、しかも二戦目も続けて取れた。これ以上ない最高の結果となった。ファイターズは残り5試合で4勝しないといけない。もう殆ど不可能。これだけ幸運が舞い込んできても活かせないというのは相当な実力差・問題がそこに内包されているということ指揮官の決断欠如・投手継投の拙さ・短期決戦に必要な戦力整備欠如などの問題を解決しない限りこの広島カープの短期決戦での弱さというのは依然変わらず続くでしょうね。

■バランスの悪いカープの戦力・左欠乏症
 で、最後なんですけど、何かの記事でどうして清宮を指名しなかったのか?みたいな話で、カープは年齢別にどのポジションの選手がどれくらいいて、チームに求められる選手が一目瞭然でわかる。清宮はそこにハマらなかったから早々とカープは撤退した。長期的なビジョンがあってそれに沿って動いているカープは素晴らしい―的な記事がありました*1
 で、「え?」っていう話になるんですけど、今年散々話題になりましたが、広島は左投手・左のリリーフがいない。左のワンポイントリリーフがいないから勝負所で筒香に打たれて負けたというような場面がありました。先発左腕に左のワンポイントに、ロングリリーフ。7・8・9回も必ずというわけではないですけど、やはり左投手を1枚挟みたいもの。森福がやっていたように7回でもいいですけどね。9回岩瀬はちょっとというかかなりレアなケースですけど、右が三枚続くというのはなるべくなら避けたい。こういう事を考えても明らかに&絶対的に左投手が足りない。これでどこにビジョンがあるといえるの…?そもそも広島は右のロングリリーフもよくわからない。右のロングリリーフは誰なんでしょうかね?
 また、このシリーズでも加藤→メンドーサで目立ちましたがとにかく左バッターが弱かった。松山が活躍したのは初戦の大谷のみで優秀な左バッターは田中と丸くらいでしょう。これはいくらなんでも問題がある。この広島東洋カープ部には問題がある。左投手どころか左打者も足りていない。左欠乏症というのを何とかする必要性があるでしょうね。広島カープは。

 まあ、そういう問題は2016年の時点でわかっていたはずで、そういうチームの課題・欠点に手を付けないからこそ、今年(もう去年ですが)風物詩を爆発させたわけで*2。まさに負けに不思議の負け無しというやつですね。しばらくリーグで優勝を狙えるチームなだけに、今年・来年いつまた風物詩となるかわからない。こういうリスクを抱えているのに放置していていいのでしょうか…。
 金村さんが采配を痛烈に批判して、試合後鈴木誠也が泣きながらバッティング練習をしていたという話をしていましたが、選手たちが可愛そうですね。丸・菊池の存在は前から知っていましたが、田中・鈴木といい選手が揃って、凄い良いチームになった。それがこんな大逆転負け・惨敗をするのですから心情察するに余りあります。まあ問題の本質に手がつけられることはないでしょうね…。オーナーが代わらない限りは。

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*1:ちょっと話は違いますが、これにも書かれていますね。広島は、なぜ清宮争奪戦から撤退したのか? 再び脚光浴びるドラフト戦略3カ条 | VICTORY

*2:大砲と先発投手・クローザーなど、戦力を集めればそれで勝てると考えるかつてのダイエーホークスに似てきているとみなしても良いかも知れません。大砲ではなくて俊足巧打者という点では決定的に違いはあるんですけどね。これで強打の捕手が揃えば…

2016日本シリーズ広島カープVS北海道日本ハムファイターズ 不思議な日本シリーズ<後編>何故広島東洋カープは短期決戦に弱いのか

※2018の日本シリーズのために、アクセスが増えたので要点を追記します。広島カープがなぜ短期決戦に弱いのか。
 ①セ・リーグパ・リーグの実力・地力の違い。
 ②DH制の有無によるパ本拠地、ビジター・アウェイでの弱さ。
 ③短期決戦の戦い方・セオリーを知らないor無視した戦い方をする。
 ④短期決戦を勝ち抜くための選手・脇役的な選手がいない
 ⑤監督が戦術を考えて選択をしない。戦略・戦術を決める頭脳であるはずの監督がその役割を果たしていない
 ―とまあ大体そんなことを書いているということを念頭にお読みになっていただければ宜しいかと思います*1。①は当たり前のことなので別に触れてはいませんけどね。この文は個人的に思った感想文、書きたいことをただ書き連ねただけの文でまとまり・一貫性に少し書けるものなので、本質・要点を絞って伝える文になってない。なので、今一度ポイントだけ絞ってまとめておきました。

 ※※今、読んだらあんまり上手いまとめになっていなかった、というかこの文章のまとめになっていなかったので、文章の<前書き>・<導入>を兼ねて再度追記します。
 前回書いたとおり、日本ハムファイターズというのはいくつかの点から短期決戦が苦手、弱いチームであるということがわかる。その短期決戦を不得意にしているチームに対し、広島カープはなんと球界を代表する絶対的な投手大谷を打ち崩しホームで連勝するという幸運・最高の結果を引き出したにもかかわらず、日本シリーズで敗退することになってしまった。短期決戦で連勝しながら4連敗で敗退するということは正直近代野球以後の現代ではありえない。33-4で4連敗するより難しい負け方、考えうる限り最低最悪の出来事であると言える。
 では、どうして4連敗という惨憺たる事態を招いたのか?その理由は一体何なのか?それは広島カープがファイターズのさらに下を行く短期決戦下手だから。そもそも短期決戦というもの・戦いゲームの構造を理解していないからということに尽きる。短期決戦というのは言うまでもなく彼我の戦力差によって決まるものだが、その当たり前の要素の次の要点となるのは、まず守備・守りの計算。そして相手に対する戦略・戦術プラン。つまり指揮官の事前の戦略と当日の現場・結果に対して臨機応変に戦術を繰り出す采配によって決まるもの。それが拙いというだけならばまだしも、最後の指揮官の采配という点では拙いレベルを通り越して存在していないのだから、組織が機能するわけがない。組織が機能不全に陥って機構を停止すれば惨敗をするのは火を見るより明らか。
 守備の軽視、対ファイターズ戦略・戦術プランという采配の欠如、指揮官の采配の放棄、それらがカープがファイターズの下を行った。下回った要因と言えるでしょう。(追記ここまで、以下本文)

 前回(2016日本シリーズ広島カープVS北海道日本ハムファイターズ 不思議な日本シリーズ<前編>何故日本ハムファイターズは短期決戦に弱いのか)の続きです。前回書いたように何故、菊池のバスターと丸の意表を突くバントで広島がシリーズで勝てないと言えるのか?どうしてこの素晴らしいプレーがカープの敗因になるのか?それはこれが指揮官・緒方監督の判断によるものではないからですね。
 日本ハムファイターズの敗因は、日本シリーズという短期決戦用の策がないこと。短期決戦では相手の特徴を理解し、相手の長所を殺しストロングポイントが発揮できないようにして、短所をついていくことが基本です。また、打線の処理で誰を殺すか、どのバッターに焦点を当てて集中的にアウトを重ねるのかというのがポイントになるように、打線を線にしないで分断して処理をする(=アウトを取る)、失点を最小限に抑える工夫が大事になります。そういう工夫がまるで見られないシリーズだったので残念でしたね。お互い戦術と戦術をぶつけて知恵を巡らせるという駆け引きがあまり見られませんでしたから。
 最近の野球の特徴と言っていいかも知れませんが、一試合一試合、途切れてしまっている。バラバラになっている感が強いんですよね。前の試合を活かした判断、プレー。そして次の試合につなげるための工夫・配慮というものが見られない。ある程度のスパン、特定の期間でトータルに考えて長期的視点から戦術・戦略を構築するということをしない傾向があるように思えます。その試合が終わったら、それまでの流れ・経過はポイ捨てして、また違う試合にゼロから取り組む。1カード=3試合で捕手を固定しない、捕手軽視なんかもそうですよね。明日は明日の風が吹く的な傾向が非常に強くなっていて興ざめしてしまいます。

■ファイターズ同じく短期決戦の基本・セオリーを知らないカープ。そのカープ日本シリーズで惨敗するのは当然
 話をもとに戻して、日本ハムファイターズがその基本をやっていないというのと同じく、広島東洋カープも同じ。その基本を抑えていない。日本シリーズという短期決戦用の策がない。指揮官が戦略・戦術を練って、その基本プランに応じて、状況を判断し決断する。指揮官の指示を明確にコーチ・選手に伝えて、実行するという意志決定過程がそこに存在していないのですね。組織としての明確な指揮系統が存在していない、これではチームとは呼べない。そういうチームが短期決戦で弱いのは至極当然、当たり前すぎるほど当たり前ですね。
 広島のリーグ優勝は25年ぶりだった―ということは、日本シリーズの経験が25年ないということ。ベテランも黒田や新井くらいで経験豊富で支柱となる存在がいない。新井が阪神日本シリーズで何回も活躍してチームを日本一に導いているとかでもあれば、また少し話は違ったのでしょうけど、もちろんそういうわけでもない。圧倒的に経験値が足りない。以前書いたように、広島カープが日本一になるには数回は日本シリーズに出続けて経験を積む必要がある。短期決戦の豊富な経験を積んで初めて日本シリーズに勝てるようになる。クライマックスは同じリーグ同士の対決なので違うリーグの短期決戦の経験とは別ですからね。どう見ても日本シリーズの経験値が足りない。まあ、そんな当たり前のことも理解せずに拙記事に難癖つけてきた輩がいましたが(笑)。
 ①日本シリーズ用の特別な戦術・戦略の欠如、②経験値不足、③頼りになるベテランの欠如。この三点が広島の弱点であり、ままファイターズと共通するんですね、実は。それでも両チームを比べてみると、②でも③でもファイターズの方がまだ上回っている(③は互角にしてもいいですけども)。そういう点でファイターズが上を行った・シリーズを制することが可能だったと見ることも出来るでしょう。より正確に言うと、ファイターズが上回ったと言うより、カープが下回った。勝手に自滅していったというべきですね。

■シリーズ前の懸念と二連敗後の緒方監督への評価
 チーム力というかパ・リーグで普段から揉まれているファイターズが普通に勝つだろう。しかし、シーズン終盤怪我が多発して、万全とは程遠い状態。そこで経験値不足な大谷が乱調となり、初戦を落してしまうと…。短期決戦に強いチームではないだけにファイターズがコケる可能性がある。それがちょっと怖いなぁと戦前は見ていました。ファイターズが勝ってもらわないと球界改革が進まない、セ・リーグの停滞・腐敗状態が改まらない。球界全体の構造・流れが変わらない。ですから、ここでファイターズが負けると、下手すればまた10年は球界改革が遅れる。だから、そうならないようにちゃんと取りこぼさないで上手くやってくれよ…と思って見ていたのですが、連敗で「ああやっぱりやっちゃったか…。何やってんだよファイターズ…。そしてこんなに短期決戦に弱いチームに負けやがってバカ工藤&佐藤義ィイ!」とイライラしていました。
 それとは別として、戦前から緒方評はあまり良くなかった。そんな大した監督だとは思っていなかったので、件のバスターとバントで「こんな思い切ったことをやる監督なのか…。ちゃんと作戦を実行できる監督じゃないか。こういうことをやってくる監督ならば、戦術面で広島にやられてしまう、日ハムは負けるだろうな…」と思い、半ば諦めていました。中村晃めて三戦目を見ました。

■二連敗でファイターズの敗北・カープの日本一は決まったも同然
 第三戦は、ファイターズのホームに帰る。ここで流れを変えるしかない。ココで流れを変えれば少し分からなくなる。というかもうホームで三連勝するしかファイターズに勝ち目はない。大谷はもう投げられないし、増井も頼りにならない。広島・マツダのマウンドで実力を発揮できる先発が考えにくい。クローザーだったマーティンも故障でいないため、後ろにつないでいく投手継投でも四苦八苦。将棋で言うと金2枚・銀1枚落ちくらいの感じでしょうか?状況は絶望的。これでここから日本ハムがホームで3つ取ることが出来るか?広島は789に投げる三枚が機能しているのに対し、こちらは誰が789投げるのかわからない状況。これでファイターズが勝つと見なすほうが不自然でしょう。
 さまぁ~ず三村さんがツイートして炎上していましたが、「ファイターズってこんなに弱いのか」というのはプロ野球ファンなら当然の感想でしょう。短期決戦で大事な初戦・二戦をいくら敵地だとは言え、連続して落とすことはありえない。それだけは絶対しないように闘うのが普通。負けたとしても打線を丸裸にした、これでここから1点も取られない。すべてわかった!とでも言うなら別ですが、いくら本来のチーム状態でなかったとは言え、この結果を見れば栗山監督は短期決戦に向かない監督と言えるでしょう。
 結果的にはその後、四連勝で栗山監督の想定内だったのでは?という人もいるかも知れませんが、三戦目は辛勝。9割5分負けていて、ぎりぎりなんとかひっくり返した形。いつ負けてシリーズ敗退となってもおかしくないゲーム運びでした。終始相手ペースで戦ったゲームで計算内・想定内とは到底見做すことは出来ないでしょう。

■2016のファイターズはリーグ制覇・CS突破は素晴らしくとも日本シリーズの戦い方は稚拙
 それだけ投手陣の不調が大きかった。むしろこの状態でよくパ・リーグで勝ち上がってこれたと見ることも可能ですね。その点の評価は決して落ちないですし、称賛されるべきでしょう。しかし、本来の7割位のチーム状況で万全な戦い方ができない。不利な状態で最終決戦に望むという状況にある以上、本来取らない作戦・奇策で立ち向かうべきなんですね。普通にやったら、ファイターズの7割はカープの10割を上回るわけが無いのですから*2 
 何度も言うように、ペナントのような長期の戦いと違う、短期の戦いではいつもと違う戦い方が必要になる。その短期決戦においていつものファイターズの野球をしてしまった。これが大問題なんですね。チームには基本の形があり、それを基準に闘う。しかし、いつもと違う短期決戦ではそれをベースに奇策を盛り込む・特別な戦術をその上に重ねなければいけない。割合はどうなるかは状況次第で変化するためにわかりませんけども、大体いつもの戦い方=基本・基盤が7で奇策・特別な戦い方が3という7:3位の割合ですかね。まあチームスタイルやその時のチームコンディションにその年の対戦相手などに応じて割合は可変するものでしょうけどね。
 いずれにせよ何割かはいつもと違う奇策・対策を盛り込むものなのにもかかわらず、いつもどおりのファイターズの野球をした。これは短期決戦に弱いチームだなぁとしみじみ思いましたね。あまり走らず、犠打で繋いでいく。これは手堅い王道野球です。が、しかしこの王道野球というのはこちらの戦力が確実に相手の戦力を上回っており、かつペナントレースのような単位で戦った時の話です。そういう条件を満たしてのみ効果を発揮すること。巨大戦力を保有するかつてのジャイアンツのような思想ですよね。ジャイアンツのように細かい作戦を実行できる選手が少ない・野球脳が足らない選手が多いとでも言うのならばともかく、どうしてファイターズのような球団がこういう方針を採用してしまっているのか不思議でなりませんねぇ…。

 そしてそのような稚拙な戦い方をしたファイターズに敗れてしまった広島カープはもっと大きな問題を抱えていると言えるわけですね。次はその点にスポットを当ててみたいと思います。

■シリーズ全体を決めることになった第三戦の決断欠如の緒方采配
 で、本題の緒方監督の話ですが、三戦目の古田氏のテレビ解説で元広島の前田氏に話を振って、こんなことを言っていました。古田曰く

 「カープは守備・攻撃が自由・各個人の裁量に任されていますよね。」

 一回裏のランナーがいる場面で、長打が出る場面ではないから、外野がもう少し前に出ていい。なのに外野は殆ど定位置だった。これを見て古田氏がこういう解説をしていたんですね。ハッキリ言ってこれはありえないこと。選手の自主性を重んじるという領域ではない。外野の守備位置をその選手に任せるなんてありえない。その打者の調子・投手の調子を把握して配球を考えているキャッチャーが指示を出すというのならまだしも、大事な短期決戦で外野手各個人がそれぞれ位置を自分自身で決めるなんてありえない。指揮官の判断もしくはコーチが指示を出して決めるべきことでしょう。
 そしてこの試合・第三戦目は延長でファイターズが制しましたが、そのサヨナラの場面は次のようなものでした。延長10回裏、西川が走って2塁へ。西川が還ればサヨナラ、外野は前進するはず。丸がコーチの指示を確認して定位置よりも少し前に来たくらいであまり位置を変えなかった。それを見て、古田は―ということは歩かせるんでしょうねと、語る。しかしバッテリーはゾーンで勝負して、石原がマウンドへ確認しに行く。大瀬良は勝負するんですか(もしくは勝負しないんですか)?という顔付きで石原やベンチを見ていた。そういうどっちなんだ?と誰もが思う中で、「ベンチの指示がバッテリーに任せるというのならバッテリーが考えることだが…」と古田氏が解説していた所で結局、勝負を選んで大谷がヒットを打ちサヨナラとなりました。勝負に至る過程で明らかにベンチと選手の意思疎通が取れていない・上手く図れていない。これではピンチにおいて、危機管理が出来る・臨機応変の対処ができると考える事はできないでしょう。いくつかのケースを想定しておいて、すぐ指示が出せるようになっていなければ選手が目先の勝負に集中することは出来ませんからね。
 そして、この決断の根拠が結局よくわからない。個人的に理解が出来ないんですよね。大谷>中田と決めていたなら最後まで中田勝負で敬遠すべき。投手ジャクソンと大瀬良の違いなのか?ジャクソンならともかく、大瀬良ならば大谷のほうが抑えやすいという判断・根拠があったというのか?また中田の次の岡を見れば岡勝負というのも十分にある。ジャクソンが岡を簡単に打ち取っていたのだし、岡勝負でいい。最悪大谷・中田二人敬遠して、岡と勝負ではないのか?打線単位で考えて処理をすることを考えれば後者でしょう。大谷・中田二人からアウトを取ることと、岡とどちらが怖いのか、どちらがアウトを取れる可能性が高いのか言うまでもないでしょう。1点でゲームが決まる場面でなぜ警戒していた大谷と勝負なのか理解できません。大谷・中田にはくさい所を突き続けて駄目なら駄目でいい。結果的に歩かせて満塁にしてしまってもいい。1点勝負でどのバッターからアウトを取るのがベストなのかを考えると大谷・中田はカウント次第で勝負すべき。1アウト満塁でもう歩かせられない場面になったとしても、岡で2つアウトを取る(無論、三振でアウト1つ止まりならその次のバッターとさらに勝負)という選択でよかったでしょう。トータル3人でアウトを取るという視点が何故なかったのか?今日負けるとしても、主軸・クリーンナップの大谷・中田に打たれて負けるのと、伏兵岡どちらに打たれて負けるのがシリーズ的にいいのか、本当にちゃんとした計算があったのでしょうか?それがあって、大谷・中田勝負のほうが抑える確率が高いというのだったなら良いのですが…。どうもそういう物があったように思えないんですよね。ベンチのドタバタを見る限り、思い切っていけ!位の感覚しかなかったように見えました。

■シリーズ敗退を決定づけた外野守備軽視
 10/25の第三戦は本当に不思議な日本シリーズを象徴する試合でしたね。また、その前の8回の勝負所。カープが1点リードで8回を迎えた所、大谷敬遠で中田勝負、レフトの松山がボールを後ろにそらしてしまって同点どころか逆転を招いてしまったのも言うまでもなく疑問。何故そこで外野を松山から赤松に変えておかなかったのか?守りきる・逃げ切る展開で次の回松山に打順が回るなどと欲張るべきではない。初めから中田に打たれる前提でいたのか?守備固めをしなかったというのは、同点のリスクが高いということ。もしくは同点延長で十分こちらに勝算があるということ。最悪同点でもOKだと判断したということ。であるならば、外野に飛ぶ際どい打球は無理するなという指示を出しておかなくてはいけない。後ろに逸らすということだけはするなよという指示を出さなくてはいけない。それを怠った。指揮官が判断・決断を放棄した。これで広島カープのシリーズ敗北が決まったと言っていい場面でしたね。
 どういう考えを持ってああいう形にしたのかはともかく、いずれにせよカープの弱点外野守備がここで出たわけですね。どこで書いたか忘れましたが、カープがホークスにむちゃくちゃ弱い・天敵状態になっているのは、走られ放題であることに加えて、外野守備が拙い。広島カープというかセ・リーグ全体の傾向ですが、外野が狭い分、ヤフオクドームや札幌ドームの広い外野で致命的なミスをしたり、守備範囲が狭い外野手をおいて捕れそうな当たりもヒットにしてしまうという傾向がありました*3。一点を競ったクロスゲームで終盤エルドレッドだったか忘れましたが、外野の何でも無い当たりを捕れずに大事な一点をホークスに取られて敗戦という試合があったのを覚えていますからね。外野守備のレベルの差というのも交流戦パ・リーグが圧倒する理由の一つになってるわけですね。長年自チームの課題を克服できずにいる、対策を打ってないことも広島カープの問題点でしょう。

■短期決戦用のチーム作りを怠ったまま日本シリーズに挑んだカープが敗北するのは必定
 1点が大事な終盤で外野の守備固めを怠る。外野の守備固めをすると、得点力が落ちるのが怖くて代えられない。そういうチーム作りをしていたことが本質とは言えないまでも、カープの敗戦の要因の一つと言えるでしょう。レギュラーに素晴らしい選手が揃った、主力がリーグを代表する選手だらけになったとは言え、選手層が厚いとは決して言えない。であるならば、脇役でそれぞれ役割をこなせる選手を育てる・トレードなどで獲得しておくべきだった。
 たとえば守備固め代走要員に左右の代打の切り札。選手を交代した時の控えもしくはアクシデントのときのためのユーティリティープレーヤーなどですね。そういう役割をこなせる選手を普段から求めて試合で使うようにしておくべきだった。こういう選手がいない以上、短期決戦を考えたチーム作りがなされていないとしか思えない。短期決戦・日本シリーズを戦うつもりがなかった・勝つつもりがなかったとしか思えない。各戦局で重要になる役割に応じた選手がいない。これでどうやって日本シリーズを闘うつもりだったのか逆に聞いてみたいくらいですね。「いったいどういうつもりなのですか?これで短期決戦どうやって勝つつもりなのですか」と。現代野球のセオリー無視という要素は決して見過ごすことができないでしょうね。

■指揮系統・意志決定が存在しない広島カープ
 後でわかったことですが、広島カープはこのように選手が判断する領域が多すぎる。菊池のバスターも丸のバントも、実は緒方監督の判断・策ではなく選手自身のアイデア・思いつきだったとか。短期決戦の重要な場面での判断を選手に任せるということは、自分自身は何も考えていないと言うのに等しい。監督が選手の意見を聞きいれないとかそういう類の話ではなく、基本的にプレー・作戦の判断は監督・コーチの仕事。いくつか状況に応じて選択権を与える。この場合はこうして、違う場合はああするという指示を出して、最終的にどれを選ぶか選手が決めるということももちろんあります。しかしそういう場面ではない。大事な場面では絶対監督・コーチが明確な指示を出さなくてはいけない。流石「行けたら行け」というあやふやな指示を出す監督を輩出したチームだと思いました。
 戦略プラン上、ここは少しおかしな指示でも長期的判断に基づいてセオリーから外れる選択をするというのは監督にしかできない仕事。選手は指示がおかしいと思っても長期的な判断・作戦立案をすることはできないし、わからない。ですから言われたことをただ実行するしかない*4。目先のプレー・仕事に専念することが選手の役割だからです。選手が各自勝手に判断して行動していたら、組織は機能しない。チームは破綻します。
 監督が作戦立案・采配を放棄している。これでは監督が存在していないのと一緒。ベンチにFAXが送られて来て、その指示どおりに采配が決まるのと一緒ですね。これで勝てという方がおかしい。いったいどういうつもりで采配しているのか。またどういうつもりでフロントは彼を監督にしたのか。地元メディアは荒れに荒れてフロントを叩くレベルでしょう。ちょっと近代組織の常識からは考えられない人事ですね。

 要点は語り尽くしたので、もう殆ど重要なことで語り残したことはないのですけど、プロ野球ニュースメモや古田さん解説でメモったことがあるので、それにチラホラ触れて終わりたいと思います。中途半端な長さになるのでおまけとして別枠で日本シリーズの感想を残しておきます。おまけも意外に長くなりそうなので、ちょっとバランスがおかしくなったら、またこちらにいくつか追記します。おまけ編→2016日本シリーズ広島カープVS北海道日本ハムファイターズ 不思議な日本シリーズのおまけ

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*1:守備軽視とか入れても良いんですけどね、それはまあいずれ書く2018の日本シリーズのところで書きましょうかね?いつ書くのか知らんけど

*2:セ・リーグ見ていないので、その時のカープの状態が10割か9割か断定できないんですけどね、実は7割だった!!ということもあり得るかもしれませんけど、まあ多分9割以上の状態だったと思います。

*3:ヤフオクドームはテラスができてからは狭くなりましたけどね

*4:無論、事前に監督・トップがこれこれこういうことでプランを立てているから、おかしいと感じるかもしれないが実行してくれと事前に説明することはありますけどね

2016日本シリーズ広島カープVS北海道日本ハムファイターズ 不思議な日本シリーズ<前編>何故日本ハムファイターズは短期決戦に弱いのか


 今頃書いていなかった2016年不思議な日本シリーズの話*1。もうめんどくさいから書くのやめようかなと思いましたが、広島カープのCS敗退という事件があったのでそのことについていずれ書くだろうから、どうせ書くなら、まあやっぱりこの話も書こうかなと今更ながら書くことにしました。
 とにかく不可思議な日本シリーズでした。というのもお互い短期決戦が下手なチーム、弱いチームなので、「???」と思うことが目立ったシリーズでした。ファイターズは言うまでもなく日本シリーズで唯一セリーグに分が悪い球団。
 90年~92年に西武ライオンズが3連覇して以降、93年から02年までライオンズは5回日本シリーズで敗れるという出負け状態が続いていましたが、04年・08年には見事日本一になっています。そして言うまでもなく03年からはパ・リーグ絶対時代に突入します。この03~17年まで実に15回中12回パ・リーグ側が勝って日本一になっており、セ・リーグ側の球団はたったの3回しか優勝できていない。最近10年間では日本一になったセ・リーグ球団は巨人しかないという有様です(巨人が日本一になったのは09年と12年です。ちなみに残りの一回は中日の07年です)。
 このセ・リーグの弱さとパ・リーグの強さというのは面白い話ですが、以前から折々語っていますし、本論ではないのでいずれまた。いずれ書く2017日本シリーズで触れると思いますのでね。本論は、日本ハムファイターズが異常に日本シリーズに弱いということ。日本シリーズパ・リーグ側が負けた三回、07年・09年・12年のシリーズで負けた球団は全てファイターズなのですね。ファイターズだけが唯一日本シリーズに弱い*2
 なぜなのか?スモールベースボールを、いやらしい野球をしっかりやっている北海道日本ハムファイターズは、むしろ短期決戦に強いはず。大砲・長距離砲と先発・抑えをかき集めて圧倒的戦力でペナントを制する。その反動で日本シリーズのような短期決戦で嘘のように空回りして実力を発揮できずに負けるという事例は過去の日本シリーズでいくらでも見られたのですが、言うまでもなくファイターズはそういうタイプのチームではない。

日本ハムファイターズは短期決戦のセオリーを無視する
 真剣にプロ野球を分析しだしたのが11年の日本シリーズからなので、それ以前は自分の目で実際に見ていないので、どうして弱いのか想像も付きませんでした。そういう背景があったので、前から疑問に思っていた謎が解き明かされて、実に個人的に勉強になった日本シリーズでした。もったいぶって答えを引っ張ろうかと思いましたが、流石に読み手に迷惑なので、先に答えを言ってしまうと、日本ハムファイターズは短期決戦というもの、日本シリーズというものを重視していない。勝てば儲けものくらいにしか考えていないのですね。日本ハムファイターズは、短期決戦のセオリーを根本から無視しています。
 なぜなのか?おそらくアメリカ・メジャー流の経営方針、いかに少ない金で強いチームを作るか―というマネーボールセイバーメトリクス思考に囚われすぎているからではないかと見ています。まあ、①FA選手流出の多さから頼りになるベテラン・チームリーダーの不在、②総額年俸の安さに基づく選手たちのコンプレックス。ドライな経営のために選手のモチベーションがどうしても頭打ちになること。日本一ボーナス査定などの不在(あるいは他球団と比較した相対的な安さ)など過去にすでに触れていますが、今回初めてファイターズの日本シリーズを観戦して「ああだから弱いのか」と納得したのでそんな話をしてみたいと思います。①・②は誰でも思いつきますし、どこでも指摘されている話だと思いますので、あまり目にすることのない大事な要因③短期決戦のセオリー無視という点を今回指摘したいと思います。*3

■10/22、初戦in広島 ジョンソンVS大谷 5-1
 初戦の一回にして既に違和感のあるプレイ・選択が見られたシリーズでした。ファイターズの問題として、ピッチャーの立ち上がりに初回にバントを選択するという消極性という点を指摘したいと思います。もちろん、大谷という絶対的な投手がいる以上、初回にバントで確実に一点を取りに行く選択・戦術は間違いではありません。というか殆どの監督がこの選択をするでしょう。一点あればまず勝てる確率が高いわけですから。どちらかというと強硬策に出るほうが間違いと言えるでしょうね。

 では、どうしてここでバントを消極策と指摘したのか?それはファイターズというのは常に手堅い戦術しか採用しない。実に消極的な戦いをするからなんですね。短期決戦には「~すべからず」という、してはいけないことがいくつかあります。そのしてはいけないこと=ミスを恐れるが余り、ガチガチな安全策しか選択しないという傾向があることがこのシリーズを見てわかりました。
 中島はこのあとジョンソンに対して3打数2安打。西川は4打数2安打。1・2番がジョンソンに対して相性がいい、もしくは状態がいい。それは所詮結果論だと言われることかもしれませんが(実際中島に打たせていたら同じ結果だったかわかりませんからね)。投手の立ち上がりというのは相手投手を攻略する際、狙い所の一つ。どんな投手だって立ち上がりは難しい。その立ち上がりで先頭打者が幸先よくヒットでノーアウトランナー1塁という状況で簡単に1アウト与えるのは好ましくないこと。1アウト与えるということは相手投手に「大量失点はもうないな」と落ち着かせてしまうことになる。
 積極的に打ちに行くべき、強硬策に出るべきというのはリスクも有るわけで、大事な初戦の一回表に取るのをためらうのも当然。堅実にバントで繋ごうというのは妥当。しかし、ここでやりたいのは西川の盗塁、及びエンドランなんですね。

■バッテリーの盗塁阻止率が低いのだから積極的に走るべき
 というのは、広島カープというのはキャッチャーに穴がある。これまで交流戦でホークスが与しやすしと楽観できたのは、ほぼ100%に近い確率で盗塁が成功するからです。過去書いたことがあると思いますが、1試合で6盗塁したゲームもあったはずです。キャッチャーの肩が異常に弱い、もしくは投手のセットポジションからのクイックに難があるために余裕で次の塁がもらえる*4
 こういう傾向がある以上、西川サイドの問題・足・腰などに何らかの問題がない限り、積極的に走らせて実際どうなのが試してみたい所。ジョンソンという左腕がセ・リーグで数字を残した優秀な左腕で、682回打者に投げて11本しか本塁打を打たれていない投手(与四球を引いた数字です)。62回打者と対戦しないと本塁打が出ない確率です。無論、調子や相性などが加味されるものでそのまま使えるデータではありませんが、初見・一回目の対戦で簡単にHRが出るとは考えにくい投手であるというのは間違いないわけです。まして左腕に苦手な傾向があるこの年のファイターズならなおさら。
 何故走らなかったと言えば、この年の交流戦で西川は盗塁死しているのですね。そういう背景もあったかも知れません。また左腕だから走りにくいという要素もあったでしょうか*5。この初回でジョンソンは3回牽制を入れた。鈴木尚広いわく、ジョンソンは敢えて最初に牽制で情報を与えることでランナーが走りにくいように誘導したと。そこには色んな駆け引きがあったと考えられますが、いずれにせよ最低でもエンドランを試す、積極的に攻めていくべきなのには違いない。1番バッター、今年は長打を捨てた西川が大事な先頭バッターで塁に出たんですから、そこでチャレンジしないのはありえない。一回のリスクある盗塁・エンドラン失敗でダメになるようなチームではない。そんなチームが日本一になれるわけがない。手堅い策を取れば取るほどベンチは萎縮する・固まるといいますし、そういう役割の一番なんですから思い切って勝負しないのは短期決戦ではありえないと思いましたね。

 初回の西川の当たりはファール性の当たりで無理に取りに行く必要がなかった。それを安部が判断を誤って内野安打にしてしまった。相手がミスした以上、そこにつけ込みたい。仮に走って失敗したとしても、2番の中島が1番の役割をこなせないわけではない。もう一度ゼロからスタートでいい。
 先発大谷が絶対的な存在であるから経験が浅いのにもかかわらず初戦に抜擢したわけですから、思い切って勝負をかけていい。指揮官が余裕・遊びを持つと言ったら変ですが、そういう思い切った策を取る余裕があることを示すべきという点でもやるべきだったと考えます。若い選手が多い以上、硬くなっているのをほぐすために、積極的に攻めてオッケーだぞという意味で、勢い・ムードにのせてしまうという意味でも、思い切ったプレーをさせるべき場面だったのではないでしょうか。

■短期決戦は思い切り・積極性が重要
 無論、ここはあくまで個人的にしてみたい程度の話であり、本論はそこではありません。ファイターズはこのシリーズ通じてすべてにおいて異常に消極的だった。短期決戦は好球必打下剋上のロッテがそれを徹底していて短期決戦になると必ず「失敗なんか気にするな!」と初球からガンガン振り切っていく。打てる球を絞ってそれが来たなら迷わず振り切ることがポイントの一つになる。短期決戦は方針を決めて積極的に行かなければいけないのに、ところどころガチガチで緊張していた。とにかくミスをしないようにという意識が強くて、堅実に・大事にという意識が強くて相手を楽にさせてしまっていた。
 実際にはいろんな条件・事情、判断要素がそこに絡んできますから、それでいろいろ勘案した結果走れなかったということがあるでしょうから、その結果走らなかったという選択でも別にいいのです。問題はそれ以後も「大事な場面で走るなり、バスターなり、ここ一番でこんな策を打ってくるのか!」というリスクある戦術を一つも選択しなかったことですね。まるでそういう手を打たなかった。それでは相手側がこちらの策・作戦に頭を悩ませる必要がない。非常に楽でやりやすいシリーズになってしまう。相手の指揮官が何をするかわからない、常に相手の意図を読んで対策を打たなければならないというのと、何もしてこないのでは戦いやすさがまるで違う。戦いやすいことこの上ない。戦いやすい・難いという点で天と地ほどの違いが生まれてしまう。こういうスタイルを取るからこそファイターズは短期決戦に弱いのだなとつくづく認識したシリーズでした。
 ホークスが盗塁をしなくなって、走られることを警戒しなくてよくなったために、ファイターズバッテリーが攻めやすくなった。打線を料理することに頭を悩ませなくてよくなったのと同じで、ファイターズはこのシリーズで足を封印することで自分達の持ち味を殺してしまったように見えました。
 ファイターズが走ったのは計4回で、大野の重盗警戒での2盗を除けば、3回。西川の1つと岡の2つしかありませんでした。ファイターズの選手の足を考えると非常に消極的だったと言えるでしょう。

■積極的な広島と消極的な日本ハム
 逆にカープはあれだけのピッチャーはそう簡単には撃てないから積極的に足でかき回していこう。アウトになってもしょうがないという割り切り・積極策に打って出た*6。これが功を奏したように見えました。
 リンク先にあるように、Wスチールで勢いに乗った。広島ムードになりましたからね。続く第二試合でも暴走で走るべきではないと思いましたが、それでも積極的な走塁で点を取ることで広島はノッた。イケイケドンドン・ノリノリムードになりましたからね。ハマればデカイは逆も真なりですが、積極的に行った広島と消極性が目立った日ハムは見事に対照的な存在でしたね。

 1回から3回までスコアリングポジションにランナーを置きながら得点ならず。4回の松山・エルドレッドのHRで流れは一気に広島に。7回レアードのHRで1-3。大谷が続いて代打矢野の失敗でチャンスは消え、西川・中島の連打で今村にスイッチ。今村が岡をきっちり打ち取ってファイターズが厳しくなった所。裏、大谷が降板して出てきた石井が打ち込まれ、1-5で勝負が完全に決してしまったという試合でした。
 ここでポイントというか気になったのは、岡の存在。ヒット二本にしっかり選んでつないだこと。矢野のゲッツーのあとに凡退でシリーズ男にはなれませんでしたが、個人的にちょっと面白い存在だなと思いました。そして次にポイントになってくるのですが、HRを打ったレアードにジャクソンがぶつけてしまったこと。これが後に伏線になりますね。また、大谷が投げる方ではダメでもバッティングの方でヒット二本を打ったこと。これで「大谷はやはりすごいんだな…」と広島ベンチは幻惑されてしまったように見えましたね。

■短期決戦はベテラン重視。若手は危険、日本シリーズは「カーブ」が重要
 短期決戦ですから一番いい投手から使っていくというのはわかりますが、本当は経験豊富なベテランを使わなくてはいけない。先発で投げたのは大谷・増井・有原・高梨・加藤そして大谷の故障でまた増井。本来なら経験豊富な増井―といいたい所ですが、増井も本職はリリーフ・セットアッパーで先発経験は殆ど今年のみで信用できるかと言えば未知数。
 今年の交流戦はファイターズホームで広島・マツダスタジアムではやっていない。事前に大谷が不慣れな広島のマウンドで大丈夫か?という思いはありましたが、まさかここまで不安要素が現実化してしまうとは…。雨という不運も加わって大谷はバランスを崩しながら投げて以後投げられなくなるという事態まで引き起こしました。こういう事がありうるから経験豊富なベテラン。色んな引き出しを持っていて、アクシデントに対処しやすいベテランが必要なのですが、そもそも先発ベテラン投手がいないというわけですね。先発経験が結構あるメンドーサなんかいましたけど、今年の出来で大事な初戦に使えるかと言えばまず無理でしょうからね。
 それはおいといても日本シリーズといえば「カーブ」広島カープならぬ広島(での)カーブが勝負を決めることになる。カーブを持っている有原や高梨を先に持ってきたほうがいいのでは?万一負けるにしてもカーブを広島打線に植え付けることが出来るし、慣れ親しんだマウンドで確実に大谷で1勝。というか1-1で札幌に帰ってきてそこで3連勝で決めるというプランのほうがセオリーに沿っているのでは?
 投手の運用においても、おそらくこの二人のカーブが軸になってくる。直近では2013の美馬のような形で、どちらかコンディション・カーブのキレがいいほうを中心に組み立てていく感じになると思っていました。「カーブ」を有効に使うというのが日本シリーズのセオリーであるのに、そのカーブの有効性という認識がない非常に不思議な日本シリーズに見えました(まあ、この投手の運用においてはまたしても吉井コーチの思うがまま・手のひらの上とでも言うような見事な起用法が見られたので、いつもの方針を貫いて十分に勝てるということなのでしょうけどね)。

■日ハムは広島のデータを持っていない・研究していない?
 また、鷹ファンなら知っていると思うのですが、エルドレッドというバッターはインハイに穴がある。達川さんなんかも言っていましたけど、「145km以上のまっすぐならまず打てない。ただし145出ない人はあそこに投げないでください。それ以下の真っ直ぐならインハイでも打ちます」と言っていたように、そこに来ると分かっていても絶対打てないので鶴岡が全部インハイに構えてそこに投げさせるという試合があったくらいです。いくら一発があるとはいえ、エルドレッドに対してはインハイ攻めが基本になるのは間違いない。しかし大野等ファイターズキャッチャー陣にはエルドレッドに対してインハイを主体に攻める姿勢は見られなかった。手が届く・打ちやすい外主体で攻めてしまっていて挙句の果てに好き放題打たれてしまった。広島のデータを持っていないのかな?スコアラーも派遣していないのでは???と非常に不思議に映りましたね。

カープの二連勝の影にシリーズ敗退の兆しあり(引き)
 2戦目も1-5というスコアで広島カープの勝ちでした。2回、小窪のタイムリーで先制。打撃コーチが小窪がいいと推薦があってそれがハマったとのこと。
 デーブの菊池のバスター解説。バスターで狙ってショートには打てない。バスター失敗で野手の真正面に言ってしまえばゲッツーとなり、お前は一体何をやってるんだということになる。確かにバントの場面で来るのは、まっすぐ・スライダーでカーブはないと読みやすかったかもしれないが大したものだと。
 で、丸のバントにより意表を突かれ増井がエラーをしてしまい、ココで勝負が決まった。増井も先発経験が豊富でないから経験不足という点が少し怖い。そして普段投げない球場でのマウンドに大舞台での初先発という不安がハマってしまった。地味に大谷の次というの不利になったんでしょうね。増井も先発で150キロを出せるすごい投手ですが、大谷の速い真っ直ぐの後だとそこまで速く感じない。2013の日本シリーズ楽天が田中ではなく則本を初戦に持ってきたのも、田中を初戦にした後だと則本に対応しやすくなるという要素を考慮した結果なんでしょうね。
 ワンサイドではないにせよ6・7回という段階で広島がゲームを決めてしまった。圧勝・楽勝とは言わないまでもそれに近いゲーム運びに見えました。ホームとは言え簡単にカープが連勝をしたことで、事前にファイターズが勝つという予想を立てていたのですが、拙予想がこれで外れてしまった!と思いました。この連勝でほぼカープの勝ちは決まったようなものでしたからね。

 ところがところがシリーズは思わぬ方向へ進みました。まさかの四連敗で広島カープの逆転負け。何故広島は短期決戦で優位な先手必勝・初戦と二戦を取りながら敗北したのか?それはこの試合での菊池のバスターと丸のバントにありました。このプレーで広島の敗北は既に決まっていたと言っていいでしょうね。それくらいこのプレーは疑問に残るおかしなもの。それについてはまた次回(絶妙な引き)。*7
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*1:あ、忘れてた。2016セパ親善試合でした。

*2:その間、楽天は一度しか日本シリーズに進出していない&オリックスは一度も日本シリーズに進出していないことには触れてはいけない、いいね?

*3:忘れてました大事な要素としてキャッチャー軽視がありましたね。前々から語っていたのでまあ今更ですが、日本ハムは鶴岡という選手を使っていたことからもわかるように捕手のリードを重視しない。④短期決戦における捕手の重要性の欠如という要素もまた大きいでしょう

*4:気になったので数字を見てきました 石原は阻止率.333で巨人小林についでセ2位で、會澤は.250でした。セ・リーグでは決して悪くないのですね。全然刺せない捕手だと思っていましたが、たしかその時の投手・組んでいた投手はバリントンだと思いますが、彼のクイックに難があったのか?ホークスベンチが昔から癖を見抜いていた・情報収集で知っていたのか。あとは、ホームの札幌ならともかくアウェイのマツダスタジアムでは走りにくいorグラウンドコンディションがよくわからないから、走りやすいかどうかがわからないという要素があったのでしょうか?千葉と宮城以外あまり屋外球場でやりませんからね、パ・リーグは。まあ、それでも最悪第七戦までもつれることを考えても、今実際に盗塁することで走りやすいのか・難いのか、確かめておく・知っておく必要性があるのでやっておくべきだったかと思います。相手にファイターズはガンガン走ってきてプレッシャーを掛けてくるなというイメージを植え付ける意味でも行くべきだったと思いますね。

*5:本当に左投手から“盗む”のは難しいのか | プロ野球 | Baseball Gate こんなサイトの左右投手別盗塁成功率というデータがありました。惜しむらくは12-16でその年毎の数値がわからないことですかね。それでも参考になる数字でしょう。こちらにあるように西川は左右で左のほうが成功率が落ちるとは言え、悪いわけではない。対右腕.862で対左腕が.750。8割以上の成功率が欲しいものとは言え、この成功率でチャレンジしないのは消極的でしょうね。

*6:第1戦 走る勇気 大谷攻略|日本シリーズ2016 - スポーツ:朝日新聞デジタル

*7:また疑惑のプレー、田中広輔がレフト西川の好返球でタッチアウトが覆ってセーフという場面がありました。覆ったものの、ヘルメットに先にミットが触れていたのでは?と話題になったシーンですね。ノムさんもコメントしていましたが、ノーアウトの場面で次は3番丸。無理する場面ではない。3塁コーチャーは罰金。何故無理してランナーを回したのか?これも含めて次回語りたいと思います

【雑誌】 月刊秘伝 2015年3月号

秘伝 2015年 03 月号/BABジャパン


韓氏意拳特集です。
 韓氏意拳は個人的にかなり気になっているのですが、読んでいても多分、さっぱりわからないかと思います。拳理拳論というよりも実践を見ないと、一触を感じないとどうにもならないかと思います。禅の話みたいになんのこっちゃいなになる人がほとんどでしょう。大事なことは語ることが出来ない―の世界ですからね。韓競辰師の動きを実際に見たいですよね、やはり。写真だけですが、やはり野生動物というか、熊みたいなバランスをしていて、ああ凄いなぁと思いましたね。

 光岡英稔師の文が載っています。「上がらない腕」という話なのですけど、そう言えば著作を呼んだときも、そういう話をしていたことを思い出しましたね。普通の人間は生きていく上で何らかの疑問や違和感を抱えながら生きていく。家庭や地域の外部環境だったり、自身の容姿や能力だったり、個人的な興味関心事(勉学、スポーツ、ボードゲーム、蒐集、舞踊、音楽、芸術…)。そんな中で、腕を上げるということに違和感を抱き続ける、光岡英稔という人物のセンスはどうなっているんだと驚嘆せざるを得ないですね。普通の武道家、身体研究に携わる人間ならば、大体立つことに注目するわけですよね。どうやって立つか、どうやったらきちんと立てるかというのがテーマになるわけです。氏を凄いと思うのは、そこから一歩進んで「腕が上がらない」*1というテーマを抱えているわけですよね。肘抜き・肩抜きというような、腕の動きを阻害するという単なる技術論じゃないはずなんですよね。それなら脚がどうとか腰がどうとか全てに拘るはずですから。その一点に集約されるのが底知れぬセンスを感じさせますよね。さっき検索したらPVみたいなのがありましたけど、やはり動きの練度というか滑らかさが凄いですよね。

ゆる体操には"裏"の存在があった!高岡英夫の漢語由流体操「肩肋後回法4」
 後は上から下、前は下から上とつぶやきながら行う。キーワードはもっとゆるめるように、肋骨と肋骨の間が開いていくようにする。肩は自然に回して、肩を手伝うよう回すのがポイント。(―って書いてあるのに、ただ肩を回すことに意識が行っていた。肋骨を動かすのがポイントなのに何やってるんでしょうね)肋骨の上部に息が入るようになると、上丹田が刺激され頭が冴えて落ち着いた状態になる。
 肋骨の上部が回らない限り、ずれ回転運動が成立しない限り、本当に肩はきれいに回ることはない。自由脊椎=腰椎の三番から胸椎の十一番が下部、胸椎の十番から六番が中部、そして残りの胸椎の五番から一番までが上部。下部から少しづつ山の麓から頂上を目指す形でステップアップしていく。
 初心者のうちは「稲穂振り」という現象が起こる。肋骨の上部は疲労が最も激しい部分であり、その拘縮を取ることを目的とするならば正しい全身運動(文中では「するのでなければ」となっていますが、これは多分誤字ですね「であれば」の間違いでしょう。あ、違うか上部は動かない・動かせないから、上部を動かす目的でなければ「稲穂振り」現象は可とするだから「なければ」でいいのか)。習熟していく内に、体の曲線・たわみが直線に近づいていく。起点も高くなっていく。軸をキープしたまま、ずらし回転運動を行うことができるようになる。肋骨の上部が動くということは、その支えとなっている中部・下部を必要なだけ格定されなくてはならない。つまり肋骨を動かすトレーニングでありながらも軸を通す訓練でもあると。回転運動を行う以上、体軸を動かすわけで、垂軸と体軸の分離と一致を行う必要があるので。
 腹式呼吸は肺の下部、胸式呼吸は肺の上部を使えるようにするもの。どちらも重要であるので出来るようにならないといけない。

■甲冑戦の真実 Part1 西洋甲冑戦「STEEL! 」激戦必至! 現代に蘇る"騎士バトル"を観る!&Part2 「大阪の陣」再現! ガチ甲冑合戦レポート"合戦"で検証する、武の実戦性
 甲冑戦の再現という面白い取り組みですね。しかし実戦で再現というのは面白くはあっても、陣形でのそれが伴わないといけませんし、なにより弓矢がないとどうなんでしょう?長槍の用意や騎馬の用意とか、まあそこはひとまず省いてということなんでしょうけどね。個人的にはそれを含めてさらに糧食の準備、兵站とかやってほしいですね~(出来るわけない)。

■短期集中連載 沖縄拳法大平道場 西原治沖縄拳法に伝わる"手"の極意 第三回「"重み""ムチミ"の技法」
 縦回転の動き、パッサイの諸手突きの動きを「波返し」とする。波が返っていくように相手に重みを伝える。個人的に重みを伝える、流し込むというテーマがあって、写真の「波返し」の突き・蹴りが自分の考えていたものと同じで興奮しました。そうか、諸手突きのときの遣い方でつくと下半身の力をうまく伝えられるのか、なるほど。前蹴りも腰の小さな縦回転だけで重みを乗せられると。五十四歩の型にある両手受けに応用すると、相手の蹴りを吹っ飛ばせると。
 接触反応、触っただけで相手を崩していく、皮膚感覚の話なのかな?「ムチミ」という話があります。これはちょっとよく理解できないですね。受けてみないとわからなさそう。一定の圧を与えることで相手が下がれずに崩れ落ちると。ムチミの受けによって相手からは遠く、自分からは近くという間合いのコントロールが出来る。

■平上信行が"現代"日本武道を斬る時代考証の裏表「秘剣の数々からみる超絶的秘傳法世界」
 前半は膨大な流派が存在し、それが失伝・消滅していったという話。後半は前回の続きで、秘剣の話です。剛刀を自由自在に操る「不有劍」、空中殺法「天狗劍」、背後からの的に対する「後眼劍」、多人数に対する「宿露劍」などが紹介されています。神代秘伝剣法「国譲逆鉾劍」とか、道教由来の「三星劍」とか厨二心をくすぐるものが多いですね。
 「魔傳血脈鬼盃劍」(盃は旧字)「晦日新月目光劍」相手の秘傳・極意を奪う魔剣。対鉄砲の秘剣「飛鳥劍」「玉龍劍」。そして居合が生まれると当然それに応じて居合の秘剣が誕生したと。

■大宮司朗霊術講座「心理学的な原理に基づく霊術の技」
 観念運動、心理的効果・思い込みが効果をもたらすという話。自己暗示が自分の力になる方法として、正座凝念法・宇宙大霊同化法・精気吐納法などが紹介されていますね。

■安田洋介太極遊戯「兵器(武器)修練が養う功夫
 強い筋力の重要性、日本の太極拳でその重要性が認識されないのは武器を使ってないからでは?とのこと。普通は800~1000グラム、重いものだと1500グラムにもなる。中国でも演舞用の400~500グラムの軽いものが主流になりつつある。勁を鍛えるのには重い武器を扱うのが良い。昔は30キロ以上ある大刀を使う人もいたと。

*1:だと間違いになるのかな?「上がらない腕」と「腕が上がらない」を使い分けている可能性もありますからね